人事労務の時事解説(2005年7月号)

人事労務の時事解説 2005年7月号


労働者の疲労蓄積度診断

平成13年12月に脳・心臓疾患(過労死等)の労災認定基準が改正されました。新たに設けられた認定基準では、長期間にわたる疲労の蓄積も脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼすものとして考慮することとなりました。これを受け、従来からの健康確保措置に加え、平成14年2月に「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置等」が策定されました。この措置の概要は、次のとおりです。

@時間外労働の削減(時間外労働を月45時間以下とすること)
A年次有給休暇の取得促進を図ること
B健康管理の徹底

Bでは、事業者が講ずべき措置として、A.月45時間を超える時間外労働をさせた場合は、産業医の助言指導を受けること、B.月100時間または2月ないし6月間の月平均で80時間を超える時間外労働を行わせた場合は、産業医の保健指導を受けさせること、C.過重労働による業務上の疾病を発生させた場合は、再発防止対策を樹立させること、が挙げられています。

さらに厚生労働省では、「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」を作成し、公表しています。このチェックリストでは、仕事による負担度を、「自覚症状」と「勤務の状況」から判定し、点数化します。「最近1月の自覚症状」として用意されているチェック項目は、以下の13個があります。

@イライラする、A不安だ、B落ち着かない、Cゆううつだ、Dよく眠れない、E体の調子が悪い、F物事に集中できない、Gすることに間違いが多い、H仕事中、強い眠気に襲われる、Iやる気が出ない、Jへとへとだ(運動後は除く)、K朝、起きた時、ぐったりした疲れを感じる、L以前と比べて、疲れやすい
これらの該当数を4段階に分けて判定します。

また、「最近1月の勤務の状況」では、@1月間の時間外労働、A不規則な勤務、B出張に伴う負担、C深夜勤務に伴う負担、D休憩・仮眠の時間数及び施設、E仕事についての精神的負担、F仕事についての身体的負担、の7項目があり、これらを自覚症状と同様に4段階で判定します。

なお、仕事以外のライフスタイルに疲労の原因がある場合も多く見受けられます。疲労を蓄積させないために、十分な睡眠や休養を取るなどして、労働者個人が自己防衛を見直すことも必要でしょう。


外国人労働者の適正な雇用

外国人は、出入国管理及び難民認定法(「入管法」)で定められている在留資格の範囲内において、日本国内での活動が認められています。この中で就労の可否に関するものを挙げると、
@在留資格に定められた範囲で就労が認められる在留資格、
A原則として就労が認められない在留資格、
B就労活動に制限がない在留資格、があります。

Aについて、留学・就学および家族滞在の在留資格により外国人がアルバイト等の就労活動を行う場合には、地方入国管理局で資格外活動の許可を受ける必要があります。資格外活動の許可を得れば、「留学」の在留資格により在留する外国人(専ら聴講による研究生および聴講生を除きます)であっても、原則として1週28時間までの就労が可能になります。

なお、外国人の在留資格や在留期間は、外国人登録証明書、旅券(パスポート)面の上陸許可、在留資格変更許可、在留期間更新許可証印または就労資格証明書等により確認できます。

上述の資格外活動許可を受けずに外国人が行う就労活動を「不法就労活動」といい、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます。

日本国内で就労する限り、日本人・外国人を問わず、原則として労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働関係法令の適用があります。労働基準法第3条では、労働条件面での国籍による差別を禁止しています。

外国人労働者についても、法定労働時間の遵守、週休日の確保など適正な労働時間管理を行う必要があり、外国人を雇い入れた際には、日本人と同様に各保険(労災保険・雇用保険、健康保険・厚生年金保険)に加入させなければなりません。また、外国人労働者と労働契約を締結する際には、労働条件を明記した書面を交付してください。

第9次雇用対策基本計画では、専門的、技術的能力のある外国人労働者の受入れをより積極的に推進することとし、いわゆる単純労働者の受入れについては、日本の経済社会等に多大な影響を及ぼすことが予想されること等から十分慎重に対応することが不可欠であるとされました。日系人等を含めて就労する外国人労働者が40万人を超える今、外国人労働者の適正な労働条件の確保が欠かせなくなっています。


労働基準監督署の監督指導

労働基準監督官が事業場に立入調査をすることを「臨検」といいます。労働基準法第101条では、労働基準監督官が事業場等に臨検を行い、帳簿や書類の提出を求め、または使用者や従業員に対して尋問を行う権限をもつことが定められています。

臨検には、@定期監督、A申告監督、B再監督の3種類があります。

@の定期監督とは、労働基準監督署が計画を定め、その定期的な計画に基づく監督です。
Aの申告監督とは、労働基準監督署に対し、従業員等から法令違反の申告があった場合に実施されるものです。
Bの再監督とは、定期監督等のその後の実施状況を確認するためのものです。

最近増加しているのは、Aの申告監督です。

ところで、労働基準法第102条は刑罰法規であり、ここでは労働基準監督官は司法警察官の職務を行うことが定められています。ですから、労働基準監督官の監督指導に従わない悪質な場合は、送検・起訴に及ぶことも可能なのです。

ちなみに、労働安全衛生法関係の臨検は予告なしの抜き打ちが多いのに対し、労働基準法関係は、帳簿の確認や聞き取りが必要なために大抵予告があります。

臨検で問題があった場合は、「是正勧告書」か「指導票」が交付されます。

是正報告書には、法令違反事項と是正期日が記載されており、期日までに是正して、是正報告書を提出しなければなりません。
一方の指導票は、法令違反ではないが労務管理や労働安全衛生法上改善すべき点があると判断された場合に交付されます。これも期日までに報告しなければなりません。

是正監督・指導を無視する場合や虚偽の報告をする場合は、改善の意思がない悪質な事業主と判断されて、送検されることもあります。労働基準監督官の監督・指導は、真摯に受け止めるべきでしょう。


JISQ15001

個人情報保護法が完全施行されてから、個人情報漏洩に関する報道が続いています。去る5月24日には、大手情報通信会社による全社員(1万1835人)の個人情報の紛失が公表されました。

同社によると、4月下旬、社員1人が自宅で作業を続けるため、会社のパソコンから上司の許可を得ずに、社員の所属や役職など約20項目の情報をUSBメモリーにコピーし、持ち帰りました。しかし、帰宅途中にこのUSBメモリーを入れた鞄を紛失してしまったとのことです。同社では、無断で社内情報を持ち出すことを禁じていました。

同社は以前にも、運営する不動産売買の情報サイトの顧客4312人分の個人情報を外部に流出させています。サイト運営を委託した企業の社員が、顧客情報を記録したパソコンを入れた鞄を通勤中の電車の網棚に置き忘れたとのことです。かつて委託企業が犯したミスを、今回は本社の社員が犯したことになります。

個人情報漏洩事件では、悪意・出来心による場合よりも、今回のような不注意やスキル不足、無知による場合が圧倒的に多いと言われています。

個人情報保護に関する第三者認証のわかりやすい仕組みとして、プライバシーマークがあります。プライバシーマーク制度とは、JIS規格のQ15001「個人情報保護に関するコンプライアンス・プログラムの要求事項」に準拠して個人情報の取扱いを適切に行っている民間事業者に対し、プライバシーマークの使用を認める制度です。

JISQ15001の要求事項では、個人情報に関するリスク(個人情報への不正アクセス、個人情報の紛失、破壊、改ざんおよび漏洩など)に対して、合理的な安全対策を講じなければならないとしています。
これは、経済的に実行可能な最良の技術の適用に配慮する必要があるということです。その会社にとって経済的に実行可能な最良の技術とは、客観的に定められているわけではなく、社長がセキュリティレベルを決定しています。

つまり、プライバシーマークを取得していても、一定の基準をクリアしているだけで、漏洩事件を起こす可能性は十分にあるのです。実際に、上述したような漏洩事故が起きています。

今回、個人情報を紛失した大手通信会社では、指紋認証装置を使った入退室管理を実施していました。しかし、たった1人の社員の行動が元となり、会社に対する信頼を失墜させることになってしまったのです。結局は、人の問題ということでしょうか。


特別障害給付金

今年の4月より、国民年金に任意加入していなかったことにより、障害基礎年金等を受給できていなかった障害者に対する福祉的措置として「特別障害給付金制度」が実施されています。

特別給付金制度の概要

●支給対象となる方

・平成3年3月以前に国民年金任意加入対象であった学生
・昭和61年3月以前に国民年金任意加入対象者であった被用者等の配偶者で、任意加入していなかった期間内に初診日があり、現在障害基礎年金の1級・2級相当の障害状態にある方が対象となります。ただし、65歳に達する日の前日までに当該障害状態に該当された方に限られます。
※障害基礎年金・障害厚生年金・障害共済年金などを受給できる方は対象外です
※給付金を受けるためには社会保険事務局での認定が必要です。

●支給額

・障害基礎年金1級相当に該当する方:月額5万円
・障害基礎年金2級相当に該当する方:月額4万円
※支給額は、毎年度の物価変動に応じて改定されます。
※本人の所得が一定額以上のときは、支給が全額または半額に制限される場合があります。
※認定を受けた後、請求月の翌月分から支給され、支払いは年6回(偶数月)です。

●請求手続

原則65歳に達する日の前日までに請求する必要がありますが、今年の4月1日現在で65歳を超えている方でも平成22年3月31日までの間であれば請求を行うことができます。
請求の窓口は住所地の市区役所、町村役場ですが、審査・認定・支給事務は社会保険事務局が行います。


職場における禁煙対策

職場における喫煙対策の取り組み状況の調査結果が発表されました。
喫煙対策に何らかの取り組みを行っている事業場は約8割に上りますが、受動喫煙を確実に防止する対策としては不十分であり、喫煙室設置のスペースがない、社内合意が得られないといった理由で対策の取り組みが遅れている事業場が多いことがわかりました。

職場における喫煙対策については、平成15年5月から施行された健康増進法において、事務所等多数の者が利用する施設の管理者を対象として、受動喫煙防止対策を講ずることが努力義務化され、同年同月、職場における喫煙対策のための新ガイドラインが公表されています。

◆健康増進法(抜粋)

第25条:学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。

◆新ガイドラインの概要

・設備対策について:受動喫煙を確実に防止する観点から、非喫煙場所にたばこの煙が漏れない禁煙室の設置を推奨し、やむを得ない場合に開口面を可能な限り小さくした喫煙コーナーを設置する。

喫煙対策機器について:喫煙室等に設置する有効な喫煙対策機器としては、たばこの煙が拡散する前に吸引して屋外に排出する方式の喫煙対策を推奨する。やむを得ない措置として、空気清浄装置を設置する場合には、空気清浄装置はガス状成分を除去できないという問題点があることから、換気に特段の配慮をする。


個別労働紛争処理制度の利用が増加

個別労働紛争解決制度は、平成13年10月施行から約3年半を経過しましたが、制度の利用が着実に増加しています。

◆相談受付状況

労働に関するあらゆる相談にワンストップで対応するための総合労働相談コーナー(全国で約300ヵ所)に平成16年度に寄せられた相談は82万件超で、そのうち解雇、労働条件の引き下げ等、民事上の個別労働紛争に関するものが16万件を超えています。

また、民事上の個別労働紛争に係る相談内容の内訳は、解雇に関するものが最も多く27.11%、労働条件の引き下げが16.0%、いじめ・嫌がらせが8.1%となっています。

◆都道府県労働局長による助言・指導

助言・指導の申出の主な内容は、解雇に関するものが31.3%、労働条件の引き下げが14.7%、いじめ・嫌がらせが7.41%となっており、申出された方は、労働者が95.1%と大半ですが、事業主からの申出もあります。(4.9%)

就労状況は正社員が61.3%と最も多く、ついでパート・アルバイトの19.9%、派遣・契約社員も12.5%を占めています。

事業所の規模は、10〜49人が31.9%と最も多く、ついで10人未満24.0%、100〜299人が13.1%となっています。

◆紛争調整委員会によるあっせん

あっせん申請の主な内容は、解雇に関するものが40.5%、労働条件の引き下げが13.0%、いじめ・嫌がらせが8.1%と続いています。

申請された方は、労働者が98.1%、事業主からの申請が1.9%、また労使双方からの申請もありました。(0.1%)

就労状況は正社員が62.8%、パート・アルバイトが19.1%、派遣・契約社員が13.0%を占めています。事業所の規模は、10〜49人が34.4%と最も多く、ついで10人未満が21.8%、50〜99人が10.7%となっています。