インフルエンザ対策のための自宅待機は無給でよい?
 
新型インフルエンザの流行に備え、A社では社内対応策を検討しています。海外の新型インフルエンザ発生地域から帰国した社員に対して、安全が確認されるまで自宅待機をさせたいと考えていますが、この期間は無給にすることはできるのでしょうか。
 
◆国の行動計画では
 
大流行が懸念されている新型のインフルエンザについて、国の行動計画が策定されています。行動計画では、世界的流行が起こる前からピークを迎えるまでの流行の状況を6つのフェーズに分類し、各フェーズごとに国内で発生していない場合(A)と発生している場合(B)に分けて国が行う措置が定められています。
 
◆フェーズ4B以上で可能
 
フェーズ4(ヒトからヒトへの感染が確認されているが、感染集団は小さく限られている段階)でB(国内で発生)となった場合、国は新型インフルエンザ患者やその疑いのある者に対して入院勧告や発生地域の企業に対して新型インフルエンザの症状が認められる社員に出勤停止や受診勧告を行います。
 
国の勧告に従い、感染者やその疑いのある社員を自宅待機させる場合は、休業手当の支払いは不要となり無給とすることができます。
 
◆フェーズ4Aでも
 
また、フェーズ4以上でA(国内で発生していない)となった場合は、国内流入を防ぐため、発生地域からの入国者に対し質問票や診察で患者を振り分けることがあります。そこで新型インフルエンザの患者の疑いがあれば検疫法に基づき停留、患者と確定されれば入院勧告が行われます。
 
この措置によって海外から帰国した社員が停留または入院となり、出社できない期間は休業手当の支払いは不要となります。
 
◆それ以外は休業手当が必要
 
これらのケース以外で、会社が独自の判断で国の措置を超えて、社員に自宅待機を命じる場合には休業手当を支払わなければならないでしょう。
 
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■新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する事業者・職場のQ&A
 (09年10月30日 厚生労働省
Q3 労働者が新型インフルエンザに感染した場合の同じ職場の労働者や、同居する家族が感染した労働者は、仕事を休ませる必要がありますか。
Q5 新型インフルエンザに罹患した労働者が復職する際、留意することはありますか。治癒証明書や陰性証明書が必要ですか。
Q8 新型インフルエンザに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
Q10 新型インフルエンザ発生時において、職場又は通勤途上で新型インフルエンザに感染したことが明らかとなった場合、労災保険給付の対象となりますか。
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■法的な判断基準(09年9月9日 労務行政研究所)
 
 新型インフルエンザの罹患者に対しては,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)」により都道府県知事が入院あるいは外出自粛等を要請できることとされており、これに基づき保健所が外出自粛等の要請を行った場合は、企業が自宅待機にするまでもなく、休務となる。 また、このように
保健所等行政の要請により休んだ場合の「賃金」「労基法26条の休業手当」
については、次のように考えられている(この罹患が労災によるものでないことを前提とする)。
 
〔賃金〕
 この休業は,民法536条2項の「債権者(=使用者)の責めに帰すべき事由」(債権者の故意、過失または信義則上これと同視すべきもの)による労務の受領拒否ではないため、賃金を支払う必要はない。
※行政の要請により休んだ場合
 
〔労基法26条の休業手当〕
 この休業は、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」(企業の経営者として不可抗力を主張し得ないすべての場合〔例えば、経営上の理由による休業〕)ではないため、休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う必要はない。※行政の要請により休んだ場合
 
ただし、現時点では、感染症予防法に基づく知事の要請は出ておらず、現段階で保健所や医師から言われるのは,本年6月19日に改定された「医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針」に基づく“法の根拠をもたない”緩やかな要請である
 この点に留意が必要であり、現況における罹患者の自宅待機の場合,一般的に,上記の民法の定めに照らして「賃金」の支払いは必要ないと考えられるが、「休業手当」の要否については、個別具体的な事案の判断の権限は所轄の労基署にあるので、確認を得ることが賢明であろう。
 
 なお、“同居家族に感染が確認された従業員を自宅待機させる場合”も、感染症予防法に基づく保健所等行政の要請による休業の場合は「賃金」「休業手当」とも支払う必要はないと考えられる。 
ただし,現時点では同法に基づく要請は出されておらず、会社が行政の判断を待たずに“企業独自の判断で行う休業”については、休業手当が必要とされる可能性がある。
 
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■労働基準法第26条に基づく「休業手当」支払義務の生じる「使用者の責に帰すべき事由」に該当するか否かの判断基準例(03年5月22日 厚生労働省)
 〔SARS(重症性呼吸器症候群)流行時の対応指針〕
①国等の強制的な措置に基づく場合
支払い義務なし
(例)感染症法第45条に基づき、健康診断の受動勧告または入院勧告を受けた労働者を、休業させる場合
 
②国等が要請している措置に基づく場合
原則、支払い義務なし ただし、伝播確認地域への渡航延期勧告発令後に使用者が当該地域への出張を命じた場合は、支払い義務あり
(例)渡航延期勧告発令中の伝播確認地域から帰国した労働者を10日間自宅待機させ休業を命じる場合
(例)疑い例に該当する労働者を休業させる場合
 
③①および②に該当しない場合であって、事業主の自主的な判断で休業させる場合
支払い義務あり
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■感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(厚生労働省)
(平成10・10・2・法律114号)
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■厚生労働省:新型インフルエンザ対策関連情報
■厚生労働省:「新型インフルエンザ対策ガイドライン」
■厚生労働省:事業者・職場でできる対策
■厚生労働省;感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について
■国立感染症研究所 感染症情報センター
■中小企業庁:中小企業向け新型インフルエンザ対策に関する情報提供資料
■大阪府:新型インフルエンザに関する情報
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●新型インフル、家族が感染 自宅待機、企業の3割(09年9月9日 日経)
新型インフルエンザ対策で、従業員の家族が感染した場合、「保健所の判断がなくても原則として自宅待機とする」としている企業が3分の1に上ることが9日、財団法人労務行政研究所(東京)が実施したアンケート調査で分かった。企業内の感染拡大防止を重視する一方、
このうち1割強は休業手当などを「支払わない」と回答。労働基準法に抵触する恐れもあり、対応に課題が残った。
調査は7月から8月にかけて、同研究所のサイトに登録している民間企業の労務担当者4263人のうち、回答が得られた360社分の状況をまとめた。
調査結果によると、従業員と同居する家族が新型インフルエンザに感染した場合、「保健所の判断なしで原則として自宅待機」と答えたのは122社(33.9%)に上った。このうち最も多かった回答は「賃金を通常通り支払う」で62社(50.8%)だったが、「賃金や休業手当等は一切支払わない」とする企業も18社(14.8%)あった。
■「企業における新型インフルエンザ対策の実態」(09年9月9日 労務行政研究所 
〜同居家族感染時には,34%が「保健所の判断を待たず,原則,自宅待機」〜
 
●新型インフル、企業対応「発生後1週間以内」が8割
 (09年8月28日 東京経営者協会
 
東京経営者協会は、都内の会員企業を対象とした「新型インフルエンザ対策の取組み状況に関するアンケート調査結果」を発表した。新型インフルエンザ対策の開始時期について尋ねたところ、約8割の企業が概ね海外での発生後1週間以内に対策を実施、内容としては「マスクの配布、着用の推奨」(181社、86.6%/複数回答)が最多だった。
 
■中小企業のための新型インフルエンザ対策ガイドライン
〜命を守り、倒産をまぬがれるために〜(08年10月31日 東京商工会議所)
【新型インフルエンザ大流行の危機が迫っています!】
 新型インフルエンザは、いつ発生してもおかしくない差し迫った危機で、ひとたび発生すれば人類に免疫がないため、すぐに世界中に拡がります。 人口が集中している東京では、想像を超える大被害になると心配されています。
【正しい予防と対応でお客様や従業員と家族の命を守る!】
 大流行に備え、それぞれの事業者が、お客様や従業員と家族の生命の安全を第一に考え、感染拡大防止の対策を実施する必要があります。 マスクの着用、手洗いの励行などによる予防策の徹底や、感染の疑いや心配のある従業員は出勤させないなどの対策を行いましょう。 何ら対策を行わなければ、お客様や従業員や地域社会の命を危険にさらし、貴社が社会的批判を浴びる可能性さえあるのです。
【倒産の危機を回避しましょう!】
 大流行により、数週間から数カ月ビジネスが中断する可能性があり、中小企業においては「倒産の危機」に直面する危険があります。あらかじめの備えをしておくことで、倒産の可能性は大きく変わると見込まれます。
 本ガイドラインは、新型インフルエンザの基礎知識や、感染拡大の防止、事業の継続に必要な事項を示しています。ぜひ参考にしていただき、対応を先送りせず今から準備にとりかかってください。
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