人事労務の時事解説(2005年12月号)

人事労務の時事解説 2005年12月号


受動喫煙で病気になったら?

2003年5月に健康増進法が施行され、事務所、公共施設、飲食店などの管理者に受動喫煙の防止対策が義務付けられています。ある製薬会社の今春の調査によると、上場企業の96.5%が何らかの対策をとっているとの結果で以前に比べ被害防止の取り組みは大きく前進しています。

もし職場での受動喫煙で健康を害した場合、会社に補償を求めることはできるのでしょうか。

◆職場での対策は

健康増進法での対策には職場を全面禁煙か分煙にするなどの方法がありますが、これらの対策は努力義務で、違反した場合にも罰則はありません。仮に会社が対策をとっていても、社員に徹底されていないケースも多いでしょう。上司に「たばこを吸っていいか」と聞かれた場合、非喫煙者の6割が断れないという調査もあり、こうした事態を「スモハラ」と呼ぶこともあります。

たばこ関連では1980年以降、職場やJTなどを相手に20件以上が裁判で争われましたが、原告の勝訴は1件だけで、通常はたばこと病状の因果関係が十分解明されていないとして、棄却されることが多いです。

◆最近の主な判例

最近では、2004年東京都江戸川区の職員が受動喫煙によって喉頭炎を患ったとして、医療費と慰謝料の合計31万5650円の請求に対し、区から5万円の慰謝料を勝ち取った判例があります。
2003年に京都簡易保険事務センター職員らが受動喫煙によって230万円の損害賠償と同センターの全面禁煙要求をした裁判では、原告の要求が棄却されています。
また、2004年にはJR西日本社員の乗務員詰め所などの禁煙化と計1100万円の損害賠償請求が棄却されています。

ただ、今後は状況が変わる可能性もあります。煙害に悩むなら、まず部署の責任者に相談し、それで改善されない場合は因果関係の証明義務がそれほど厳しくない裁判所の仮処分で分煙を求めることもできます。


育児休業後、元の職場に戻ることはできる?

2002年の育児・介護休業法の改正で、育児休業を理由とする解雇や不利益な取扱いが禁止されています。育児休業を終え職場復帰する際、休業前の業務に代替要員が就いていることを理由に異動を言い渡された場合、元の職場に戻ることはできるのでしょうか。

◆不利益な取扱いの例

厚生労働省の指針では、不利益な取扱いの例として減給、降格、そして本人に不利益となる配置変更をあげ、禁止しています。つまり、本人の意思に反した配置変更はすべきではないのですが、実際には育児休業後の配置変更を巡るトラブルは多いようです。

1年以上空席となるポストに会社が代替要員を置くのは当然ですし、配置変更についても裁判所は会社に広く人事権を認めているので現実に辞令を覆すのは難しいようです。

◆不利益な配置変更として争える場合

不利益な配置変更として争える場合として、厚生労働省の指針には「通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務または就業場所の変更を行うことで、労働者に相当程度経済的または精神的な不利益を生じさせること」とあります。

経済的・精神的不利益について、労働環境がまったく変化しないことは考えにくいので、問題は変化が通常甘受すべき程度を超えているかどうかがポイントとなります。

過去の判例では、子供を保育所に預けて働いている女性の転勤について、片道2時間弱の通勤によって保育に支障が生じることは認めながら、転居することで解決できるので転勤命令は有効という判断を2000年に最高裁が下しています。

ただ、不利益な異動に相当するかどうかの基準は、まだ確立されていません。


ねんきんダイヤルが始まりました

社会保険庁は平成17年10月31日から、年金相談の充実を図るため「ねんきんダイヤル」というサービスを始めました。社会保険庁はこれまで全国23か所の年金相談センターと社会保険業務センター中央年金相談室で年金に関する電話相談を受けてきましたが、拠点ごとの電話番号を全国共通の電話番号に集約し、ネットワーク化によって効率化を図るようです。

○年金請求などの年金相談
 0570−05−1165 イイロウゴ
○すでに年金を受け取っている方の年金相談
 0570−07−1165 イイロウゴ
○受付時間
 午前8:30〜午後5:00 土・日・祝日は除きます

ねんきんダイヤルでは、利用者からの電話を、全国の年金相談センター等のうち回線の空いているところにつなぎます。利用者の料金負担は、一般の固定電話の場合、どこにつながっても市内通話料金の額です。
これにより、全国23か所の年金相談センター、社会保険業務センター中央年金相談室のこれまでの電話番号は使えなくなります。

◆年金相談をうける場合の注意点

ねんきんダイヤルの利用に際し、相談者の確認のため次のような点を聞かれる場合があります。

○相談者が本人の場合
 住所・氏名・生年月日・基礎年金番号など
○相談者が家族の場合
 本人と家族の住所・氏名・生年月日・基礎年金番号、本人との続柄・本人が直接相談できない理由など


居酒屋でのけんかで処分される?

仕事帰りの居酒屋で、ある会社員が隣席の客と口論になり、殴り合いのけんかになってしまいました。もし会社にこのことが知られれば処分されるのでしょうか。

◆就業規則には

労働基準法では、10人以上を雇用する使用者に就業規則を作成し、所管の労働基準監督署に届け出るよう義務づけています。就業規則には労働条件や職場規律を一律にして経営を効率化したり、社員の権利を保護したりする狙いがあり、社員は採用時の雇用契約のなかで「就業規則を順守する」と宣誓させられるのが一般的です。

就業規則には始業および終業の時刻、賃金の計算や支払いの方法などの労働条件のほかに、社員が守らなければならない規律を明記するケースが多々ありますが、その一つとして「会社の名誉を傷つけたり、信用を損なう行為をしてはならない」といった規定を置く場合が多いようです。

◆労働時間外の就業規則違反は

罪を犯して会社の社会的信用を大きく損ねたり、仕事上で知り得た秘密を社外にもらして会社に損害を与えた場合には、労働時間外であっても就業規則違反で制裁の対象になる可能性が高いといえます。

過去の判例では、米軍基地拡張反対の示威行動で逮捕、起訴された社員が、解雇を不服として会社を訴えた訴訟で最高裁は「大規模な会社の一社員の行為が会社の体面を著しく汚したとは認められない」として解雇処分が無効となっています。

犯罪を理由に処分を下すには会社の社会的評価への悪影響が相当重大であると客観的に認められなければならないようです。けんかが罪に問われることになっても、企業秩序を乱した行為とは判断されず、会社の制裁は認められない可能性が高いでしょう。


企業年金連合会が発足

平成17年10月から企業年金関係法が改正、施行されています。これにより、これまでの厚生年金基金連合会が新たに企業年金連合会に組織変更されました。企業年金連合会には厚生年金基金のほかに、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金も会員として加入することができます。

◆改正のポイント

これまで確定給付型の企業年金制度間で脱退一時金相当額の年金資産の移管が行えるのは、一部のケースに限られていましたが、改正後は一定の制約の範囲で、すべてのケースで移管できるようになりました。この場合「脱退一時金相当額の算定の基礎となった期間」の全部または一部を移管先の加入期間に合算することになります。

ただし、双方の規約にあらかじめ「脱退一時金相当額の移管が可能」な旨を定めていること、移管先が厚生年金基金の場合には将来部分の代行返上の認可を受けていないこと、加入者本人の申出が必要となることなどの制約があります。

◆改正のメリット

従来、グループ企業間で転籍した場合、年金資産の取扱いについては一時金での支給もしくは基金連合会への移管に限定されていましたが、年金資産の持ち運びが可能となり、年金制度にとらわれないより柔軟な人材配置ができるようになりました。

また、これまでは、転職した際には積立金を一時金で受け取っていたため、老後の収入を確保するという役割を十分果たしていませんでしたが、今回の改正によって、転職先に年金資産を持ち込むことで継続的に資産を積み上げることができるようになりました。


派遣?請負?

書類上、形式的には請負(委託)契約であるにもかかわらず、実態は労働者派遣であるものを「偽装請負」と言い、違法です。

その理由は、労働者派遣法等に定められた派遣元(受託者)・派遣先(発注者)の様々な責任が曖昧になり、労働者の雇用や安全衛生面など基本的な労働条件が十分に確保されないという事が起こりがちだからです。

請負とは、「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法)」ですが、派遣との違いは、発注者と受託者の労働者との間に指揮命令関係が生じないということがポイントです。自分の使用者からではなく、発注者から直接、業務の指示や命令をされるといった場合には、偽装請負である可能性が高いと言えます。

偽装請負の代表的なパターンは、「代表型」、「形式だけ責任者型」、「使用者不明型」、「一人請負型」の4つです。

「代表型」とは、請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしています。これが最も多いパターンです。

「形式だけ責任者型」とは、現場に形式的に責任者を置いていますが、その責任者は、発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、発注者が指示をしているのと実態は同じです。単純な業務に多いパターンです。

「使用者不明型」とは、業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに請けた仕事をそのまま出します。Cに雇用されている労働者がAの現場に行って、AやBの指示によって仕事をします。つまり、労働者が誰に雇われているのか良く分からないというパターンです。

「一人請負型」とは、実態として、業者Aから業者Bで働くように労働者を斡旋します。ところが、Bはその労働者と労働契約を結ばず、個人事業主として請負契約を結び業務の指示、命令をして働かせるというパターンです。

請負で働かせる場合、雇用形態について疑問を持ったときは、私共社会保険労務士にご相談ください。


タクシー運転手の最低賃金

「最低賃金制度」とは、最低賃金法に基づき、国が賃金の最低限度を定め、使用者はその金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。

例えば、タクシー運転手の賃金制度が、固定給と歩合給とが併給される場合であっても、オール歩合給の場合であっても、給与額を1時間当たりに換算した金額が、都道府県ごとに定められた最低賃金額未満となった場合、最低賃金法違反となります。

固定給と歩合給が併給される場合、ある月の賃金を、総支給額142,594円、そのうち固定給(ただし、精皆勤手当、通勤手当および家族手当を除く)85,000円、歩合給35,000円、所定労働時間を170時間、時間外労働時間を30時間、深夜労働時間を15時間と仮定します。

固定給に対する時間外割増賃金は、
85,000円÷170時間×1.25×30時間=18,750円
固定給に対する深夜割増賃金は、
85,000円÷170時間×0.25×15時間=1,875円
歩合給に対する時間外割増賃金は、
35,000円÷200時間×0.25×30時間=1,313円
歩合給に対する深夜割増賃金は、
35,000円÷200時間×0.25×15時間=656円
となります。

固定給と歩合給が併給されている場合は、それぞれ時間当たりの賃金額を算出し、これらを合算したものが時間当たりの賃金額となります。

固定給部分について
85,000円÷170時間=500円
歩合給部分について
35,000円÷200時間=175円
固定給と歩合給の合算額は675円となります。
この時間当たりの賃金額675円をその地域の最低賃金と比較することになります。

オール歩合給の場合、歩合給を130,000円、所定労働時間を170時間、時間外労働を30時間、深夜労働時間を15時間と仮定します

歩合給は、130,000円
時間外割増賃金は、
130,000円÷200時間×0.25×30時間=4,875円
深夜割増賃金は、
130,000円÷200時間×0.25×15時間=2,438円
総支給額は、
130,000円+4,875円+2,438円=137,313円
となります。

時間当たりの賃金額の算出は、所定労働時間に関係なく、タクシー運転手がその歩合給を得るために働いた月間総労働時間をもとに算出します。歩合給とは別に時間外(30時間分)および深夜(15時間分)の割増賃金の支払いが必要ですが、時間当たりの賃金額の算出に当たっては、これら割増賃金は算入しません。

時間当たりの賃金額は、130,000円÷200時間=650円
で、これと、その地域の最低賃金を比較することになります。時間当たりの賃金額が最低賃金を下回る場合、最低賃金法違反となり、最低賃金額に達するまでの賃金の差額およびその差額に対する割増賃金を支払う必要があります。

なお、歩合給の中に時間外および深夜の割増賃金を含めている事業場も一部見受けられます。しかし、このような賃金の支払方法は、歩合給相当部分と割増賃金相当部分の区分が不明確であり、割増賃金を計算する上での通常の労働時間の賃金が明らかでないので、適切といえません。