★賃金規程の作成・運用にあたっての要注意ポイントや、問題点の解説などを記載します。
★労働基準監督署は、届け出の際、書類・必要項目が整っていれば受理します。
チェックするのは書類です。内容について保証したわけではありません。ご注意ください。

《会社が従業員に支払うお金の法的性格》


【賃金】=支払い義務がある。特に残業代が問題になる。
【賞与】=支払いを約束していなければ、支払い義務はない。
【退職金】=退職金規程がなければ、支払い義務はない(注:支払慣行あれば、義務あり)。

■ 賃金規程 ver.1 ■


1.賃金の構成
2.割増賃金
3.賃金の減額
4.賃金の改定
5.休職中の賃金
6.賞与
7.退職金

◆ 1.賃金の構成 ◆



(1)基本給には、月給・日給月給・日給・時間給等の種類がある。

(2)基準内賃金、基準外賃金
、慣行的に用いられる用語で、法律用語ではない。

●基準内賃金
所定労働時間の労働に対して、固定的に支払われ、従業員の生計を維持するための根幹的賃金。基本給のほか、基準外賃金と通勤手当を除く諸手当を含む。

●基準外賃金
所定労働時間を超える労働に対して支払われ、従業員の収入としては例外的、可変的な賃金。早出・残業・休日勤務手当・時間外賃金等。

(3)年齢給
年齢を基準にして決定される賃金

(4)勤続給
従業員の勤続年数を基準にして決定される賃金

(5)経験給
特定の職種または類似職種における経験年数を基準にして決定される賃金

(6)学歴給
学歴によって計算される賃金(初任給決定時のみに用いられる場合が多い)

(7)職能給
それぞれの職務が必要とする知識、熟練、努力、責任の度合いや作業条件などにより職務の困難度と重要度を評価し、その評価に応じて決定される賃金

(8)役職手当(管理職手当・役付手当)
管理・監督者の地位にある者に対して、他の従業員に比べてその業務内容や職務の責任度が複雑で高いことが、上級役職者には超過勤務手当が支給されないこと、また、役職者としての対面を保持するための出費を必要とする社会的立場にあることなどの理由により支給されるもの

【規定例】
「役職手当は、部長、課長等の管理監督の地位にある従業員またはこれに準ずる業務に従事するものに対して支給する。」
「管理監督の地位にある部長、課長においては、時間外勤務手当、休日勤務手当相当分を役職手当に含むものとし、別に時間外手当等は支給しない。」

(9)家族手当
扶養家族のある従業員に対して、特別の手当として支給するもの
①支給する扶養家族の定義や範囲を明確にしておく
②家族手当は、世帯主であり、かつ、扶養家族のある従業員に支給する
③支払開始時期を明確にしておく
④変更の申告が遅れた場合、虚偽の申告をした場合の返還を規定しておく

(10)精皆勤手当
一定期間内において無欠勤者に支給皆勤手当と、1日ないし2日程度の欠勤者に支給する精勤手当→出勤して当然であるので、支給しない会社も多い。(支給した場合は割増賃金の算定の基礎となる賃金に含めなければならない。
(注)年次有給休暇および業務上災害による休業については出勤扱いとする。

(11)通勤手当
通勤者に対して支給するもの
①受給資格や手当の額を明確に定めておく・・・通勤距離が2km以上とするものが多い
バスの場合は、最短でも1.5kmとするのが一般的
②上限を定めておく
③通勤の経路は会社が認める最も経済的なコースで計算することを定めておく
(ア)通勤定期の購入代金等の実費支給を定めておく
(イ)定期券や回数券等で支給するためには、労働協約に定めがいる

(12)調整手当
給料を決定や変更するときに、総支給額に不足があった場合、例外的に支給するもの
①中途採用・退職・解雇された場合等の賃金についても規定を設けておく

【規定例】
「従業員が賃金計算期間の途中において、採用、退職または解雇されたときは、特に定めるもののほか、日割または時間割計算により支給する。」

★賃金の1日当り、1時間当りの金額を算定する場合の日割計算及び時間割計算を定めておく
〔日割・時間割計算が必要となる場合〕
1.欠勤、遅刻、早退、私用外出等の不就業による賃金控除
2.賃金計算期間中の中途における採用、退職、休職、復職時の賃金控除


●日割計算額=対象賃金月額÷月間平均労働日数

《月間平均労働日数=年間所定労働日数(365日―年間所定休日)×1/12》

●時間割計算額=日割計算額÷1日の平均所定労働時間

《1日の平均所定労働時間=年間所定総労働時間数÷年間所定労働日数》

(13)手当の支給、変更、停止についてその起算日を定めておく。

【規定例】
「賃金計算期間の途中において、手当の支給または、その額を変更するべき事由が発生した場合には、その事実の生じた日の属する賃金計算期間の次の賃金計算期間からその手当を支給し、またはその額を変更する。」

(14)欠勤控除の計算方法を記載しておく
欠勤控除の計算については、法律上の規定はないので、割増賃金と同じ計算方法にする

(15)給与明細書の交付義務
「賃金を支払う者は、賃金額、所得税額等を記載した支払明細書を賃金支払時に、労働者に交付しなければならない。」と所得税法231条で規定されている。

◆ 2.割増賃金 ◆



(1)法定労働時間を超えて労働させる場合には、「通常の労働時間の賃金」の25%以上の割増賃金、法定休日に労働させた場合には、「通常の労働時間の賃金」の35%以上の割増賃金の支払いが必要

●通常の労働時間の賃金
=割増賃金の算定基礎賃金=1時間あたりの算定基礎額


《1時間あたりの算定基礎額
=〔基本給+諸手当(※を除く)〕÷1ヵ月の平均所定労働時間》


※家族手当 通勤手当 別居手当 子女教育手当 住宅手当 臨時に支払われた賃金、1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金、

【1ヵ月の平均所定労働時間数】

●年間の所定労働日数が決まっている場合

〔年間所定労働日数×1日の所定労働時間〕÷12ヶ月

●年間の所定労働日数が決まっていない場合

〔(365日―所定休日日数)×1日の所定労働時間〕÷12ヶ月

《ポイント》
★時間外労働は、会社の「命令や承認」により行うものであるということ明記する。

《割増賃金の端数処理》
①1ヵ月における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満の時間数の合計に1時間未満のある場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる。
②1ヵ月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、それ以上を1円に切り上げる。

《賃金の端数処理》
①1ヵ月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げる。
②1ヵ月の賃金支払額に生じた1,000円未満の端数は翌月の賃金支払日に繰り越して支払う。

【事例1】
株式会社サン食品は、本年度は、所定休日が、毎週土曜日と日曜日(104日)、国民の休日と祝日(15日)で、お盆休みが3日、年末年始の休暇(5日)、1日の所定労働時間は8時間である。
Q.
1ヵ月の平均所定労働時間は?

計算方法
{365−(104+15+3+5)}×8時間÷12ヶ月=158.666・・・時間
A.
158時間40分

(注意)
・事業所内での表示を求められる際は、この事例なら上記「158時間40分」を平均所定労働時間として明示すればよい。
・ただし実際の割増賃金計算に際しては、“158時間40分”ではなく、“{365−(104+15+3+5)}×8時間÷12ヶ月”を計算式に算入して用いる。
割増賃金計算に際しては、「労働者の不利にならないようにする」ことが必要です。

【事例2】
田中さんは、食品工場で、時給1,000円で働いてる。現在、新人パートタイマーの教育係として会社からチーフ手当を月に20,000円支給されている。1ヶ月の平均所定労働時間は150時間である。
Q.
田中さんが平日に20時間残業(深夜ではない)した場合、割増の基礎となる賃金の額は?

計算方法
①時給に関しては、そのままの金額が割増賃金の計算の基礎となる賃金になる。
1,000円×1.25=1,250円
②チーフ手当は、月を単位として支給されるから月給と同じように扱う。
20,000円÷150時間×1.25=166.66円
③時給の割増率を掛け合わせた単価とチーフ手当も
1時間あたりの額が田中さんの割増賃金の計算の基礎となる単価になる。
1,250円+166.66円=1416.66円・・・⇒1416円 
1416円×20時間=28320円
A.
28、320円

◆ 3.賃金の減額 ◆



遅刻早退控除や欠勤控除の基準に関しては、労働基準法には規定がないので、明確な控除規定を定めておく必要がある。

(1)遅刻・早退・欠勤控除の計算方法は、割増賃金の計算方法と同じ方法にする。

(2)30分に満たない遅刻や早退の時間を常に切り上げる趣旨の規定は、減給の制裁として取り扱われるので、労働基準法の規制を受ける。


◆ 4.賃金の改定 ◆



(1)「昇給」とせず、「賃金の変更」「賃金の改定」とする。
「ベースアップ」だけでなく「ベースダウン」もあることを記載しておく。

(2)就業規則に賃金の引き下げの規定がない場合には、一方的に賃金を引き下げることはできない。
★賃金の引き下げは「労働条件の不利益変更」になるが、「従業員の同意」が得られれば可能。>★新たに就業規則を作成する場合には、「賃金の引き下げ」の規定も設けておく。

【規定例】
「賃金改定は、会社の業績、経済環境、本人の能力向上等を総合的に勘定し、決定する。」
「会社の業績に著しい低下、その他やむを得ない事由がある場合には、賃金改定の時期を変更し、または賃金改定を行わないことがある。」

◆ 5.休職中の賃金 ◆



(1)休職中の賃金について規定する(一般的には無給が多い)。

(2)休職中の社会保険料の徴収方法を定めておく。(法律上の定めはない)
★雇用保険料は、給料が支払われていない時は、納付義務がない。
★育児休業期間中は、会社も従業員も保険料の負担が免除される。


(3)年次有給休暇を与えた時の賃金は、下記のいずれかによるのかを就業規則に明記しておく。
①所定労働時間働いた時に支払われる通常の賃金
・・・年次有給休暇をとった日を出勤したものとして、賃金計算をする。
②平均賃金
③健康保険の標準報酬日額・・・労使協定が必要

(4)産前産後の休業、母性健康管理のための休暇、育児・介護休業、育児時間、生理休暇、慶弔休暇の期間に係る賃金についても規定しておく。
★有給か無給か規定しておく。慶弔休暇は有給の場合が多いが、それ以外は無給の場合が多い。

◆ 6.賞与 ◆



★賞与の支給は、労働基準法によって義務づけられているものではない。
★支給額や支給方法、支給日、支給対象者などは、原則として会社が自由に定めることができる。

<規定の作り方>
(1) 支給回数、時期

(2)年2回としている会社が多い。
一般的には、支給日を定めない会社が多い。

【規定例】
「支給日はその都度会社が決定する。」

(3)会社の業績により支給しないこともある旨の規定は必要。

【規定例】
「賞与は、会社の業績と従業員の勤務成績に基づいて、原則として毎年、夏期及び冬期に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給しないこともある。」
「賞与は、支給算定期間に在籍し、かつ賞与の支給日に在籍している従業員に支給する。」

(4)支給対象
①賞与は支給算定期間に在籍し、かつ賞与の支給日に在籍している従業員に支給するという「支給日在籍要件」を明記しておく。
②賞与算定期間が6ヶ月以上の勤続している者。6ヶ月未満の者については、少なくとも算定期間の3分の2以上出勤している者。

③算定期間における所定就業日数の3分の2以上出勤した者を対象とする。
賞与は業績報奨的なものであるから。)
【規定例】
「賞与を受けることができる従業員は、支給算定期間中の総所定就業日数の3分の2以上の出勤日数があり、支給日当日に在籍する従業員とする。ただし、出勤日数が不足する者についても、特別に支給することがある。」

④出勤停止以上の懲戒処分を受けた者は支給対象から除外する。
⑤産休や育児休業、介護休業で休んだ日数を欠勤扱いにすることはできないが、減額の対象とすることはできる。
一定の基準を設けるのは構わない。)

(5)算定期間
①算定の始期及び終期を定めておく。

【規定例】
「賞与の算定のための対象とする期間は、夏期については○月○日より○月○日まで及び冬期については○月○日より○月○日までとする。」

◆ 7.退職金 ◆



退職金のトラブルは多いので、制度を定めた場合は支給をめぐるトラブルを防止するために、明確な定めが必要。

(1)退職金制度は法律上の義務ではない。
★退職金制度は法律上の義務ではないが、いったん制度を作ってしまうと、従業員の権利として確定してしまう。

(2)死亡の際の退職金受給権者の範囲と順位を明確にしておくこと。
①配偶者②子③父母④祖父母⑤兄弟姉妹 が一般的。

(3)退職金の減額や不支給の事由をより明確に定めておく。

【規定例】
「懲戒解雇事由に該当する行為があった場合、退職金は支給しない。」
「諭旨解雇のときは、退職金50%の範囲で減額することができる。」

(4)退職金の支給金額の引き下げは、労働条件の不利益変更にあたる。

しかし従業員の同意若しくは合理的な理由があれば可能

(5)適格退職年金制度(適年)から中退共への移行
掛け金の引き下げは、不利益変更にあたるが、従業員の同意若しくは合理的な理由があれば可能。
①適用される従業員の範囲を明確に定めておく。
②勤続年数や退職事由等による退職金の金額決定の要素や、退職金の金額の算定方法、支払の方法等を定めておく。
③退職金の支払日について、いつまでに支払うのかを明らかにしておく。
(注)6ヶ月後でもよい、とされた判例があるが、通常は6ヶ月以内
④退職事由により区別する場合は明記しておく。

【規定例】
「ただし、勤続○年未満の者については退職金を支給しない」(3年未満としている会社が多い。)

(6)中退共(中小企業退職金共済制度)、と特退共(特定退職者共済制度)に加入している会社は、それぞれの制度によって規定が決まっている。

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