人事労務の時事解説 2006年3月号

 

2005年度新入社員意識調査
 
「能力主義的な処遇の希望者は減り、新入社員の保守化・安定志向が強まっている。」2005年度新入社員を対象としたアンケートでこうした傾向が浮かびあがっています。

◆保守化・安定志向強まる

このアンケートは2005年度の新入社員の入社から半年後の意識を調査したもので、それによると、「きっかけ、チャンスさえあれば、転職してもよい」という回答が54.6%と、過半数を占めています。「今の会社に一生勤めようと思っている」のは25.6%と、その半数にも満たないのですが、前年同月比でみると8.1ポイント増加しています。また、能力主義的な給与体系や昇格を希望する者の減少傾向が続いており、「業績や能力が大きく影響する給与システム」の希望者は64%で、前年同期比0.3ポイント減、「仕事を通して発揮した能力を基に評価され、昇格に差がつくような職場」の希望者も3年連続減少の69%でした。過半数が能力主義的な処遇を望んでいるものの、その傾向は弱まり、処遇や仕事のあり方について、保守化・安定志向も増えつつあります。

仕事を通じた自己実現への取組みに関して、消極的な傾向

また転職する際の決め手の優先順位について、「仕事のやりがい」を1位に選んだ割合は大幅に減少し、56%(前年同期比8.2ポイント減)で3年ぶりに6割を下回りました。「給料」を1位に選んだ割合は25%(同3.2ポイント増)で、3年ぶりに2割を超えました。転職志向は弱まっているものの、転職には「やりがい」より「カネ」を重視する傾向が出てきているようです。

倫理観に課題

「上司から、会社のためにはなるが、自分の良心に反する手段で仕事を進めるように指示された」場合に、「あまりやりたくないが、指示の通りに行動する」とする回答が増加して36.6%となり、7ポイント増加しました。また、「発注者が取引先から贈答品や食事などの便宜を受けること」を「問題ない」とする回答が49.5%(2005年春比4・0ポイント増)で近年の減少傾向から増加に転じ、倫理観に課題があることがうかがえます。


紹介予定派遣需要高まる

「紹介予定派遣」とは、一定期間企業に派遣され、その期間が終了すると正社員として採用される派遣契約をいいます。派遣される期間の設定は、大半の企業で1~3カ月程度としていて、最長でも6カ月間としています。派遣期間終了後は、従業員側の「この会社で働きたい」という意思と、企業側の「この人に働いてほしい」という意思が合意した時に正社員雇用が成立します。したがって、派遣期間が終了すれば、必ず正社員になれるというわけではなく、合意に至らない場合は派遣契約も終了します。

◆紹介予定派遣の実稼動状況

日本人材派遣協会の調べでは、主要108社の平成17年9月の紹介予定派遣の実稼働者数は前年9月と比較して、61.9%増の3366人に達しています。平成16年3月から2ケタ増の稼働率が続いており、16年7月以降は50%を超える高水準を維持している状態です。平成16年3月に施行された「改正労働者派遣法」で、これまで禁止されていた紹介予定派遣対象者の事前面接を解禁しています。この法改正の施行により企業にとっては使い勝手がよくなったため、大幅な需要拡大に結びついているようです。

◆紹介予定派遣のメリット

企業側にとって、何度も求人募集をかけ面接し、時間をかけて採用しても、すぐに辞められるという状況を繰りかえすより、試用期間で企業にふさわしい人材かどうか判断でき、良い人材が確保しやすいのであれば、紹介予定派遣を利用する価値はあるのではないでしょうか。また、従業員側にとっても、一定期間職を離れていていきなりの正社員は不安、どんな会社か見てみたいという時に活用しやすい就労形態のようです。メリットは企業と従業員だけではありません。仲介する人材サービス会社にも、派遣している期間の一定料金とは別に、紹介が成立すれば決定者の年収の約3割を報酬として得ることができます。


無断欠勤の社員を解雇できる?

社員が無断欠勤を続けており、自宅にも戻っていないようで、連絡も取れない状況となってしまいました。また、ご家族も連絡がとれないようです。この社員は、これまでも何度か無断欠勤をしたことがあり、その都度注意していましたが、会社として社員を解雇したい場合、どのような手続きが必要でしょうか。

◆解雇するには

行方不明の社員を解雇するには、民法97条の2の「公示送達」によって、解雇の意思表示を行わなければなりません。具体的には、社員の最後の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てを行い、裁判所の掲示板に掲示するほか、掲示したことについて官報および新聞に少なくとも1回掲載し、最後に掲載した日から2週間が経過すれば、社員に会社の解雇の意思表示が到達したものとみなされます。

◆解雇予告手当は

公示送達によって解雇する場合にも、所轄の労働基準監督署長から解雇予告の除外認定を受けない場合には、社員に解雇の意思表示が到達したとみなされる日(この場合、官報および新聞に最後に掲載した日から2週間が経過した日)の翌日から起算して30日目の日を解雇日と指定するか、30日分の解雇予告手当を供託するか、どちらかの手続きが必要です。

労働契約の自然終了

また、就業規則、労働協約、労働契約のいずれかで無断欠勤が連続して一定期間に及び、連絡不能である場合において自然退職とする旨の定めがある場合には、労働契約の自然終了として雇用契約を終了させることができます。

ただし、無断欠勤の期間が短すぎる場合や無断欠勤をして連絡が取れなくなったことについて客観的な正当性がある場合には、規定の適用が認められないケースも考えられますので注意が必要です。


在宅勤務中のケガは労災?

在宅勤務をしている社員が、自宅で会社に提出する資料をパソコンで作成しているときに、パソコンのそばに置いてあったポットを倒してしまい、やけどをしてしまいました。これは自宅での勤務中の事故ですが、このような場合に労災は認められるのでしょうか。

ガイドラインでは

2004年に厚生労働省が、「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入および実施のためのガイドライン」を発表しています。その中で労働者が在宅勤務を行う場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用されることが明記されています。

業務が原因である災害については、業務上の災害として保険給付の対象となりますが、自宅における私的行為が原因であるものは業務上の災害とはなりません。

◆労災の対象となるには

自宅で事故にあった場合に労災の対象となるには、次の3つの要件が必要となります。
①会社に勤めている労働者であること、
②自宅で傷病にあった際、会社の指揮命令による業務中であること
③傷病が業務と因果関係があること

労働者は使用者の指揮命令を受けて業務を遂行しますが、請負契約や委任契約の場合は、使用者の指揮命令を受けないので通常は補償の対象とはなりません。

事実認定がポイント

今回のケースのように資料を作成中にポットを倒してやけどをした場合には、法的には労災が認められるケースですが、労災申請の手続きの際に事実の認定が難しく、問題になる可能性があります。したがって、在宅勤務の際には仕事の時間と私的な時間を明確に区別し、作業場所を特定することが望ましいですし、業務の進捗状況を上司に報告するなどの対策も必要と思われます。


公益通報者保護法が4月に施行

不正を内部告発した社員に対して、会社が解雇その他の不利益な取扱いを行うことを禁止する公益通報者保護法が2006年4月に施行されます。内部告発のルールを明確にし、内部告発者を守ることで企業に法令を遵守させることが目的です。

保護の対象となるのは

内部告発者として保護されるのは、正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどで、退職者も含まれます。自ら不正を是正する立場にあり、株主総会で選任・解任される取締役や監査役は保護の対象外となっています。

内部告発者を保護するために、具体的には内部告発を理由とした解雇や減給、降格、派遣労働者の交代要求、退職金の没収・減額などが禁じられています。

通報先と保護要件は

通報先は、事業者内部、処分等の権限を有する行政機関、報道機関や消費者団体などの事業者外部ですが、それぞれに保護の要件が定められています。

事業者内部については通報が金品の要求などの「不正の目的」でないこと、行政機関についてはそれに加え、通報内容が真実であるという相当の理由があることなどです。

外部への告発は

報道機関や消費者団体などの外部へ告発する場合には、さらに以下のいずれかに該当するケースに限るなど要件が厳しくなっています。
①不利益な取扱いを受ける恐れがある
②証拠隠滅の恐れがある
③公益通報をしないことを正当な理由なく要求された
④企業に告発したのに20日以上たっても調査が開始されない
⑤個人の生命、身体に危機が生じる切迫した危険がある

もし公益通報を受けたら

公益通報を受けた事業者は、公益通報の是正措置等について、公益通報者に通知するように努めなければなりません。また、行政機関が公益通報を受けた場合は、必要な調査や適切な措置を取らなければなりません。


有給休暇、取得義務付けを検討

競争の激化やバブル崩壊後のリストラなどの影響で、年次有給休暇が年々取得しにくくなり、2004年度の年次有給休暇の取得率は46.6%と過去最低を更新しています。厚生労働省は年次有給休暇の取得を促すなど、労働時間制度を抜本的に見直す検討に入りました。

◆有給休暇は

会社は労働者を雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し、その期間の全所定労働日の8割以上出勤した労働者に対し、10日間の有給休暇を、その後は1年経過するごとに勤続年数に応じた日数の有給休暇を与えなければなりません。また、パートやアルバイトにも労働時間や労働日数に応じ、定められた日数の有給休暇を与えることが義務付けられています。

◆取得時期を事前に決定

有給休暇をいつ取得するかについては、労働者の判断に委ねられていますが、職場の雰囲気や同僚や上司への気兼ねなどから、なかなか取得しにくい面があるようです。厚生労働省は有給休暇のうち、一定日数についての取得時期を、労働者の希望を踏まえて企業があらかじめ決めておくことを義務付けることを検討しています。事前に休暇時期を把握することで事業計画を立てやすくなる効果もあります。

現在も、労使が合意すれば事前に有給休暇の取得日を決めておく制度がありますが、導入している企業は2005年現在で14%にとどまっています。
 
◆退職時に有給買取りも

取得しなかった有給休暇の権利は2年で消滅します。現在、厚生労働省は原則的に有給休暇を金銭的な手当てに代えることを認めていませんが、退職時に限って未消化分の有給休暇を企業が買い取る新しい仕組みを検討するようです。


医療費、高齢者の負担増加へ

2006年度の医療制度改革大綱が固まり、通常国会に改革関連法案が提出されます。今回の改革には医療費を抑制するための対策が盛り込まれ、今年10月から2008年度にかけて高齢者を中心に窓口での自己負担が増えるほか、保険再編で保険料も変わってくることが予想されます。

◆医療費はどう変わる?

今年10月に実施予定の制度改定では、まず70歳以上で現役並みの所得者の病院窓口での自己負担の割合が2割から3割に増えます。また、骨折やがんの治療など、多額の費用がかかった場合は、毎月の自己負担額に限度額が定められていますが、この限度額も今年10月から引き上げられ、その分の自己負担額が増える予定です。

さらに70歳以上の長期入院患者の食費や居住費が保険対象外となり、自己負担になるほか、死亡時に支給される埋葬料も現在の10万円から一律5万円に引き下げられることが決まっています。

診療報酬の削減

一方で、2006年度の診療報酬改定では全体で3.16%の引き下げが決まるなど、負担が軽くなる部分もあります。これによって、2006年度の医療費は1兆円程度縮小される見込みとなり、患者の窓口負担分も基本的に減ることになるでしょう。

◆少子化対策として

また、少子化対策の一環として、2006年度から出産育児一時金が現行の子ども1人あたり30万円から35万円に増額されます。また、2008年度には現在、窓口負担を2割としている医療費負担軽減の対象が3歳未満から義務教育就学前に拡大されます。

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