人事労務の時事解説(2006年1月号)

人事労務の時事解説 2006年1月号


労災保険加入制度の強化

厚生労働省は平成17年11月1日から、労災保険未加入の事業主に対する費用徴収制度を強化することにしました。

労災保険は、労働者を1人でも(パート・アルバイト含む)雇用している事業主には加入手続きを行う義務があります。もし、労災保険に加入していない時に労災事故が発生した場合、遡って保険料を納めなくてなりません。また、労災保険料を納めるだけでなく、ペナルティの保険料を課せられることとなれば、それだけで事業主にとってかなりの経済的負担となります。労使ともに安心して働ける職場環境のため、また労災事故が起こって慌てないためにも、労災保険の加入は事業主にとって必要不可欠なものです。

◆適用事業所

労災保険は労働者単位で適用される雇用保険とは違い、事業所単位で適用されます。適用されない事業および労働者は@国の直営事業A官公署の事業(地方公務員には一部適用)B船員保険に加入している労働者だけで、これ以外の事業および労働者には適用されます。労災保険率は業種によって異なりますが1000分の5から1000分の129となっています。

また、中小企業の場合は、労働者だけでなく事業主等が労災保険に加入できる「特別加入」という制度があり、労働保険事務組合に事務委託をしている場合に加入できます。

◆費用徴収のポイント

労災保険未加入時に、費用徴収の対象となる場合は次の2通りです。

@労災保険の加入手続について行政機関から指導等を受けたにもかかわらず、未加入期間に労災事故が発生した場合。
A行政機関からは指導は受けてはいないが、労災保険の加入手続を1年以上怠っていたときに労災事故が発生した場合。

@の場合、事業主が故意に手続きを行わなかったものとして、発生した労災事故に関して支給された保険給付額の全額が徴収されます。
Aの場合、事業主が重大な過失により手続きを行わなかったものとして、発生した労災事故に関して支給された保険給付額の40%が徴収されます。

徴収される金額は、療養を開始してから3年間に支給されるものに限ります。また、療養(補償)給付・介護(補償)給付は除外されます。いずれにせよ、労災保険適用の事業所となった時点から加入しておけば、徴収されずにすむ金額であることに違いはないです。


2007年問題 技能継承に助成金

「団塊の世代」が定年退職を迎えることで、製造業を中心に熟練した技術・技能やノウハウの喪失が懸念される、いわゆる「2007年問題」の対策として、厚生労働省は中小企業の技能継承の取組みに対し、助成金を導入する方針を固めました。中小企業労働力確保法を改正し、取組みにかかる企業の経費の半分を負担するほか、訓練期間中の社員の賃金の半分についても負担するということです。

◆団塊の世代の技術などを次の世代にどう伝えるのか

昭和22年から昭和24年に生まれた「団塊の世代」は約670万人とされ、平成19年から60歳の定年退職を迎えます。各企業の生産現場では、労働力減少のほか、団塊の世代が持つ高度な技術力やノウハウを、どう次の世代に伝えていくかが課題となっています。

特に全企業の9割以上を占める中小企業の経営者からは「企業体力に限界があり、技能継承に向けた行政の支援は重要」などの声が強くなっています。

◆助成金制度を活用

厚生労働省はこうした要請を踏まえ、中小企業労働力確保法に基づく中小企業雇用創出等能力開発助成金制度を活用し、現在は技能の高度化や新分野進出への取組みに限られ支給している助成金の対象範囲を拡大し、技能継承に取組む企業にも支給できるように制度を改めるということです。

助成金を受けたい中小企業の事業主か業界団体は、まず都道府県に技能継承に関する取組みの計画書を提出します。認定されれば、企業が講師を招いて社員の教育を実施したり、職業訓練学校など外部訓練施設を活用して技能継承を図ったりした際、かかった費用の原則半分が助成金として支給されます。


年次有給休暇時間単位に

厚生労働省は2008年を目標に、現在、最低取得単位が原則1日とされている年次有給休暇制度について時間単位で取得できるように、早ければ2007年度の通常国会で関連法を改正する検討を始めます。
時間単位の有給休暇の取得が可能になれば、通院や子供の保育所等への送迎のためなど数時間だけ職場を離れなければならない場合にも有給休暇を利用できるようになります。また、雇用形態の多様化にも対応でき、女性の就労の機会を促す効果も期待できます。その一方で、企業が時間単位の取得を強制するようになれば、労働者が1日の有給休暇を申請したい場合にも、1日の休暇がとりにくくなるという弊害も懸念されています。

◆有給休暇とは

労働者が、雇い入れられた日から起算して6カ月間継続勤務をし、全労働日の8割以上出勤した場合に対して、継続しまたは分割した10日間の有給休暇が付与されます。勤続2年6カ月までは、1日ずつ加算され、勤続3年6カ月からは2日ずつ加算されます。勤続6年6カ月以降は20日ずつ付与されることになっています。
当年度に消化できなかった有給休暇は翌年度に繰り越すことができ、最高1年間で40日の有給休暇を保持することができますが、有給休暇の時効は2年となっていますので、繰り越された分については時効は1年ということになります。

また、週の所定労働時間が30時間未満でかつ週の所定労働日数が4日以下のパートタイム勤務等の労働者には、年次有給休暇の比例付与が適用されます。

◆年次有給休暇の取得率の低下

年次有給休暇の時間単位取得を可能にする改正案の背景には、ここ数年の年次有給休暇取得率の低下があります。2003年までの10年間で有給休暇の取得率は9ポイントも下がっています。中でも取得率の低い業種は、飲食店・宿泊業・卸売・小売業・建設業となっています。

企業のリストラや新入社員採用の減少等で、有給休暇が取得しにくい職場の雰囲気や、人数が少なくなった職場で有給休暇を使えば周りに迷惑がかかるという意識が労働者側に強くあることが有給取得率の低下の要因となっているようです。最近、わずかながら上向き傾向にある景気により、企業の求人が増えてきているようです。それにより、年次有給休暇の取得率の低下に歯止めがかかることを期待したいところです。


パートタイマーの解雇予告手当は?

ある会社では週3日勤務の時給制のパートタイマーを雇用していましたが、業績が悪化したため解雇せざるを得ない状況となってしまいました。パートタイマーには退職金制度を適用していないので、退職金の代わりに解雇予告手当を支払うことを考えています。週3日勤務の場合でも解雇予告手当は30日分支払わないといけないのでしょうか。

◆解雇予告手当とは

使用者が労働者を解雇する場合には、労働基準法第20条により、30日前までに解雇の予告をするか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。

《平均賃金の原則》
算定すべき事由が発生した日以前3カ月間に支払った賃金の総額/その期間の総日数

ただし、日給制や時給制の場合、所定労働日数が少ないので、この算定方法で計算すると、平均賃金の額が低くなってしまう場合がありますので、この額が最低保障額に満たない場合は最低保障額を平均賃金とすることにしています。

◆最低保障額とは

賃金が労働した日もしくは時間によって算定され、または出来高制その他の請負制によって定められている場合には、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60とされています。

《最低保障額》=(賃金の総額/その期間に労働した日数)×60%

◆具体的な例では

時間給を900円、直前3カ月間の総日数を90日、勤務日数を39日、直前3カ月間に支払われた賃金総額を175,500円だった場合を考えてみましょう。

原則的な算定方法で計算した平均賃金額は、
175,500円÷90日=1,950円
最低保障額は
175,500円÷39日×60%=2,700円となります。

最低保障額のほうが高いため、この場合の平均賃金は2,700円となります。

このケースでは、少なくとも81,000円(2,700円×30日分)の解雇予告手当を支払わなければならないということになります。解雇予告手当は、税法上は退職手当として取扱われます。


子育てのための時短勤務はいつまで?

育児・介護休業法では、事業主は3歳未満の子を養育する労働者に対して勤務時間の短縮等の措置を講じなければならないと規定しています。先日、こんな質問を受けました。

「当社社員で育児休業中のAさんは、子どもが1歳を迎えるのを機に保育園に預けて職場復帰する予定ですが、当社には復帰後の社員の子育て支援の制度がありません。本人は小学校入学までは、短時間勤務を続けたいと考えているのですが、当社としてはいつまで認めればよいのでしょうか。」

あなたならどう対処されますか?
 
◆勤務時間等の短縮の措置とは

会社は3歳未満の子を養育する労働者について次の勤務時間短縮等措置のうち、最低1つは実施しなければなりません。
@短時間勤務制度
Aフレックスタイム制
B始業・終業時間の繰上げ・繰下げ
C所定外労働をさせない制度(育児のみ)
D託児施設の設置運営

会社が短時間勤務制度を導入・実施していれば、社員は子育てのための短時間勤務を請求することができます。3歳未満の子どもがいるのに時短などの制度を導入していない場合は、行政指導される可能性があります。また、社員から不利益取扱いを理由に慰謝料、損害賠償を請求される場合もありえます。

◆子どもが3歳以上になると

子どもが3歳以上になると法的な拘束力はなくなります。育児・介護休業法は3歳以上の子どもを持つ社員への支援については「措置を講ずるように努めなければならない」と定めているのみで、罰則規定はありません。しかし、法の定める最低限の労働条件をクリアすることと労使共に納得できる労務管理を行うことは別の問題です。社員とのトラブルが顕在化する前に、会社として何かしらの手をうつべきでしょう。


代休と振替休日の違いは?

多くの会社で、社員を休日出勤させる場合に振替休日や代休が実施されています。振替休日と代休では実施するための要件や割増賃金の取扱いが異なっているので適正に管理することが必要です。

◆振替休日とは

振替休日とは、労働契約を一時的に変更して、休日だった日を所定労働日に、所定労働日だった日を所定休日に変える制度です。同一週内で振り替えた場合や他の週の所定労働日と振り替えた場合は休日労働とはならないため、時間外や休日出勤に対する割増賃金は原則的に発生しません。
ただし、振替休日の場合、就業規則に振替休日を行うための根拠規定があること、事前に振り替えるべき日を特定することが実施の要件としてあります。

◆代休とは

代休とは、休日に出勤したことの代償として、所定労働日の労働義務を免除する制度です。代休については、特に就業規則の定めがなくても実施することが可能ですが、出勤させた日が法定休日の場合は休日労働となるため、割増賃金の支払いが必要です。

◆振休・代休を行うことのできる範囲は

法定休日に出勤させる場合に、振替休日については、法定休日が確保できる範囲に限定されていて、変形休日制を採用していない場合は同一週内、変形休日制を採用している場合は出勤する法定休日の属する4週の範囲内と決められています。変形休日制を採用する場合には、就業規則に変形休日の起算日を定めなければなりません。一方、代休については特に制限がなく、代休を直近の日に取得せず、いったん積み立てておいて時間的に余裕ができたときに取得させたりすることが可能です。
 
◆時間外・休日労働の取扱いは

振替休日では同一週内で振り替えた場合や他の週の所定労働日を振り替えた場合は、休日労働となりませんが、当初の休日に出勤させたことにより、週40時間を超えた場合は時間外労働となります。
代休については、出勤させた休日が法定休日の場合は休日労働となり、法定外の休日の場合は週40時間を超えた時間が時間外労働となります。


2007年4月から離婚時の年金分割始まる

夫婦が離婚したときに年金を分割できる制度が2007年4月から2段階で始まります。これまでは妻がずっと専業主婦だった場合、離婚すると老後にもらえるのは基礎年金だけで満額でも月6万6000円ほどでしたが、2007年4月以降に離婚が成立すると、結婚していた期間に夫が納付した保険料に対応する報酬比例部分の年金額の最大50%を受け取ることができます。
婚姻期間中、妻に厚生年金への加入期間があれば、夫婦の報酬比例部分を合計した額の半分が、妻がもらえる年金の上限となります。

◆2008年3月までは協議で

2008年3月までの年金分割は夫との合意が条件で、交渉が決裂すれば裁判所の決定に委ねられます。分割額は婚姻期間中の給与などによって変わり、単純には計算できませんが、社会保険事務所は2006年10月から、分割の対象となる保険料の納付記録などを夫婦のどちらかからでも申出があれば提供します。

◆2008年4月以降は強制折半に

2008年4月以降の専業主婦の期間については、妻の申出だけで夫の報酬比例年金の50%が自動的に妻に行く仕組みとなります。事実婚でも第3号に認定されれば強制分割ができます。

ただし、年金をもらえるのは妻自身が年金の支給を受けることができる年齢になってからで、ずっと専業主婦だった場合、65歳からになります。

◆分割できない場合

2007年4月以降に成立した離婚が対象となりますので、制度開始前に離婚が成立すると分割はできませんが、2007年4月以降は離婚後2年までなら後から分割手続ができます。

また、分割対象は厚生年金や共済年金となりますので、国民年金のみ加入する自営業者は対象外となります。また、年をとってからの再婚などで、婚姻時にすでに年金を受け取っていた場合も分割はできません。 


禁煙治療に保険適用へ

厚生労働省は医師による禁煙指導を公的医療保険の給付対象とする方針を固め、2006年4月からの実施を目指すようです。禁煙はこれまで個人の意志や努力の問題とみられ、保険の対象外でしたが、これを「ニコチン依存症」という病気に対する治療ととらえ直して、積極的な対策に乗り出します。

◆治療内容は

禁煙治療プログラムを受けたいと希望する人で、ニコチン依存度テストで「依存症」と判定された人が対象となり、定期的に通院してカウンセリングを受けるほか、肌にはったパッチからニコチンを吸収する置換療法を受けます。約3カ月で初診も含め5回ほどの通院を想定しています。

これまで一部の病院が「禁煙外来」を設けていましたが、保険の対象ではないため全額が患者負担で、1カ月あたり3万円から4万円かかっていました。保険の対象になれば、3割の窓口負担で済むようになります。

◆医療費の抑制が目的

厚生労働省は、肺がんをはじめ、心筋梗塞や脳卒中などの生活習慣病を引き起こす喫煙を減らすことで、中長期的に医療費の伸びを抑制する方針を打ち出しています。導入によって医療費は当初は増えるものの、生活習慣病や肺がんが減ることに伴い8年目から減少し、15年後の医療費を約1846億円抑制できると試算しています。

◆欧米では

欧米ではすでに、ニコチン依存症を「繰返し治療することで完治しうる慢性疾患」ととらえる動きがあり、英国では1999年から禁煙治療を保険の対象としているほか、米国でも民間保険会社の8割強が禁煙のための薬剤費などを保険給付の対象としています。