人事労務の時事解説(2005年8月号)

人事労務の時事解説 2005年8月号


公的年金と税金

平成16年度の税制改正によって、公的年金等の源泉所得税について次のような改正がされました。この改正は平成17年から受け取る公的年金等から適用され、これまでと年金額が同じでも所得税が増額される場合があります。

◆主な改正点

○所得者本人が65歳以上で、かつ、合計所得金額が1000万円以下である場合に適用されていた老年者控除(50万円)が廃止されました。

○65歳以上の人に対する公的年金等控除が縮小され、源泉徴収を要しない公的年金等の収入限度額が引き下げられました。

○公的年金等の支払いの際に源泉徴収される税額の計算において、その支給額から控除される控除額(基礎的控除額および人的控除額)が一部引き下げられました。

◆公的年金からの源泉徴収のしくみ

公的年金等の収入金額から一定の控除額を差し引いた額に10%をかけた税額が源泉徴収されます。

このとき控除されるのは公的年金等控除、基礎控除、配偶者控除などの一部のみです。社会保険料、生命保険料や医療費控除は実際に支払った額を控除するため年末にならないと控除額が確定しません。

<公的年金収入−(公的年金等控除+各種所得控除)=課税所得>

◆税額の精算方法

社会保険料控除や公的年金等控除などの各種控除額の合計額が年金額を上回る場合、課税所得は発生しません。

ただ、公的年金等の所得はサラリーマンのように年末調整の対象になっていませんので源泉徴収された税額との差額は確定申告をして精算することになります。


女性の坑内労働 解禁へ

トンネル工事などの坑内労働は長い間、女性による労働が禁じられてきましたが、これが 解禁される見通しとなりました。早ければ来春の通常国会に労働基準法の改正案が提出され、2007年度からの施行が見込まれています。

◆坑内労働の禁止

1947年に制定された労働基準法は64条2項で女性をトンネルや鉱山など地下にある工事現場で働かせることを禁止しています。当時は石炭産業の全盛時代で多くの女性が炭鉱などで働いていました。当時の炭鉱は劣悪な労働環境なところが多かったので、母体を保護する必要がありこのような規制が設けられました。

また、「女性が坑内に入ると山の神が怒る」という迷信もあり、この規定は広く定着してきました。
その後、男女雇用機会均等法の施行に伴って医師や看護師の業務・メディアの取材など「臨時の必要のため行われる業務」については例外として入坑が認められましたが、今でも労働のための入坑は禁止されています。

◆女性労働者の進出

男女雇用機会均等法が施行されて20年目となり、女性が様々な分野で活躍し、これまで女性労働者があまりいなかった技術系の職場にも進出しています。しかし、女性の坑内労働禁止の規制があるために、女性技術者がトンネルや地下鉄工事に従事できず、現場経験を積むことができないなどの支障があり、均等法の精神に反するとして労働基準法改正を求める要望が日本経団連や東京都から出されていました。

◆労働基準法改正へ

専門家会合の報告書では、技術の進歩で坑内の温度管理や粉塵対策が進み、労働環境が改善されたため、「女性の就業を一律に排除しなければならない事情は乏しくなってきている」として女性の坑内労働の解禁を求めています。

今後は解禁する労働者を技術者に限るのか一般の労働者も含むのかや、対象をトンネル、地下鉄などの範囲まで広げるのかなどを議論して、早ければ2007年度から改正法が施行される見込みです。


男性の育児参加促進に助成金創設

日本で1人の女性が生涯に産む子供の数は「1.29」と過去最低を更新しています。現在の人口を維持するためには2.07人程度が必要ですが、経済的な負担が大きいことや仕事と育児の両立が難しいなどの理由から出生率の低下が続いています。

女性が仕事を続けながら子供を産み育てやすい環境を作るための方策として、厚生労働省は「男性の育児休業取得率10%」という目標を今年4月に打ち出しましたが、実際の男性の育児休業取得率は0.44%とかなり低い数字となっています。

このようなことから、男性労働者の育児参加を促すため新たに(平成17年4月から)「男性労働者育児参加促進給付金」が創設されました。

◆男性労働者育児参加促進給付金とは

一定の要件(@〜C)をすべて満たすと認められ、指定を受けた事業主が、指定日後に男性の育児参加を促進するための措置(ア〜エ)をすべて講じた場合に1年につき50万円、最大2年間支給されます。

◆事業主の要件

@男性の育児休業の取得促進など、男性が育児に参加しやすい職場環境の整備に取り組んでいること
A当該指定を受ける前にその雇用する男性被保険者のうちで育児休業をしたものがいないこと
B一般事業主行動計画を策定し、厚生労働大臣にその旨を届け出ていること
C職業家庭両立推進者を選任していること

◆実施すべき措置

ア)男性が育児に参加しやすい職場環境の整備に取り組む事業主である旨の公表
イ)男性の育児休業の取得の促進等に関する課題の把握
ウ)事業主を代表する者と被保険者を代表する者を構成員とする男性の育児休業の取得の促進等を効果的に実施することについての検討を行うための委員会の設置
エ)男性の育児休業の取得の促進等を効果的に実施するための計画の策定およびその計画の実施


服装の自由はどこまでOK?

今年の夏は、地球温暖化を防止するため、環境省から「クールビズ」が提案され、ノーネクタイ・ノー上着のファッションで夏を快適に過ごそうという試みがなされています。

会社にとって顧客や取引先に与えるイメージは重要ですので、「企業が服装や身だしなみについて合理的な規則を定めた場合、社員はこれに従う義務を負う」という判例があり、会社が勤務中の服装や身だしなみについてある程度管理することは妥当といえます。

社員は職務に支障のない範囲で髪の色や形・服装などの身だしなみを自由にできる権利があるといえますが、行き過ぎた服装や身だしなみによって会社が損害をこうむる恐れのある場合、業務命令として制裁を受ける場合があります。

◆身だしなみを規制するポイント

社員の身だしなみや服装を規制する場合、まず就業規則に規定することが前提となります。その上で採用時の説明や社内教育、朝礼等で日ごろから会社の方針を社員に浸透させることが重要です。
それらが行われていれば、業務に具体的な悪影響がある場合、会社が身なりや服装を制限する合理的な理由が確立することになり、業務命令として改善を促す根拠となります。

ただ、規則に反し改善支持に従わない社員を解雇できるかというと難しく、顧客や取引先からクレームが相次ぐなどの悪影響が生じない限りは「会社の品位やイメージを損ねる」といったあいまいな言い分での解雇は通用しません。

◆服装をめぐる主な裁判事例

過去の判例では「業務に具体的な実害があるかどうか」がポイントとなっています。
1980年、ハイヤーの運転手が口ひげを理由に乗務を外されたケースでは「乗客からの苦情はなく口ひげを生やしていても、業務に支障はなく口ひげをそる義務はない」と判断が下されました。

また、1997年茶髪を理由に男性社員が解雇された運送会社の事例でも「営業に具体的な悪影響を及ぼした証拠はない」として解雇は無効となっています。


新連携

我が国経済社会を巡る劇的な構造変化として、
@グローバリゼーションの進展と市場競争の激化、
A先端分野における目覚しい技術革新、
B少子高齢化と人口減少、
C環境・医療・福祉分野など社会的要請の多様化と需要の増大があります。

それぞれには、市場環境に応じた柔軟な連携が要請されています。なぜなら、
@ビジネス時間軸の短縮化とスピード化の必要性、
A非系列化と「機能発注」の増大、
B技術・ノウハウの問い合わせによる高付加価値の実現・多様な需要への対応、
C自らの「強み」「得意分野」への特化、
D投資におけるリスク最小化、が必要だからです。

中小企業者が他社と連携し、相互に経営資源を補完して高い付加価値を実現するために中小企業新事業活動促進法は「新連携」を支援しています。

従来の新事業創出促進法・中小企業創造法・中小企業経営革新支援法は、「創業・経営革新・新連携」を柱とする中小企業新事業活動促進法に統合されました。既存予算の整理・重点化により、新法関連として創業・経営革新支援に約31億円、新連携支援に約46億円、地域プラットフォーム支援に約32億円が投じられます。

中小企業金融等の円滑化・充実策として

@政府系金融機関による担保・保証人に依存しない融資の推進、
A創業・経営革新・新連携への資金供給の円滑化、
B中小機構による高度化融資、
C投資育成株式会社の特例があります。

関連税制の整備・拡充等としては

創業には@設備投資減税、Aエンジェル税制、B留保金課税の特例措置が、
経営革新には@設備投資減税の拡充、A留保金課税の特例措置の創設が、
新連携には設備投資減税の新設が、
環境整備には事業所税の特例措置等が、あります。

また、新連携認定手続として新連携支援地域戦略会議事務局では申請書の書き方、ビジネスプランの作成の仕方等をアドバイスしています。新連携支援地域戦略会議事務局は国の地方機関および支援機関と連携をとっているので、希望する支援策(新連携対策補助金・新連携融資・信用保証の特例・設備投資減税・投資育成株式会社による支援・特許料減免措置・高度化融資)の相談を受けることができます。認定後は、新連携支援地域戦略会議の個別支援チームによる、事業化・市場化まで手厚いフォローアップを受けることができます。

新連携支援地域戦略会議事務局では、地域を代表する企業、金融機関、大学等の学識経験者など地域経済に影響力のあるメンバーが、新連携案件についてビジネスプランのブラッシュアップから案件の選定、責任あるフォローアップまで応援します。

新連携により、@市場認知度の向上により需要拡大、A新たな提携希望企業や資金供給企業・与信提供金融機関の登場促進が可能となります。


心の健康づくり

労働契約の締結により、労働者は業務を行い、事業者は賃金を支払う義務と安全配慮義務が発生します。安全配慮義務は、事業者が労働者に負っている労働契約上の債務で、事業者が労働者に対し、事業遂行のために設置すべき場所、施設もしくは設備などの施設管理または労務の管理にあたって、労働者の生命および健康などを危険から保護するよう配慮すべき義務であり、1975年に最高裁の判決で確定しました。

このときの安全配慮義務は、民法第709条(注意義務違反)と民法第415条(債務不履行)を根拠として、業務に直接起因する健康障害を起こさないことに限定されていました。しかし、2000年に最高裁は、民法第715条(使用者責任)を根拠として、使用者に業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負わせるために、安全配慮義務の範囲を拡大しました。

また、労働安全衛生法も改正され、事業者には、健康診断で異常の所見があると判断された者について、産業医もしくはそれにかかわる医師に就業上の措置に関する意見を聞き、必要な措置をとることが義務付けられました(労働安全衛生法第66条の4、第66条の5)。事業者は、民事上の責任だけでなく、刑事上の責任も負わされるようになりました。

また、旧労働省の労働基準局長通達「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平成11年9月14日、基発第544号、545号)により、一定の要件を満たせば、精神障害等も労災保険の対象とされるようになり、その結果、業務上と判断されるメンタルヘルス不全、自殺が急増しました。

事業者は、旧労働省の「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」(平成12年)を参考にして、4つのケア(セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア)による体制を整えて、労働者の心の健康づくりに取り組むべきでしょう。


社員に比べ手薄な個人事業主の社会保険制度

民間企業の正社員などの一般職域で働いているいわゆるサラリーマンと個人事業主とでは、生活上の様々なリスクに対する公的な保障制度が大きく異なります。脱サラをして自ら起業をするということは、自由の代償として、労働者としての保護や恩典を手放すことでもあるのです。

サラリーマンの保険制度は、健康保険・厚生年金保険・介護保険(40歳以上のみ対象)・雇用保険・労災保険です。これに対して、個人事業主は、基本的に国民健康保険・国民年金・介護保険しか加入できません。雇用保険・労災保険には加入できません。個人事業主の社会保険は、社員に比べてかなり手薄なものになっています。

まず、病気やけがにより収入が途絶えた場合です。サラリーマンであれば、業務中や通勤途上の場合は、治るまでの間ずっと労災保険の休業(補償)給付(または傷病(補償)年金)が支給されます。私傷病の場合も、1年6月間健康保険の傷病手当金が支給され、その後は一定の要件を満たせば一生厚生年金保険から障害厚生年金が支給されます。しかし、個人事業主には社会保険からの所得保障はありません。障害等級の1級から2級に該当した時に、国民年金の障害基礎年金が支給されるだけです。

したがって、個人事業主が病気で無収入になっても何の保障もありません。

次に、働き手の万一の場合に遺族に支払われる生活保障です。個人事業主は社員に比べて、支給要件がかなり厳しくなっています。

個人事業主の遺族基礎年金が支給される遺族の範囲は、死亡の当時生計を維持されていた@18歳までの子、A18歳までの子と生計を同じくしていた妻だけです。
つまり、子のない妻や夫には、遺族基礎年金は支給されないのです。さらに、生計を維持されていたかどうかは、生計を同じくしており、かつ、年収850万円以上の収入を将来にわたって得ることができるかどうかにより判断されます。
個人事業主の多くは、中高年齢になれば遺族補償は受給できません。

社員の遺族厚生年金が支給される遺族の範囲は、死亡の当時生計を維持されていた@妻、A18歳までの子、B55歳以上の夫、父母又は祖父母となっています。

このように、個人事業主とサラリーマンとでは社会保険に大きな差があるのです。


労働基準監督署の臨検に必要なもの

労働基準監督官が事業場に立入調査をすることを「臨検」といいます。
臨検には、@労期監督・A申告監督・B再監督の3種類があります。

労働安全衛生法関係の臨検は予告なしの抜き打ちが多く、労働基準法の関係は帳簿の確認や聞き取りが必要なので、大抵は予告があります。

では、労働基準法関係では、どのような書類の確認が行われるでしょうか。以下は、実際の臨検で提出が求められたものです。できれば、今からでも整備しておくことをお勧めします。

@ 就業規則(別規程もすべて)
A 時間外休日労働に関する協定届(控)
B 時間外休日労働に関する協定書(写)
C Bのほか労働基準法に関する協定書(写)、協定届(控)
D 労働時間管理の為に作成している書類(賃金台帳と突合せができるもの)
E 賃金台帳(直近3箇月分)
F 年次有給休暇管理台帳
G 衛生委員会の議事録
H 衛生管理体制(衛生管理者・産業医等)に関する選任報告書(控)
I 健康診断の個人票
J 健康診断結果報告書(控)
K 労働条件の明示の為、採用時に労働者に交付しているもの(労働条件通知書等の)サンプル
L 会社の概要のわかるもの(パンフレット等)
M 会社の組織図