人事労務の時事解説(2005年11月号)

人事労務の時事解説 2005年11月号


管理職になって収入減?

景気に明るさが出てリストラも一段落したといわれていますが、企業はコスト抑制の手綱をゆるめる気配はないようです。最近では、管理職になって役職手当がつくようになった代わりに残業手当がなくなり、結果的に収入が大幅に減ってしまったというケースがあります。仕事の中身はほとんど変わっていないにもかかわらず、人件費圧縮を狙った昇格人事により会社と社員の紛争に発展する例があります。

◆法律上の管理監督者とは

労働基準法では労働時間や休憩、休日について一定の条件を設けることによって、労働者を保護していますが、いわゆる管理職は「管理監督者」として規制の適用外となっています。しかし、仮に会社が管理職と位置付けていても次のような要件を満たしていなければ、法律上の「管理監督者」とはならず、会社は残業や休日出勤には割増賃金を支払わなければなりません。

@業務上の指揮命令権や相当程度の人事権がある
A労働時間の厳格な拘束を受けない
B管理監督者にふさわしい処遇を受けている

◆実際に裁判で争われた例

実際に残業手当の支給対象であるかどうかが争われた裁判では、どういう肩書きかではなく、実態がどうであるかで判断されました。

ファミリーレストランの店長が社員6、7人を統制し、ウエイターの採用にも一部関与し、材料の仕入や、売上金の管理等をまかせられ、店長手当として月額2、3万円を受けていたとしても、営業時間である午前11時から午後10時までは完全に拘束されて出退勤の自由はなく、仕事の内容はコック、ウエイター、レジ係、掃除等の全般に及んでおり、ウエイターの労働条件も最終的には会社で決定しているので「管理監督者」にはあたらないとした例があります。

また、銀行によって事情が違うため一般化はできませんが、支店長代理が、規定の就業時間に拘束されて、部下の人事やその考課には関与しておらず、経営者と一体となって銀行経営を左右するような仕事に全く携わっていないとして「管理監督者」には該当しないと裁判所が判断した例があります。


民間の3割に派遣労働者

昨年3月から改正労働者派遣法が施行されていますが、厚生労働省の実態調査で、派遣労働者を使う民間企業が一段と増え、全体の3割を超えたことがわかりました。派遣受入期間の延長や製造現場への派遣解禁などの規制緩和が歓迎されたとみられますが、派遣労働者の5人に1人が賃金や業務内容について派遣元や派遣先に苦情を申し出ていたことも明らかになりました。

◆増える派遣労働者

調査は昨年9月から10月に社員数30以上の民間事業所(約1万4000)と派遣労働者(約2万5000人)を無作為抽出して実施し、それぞれ約6割から回答を得ました。

調査結果によると、派遣労働者がいる事業所は全体の31.5%あり、2003年より10%以上増えています。事業所のうち47.8%が1年前に比べて「派遣労働者が増加した」と答え、「減少した」と答えたのは16.5%にとどまりました。

社員数が多い事業所ほど派遣労働者がいる割合が高く、社員数500以上の事業所は全体の約8割にいました。

企業側が派遣労働者を使う理由は、「欠員補充など必要な人員を迅速に確保できるため」が74.0%で最も多く、次に「一時的な業務量の変動に対応するため」が50.1%で、景気変動に応じて派遣労働者の雇用量を調節しているようです。

◆派遣労働者の苦情・要望

派遣労働者本人に対する調査では、全体の22.9%が過去1年間に人材派遣会社や派遣先企業に「苦情を申し出たことがある」と答えています。その内容は「賃金」についてが28.0%と最も多く、次いで「業務内容」が21.9%、「就業時間や時間外労働、休憩時間、休暇」などが14.7%、「人間関係、いじめ」が13.5%ありました。

また、66.4%が人材派遣会社に要望があるとしており、「賃金制度を改善してほしい」、「継続した仕事を確保してほしい」「福利厚生制度を充実してほしい」などの回答が多かったようです。

厚生労働省は、この調査結果を今後の派遣労働者の職場環境改善策に活かしていく考えのようです。


最低賃金法に問題あり?

労働者の生活安定を目指す法律に「最低賃金法」がありますが、法で定めた水準を下回る賃金しか支給しない企業が中小を中心に後を絶たず、うまく機能していないようです。労働政策審議会で見直しの議論が始まりましたが、賃金体系が以前と大きく変わってきている事情もあって有効な法律にできるかどうかは未知数のようです。

◆最低賃金法とは

最低賃金法は、労働者に最低限の賃金を保障するほか、企業間の公正な競争を促す狙いで1959年に制定され、地域や業種ごとに最低賃金額が決められています。違反企業には罰金を科す決まりとなっていますが、実際には罰則が適用されるまでには至らず、厚生労働省は最低賃金法違反の告訴状況を公表していないため、罰則規定による抑止効果はほとんど機能していないようです。

◆違反の背景は

多くの企業でこれまでの労働時間を基準とした賃金体系から、実績に見合った給与を払う成果主義賃金へと変わってきていることも違反を助長する結果となっているようです。成果主義は優秀な実績をあげた社員の努力に報い、さらに意欲を引き出すための賃金制度ですが、成果が出ないと収入は大幅に減ってしまいます。また、「成果」の度合いは会社が判定するため、労働時間のようにわかりやすい客観的基準を定めにくい場合もあります。

◆水準自体に問題も

そもそも法で定める最低賃金の水準そのものに異論がでています。身体的な事情などで働けない人々に対して一定の条件の下で国が文化的な最低限の生活を保障する生活保護の仕組みがありますが、最低賃金の額は都市部を中心にその生活保護の支給額を下回っています。

欧州諸国の最低賃金は労働者の平均賃金の50%以上に設定されているのが一般的ですが、日本の最低賃金は労働者の平均賃金の3割強にとどまっているのが実態です。

今年6月から労働政策審議会の最低賃金部会で制度の抜本的見直しの作業が始まりましたが、最低賃金制度が労働者の生活を支えるセーフティネットであるならば、違反の取締り強化は大前提で、現実に即した内容に改める必要があるでしょう。


年金書類、事前送付サービス始まる

社会保険庁は10月から、厚生年金や国民年金の加入者が年金を受け取る年齢になる直前に年金の請求書類を送付するサービスを始めました。これまでは加入者が自分で気をつけて請求手続に出向く必要があり、不親切との批判が強かったので、従来に比べると利便性は大きく向上するでしょう。

◆60歳から年金を受けることができる人が対象

年金の裁定請求書類は一定の加入期間を満たし、60歳から厚生年金を受け取ることができる人を対象に加入者が60歳になる3ヵ月前に郵送します。書類にはあらかじめ氏名や基礎年金番号、過去の加入履歴などが印刷されており、加入者は説明書に沿って必要事項を記入し、社会保険事務所に持参すれば年金の請求手続ができます。受け付けは60歳の誕生日の前日からです。

◆60歳から受け取れない人には

60歳からは年金を受け取れない人や加入期間が足りない人には、60歳になる3ヵ月前に年金請求の手続きや年金加入期間などを記載した案内はがきを送付します。共済年金に加入していた期間などは、共済組合等から社会保険庁に情報提供されていない場合があり、加入期間として合算されていないこともあるので注意が必要です。

また、共済組合の期間しかない人には、65歳前に各共済組合から年金の裁定請求書が送付されるため社会保険庁からは事前送付は行いません。

65歳から国民年金だけを受け取る人や、年金を受け取る権利があり、まだ請求し忘れている人に対しては65歳の誕生日の3ヵ月前に書類を送付するサービスも同時に始めました。


私傷病休職制度

私傷病休職制度は、多くの会社で以前から実施されていますが、近年では成人病や心の病など慢性的な疾患を抱える労働者が増加し、これまでの制度では対応できないケースが増えています。特に問題となるのは出勤と欠勤を繰り返すケースや、休職して職場復帰した後、短期間で同一の傷病で欠勤するケースですが、このような事例に対応できる私傷病休職規程にしておくとよいでしょう。

◆私傷病休職制度とは

私傷病休職制度は、社員が病気やけがによって一時的に働けなくなった場合に直ちに解雇するのではなく、一定期間休職させることによって健康を取り戻し、再び就労するチャンスを与えることを目的とする制度です。

この制度は法令で義務付けられているものではなく、会社が任意に実施する制度なので、制度を実施するかどうか、実施する場合に休職期間をどの程度にするか、休職期間中に賃金を支払うかどうかなど制度の内容は労使の取り決めによって決めることになります。

ただし、制度として実施した後は、労働契約上の労働条件となるため、会社が恣意的に運用することはできません。

◆規程に定めておくとよい例

休職発令前の欠勤期間(欠勤許容期間)については欠勤が連続して発生したことを休職発令の条件として定めるケースが多いですが、欠勤と出勤を繰り返し、同一傷病による欠勤日が連続しない場合もあるので、同一傷病による欠勤期間を通算してカウントする制度とするのがよいでしょう。

私傷病制度を適用する場合には、社員に対し医師の診断書の提出を義務付けるのが一般的ですが、診断書を提出しないケースもあります。私傷病によって一定期間以上欠勤する場合および休職の適用を受ける場合に医師の診断書の提出を義務付ける旨を規程に定め、診断書を提出しない場合の取扱いも規程に定めるとよいでしょう。

休職期間満了までに傷病が回復し、職場復帰が可能な場合、会社は職場復帰を認めなければなりませんが、短期間の休職と復職を繰り返す場合の対策として、規程に一定期間内に生じた同一傷病による休職期間は通算し、2回目以降の休職には欠勤許容期間を適用しないで直ちに休職を発令できる旨を定めておくとよいでしょう。


建設事業主間で労働者派遣可能に

建設業務に従事する労働者の雇用の安定・維持を図るため、改正建設雇用改善法が10月から施行されています。改正の主な点は建設業務に従事する労働者を対象とした就業機会確保事業と有料職業紹介制度の創設の2点です。

◆就業機会確保事業とは

建設業務は、労働者派遣法によって労働者派遣の対象外となっているため、派遣業者が労働者を派遣することも派遣業者から労働者を受け入れることもできません。

就業機会確保事業は建設業を営む事業主が一時的に余剰となった建設業務に従事する常用労働者を他の建設業の事業主の下に派遣することによって、その雇用の安定・維持を図るものです。

◆就業機会確保事業の4つの条件

@送り出し事業主と受け入れ事業主の双方が同一の建設業の事業主団体の構成員であること
Aその事業団体が実施計画を作成し、厚生労働大臣の認定を受けていること
BAの実施計画で示した送り出し事業主と受け入れ事業主の組み合わせの範囲でしか建設業務労働者の送り出し・受け入れができないこと
C常用雇用労働者の一時的な余剰が生じた場合に、余剰となる労働者の雇用の安定・維持を図るために行われるものであること

◆禁止・制約される点

就業機会確保事業は、一時的に余剰となる労働者の送り出し・受け入れを認めることで雇用の安定・維持を図ろうとするため、送り出し事業主が講ずべき指針により送り出すことのできる労働者の総数や送り出せる期間についての制約があります。

具体的には、送り出し事業主が送り出しを目的に労働者を雇い入れることや退職予定者を送り出しの対象とすることを禁止しています。

また、一事業年度において送り出す労働者の数は、自ら請け負った建設工事に従事させた延べ労働者の5割を超えてはならず、送り出し先で就業する日数についても、その労働者の所定労働日数の5割を超えないとの条件があります。


多様な生き方、働き方に対応した社会保険制度の導入

少子高齢化に対応するために、在職中の老齢厚生年金の見直しと次世代育成支援措置が導入されています。

高齢者のためには、まず、60歳代前半の者の就労を抑制しない仕組みとする観点から、在職中に特別支給の老齢厚生年金を一律2割支給停止する従来の仕組みを廃止しました(17年4月施行)。

また、70歳以上の被用者が受給する老齢厚生年金について、60歳代後半の被用者と同様、賃金と老齢厚生年金の合計額が現役男子被保険者の平均的賃金を上回る場合に老齢厚生年金の全部または一部の支給停止を行う仕組みを導入します(19年4月施行)。

さらに、受給開始年齢について受給者の選択の幅を広げるため、老齢厚生年金について繰下げ制度を導入します(19年4月施行)。

次に、次世代育成支援措置の拡充です。旧制度においては、育児休業を取得した厚生年金被保険者について、子が1歳に達するまで保険料を免除し、給付算定上、育児休業取得直前の標準報酬月額で保険料納付が行われたものとして取り扱っていました。

これについて、年金制度における次世代育成支援措置を拡充する観点から、
@子が3歳に達するまでの育児休業期間について、保険料免除措置の対象とする。
A子が3歳に達するまでの間、勤務時間短縮等により標準報酬月額が低下した場合、子の養育開始前の標準報酬月額で年金額を算定することとしました(17年4月施行)。

また、パートタイマーへの厚生年金の適用の在り方については、就業形態の多様化の進展を踏まえ、被用者としての年金保障を充実させる観点等から、社会経済の状況、パートタイマーが多く就業する企業への影響等に配慮しつつ、企業および被用者の雇用形態の選択にできる限り中立的な仕組みとなるよう、改正法の施行後5年を目途として総合的に検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講ずることとしています。


求人セット型訓練

独立行政法人雇用・能力開発機構が、採用コストを抑えて適材適所の雇用を実現するために「求人セット型訓練」を行っています。

求人セット型訓練とは、履歴書や面接ではわからないその人の適性や能力を見極めるため、職場実習(公共職業訓練として実施)を行った後に採用する制度です。

求人セット型訓練のポイントは、
@賃金等の支払いは不要、A訓練委託費をお支払い、B事業所の保険料負担なし、です。

@賃金の支払いは不要とは、訓練生へは失業給付の基本手当に加え、受講手当、事業所までの通所手当が支給される場合があるということです。

A訓練委託費をお支払いとは、職場実習を行う企業に対して、訓練生一人当たり月額25,305円(税込)をお支払いするということです。

B事業所の保険料負担なしとは、訓練生は、万が一の事故に備えて、労働者災害補償保険に加入(雇用・能力開発機構負担)しているということです。

求人セット型訓練を利用するには
@人材を求める事業所が採用に先立ち、人材ニーズに応じた職業訓練コースを設定、
Aハローワークを通じて応募する求職者を選考、
B事業所内で標準3ヵ月の職場実習を実施、
C訓練修了後採否を決定と、いう手続きを経る必要があります。

これまで、製造業では、プラスティック成形金型製作・機械設計・バッグデザイン企画・CAD製図・鋼板切断加工、情報通信業ではプログラマー・デジタル機器設計・WEBデザイナー・ソフトウェア開発・モバイル機器設計、サービス業ではインテリアデザイン・企画開発デザイン、その他では経理実務などで実績があります。

一度ご活用を検討してみてはいかがでしょうか?