人事労務の時事解説 2005年6月号

 

社員の副業は違法?
 
長引く不況や賃金の低下、ボーナスカット等の影響により、アルバイトやサイドワークをしてでも収入を得たい、と考えている社員は少なくないかもしれません。しかし、多くの会社では就業規則に「副業禁止」の一文を設けています。また、副業を認めている会社でも許可や届出が必要としている場合が多いようです。

就業規則の規定

労働関連の法律には、企業で働く社員の副業に関する規定は特にありません。しかし、各企業は労働基準法に従って就業規則を作成しており、全体の7~8割がこの就業規則に「副業禁止」の項目を盛り込んでいます。

就業規則には、労働基準法で定められた基準を上回る必要がある規定と、特に法律で定められていない会社独自のルールとして記載されている規定とがあります。

この「副業禁止」の規定は、就業規則に記載されていたとしても、法律で定められたものではなく、あくまで会社と社員が交わすルールでしかありません。

判例による見解

法律に違反していなくても、就業規則で禁止されている以上、就業時間中にそれを破ると懲戒処分の対象になる恐れがあります。

ただ、就業時間外は労働者の自由な時間であるため、「労働契約上の権限が及ばない範囲の二重就労であれば副業も可能であると解釈することもできる」とする見解もあります。
また、近年の判例でも、「本業に支障が出ない範囲ならば懲戒の対象ではない」との判断がなされています。

副業をする際のポイント

法的根拠があるわけではないのに、多くの会社で副業を禁止しているのは、「社員が副業をすることによって、会社が不利益を被ることを防止するため」という理由が一番のようです。

例えば、次に挙げるような場合は「不正競争防止法」に抵触するおそれがあります。
・副業での長時間労働による疲労がもとで本業でミスを連発したり、遅刻や欠勤が多くなったりする場合
・副業の内容によって本業の会社の信頼や名誉を傷つける恐れがある場合
・競合他社で働く、本業の専門知識や営業ノウハウを活かす、本業の会社の肩書きや名刺を使う等する場合

これらの場合には、本業側の会社から差止め請求や損害賠償請求の対象となる可能性もありますので、実際に副業をする場合には、それなりの責任が伴うことを留意しておく必要があります。


産業医に求められる心の病対策

労働者の健康管理を行うのに必要な高度の医学的知識を持つ医師を産業医といいます。労働安全衛生法では、アルバイトや派遣社員も含めた常時勤務する労働者の数が50人を超えた事業場は非常勤の産業医を、1000人を超えた事業場は専属の産業医を選任しなければならないと定めています。また、50人以下の事業場については地域の産業保健センターを無料で利用することができます。

これまで産業医の健康管理は主に労働者の身体面でしたが、最近では疲労やストレス等の対策として、うつ病などの心の病を早期発見し、治療の紹介から職場復帰の支援を行う「メンタルヘルスケア」についても、産業医に中心的な役割が求められるようになってきています。

産業医の仕事

産業医は、事業場の労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるように、労働衛生に関する専門知識に基づいて指導・助言等を行います。

具体的には、健康診断や健康診断後の健康相談、月1回の職場巡視による作業環境の管理、労災の予防に関する助言や指導、事業場で使用する薬物や騒音が人体に及ぼす影響の教育等、多岐にわたっています。

また、労働者の健康を確保するために必要があると認められるときには、事業者に対して労働者の健康管理等について必要な勧告を行うことができます。

心の病への取組み

産業医の仕事としては、上記のような内容が中心でしたが、近年では能力主義が浸透し、ストレスの高まりや過重労働による過労で心の健康を損なう人が増えているため、産業医の重要な職務の1つとして、うつ病など社員の心の病を予防・早期治療する「メンタルヘルスケア」が注目されています。

◆心の病へのきっかけ

企業や産業医がメンタルヘルスの取組みを本格化させる転機となったのは、2000年の電通社員の過労自殺訴訟です。この一件で最高裁が、“過度の心理的負担などで健康を損なわないよう使用者が「注意する義務がある」”と判断したことがきっかけとなったのです。

この司法判断で、危険な作業をする社員の安全管理や身体面だけでなく、社員の疲労やストレス対策も会社の労務管理の対象に含まれることが明確になりました。

各企業の取組み

複数の産業医が1年をかけて全国の営業拠点を巡回して全社員と面談を行ったり、看護師らが毎月、事業所を巡回して社員の相談に対応している企業もあります。

また、管理職を対象に部下の悩みを心理学的な手法で聞くことができるような研修を実施する企業もあります。


成果型退職金制度をご存知ですか

従来の一般的な退職金制度は、退社時の賃金と勤続年数をもとに計算されました。支払い総額は退職時の基本給に、勤続年数が長くなるほど有利となる係数を掛け合わせて算出されます。つまり、一人ひとりの仕事の成果よりも長く勤め上げたことを評価する退職金の仕組みといえます。

しかし、バブル崩壊の影響等により売上が停滞ぎみの企業にとっては、どの社員にも同じように高水準の退職金を約束するのは負担である、と考えるようになってきました。

そこで「成果型退職金制度」が最近になって急速に広がり、厚生労働省によるとすでに大企業の36%が当制度を採用し、今年も大手企業の導入が続いています。

◆成果型退職金制度とは

成果型退職金とは、社員の能力や貢献度、勤続年数を点数に換算し、それをもとに退職時の一時金を算出する方法です。これは、ポイント制退職金とも呼ばれており、毎年の点数を累積し、退社時に一定の係数をかけたものが支払額になります。

◆成果型退職金制度の特徴

成果型退職金は基本給と連動せず、勤続年数による係数の傾斜は緩やかになっています。毎年の成果や役職を反映してポイントを積み上げるため、同じ勤続年数であってもより上の等級に格付けされた者、または早く昇格した者が退職金の額も多くなり、その意味で能力主義賃金を反映したものであるといえます。そのため、企業によっては、仕事で高い成果を上げることで退職金も増える、と強調して社員のやる気を促そうとしています。

◆成果型退職金制度のメリット

成果型退職金制度は、企業からみて以下のようなメリットがあります。
①昇給による退職金の自然増加を回避することができるため、人件費の削減につなげることができる
②企業への貢献度を反映させた制度であるため、社員の意欲・モラールの向上が期待できる
③人材流動化に対応しやすいため、中途入社員にとって不利にならない

◆成果型退職金制度を導入する際の留意点

成果型退職金は「成果を上げた人には報いる」のが前提であるため、毎年の査定を公平に運用できるかが重要になります。評価結果に社員が納得できなければ、不満や不公平感が高まって士気に悪影響を及ぼすことにもなりかねません。そのため、管理職に対して人事評価の研修を実施する企業もあります。


平成17年4月からの在職老齢年金

年金制度の改正のうち、平成17年4月から変更されるものの1つに“在職老齢年金の一律2割カットの廃止”があります。これにより会社勤めをしながら老齢年金を受給している方の年金額の計算式が変更されることになります。

在職老齢年金とは

国民年金では60歳になると被保険者の資格を失いますが、厚生年金では会社で働いている限り70歳になるまでは被保険者となります。この被保険者期間中に受ける老齢厚生年金を在職老齢年金と呼んでいます。

在職老齢年金には、60歳以上65歳未満の在職老齢年金と、65歳以上の在職老齢年金とがあり、年金額の計算式は異なっています。

今回の改正点

60歳以上65歳未満の在職老齢年金について、以下の2点が改正となりました。
○ 一律2割の支給停止を廃止
○ 支給停止額の計算に用いる額を、年度毎に改正

改正後の計算式

①総報酬月額相当額+基本月額≦28万円→全額支給
※総報酬月額相当額
→その者の標準報酬月額+(前年度1年間に受けた標準賞与額の合計÷12カ月)
※基本月額→年金の年額÷12カ月
②総報酬月額相当額+基本月額>28万円→基本月額の支給停止あり
※総報酬月額相当額が48万円以下の場合と、48万円を超える場合とで停止額は異なります。

支給停止額の計算に用いる額

上記の計算式に出てくる28万円が「支給停止調整開始額」、48万円が「支給停止調整変更額」となります。

平成17年3月まではこの額は変動することはありませんでしたが、今回の改正により、年度毎に物価や賃金の変動に応じて改定されることになりました。

65歳以上の在職老齢年金

65歳以上の在職老齢年金については、今回の改正による変更はありません。

計算式は
総報酬月額相当額+老齢厚生年金月額>48万円→支給停止あり
となります。なお、国民年金から支給される老齢基礎年金は全額が支給され、厚生年金の被保険者であっても減額の対象にはなりません。

70歳以上の場合については、現在の法律では支給停止されませんが、平成19年4月からは70歳以上にも在職老齢年金制度が適用され、65歳以上の在職老齢年金と同様の仕組みが導入される予定です。なお、70歳以上の人は厚生年金保険に加入できませんので、保険料の負担はありません。


中小企業退職金共済制度への移行
平成14年4月からの確定給付企業年金法の施行に伴って、平成24年3月末をもって、適格年金が廃止されることとなり、その資産が他の企業年金制度へ移換できるものとされました。

制度の移行先の1つとして、中小企業退職金共済制度(中退共)があります。これまでは、中退共への新規加入を条件に、120月(10年)分を上限として資産を移換し、掛金納付月数に通算できるものとされていました。

◆適格年金と中退共の性質

適格年金は法人税法上に措置された企業の行う退職金制度(年金・一時金)の外部積立の仕組みであり、「退職金」としての性質をもつ企業年金です。

しかし、適格年金の移行先として用意された新たな企業年金は、その支給事由を原則的に“老齢”としています。特に日本版401Kと呼ばれる確定拠出年金については、60歳以上にならない限り原則的に引き出すことができないので、「退職」とは関係しません。

これに対し、中退共はまさに「退職金」としての性質を持つものであるため、中小企業が対象だという基本的な位置づけはありますが、適格年金とは最も適合度が高い仕組みだといえます。

◆中退共とは

中小企業退職金共済法に基づく制度で、中小企業が加入することのできる社外積立型の退職金制度です。事業主が中退共本部と退職金共済契約を結び、毎月の掛け金(全額事業主負担)を金融機関に納付します。社員が退職したときは、その社員に中退共本部から退職金が直接支払われるようになっています(掛金納付月数が11カ月以下は不支給)。

また、中退共の掛け金は全額損金として算入できるなどのメリットもあります。

◆平成17年4月からの改正点

適格年金から中退共制度へ移行する際の問題点として、上述したように新規加入が条件であることと、資産の移換は上限が120月(10年)分とされているため、移換できない資産については本人に返還しなければならないことの2点が大きくありました。

しかし今回の改正により、新規加入という要件は残るものの、適格年金における資産が全額移換(ただし従業員本人負担分は除く)できることとなったため、適格年金からの移行を保留にしていた企業が、中退共の活用に大きく動き始めるものと思われます。

適格年金から移行する制度としては、他に確定拠出年金(日本版401K)、確定給付企業年金、厚生年金基金がありますが、それぞれにメリットとデメリットがありますので、移行にあたっては十分に検討することが必要です。


高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法が改正されました。65歳未満の定年を定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、
①定年年齢の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければなりません。

この高年齢者雇用確保措置の年齢は、年金(定額部分)の支給開始年齢の引上げスケジュールに合わせ、平成25(2013)年4月1日までに、62歳から65歳まで段階的に引き上げられます。ただし、事業主は労使協定により、②の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、②の措置を講じたものとみなされます。

高年齢者雇用確保措置のうち継続雇用制度には、勤務延長制度と再雇用制度があります。勤務延長制度とは、定年年齢が設定されたまま、その定年年齢に到達した者を退職させることなく引き続き雇用する制度です。一方、再雇用制度とは、定年年齢に達した者をいったん退職させた後再び雇用する制度です。

継続雇用制度の雇用条件については、高年齢者の安定した雇用の確保が図られたものであれば、必ずしも労働者の希望に合致した職種・労働条件による雇用でなくてもよいとされています。また、常用雇用のみならず、短時間勤務や隔日勤務なども含まれます。

また、継続雇用制度の対象者に係る「基準」については、労使協定で基準を定めることとされました。これは、継続雇用の対象者の選定にあたって、企業によって必要とする能力や経験等が様々であると考えられ、労使間で十分に話し合い、その企業に最もふさわしい基準を労使納得の上で策定するという仕組みを作ることが適当だからです。

ただし、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に継続雇用を排除しようとするなど、本改正や他の労働関連法規に反する、あるいは公序良俗に反するものは認められません。

継続雇用制度の対象者に係る望ましい「基準」は、①意欲、能力等をできる限り具体的に測るものであること(具体性)、②必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見が可能であること(客観性)の2つの観点に留意して策定されたものとされています。
ちなみに、望ましい例とは具体的には、①社内技能検定レベルAレベル、②営業経験が豊富な者(全国の営業所を3カ所以上経験)、③過去3年間の勤務評定がC(平均)以上の者(勤務評定が開示されている企業の場合)などが挙げられます。

基準にかかる経過措置として、事業主が労使協定のために努力したにもかかわらず協議が調わないときは、大企業の事業主は平成21年3月31日まで、中小企業の事業主(常時雇用する労働者の数が300人以下である事業主のことをいう)は平成23年3月31日までの間は、就業規則等により継続雇用制度の対象となる高年齢者にかかる基準を定め、当該基準に基づく制度を導入できることとしています。


民間型ADR

昨年度の総合労働相談件数は、60万件を大きく上回りました。職場における労働トラブル解決の手段として、ADR(訴訟手続によらず民事上の紛争を解決しようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続)はすでに定着しています。

行政型ADRについて定める個別労働関係紛争解決促進法に加え、司法型ADRである労働審判手続について定める労働審判法が平成18年4月に施行されます。さらに、民間型ADRについて定める裁判外紛争解決促進法が昨年12月1日に公布され、平成19年6月1日までに施行の予定となりました。

訴訟は厳格な手続きによって行われます。ADRは、紛争分野における専門家が、紛争の実情に即して迅速に柔軟に解決を図るとされています。このADRが普及すれば、様々な紛争解決のために、よりふさわしい解決手段を選択することができるようになるでしょう。

平成13年12月1日に内閣に設置された司法制度改革推進本部が、昨年11月6日に「今後の司法制度改革の推進について」をまとめました。

裁判外紛争解決手続の利用を促進するために、ADRにおける当事者の代理人として、司法書士・弁理士・社会保険労務士および土地家屋調査士を活用すること、また社会保険労務士に対しては、信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、次に掲げる事務を業務に加えることとなり、これに併せて、開業社会保険労務士が労働争議に介入することを原則として禁止する社会保険労務士法の規定を見直します。

① 都道府県知事の委任を受けて地方労働委員会が行う個別労働関係紛争のあっせんおよび雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律に基づき都道府県労働局(紛争調整委員会)が行う調停の手続について代理すること
② 個別労働関係紛争(紛争の目的となる価額が60万円を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から裁判外紛争解決手続の代理を受任しているものに限る)の裁判外紛争解決手続(厚生労働大臣が指定する団体が行うものに限る)について代理すること


次世代育成支援対策推進法

次世代育成支援対策推進法が、2005年4月1日に施行されました。次世代育成支援対策推進法は、少子化の進展に対応し、次代の社会を担う子どもの育成のために、国・地方公共団体・企業が一体となって、仕事と育児とを両立させやすい環境の整備に総合的・効果的に取り組むことを定めたものです。

この法律では、常時雇用する社員が301人以上の企業に対し、仕事と育児の両立を支援するための雇用環境を整備する「行動計画」を策定し、2005年以降、これを都道府県労働局に届け出たうえで、その行動指針に基づく取組みを進めていくよう定めています。

企業の次世代育成支援対策とは、「自社の労働者に対する雇用環境の整備」と「その他の次世代育成支援対策」とにわけられます。

「自社の労働者に対する雇用環境の整備」は、①子育てを行う労働者に対する取組み(育児休業の取得の推進、子を養育する労働者に対する勤務時間短縮等の措置の実施、事業所内託児施設の設置・運営、子育てサービス費用の援助等)と②子育てを行う労働者以外をも対象とする取組み(所定外労働の削減、年次有給休暇の取得の促進、テレワークの導入等)の2つからなります。

一方の「その他の次世代育成支援対策」は、子どもの健やかな育成のための地域貢献活動などの自社の労働者以外の者をも対象とする取組みからなります。

次世代育成支援対策に取り組むことは、①社員の勤労意欲の向上、②退職者の減少と人材の定着、③労使の信頼関係の形成、④募集・採用上の優位性、⑤社会的信用の獲得に役立ちます。目先の損得にとらわれずに、積極的に取り組みたいものです。
 

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