★就業規則の作成・運用にあたっての要注意ポイントや、問題点の解説などを記載します。
★労働基準監督署は、届け出の際、書類が整っていれば受理します。チェックするのは書類です。内容について保証したわけではありません。ご注意ください。

《会社の規則の法的性格》


●必ず必要なもの = 就業規則、賃金規程、雇用契約書
●なくても法的に問題のないもの=賞与規程、退職金規程、慶弔金規程、旅費規程

■ 就業規則本則 ver.2 ■


1.総則
2.採用
3.服務規律
4.労働時間、休憩及び休日
5.変形労働時間制
6.休暇等
7.休職
8.定年
9.退職
10.解雇
11.賞罰
12.育児休業・介護休業
13.職務発明・知的財産権

 

◆ 1.総則 ◆


(1)就業規則の趣旨や会社の理念は、「総則」に記載する。

(2)全てのことを就業規則に規定するのは不可能であるので、そのような事態に備えて、「労働基準その他の法令による旨」を明記しておく。

(3)本則に特別の委任規程を設けなくても、別規則を定めることができる。

(4)就業規則が適用される従業員の範囲を明確にしておく。
パートタイマー、アルバイト、嘱託等は正社員の就業規則から適用を除外する。
パートタイマー、アルバイト、嘱託等は、その定義を明確に定める(会社によって違うことも)。


<正社員>
●正社員=雇用している労働者のうち、特に雇用期間を定めていない者
<非正社員>
●パートタイマー=正社員より所定労働時間が短いか、1週の所定労働日数が少ない者
●アルバイト=臨時的有期雇用者
●嘱託社員=正社員への転換や登用を全く予定しない有期雇用者
●契約社員=一般には、雇用期間を定めた比較的高度の専門職
●派遣社員=派遣元事業主から派遣される者

《ポイント》
★パートタイマー、アルバイト、嘱託等は、別規則を作成する。
★適用範囲について別個の就業規則(例:パートタイム就業規則)を定めるときはその旨を本則に定める。


【事例】
Q.会社がパートタイマーに退職金を支払わなければならないのはどんな場合か?
退職したパートタイマーから、退職金の支払を請求された。
「この就業規則には『退職した場合は、退職金を支払う』と書かれていますよ!」

A.除外規程がない場合、パートタイマーにも退職金を払うことになる
「パートタイマー、アルバイト、嘱託等は、正社員の就業規則から適用を除外する。」
との除外規定を定め、パートタイマー、アルバイト、嘱託等は、別に定める必要がある。
★パートタイマーが少ない場合は、個別労働契約(「労働条件通知書」)で定める方法もある。

(5)就業規則は、会社と従業員と双方に遵守義務があることを明記しておく。

 

◆ 2.採用 ◆



(1)選考方法や採用対象者を明確にしておく。

(2)採用時に必要な提出する書類は、列挙する。

1.履歴書
採用の応募時に提出している場合は不要
2.住民票記載事項証明書
★戸籍謄本(抄本)及び住民票写しを提出させるのは人権上問題がある。

3.健康診断書
雇い入れ時の健康診断を省略することができる。
(健康診断を受けてから3ヶ月以内に雇い入れるとその証明で代替できる)

4.身元保証書
採用時には必ず身元保証人(注:連帯保証人ではない)を選定することを記載する。
法律的義務はない。損害賠償責任、確かな人物という保証

5.労働契約書及び誓約書
6.前職がある者は、年金手帳、雇用保険被保険者証、及び源泉徴収票
7.給与所得者の扶養控除申告書及び扶養家族申請書
8.家族調書
9.資格等を証明する書類で会社が求めたもの
10.現住所から会社までの通勤方法及び略図
11.給与振込口座申請書
12.その他会社が必要と認めたもの

《身元保証制度とは》
●会社と身元保証人との間で、対象となる従業員が、将来において故意又は過失によって会社に損害を与えた場合に、身元保証人があらかじめその損害の支払いを保証するという内容のもの。(身元保証に関する法律)
(注)身元保証制度によって賠償してもらえるのは、せいぜい20%〜30%まで(判例あり)
①期限の定めない契約は3年(商工業の見習い者は5年)
②期限の定めのある契約であっても5年まで
③契約の更新は可能であるが、自動更新は無効(5年ごとの更新が必要、更新するなら就業規則に定める必要がある)
会社から保証人への通知義務がある

●下記の場合には、使用者である会社から身元保証人に対して通知義務が課されている。
これらの通知義務を怠ると、身元保証人の責任が減らされることになる。
○従業員に業務上不適任または不誠実な行為があり、身元保証人に責任が生じるおそれがあることを知った場合
○従業員の任務や任地の変更があり、身元保証人の責任に影響を及ぼす場合

《身元保証人が負うべき保証の範囲》
法律上の制限はない。あくまで契約書に記載してある範囲
印鑑証明を必要としてもよい(金融機関では一般的)
保証人の連絡先の電話番号を記入してもらう

(3)未提出者への処分についても規定しておく。
【規定例】
「正当な理由がなく所定の期日までに提出しない者については、採用を取り消すことがある。」
★提出期限、変更があった場合についても規定しておく。
★書類の提出期限について法的な定めはないが、労務管理の点からは、この提出期限は従業員には厳守させなければならない。

【判例】
書類を提出しないことを理由としての解雇を有効と判断(名古屋タクシー事件、シティズ事件)

(4)その他
①採用時の応募書類については、不採用の場合の書類返却については法的に定められていないが、『返却するのが望ましい』とされている。
返却しない場合は、『責任をもって破棄いたします』とする。
②誓約書に法的な効果はない。
★精神的な効果をねらう
③誓約書において、法律で禁止されていることを誓わせてはいけない。
(例:損害賠償の具体的金額、女性が結婚した場合や妊娠の場合は退職すること、等)

《ポイント》
「会社を守る」観点からは、「秘密保持誓約書」、「個人情報管理誓約書」、なども、業務の実情に合わせて作成すべきである。

◇ 試用期間 ◇



(1)採用者の適性を判断するための期間として、試用期間に関する規定を定めておく。
★期間の定めがない場合は、公序良俗に反するものとして、民法90条により、無効となる。(判例:ブラザー工業事件)
【規定例】
「新たに採用した者については、原則として採用の日から○ヶ月間を試用期間とする。」
(1〜6ヶ月が一般的。3ヶ月が多い。)
《注意》
★試用期間は、長くても1年以内にとどめておくこと。
1年を超えると民法90条(公序良俗)違反に問われることもある。

(2)試用期間中に適格と認められない場合は解雇することが旨を記載しておく。
【規定例】
「試用期間中に従業員として不適格と認められた者は、雇い入れから14日以内の場合は即日解雇とし、14日を超える場合は労働基準法の定める所定の手続きを経て解雇とする。」

(注意)試用期間中であれば、14日以内は即解雇できるが、就業規則に試用期間の定めがある場合か、雇用契約の内容となっている場合、に限られる。
(3)試用期間は、勤続年数に通算する旨を定めておく。

(4)試用期間の延長は、就業規則に延長規定がなければできない。
★必ず期限を限る

【試用期間中の従業員に辞めてもらうには?】
★就業規則に試用期間の定めが必要。
(注)試用期間中の解雇であっても、
雇い入れから14日を超える場合は解雇予告手当が必要。

《ポイント》
試用期間の代わりに、2ヶ月以内の短期間雇用契約を設けておく。
★この2ヶ月以内であれば即解雇できる。解雇予告手当も不要。
★社会保険料の負担がない。

(注意)職種によっては求人募集の際に、敬遠されることもあり得る。
【規定例】
「新たに採用した者については、原則として採用の日から2ヶ月間の期間を定めた雇用として、期間満了をもって雇用契約は消滅するものとする。」「ただし、契約期間内にまたは期間満了をもって期間の定めのない雇用として雇用契約を変更し、または当該更新することもある。」

◇ 人事異動 ◇


(1)出向や転勤等の人事異動の規定は必ず明記しておく。
出向中の労働条件については、原則として出向先の就業規則が適用される。
転籍や移籍出向は労働者本人の同意がなければできない(民法625条)。

(2)配置転換、転勤についても必ず明記しておく。
【規定例】
「会社は、業務上必要がある場合は、従業員の就業する場所又は従事する業務の変更を命ずることがある。」

《同意は必要か?》
配置転換・転勤・・・従業員の同意は不要
出向・・・・・・・・・・・・原則として従業員の同意が必要
転籍・・・・・・・・・・・・従業員の同意が必要

(注)『会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律』による転籍は、労働者本人の承諾がなくても可能な場合がある。

【従業員が配置転換・出向・転籍命令等を拒むことを防止するには】
★必ず配置転換や出向、転籍等の規定を定めておく。
★就業規則に根拠規定がない場合や、採用時に同意がない場合は、出向や転籍を命じることは難しい。

【規定例】
「会社は、業務上必要がある場合、配置転換、転勤、または従事する内容の変更、もしくは関連会社等への出向または転勤を命ずることがある。従業員は正当な理由のない限り拒んではならない。」
【判例】
使用者が、業務上の必要から労働者に配置転換や転勤を命じることは、特約のない限り許される(三菱オーシャン事件、他多数)。

【規定例(在籍出向)】
「会社は、業務上必要がある場合、従業員を在籍のまま、他の会社へ出向を命ずることがある。従業員は正当な理由のない限り拒んではならない。」
(注)『親の介護のため』は正当な理由と認められる場合が多い。

 

◆ 3.服務規律 ◆

 


(1)服務規律を遵守することが従業員の義務である旨を規律しておく。
【規定例】
「従業員は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遵守するとともに、会社の指示命令に従い、職場の秩序の維持に努めなければならない。」

(2)服務規律として掲げたい事項を、個別に箇条書きで記載しておく。

(3)秘密保持規定、競業禁止規定や兼業制限規定など特に会社が喚起したい事項については、独立条文とする。

(4)職場外での職務に関係のない私的な行為であっても、会社の名誉や信用を害すると思われるような事由も規定しておくことができる。

(5)定型な文言ではなく、就業規則を読んだ時に具体的にイメージできるような内容がよい。
【規定作成事例】
「出社時は「おはようございます」と挨拶しましょう」
たとえ「常識」であっても規定しておけば、「挨拶すらしない常識のない従業員」を処分する根拠とできる
★会社の実情に合わせて規定する

【服務規律は、従業員に日々このように働いて欲しいという「社長の思い」】
労基法上の定めはないが、会社の独自性が反映される重要な規定。
★服務規律に規定がなければ、懲戒処分を行うことができない。
<事例>
長髪の飲食店の男性従業員に対して、客から「不潔感がある」と苦情がある。
診療所に勤務する女性看護師が爪を伸ばし、マニキュアをしているので、患者から苦情が多い。
<対応>
会社は、勤務中の服装、身だしなみ等について、業務上必要な範囲で必要な指示をすることができる。職種によっては具体的に箇条書きにして定める。
【規定例】
「看護師はマニキュアをして勤務してはいけない。」
「ホール従業員は長髪にしてはいけない。」

<事例>
会社のパソコンで私的なEメールをしている。
<対応>
「パソコン規定」をつくる
「会社のパソコンでインターネット、E-mail等を私的に利用しない」こと、「会社は不正使用がないかチェックすることができる」こと、を明記しておく。
★規定がなければ、ネット使用のモニタリングはできない。

《ポイント》
服務規律は就業規則に必ず規定しなければならないものではないが、会社の秩序を維持するためには必要なものである。
★勤務態度に合わせ、必要な事項を規定しておく。
★パソコン等の取扱については、「パソコン管理規定」を定める。

職場外での職務に関係のない私的な行為であっても、会社の名誉や信用を害すると思われるような事由も規定しておくことができる。

(6)秘密保持規定
必ず定めておきたい重要な規定。
★秘密保持義務は、労働契約上の義務である。
個人情報保護法の施行(平成17年4月1日)に伴い、従業員に個人情報の重みを認識させることがより重要になった。
【規定例】
「従業員は、在職中はもちろんのこと退職後においても、自己の職務に関すると否とを問わず、会社の内部事項または業務上知り得た機密にかかる事項及び会社の不利益となる事項を許可なく他に漏らしてはならない。会社及び顧客に関する情報を複写等の方法によって社外に持ち出してはならない。」

(7)競業禁止規定
就業規則若しくは労働契約書で退職後の競業禁止の特約(競業避止特約)を定めておく。
★「職業選択の自由」の立場から制限するのは難しいとされているが、重要なポジションにある従業員との間においては有効とされる場合もある。
【判例】
特約もなしに就業の自由を拘束することはできない。
退職後の競業は、 期間・場所・職種について合理的な範囲に限定して禁止できる

(8)兼業制限規定
就業規則に規定がなければ、兼業を制限できない。
就業規則に定めても、現実的には100%禁止することはできない。
★許可制にすれば、無許可の兼業は懲戒解雇の対象にすることができる。
(9)セクハラ禁止規定
職場におけるセクハラ防止のための配慮規定を定めておく。

(10)所持品検査規定
★金銭の不正隠匿等の調査のために、所持品検査を行う場合であっても、就業規則に所持品検査を行う旨の規定がなければ、所持品検査は行うことができない。

(11) 個人情報保護規定
「個人情報保護法の施行」(平成17年4月1日)に伴い、個人情報管理の規定を定めることが必要となった。
【規定例】
「従業員は、会社が保有する個人情報を会社の業務の目的の範囲外で利用し、または第三者に開示・漏洩し、或いは第三者の知り得る状況に放置するなどの不適切な管理や、権限を有しない他の従業員に取り扱いをさせるなどしてはならない。なお、従業員は、当該情報等を厳重に管理しなければならない。」

(12) 退職者との秘密保持規定
「不正競争防止法の改正」により、退職者によって営業秘密の侵害があった場合には、退職者への処罰が導入される。

《ポイント》
退職者を処罰するためには、就業規則に、企業が保護したいと考える営業秘密を保有した退職者に対して、契約上の秘密保持義務を締結する明確に負わせるための秘密保持規定を定めるとともに、営業秘密保持契約を締結する必要がある。また、規定だけでなく、情報セキュリティマネジメントが講じられていなければ、保護されない。

《不正競争防止法上の営業秘密とは》
秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう(第2条6項)。
①秘密管理性・・・秘密として管理されていること
②有用性・・・・・・・事業活動に有用な情報であること
③非公知性・・・・・公然と知られていないこと
この①〜③の要件を満たす場合に限り、営業秘密として保護を受けることができる。

《営業秘密保持契約を締結するに当たって規定しておくこと》
①対象となる情報の範囲
②秘密保持期間
③義務違反の際の措置

 

 

◆ 4.労働時間、休憩及び休日 ◆



(1)原則的な就業時間の体制について記載する。
シフト勤務体制の場合は、そのシフト全部を記載する必要がある。

(2)変形労働時間制を採用している場合であっても、ベースとなる始業・終業時刻、休憩時間は必ず具体的に記載しなければならない。
(3)弾力的な時間の運営(始業時刻の繰り上げ、繰り下げ等)をする旨の規定を定めておく。
【規定例】
「業務上の必要がある場合は、予告のうえ、全部または一部の従業員について、始業、終業および休憩の時刻を変更することがある。ただし、この場合においても1日の勤務時間が所定労働時
間を超えることはない。」

(4)1日及び1週の所定労働時間を記載する。
変形労働時間制を採用する場合においても、上記の記載は必要。

《所定労働時間と法定労働時間の違い》
●「所定」労働時間
就業規則や労働契約で定められた時間。法定労働時間を超えることはできない。
●「法定」労働時間
法律で労働時間の限度として定められている時間。

(5)法定休日と所定休日の違いを明確に記載しておく。
休日出勤の割増賃金を算定する場合に必要
(注)週休2日制で土・日曜日を休みとしている場合には、そのうちの1日が法定の休日であり、もう1日の休日は会社が上乗せした休みとなる。
★どちらの休日が法定かという決まりはないので、上乗せの休日に労働をさせた場合であっても、休日の割増賃金を支払う必要はない。

(6)祝日は、休日の割増賃金を支払う必要はない。
★5月4日(国民の休日)及び祝日の翌日を休ませる場合には、記載しておく必要がある。
5月4日は、国民の祝日に関する法律により国民の祝日に付随して休日となる日
「国民の祝日が日曜日にあたる時の翌月曜日並びに当日が火曜日から土曜日までの間の曜日にあたる場合の5月4日をいう」

《休日と休暇の違い》
●休日
労働契約・就業規則などで労働の義務を課さないとした日、
労働契約上労働を提供する義務のない日
●休暇
本来、労働すべき所定の労働日に、労働する義務を免除された日、又は時間
労働の提供義務を一時的に免除される期間、
ある事柄が満たされて労働のないもの(年次有給休暇・慶弔休暇)

《休業と休職の違い》
●休業
本来、労働すべき所定の労働日であり、労働者が労働する意思があるかもかかわらず、それが拒否されたか、又は不可能となった日、あるいは時間
●休職
労働者が私傷病等により、労務の提供ができなくなった場合に従業員の地位を維持したままで、その就労の義務を免じられる一定期間

【年中無休の場合で休日を特定できない場合】
【規定例】
「毎週2日とし、毎月ごとに勤務割表で定める日。ただし、○○日前までに通知するものとする。」
勤務割表をいつまでに定めなければならないかについて法の規定はない。1ヵ月前としている場合もあれば、1週間前としている場合もある。

【週休2日制の場合】
法定休日と所定休日の違いを明確に記載しておく。
休日出勤の割増賃金は法定休日の労働に対して発生する。

《ポイント》
「法定休日は○曜日とする。」という規定にはしないこと
★法定休日を特定すると、その週に何日休日があっても、法定休日に出勤させると休日の割増賃金を支払わなければならない。法定休日は、4週を通じて4日あればよく、この休日に労働させた場合に割増賃金を支払う必要がある。

(8)振替休日の場合は就業規則に規定が必要。
事前に振替日を指定の上、通知する。4週4休を確保する。
★休日労働とはならないので、36協定の必要はない。
【規定例】
「業務に都合によりやむを得ない場合には、従業員の全部または一部について、あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。ただし、休日は4週間を通じ4日を下らないものとする。」

《振替休日と代休》
●振替休日制度
事前に振り替える休日を特定させる(会社が指定する)制度。休日勤務手当の必要はない。
●代休制度
事後に休日を与える制度。休日勤務手当の必要がある。

(9)だらだら残業を防止する。
(注)使用者が知りながら放置している「自発的残業」は労働時間となる
★時間外労働は会社の命令あるいは承認で行われる旨を記載しておく

(10)時間外労働を適正化する

《ポイント》
★時間外労働申請書等の提出を義務づける(監督署の「調査」が入った時に、証拠書類となる。)

(11)タイムカードの記録方法を定めておく。
★タイムカードは『業務の開始と終了時に』記録する旨を定めておく。
労働時間の計算に問題が生じないようにすること。

(12)始業、終業がどのような状態で認められるかということを明示しておく。
【規定例】
「始業時刻前に出勤し、始業時刻に勤務ができるように準備すること。」
(注)「始業時刻の前に着替え等を済ませておいて、始業時刻に勤務ができるように準備をしておくこと」とまで指示すると、着替えの時間も労働時間とみなされる。

(13)遅刻、早退、欠勤、外出に関する手続きを定めておく。
★届出は、事前届で承認制にする。
事前に届出ができなかった場合は事後報告する旨を定めておく。
【規定例】
「やむを得ない事情により、あらかじめ届け出ることができない場合には、欠勤中あるいは出社後、速やかに届け出て承認を受けなければならない。」

《ポイント》
遅刻、早退、欠勤については、服務規律や懲戒規定にも個別に明記しておくこと
★定めていない場合は、懲戒処分ができない。

(14)欠勤が長引く場合には、診断書を提出させる。健保の傷病手当金の待機期間が3日であることから、「4日以上の欠勤の場合」とする。
【規定例】
「同一傷病による欠勤が3日を超えたときは、医師の診断書を提出しなければならない。」

(15)営業社員については、事業場外みなし労働制を採用するとよい。
出張の場合にも事業場外みなし労働制を採用することができるが、その旨を記載しておかなければならない。

(16)出張に関する手続きのルールを定めておく。

(17)変形労働時間制を採用する場合には、その方法や対象者などの規定が必要。

(18)時間外や休日労働をさせることがある旨を明記しておく。

(19)労働時間、休日に関する適用除外者を明確にしておく。

(20)労働時間の実際上の取扱について規定しておく。

①通勤時間は、使用者の指揮監督のもとにない自由な時間であるので、労働時間ではない。出張の場合も同じ。
②事業場に入ってから、タイムカード等の置いてある所まで行くのに要する時間は、労働時間には入らない。
③作業準備のための時間、後始末の時間は原則には労働時間に含まれる。着替えなどのための時間は、使用者の明示あるいは黙示の命令がある場合や、法令で義務づけられている場合は、労働時間に含まれる。機械の点検整備などの時間は、労働時間。
④シャワーの使用や入浴は、労働時間ではない。
⑤朝礼、ミーティング等で、参加が義務づけられている場合には、労働時間となる。
⑥参加が義務づけられている研修等は労働時間となるが、参加が自由な場合は労働時間とはならない。
⑦特殊健康診断は、労働時間。

◆ 5.変形労働時間 ◆



『週40時間制クリア』のためには有効だが、従業員によく理解してもらうことが何よりも重要。
(注)「8時間超えて残業しているのに、割増賃金を払わない会社なんだ」と誤解し、不満を抱いていることがある。(「ウチの会社は法律違反してるんじゃないですか?」との問い合わせがあり、よく聞くとその会社は「変形労働時間制を採用していた」、ということがよくある。)

◇ 1ヵ月単位の変形労働時間制 ◇



【導入のための要件】
①変形期間
変形期間の長さ(1ヵ月以内)とともに、その起算日を定める。
②変形期間における各日、各週の労働時間
変形期間を平均して1週当り40時間以内の範囲で各日、各週の労働時間を具体的に特定する。就業規則においては、始業及び終業の時刻を定める。
③労使協定による場合は、協定の有効期間を定める。
届出も必要。
(注)労使協定により1ヵ月単位の変形労働時間制を採用した場合でも、就業規則に規定しなければならない。労働者の民事上の労働の義務は、労使協定から直接発生するものではなく、労働協約、就業規則等の根拠が必要であるため。

【変形期間の法定労働時間の計算方法】

変形期間の法定労働時間の総枠
= 40時間 × 変形時間の歴日数 ÷ 7

(注)端数はそのままとするか、切り捨てる。

<1ヶ月の法定労働時間の総枠>
31日⇒177.1時間
30日⇒171.4時間
29日⇒165.7時間
28日⇒160時間

<1ヵ月単位の変形労働時間制(週40時間)のパターン>
1日の労働時間と1ヶ月の休日数の関係(30日・31日の月の場合)
8時間⇒9日
7時間30分⇒8日
7時間15分⇒7日
7時間⇒6日

《時間外労働となる時間の判断基準》
①1日について
労使協定または就業規則その他これに準ずるものにより、1日の法定労働時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は1日の法定労働時間を超えて労働した時間が時間外労働の対象となる。
②1週間について
労使協定または就業規則その他これに準ずるものにより、週法定労働時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は法定労働時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間は除く)が時間外労働の対象となる。
③変形期間について
変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①②で時間外労働となる時間を除く)が時間外労働の対象となる。


毎年1月1日を起算日とする4週間単位の変形労働時間制を採用する。
1日の所定労働時間が7時間の会社では、休日をどのようにすれば週40時間がクリアできるか?


6日の休日を与えればよい。

40時間×(28÷7)=160時間
⇒160時間(変形期間の法定労働時間の総枠)÷7(所定労働時間)=22.857
⇒22.857日→22労働日
⇒6日休日(変形期間28日―労働日22日)


◇ 1年単位の変形労働時間制 ◇



【導入のための要件】
①対象労働者の範囲を特定する。
②対象期間(労働時間を平均することができる期間)を決定する。
③対象期間の所定総労働時間の限度を決定する。

1年以内の一定期間の労働時間総枠
= 40時間 × 対象期間中の総日数 ÷ 7日


40時間×365日÷7日=2085.7⇒総枠2085時間/年

<1年単位の変形労働時間制(週40時間)のパターン>
1日の労働時間と年間休日数の関係(1年365日)
8時間⇒105日
7時間45分⇒96日
7時間30分⇒87日

(注)労働日数は280日が上限であるから、休日数は85日としなければならない。

④途中退職者等に40時間を超えた分の割増賃金を支払う定めをする。
⑤労働日・労働時間を特定する。
⑥労使協定を締結して届け出る。

《時間外労働となる時間の判断基準》
①1日について
労使協定により、1日の法定労働時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は1日の法定労働時間を超えて労働した時間が時間外労働の対象となる。
②1週間について
労使協定により、週法労働時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は法定労働時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間は除く)が時間外労働の対象となる。
③対象期間について
対象期間については、対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①②で時間外労働となる時間を除く)が時間外労働の対象となる。

◆ 6.休暇等 ◆



(1)年休取得申請の規定を設けておく。
同一の日に、多数の年休取得者が発生することによる業務の停滞を防ぐため。
【規定例】
「取得届は、希望日の○ヶ月前の同一の日から受付を開始し、年次有給休暇カレンダーを作成し、従業員がよく見える場所に掲示する。」

(2)継続勤務とは
実質的に判断する
●定年退職して引き続き嘱託として採用された場合
・・・1ヶ月の空白なら継続勤務と判断される。
●パートから正社員になった場合、正社員からパートになった場合
・・・ともに要件を満たした日で判断(この日に正社員なのか、パートなのかで、判断)する。

(3)出勤率の算定
下記の期間は出勤扱いにしなければならない
(賃金は無給でもよい)
①業務上傷病にかかり療養もために休業した期間
②産前産後の休業期間
③育児・介護休業法に基づく育児休業期間・介護休業期間
④年次有給休暇を取得した期間
⑤使用者の責めに帰すべき休業期間および、不可抗力によって休業した期間
⑥育児休業法に基づく看護休業

(4)年休の時季変更権については必ず記載しておく。
【規定例】
「取得届の届出があっても、あきらかに業務の正常な運営を妨げると認められる場合は、その時季を変更する。」

(5)従業員が年休の時季指定権を行使できる期限を定めておく
【規定例】
「取得届は、緊急やむを得ない場合を除き、事後の届出は受理しない。当該提出届の提出閉めきり日は、原則として希望日の3日前とする。」
★前日請求は拒むことができる(時季変更権を行使できないから:此花電報局事件)

(6)年次有給休暇取得日の賃金の取扱について明確に定めておく。
【規定例】
「正社員の場合、出勤したものとして取り扱う。」
(注)「通常の賃金」
月給制の場合は、欠勤控除しない
年次有給休暇の際の賃金も、就業規則の絶対的必要記載事項の賃金に該当するため、就業規則に定めておく必要がある。

(7)年次有給休暇の消化の仕方を規定しておく。
繰越分の有給休暇と、その年の付与分とどちらが先に消化するかということについて、労基法上の規定はない。定めがない場合には、会社が指定することになるので、新規付与分から消化してもよい。
★最大「40日」残す必要はない。

(注)あくまで、“会社の方針”による。
「当社はモチベーションを下げるようなことはしない。有給休暇で英気を養ってくれ。」
これも考え方の1つである。

(8)退職時の有給休暇の取扱についてはトラブルが多いので規定しておく。
★年次有給休暇の『退職時まとめ取り』を防ぐため
【規定例】
「退職者は業務の引継ぎをしない場合、退職金を減額する。」

(9)年次有給休暇の半日付与は事業主の義務ではないので、請求されても拒否できる。
★半日付与を認める場合は、明示しておく。

(10)特別休暇(慶弔休暇)は、法律上は定められていない。

(11)特別休暇を有給にするか無給にするかは、必ず明記しておく。

(12)生理休暇は無給でよい。

(13)特別休暇は暦日か労働日か、連続か断続か明確にしておく。
【規定例】
「特別休暇の間に就業規則で定める休日が入るときは、特別休暇に算入する。」

(14)特別休暇の起算日について定めておく。
【規定例】
「本人が結婚する時」は挙式前後連続○日(当日からか前日からか定める)
「兄弟姉妹が結婚する時」は挙式当日から
「父母が死亡した時」は死亡日より連続○日
「結婚休暇は1回に限る。」、等々

◆ 7.休職 ◆



(1)休職は法律上必ずしも定めなければならないものではないが、必ず就業規則に記載しておく。
(2)どのような休職事由を定めるかは、会社の自由。

(3)休職期間中の賃金や社会保険料の取扱いは具体的に明示しておく。
★賃金については、従業員の都合による休職は会社が任意に決めることができる。(ノーワーク・ノーペイの原則により無給でもよい。)
★社会保険料については、従業員負担分は徴収する義務がある。ただし、復職後の給料から控除すると「賃金の全額払い」に抵触する。

(4)精神上の疾患についても規定しておく。

(5)同一事由による休職の通算規定を定めておく。
再休職の休職期間は最初の休職期間の延長として期間を通算する。あくまでも最初の休職期間の始まりをスタート時点とする。

(6)復職できない場合
(注)「解雇」とした場合は、解雇の予告もしくは解雇予告手当が必要になる。
★休職期間が満了しても復職できない場合は「自然退職」とする旨の規定を定めておく。
残って欲しい従業員がいる場合を想定して
「特別の事情で会社が休職を認めたとき」という特別休職の規定を定めておく。

(7)休職の事由や発令時期、期間等を明確にしておくこと。
【規定例】
勤続5年未満・・・・・・・・・・・3ヶ月
勤続5年以上10年未満・・・6ヶ月
勤続10年以上・・・・・・・・・・1年

(8)休職期間を勤続年数に含めるかどうかは、会社が任意に決めることができる。
(注)退職金の算定期間に含めるか否かのトラブルを防止するために規定する。
私傷病休職、自己都合休職、公職休職の期間は、勤続年数から控除するのが一般的。
出向休職、組合専従による休職の期間は、勤続年数に算入される場合が多い。

 

◆ 8.定年 ◆


(1)定年とは、従業員が一定の年齢に達した場合に退職する制度。
定年を定めるかどうかは会社の自由
★定年の定めをする場合は60歳以上としてしなければならない。

【65歳までの雇用延長】
高年齢者雇用安定法の改正により、平成18年4月1日から62歳までの雇用延長が義務化。
次の3つの制度から1つ選択します。
①定年の引き上げ
②継続雇用制度の導入
③定年制の廃止
★就業規則の規定の変更が必要です。 

《ポイント》
労使協定を締結することにより、就業規則で選定基準を規定して、特定の者だけを再雇用することができる(中小企業は平成23年3月末まで)。
(注)ただし、就業規則で基準を定めることができるのは、労使協議が不調であることが前提なので、労使協議を省略したり形式的な労使協議だけで、基準を就業規則で定めることはできません。また、継続雇用定着促進助成金の支給対象外となります。
(2)退職日は明確にしておく。
【規定例】
「定年に達した場合には自然退職とする。」
★従業員が業務上災害で休業している場合には退職させられないから

<定年に達したとき>
○誕生日の前日を含む賃金計算期間の末日
○誕生日の属する月末
○誕生日の属する年度末
誕生日の属する月の賃金締切日(←これが計算上都合よい)

(3)定めがない場合は、定年がないものとみなされる。
★退職の規定が明確でないと解雇手続きが必要となる場合がある。
《注意》
「業務上引き続き雇用することがある」とすると、解雇の規制を受ける場合もある。
『退職後の再雇用制度』にするほうがよい。

 

◆ 9.退職 ◆



(1)退職の具体的事情(自己都合退職、定年退職、懲戒解雇、死亡等)の手続を規定する。

(2)業務の引継ぎや退職希望者の義務を列挙する。
【規定例】
「退職願を提出した物は、会社の承認があるまでは従前の業務に服さなければならない」

(3)退職願と退職届では民事的な効力が異なるので、退職願とするのが一般的。

●退職願・・・労働契約の合意解約の申し込み。  会社の承諾が必要。
●退職届・・・労働契約の一方的な解約の意思表示。会社の承諾は不要。

本来、労働者が退職するには使用者に申し出て、その承諾を得て退職(労働契約の合意解約)するのが原則。

(4)退職願の提出は、対処日の1ヶ月前と定めている会社が多いが、法律上の効力はない。
民法上は、期間の定めのない雇用の場合は、従業員は退職する2週間前にはその意思表示をすることが必要(民法627条)。
【規定例】
「従業員が自己の都合により退職しようとするときは、少なくとも1ヶ月前までに退職願を提出しなければならない。退職願を提出した者は、会社の承認があるまでは従前の業務に服さなければならない。」

(補足)期間の定めのある雇用の場合
原則、途中で退職できない、途中で辞めさせることはできない。
ただし、正当な自由があれば労働契約の解除はできる(民法628条)。

(5)退職金不支給や減額の規定
★業務の引継ぎを完了しない場合の、退職金不支給や減額の規定を定めておく。
【判例】
退職願提出後、14日間正常勤務しなかった者には退職金を支給しないという旨の定めが有効とされた(大宝タクシー事件:大阪高裁)。

(6)退職後の「秘密保持の業務・機密漏洩の禁止」は必ず記載しておく。
「退職した従業員の企業の機密(特許を取ろうとしていた商品・企業独自の知識や技術)を漏洩した場合は、退職金の返還もありえる。」という規定を明確に定めておく。
★「退職後の秘密保持の業務・機密漏洩の禁止」の規定を根拠に、退職金の返還や賠償請求などを請求することができる。

◆ 10.解雇 ◆



(1)解雇の具体的事由は、網羅して規定しておかなければならない。

(2)解雇予告は、「初日不算入」

(3)解雇予告の必要がない者を明示しておく。

(4)解雇予告の際の手続きを記載する。

(5)退職や解雇時の会社から貸与した商品の返還について規定しておく。

(6)無断欠勤が続いた場合や行方不明の場合の規定を定めておく。

【よくある条文】
「正当な理由がなく無断欠勤が○日以上続いた場合には解雇する」
「本人が行方不明になって○日経過した場合には解雇する」

《ポイント》
★「解雇」にすると解雇予告をするか、解雇予告手当を払わなければならない。
また、行方不明の場合の解雇予告は公示送達をすることが必要になる。
★「自然退職」にすると上記の手続きは不要である。
【規定例】
「従業員が、無断欠勤連続14労働日に及んだ時は、その最終日をもって自己退職したものとみなす。」
「従業員が、所定の休日も含め連続14日無断欠勤に及んだ時は、その日を退職の日とし、従業員としての身分を失う。」

(注)「14日以上」と定める理由
労基法の規定ではなく、民法で、期間の定めのない雇用契約を解除する場合の告知期間が、2週間とされていることに基づくことと、
労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けて即時解雇できる基準に「原則として2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」という通達があるため。

(7)解雇予告除外認定の申請
★労働基準監督署への解雇予告除外認定の申請は、従業員に解雇を「告げる前に」しておく

(8)「個人情報保護法の施行」(平成17年4月1日)に伴い、従業員が会社の顧客データを持ち出した場合も規定しておく。
【規定例】
「従業員が職務上知り得た会社の顧客情報を第三者に漏らし、または漏らそうとしたときは、懲戒解雇とする」

(9)解雇事由にかかる包括的規定を定めておく
【規定例】
「その他前各号に準ずるやむを得ない事情があったとき」


◆ 解雇・退職・辞職の違い ◆



●普通解雇・・・労働契約の中で不履行があった場合
●整理解雇・・・会社の経営上、どうしても人員の整理が必要な場合
●懲戒解雇・・・就業規則等に定められている懲戒事由に該当した場合
●自然解雇・・・定年退職、契約期間満了、自己都合退職
●辞職・・・・・・・労働者による労働契約の解約

◇ 普通解雇 ◇



労働者としての適性が著しく低いと認められた場合の解雇。
私傷病による場合
①休職期間を設定する⇒期間内に復職できない場合、労働契約は終了となる
②復職の場合の業種・業務を限定しておく

能力が低い場合
①試用期間を設ける
②スペシャリストを雇入れる場合には、歩合制の採用や、成果が達成されない場合には、解雇することがあるということを明記しておく

勤務態度不良等
①服務規律を充実させておく

◇ 懲戒解雇 ◇


労働者の責に帰すべき事由により、懲戒処分として行われる解雇。
★就業規則の解雇事由に該当し、解雇の客観的理由があると認められる場合であっても、直ちにその解雇が有効と判断されるわけではない。判断するのは労働基準監督署ではなく、裁判所である。
★社会的相当性のない場合には、解雇は無効となる。

《解雇予告除外認定の対象となる事由》
○事業場内における業務上横領、傷害等の刑法犯に該当する行為があった場合
○賭博等で職場秩序を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
○採用時に、採用条件の要素となるような経歴を偽った場合
○2週間以上、正当な理由がなく無断欠勤して、出勤の督促に応じない場合、など 

◇ 整理解雇 ◇


経営上の理由による人員削減として行われる解雇。
★経営状況が悪化したからといって、自由にできるものではない。判例によれば、整理解雇が有効とされる要件として次の4つの要件があり、一般に「整理解雇の4要件」と呼ばれている。

《整理解雇の4要件》

①人員削減の必要性
自発的退職者の募集や作業方式の変更など経営の合理化を行ってもなお、本当に人員整理の必要性があるのか

②解雇回避の努力
整理解雇を回避するために努力を怠ってないか、希望退職者の募集、配置転換、新規採用の中止、昇給停止、一時金支給停止、賃下げなどの努力を行ったか

③整理対象者選定の合理性
整理解雇される対象者の選定は合理的か、恣意的に選定していないか、従業員が納得できる解雇基準が作成されているか

④解雇手続の妥当性
対象労働者や労働組合に対して、整理解雇の必要性やその内容(時期・規模・整理の順序・整理の方法など)について十分説明し、誠意をもって協議したか

判例の中には4つの要件を全て満たす必要はなく、4要素としているものもある。
ロイヤル・インシュランス・パブリック・カンパニー・リミテッド事件(東京地裁)など

いずれにせよ、この4つの指標が解雇の有効、無効を判断する基準となっている。
この4要件に当てはまらないものがあるようならば、「解雇権の濫用」として無効とされることも考えられる。

 

◆ 11.賞罰 ◆

 


(1)会社や社会に貢献した従業員を報奨する規定を定めておく。

(2)懲戒処分は種類とその程度を明記しておく。
【判例】
就業規則に懲戒解雇の規定がないとして、懲戒解雇が無効

★懲戒処分とは、従業員の秩序違反に対し、会社が課す一種の制裁罰。
懲戒処分の最も重い形態が、懲戒解雇。

①訓告
口頭で注意を行い、将来を戒める

②けん責
始末書を提出させ、将来を戒める

③減給
始末書を提出させるほか、給与の一部を減額する。一回の行為につき平均賃金の半日分または数回の行為については一賃金支払時期の賃金の10分の1を上限として給与から減額する

④出勤停止
始末書を提出させるほか、出勤を禁じる。その間の賃金の支払は必要ない。勤続年数にも通算しないとするものが多い。法律上に出勤停止の期間の上限は定められていないが、1ヶ月以内が妥当。行政指導では7日間。
【判例】
不当に長い出勤停止は無効。

⑤降格
始末書を提出させるほか、職制上の地位を免じ、または降格する。
(注)降格処分は、職種の変更に限られている。

⑥諭旨退職
本来は懲戒解雇の対象となる行為であるが、情状酌量の余地がある場合に退職届を提出させるように勧告する。退職金の全部または一部を支給。

⑦懲戒解雇
予告期間を設けずに即解雇する。退職金の不支給や減額を伴う場合が多い。

(3)懲戒の事由に関しては、具体的かつ網羅的に規定する。
『○○○をすれば、○○の処分を受ける』ということを事前に規定しておくことが重要。
(4)懲戒処分は、懲戒事由の定めがない事由や種類について処分できない。
《ポイント》
★懲戒処分を課すためには、就業規則に定めておくことが必要

(5)懲戒事由に包括条項を設けておく。
該当事項がない場合は包括規定に該当するかどうかで判断する。
【規定例】
「その他、全各号に準ずる行為があったとき」
★あくまでも具体的列挙が前提。

(6)未遂、幇助、教唆についても規定しておく。
(7)出勤停止の期間の制限はない。(1ヶ月位までが多い。)
(8)出勤停止期間は勤続年数に通算しない。
(9)懲戒解雇事由を明確かつ特定して規定する。
(10)懲戒基準を懲戒の種類ごとに明確に定めておく。

【規定例】
<けん責>
①正当な理由なしに無断欠勤をしたとき
②勤務に対する所定の手続き・届出・申請について不正があったとき
③職場の風紀・規律を乱したとき
④コンピューター機器、電子メール等の会社設備を会社の業務以外の目的に使用したとき
⑤許可なく会社の電子情報データを持ち出し、または持ち出そうとしたとき
⑥労働時間中、許可なく職場を離れ、もしくは自己の職責を怠るなど業務怠慢の行為があったとき
⑦立ち入りを禁止した場所に許可なく立ち入ったとき
⑧所定の出退勤記録の手続きを他人にさせ、若しくはこれに応じたとき
⑨その他前各号に準ずる程度の行為があったとき

<減給・出勤停止>
①無断欠勤の度重なるとき
②遅刻・早退・私用外出が多く勤務に誠意が認められないとき
③事業所内にて、賭博、その他これに類する行為をしたとき
④故意または過失により、業務上の秘密(顧客情報を含む)、個人情報等を他に漏らし、会社に損害を与えたとき
⑤故意または過失により、電子情報データを破損または紛失し、会社に損害を及ぼしたとき
⑥故意または重大な過失により、業務に関し会社ならびに顧客に損害を与えたとき
⑦その他前各号に準ずる程度の行為があったとき

<普通解雇>
①勤務成績又は業務成績が著しく不良で向上の見込みがないとき
②勤務状況が著しく不良で改善の見込みがないとき
③精神又は身体の障害について適正な管理を行い、雇用の継続に配慮しても、なお業務に耐えられないと認めたとき
④試用期間中又は試用期間満了時までに従業員として不適格であると認められたとき
⑤事業の運営上やむを得ない事情又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により、事業の縮小・転換又は閉鎖等を行う必要が生じ、他の職務に転換させることが困難なとき
⑥その他前各号に準ずる程度の行為があったとき

<懲戒解雇>
①普通解雇の各号の行為が数度に及んだとき
②正当な理由がなく無断欠勤が連続暦日14日以上におよび、出勤の督促に応じなかったとき
③正当な理由がなく無断で遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、○回(注:具体的に回数を定める)にわたって注意を受けても、改めなかったとき
④重要な経歴を偽り、その他不正を用いて採用されたとき
⑤正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき
⑥私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷等によって会社の名誉を傷つけ、業務に重大な悪影響を及ぼすような行為があったとき
⑦会社の業務上必要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき
⑧情報セキュリティに関する規定に違反し、会社または個人に著しい不利益を及ぼしたとき、または名誉、信用を著しくj毀損したとき
⑨数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお勤務態度に関し、改善の見込みがないと認めたとき
⑩故意または重大な過失により、会社に重大な損害を与えたとき
⑪素行不良で、著しく会社内の秩序又は風紀を乱したとき
⑫その他前各号に準ずる程度の行為があったとき

 

 

◆ 12.育児休業・介護休業 ◆



(1)育児・介護休業は法律上の業務
労基法上の休暇に該当するので絶対に記載しなければならない事項
(注)育児休業・介護休業の規程のない就業規則は労働基準監督署で受け取ってもらえない。
★育児休業は男性も取得できる。だから、女性のいない会社であっても作成しなければならない。

(2)育児・介護休業は手続き自体が法律である。会社独自の規定を盛り込むことは難しいので、これに関しては、行政のひな型を利用する。

「育児介護休業法の定めにより、育児休業及び介護休業を定める」
★この一文だけでも、記載要件は満たす。

(3)労使協定により適用除外とすることができる者については、締結の上、明示しておく。
《ポイント》

★適応除外者の労使協定を結んでおくことによって、短期間のパートタイマー等の適用を除外できる。
●育児休業・介護休業・・・1年未満
●介護休業・・・3ヶ月未満
看護休暇・・・6ヶ月未満

(4)育児・介護休業法は平成17年4月1日より一部改正。

《改正ポイント》
①対象労働者の範囲に、一定の条件を満たすパートタイム労働者等期間雇用者を含む
②看護休暇として、小学校就学前の子を対象に労働者1人につき年5回まで取得できる。
③育児休業期間について、1歳に達する時点で保育所に入れないなど特別の事情がある場合は、6ヶ月を限度に延長できる。
④介護休業の取得回数を、対象家族1人について要介護状態ごとに1回、通算して93日まで休業できるようにする。

◆ 13.職務発明・知的財産権 ◆



★注記★最下段の【規定例】は あくまで“サンプル事例の抜粋”です。
 このままでは、特許・知的財産権を会社に帰属させるには不十分です。
 (社員に権利を返還する事態も起こりえます。)


職務発明とは、企業の業務の一環として完成された発明や、大学での研究成果として完成された発明のこと。特許丁に出願される発明のほとんどが職務発明である。

特許と知的財産(所有)権は、知的活動によって生じた無形の財産権であるが、特許=知的財産(所有)権ではない。

知的財産(所有)権は、「文芸、美術、学術」等を保護する著作権と、「産業に役立つ技術的な意匠、商標」を保護する産業所有権とに大別される。

●産業所有権は、
特許・実用新案・・・技術的な発明、考案を保護する。
意匠・・・産業上のデザインを保護する。
商標・・・商品・サービスのネーミングやマークを保護する。

(1)就業規則に職務発明についての予約承継の規定(職務発明に対する社内制度の確立)と正当な対価の支払を定めておく。

《職務発明》
従業員の発明のうち、その発明が「使用者の業務範囲に属し、かつ、発明をするに至った行為が当該従業員の現在または過去の職務に属すること」が職務発明の要件となる。(特許法35条)

使用者が契約または勤務規定その他の定めをすることにより、従業員の発明による特許を受ける権利(若しくは特許権)を従業員から使用者に当然に承継させることが、特許法において認められている。

ただし
★従業員は発明から「相当の対価」の支払を受ける権利がある。
その発明により使用者が受けるべき利益の額及び発明についての使用者と従業員(発明者)の貢献度を考慮して定めなければならない。
【訴訟例】
青色発光ダイオード事件(200億円の支払を求めるが、8億円で和解)
光ピックアップ事件(250万円の対価が認められる)
日立製作所事件(71億円の支払を求める)

《ポイント》
①就業規則に予約継承について定めておく。
②従業員に対する適性妥当な対価(「相当の対価」)支払いシステムを作る。

合理的根拠・判断要素に基づいた算出法や算定額の平均値を割り出す。
(2)就業規則に知的財産権(所有)権について定めておく。

【知的財産(所有)権】

特許権・・・発明をした人に対して、その技術を公開してもらい、その代償として、一定の期間、一定の条件でその技術に対して独占権を与えられる。

実用新案権・・・「物品の形状、構造又は組合せ」に係る考案を保護するもので、特許ほどではない小発明を保護される。

意匠権・・・工業的に利用可能な物品の形状や模様、色彩などのデザインを保護するもので、そのデザインに関して製造・販売する独占権を与えられる。

商標権・・・商品やサービスに関してつけられている名称やマークを保護されるもの。自己の商品と他者の商品を区別するためにつけられるものが商標。

著作権・・・著作物に発生する権利で、それを創作した人に権利が与えられる。

【規定例】

1.「会社の発意に基づき、社員が業務遂行上著作、発明、考案をした場合は、その著作権、特許権、実用新案権などの知的財産権は、会社に帰属する。」

2.「社員は次に掲げる事由により発明について、特許を受けたときは、会社に専用実施権を付与しなければならない。」
(1)「その職務遂行上、会社の業務範囲に属するものであること。」
(2)「その発明考案に至った経緯が、会社における社員の現在又は過去の職務に属するものであること。」

3.「前項にかかわらず、社員が特許を受ける権利又は特許権を、会社に譲渡した場合はこの限りではない。この場合は、専用実施権は消滅するものとする。」

4.「前2項の規定により、社員が専用実施権を設定し、又は、特許を受ける権利若しくは特許権を会社に譲渡した場合は、会社は相当の対価を支払うものとする。」

※注記※この【規定例】は “サンプル事例の抜粋”です。このままでは、特許・知的財産権を会社に帰属させるには不十分です(社員に権利を返還することになります)。上記解説中の《ポイント》を反映したものにも、なっておりません。

また、就業規則に規定することは当然として、「権利譲渡契約」を結ぶことも必要です。 「対価を決める手続(これも事例には載せていません)」も正当かつ合理的なものでなければ、無効とされてしまいます。

職務発明・知的財産権に関する規定の作成にあたっては、サンプル事例の転用は危険です。 “貴社の事情”に合わせたものを作成しなければ、有効なものとはなりません。 ご注意下さい。 (当事務所では、弁理士等、特許・知財の専門家と共同もしくは相談のうえ作成しております。)

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