人事労務の時事解説 2006年4月号

 

年金未加入防止対策案
 
社会保険庁は、国民年金に加入していない人を減らすため、住民基本台帳ネットワークの情報を本格的に活用する方針を進めています。これは、住基ネットの氏名、生年月日等の個人情報を基に、毎年34歳の人の年金加入状況を総点検し、未加入者に対して加入を促すことを目的としています。

なぜ「34歳」を対象としているのかというと、年金の最低加入期間である25年要件を満たすためです。年金を受給するには、最低加入期間として25年が必要とされています。ですから、加入期間がたとえば24年11カ月だった場合、たった1カ月足りないだけなのですが、年金は1円も受給できないこととなっています。したがって、60に到達するまでに25年間の年金加入期間を満たすには、35歳がぎりぎりの年齢となるというわけです。そういった実情を請けて、今国会に提出される社会保険庁改革関連法案に住基ネットの活用を盛り込み、来年度から着手することとしているようです。

これまでの対策

政府はこれまでにも、若年層に対し「学生納付特例」や「若年者納付猶予制度」等を設け、年金未納を減らすための措置を行ってきています。しかし、若年層の納付率は低く、平成16年度の納付率が63.6%であるのに対し、年齢階層別でみると、40歳未満の納付率はこれ以下となっており、20歳台前半では49.6%と、50%を切っているのが現状です。また、全体の年金の納付率も決して高いとはいえません。こういった状況にかんがみ、現在でも、経済的な理由等で保険料を納めるのが困難な場合には、申請により保険料が全額免除または半額免除となる制度がありますが、平成18年7月からは新たに1/4免除、3/4免除の新しい割合も加えられます。

◆厚生年金未加入事業所への対応

4月から社会保険庁は、厚生年金と中小企業の会社員らが加入することになっている政府管掌健康保険に加入していない企業や個人を、強制的に加入させる措置を強化する方針です。強制加入は、社会保険庁の文書や個別訪問による加入の呼びかけに応じない事業者に対して行われており、現在は従業員20人以上の事業所がその対象となっていますが、これが15人以上の従業員がいる事業所等へと拡大されます。具体的には、未加入の事業所に対して事前に立入検査を行う日を通知し、従業員名簿の提出を促し、職権で加入手続きを進めます。そして、もし強制加入させた事業所が保険料の納付を拒否した場合は、銀行口座などを差し押さえるなどの方法で保険料を払わせるとしています。

厚生年金と政管健保はすべての法人事業所と5人以上の従業員がいる個人事業所に加入義務があります。しかし、事業主が保険料の半額を負担することを嫌い、加入手続きを怠ったり、違法に脱退する事業主が途絶えず今回の対応となったようです。


公益通報者保護法(平成18年4月1日施行)

この法律は公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等ならびに公益通報に関して、事業者および行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護等を図ることを目的としています。当法は施行後になされた公益通報について適用されます。

◆公益通報者の保護

①解雇の無効
公益通報をしたことを理由として事業者が行った解雇は無効です。
②解雇以外の不利益取扱いの禁止
解雇以外にも、公益通報をしたことを理由とするその他の不利益取扱いも禁止されています。
「その他の不利益取扱い」の例
降格、減給、訓告、自宅待機命令、給与上の差別、退職の強要、専ら雑務に従事させること、退職金の減額・没収(退職者の場合)
③労働者派遣契約の解除の無効等…派遣労働者が派遣先で生じている法令違反行為を通報しても、それを理由とする労働者派遣契約の解除は無効であり、派遣労働者の交替を求めること等も禁止されています。

通報は実名で

法は実名での通報を前提に、通報者が不利益な取扱いを受けないよう規定しています。匿名での通報については、通報者に連絡がつかないために十分な調査ができず、通報者へのフィードバックも困難であることから、実名の通報と同様の処理は行えなくなるからです。


継続雇用定着促進助成金制度の改正

高年齢者雇用安定法の改正により、高年齢者の65歳(平成18年4月から62歳、平成19年4月から63歳、平成22年4月から64歳、平成25年4月から65歳)までの安定した雇用を確保するため、定年延長や再雇用制度導入による継続雇用制度を導入することが義務づけられました。法改正に伴い、労働協約または就業規則により継続雇用制度を導入した事業主に対して支給される継続雇用制度奨励金の額が、平成18年4月から下記のように変更されました。

◆継続雇用制度奨励金(平成18年4月~)

支給対象者
平成18年4月以降に、直ちに65歳以上の年齢までの雇用確保措置を導入した事業主

支給額
導入した雇用確保措置の内容により、企業規模および義務化年齢を超えて65歳まで引き上げた年数(雇用確保措置期間)に応じて、下記の額(最大300万円)が1回限りで支給されます。

雇用確保措置内容   ①定年延長等及び定年廃止        ②継続雇用制度
雇用確保措置期間    3年    2年    1年     3年     2年     1年
(歳)          (62→65)(63→65)(64→65) (62→65)(63→65)(64→65)
企業規模
1人~9人        60万円  40万円  20万円   45万円  30万円  15万円
10人~99人     120万円  80万円  40万円   90万円  60万円  30万円
100人~299人   180万円 120万円  60万円  120万円  80万円  40万円
300人~499人   270万円 180万円  90万円  180万円 120万円  60万円
500人~        300万円 200万円 100万円  210万円 140万円  70万円


通勤手当の不正受給

会社への通勤手段は人により様々です。電車通勤の方やマイカー通勤の方、自転車や徒歩での方もおられるでしょう。例えば、事前に電車で通勤すると届け出た者が、会社に偽って自転車で通勤していました。そのことが判明した場合、会社側は支給した通勤手当の返還を求めることはできるのでしょうか。

◆通勤手当とは

通勤手当は通勤にかかる費用を、会社が現金または定期券などの現物で社員に支給する制度です。本来通勤にかかる費用は労働者が負担すべきものですが、社員の福利厚生の一環として住所や通勤経路の届出を求めたうえで、合理的な経路による費用を賃金の一部として支給する会社が多くなっています。

◆返還は

通勤手当は賃金なので、通勤に使ったかどうかにかかわらず受け取ることができるとの見方もありますが、実際にかかる費用を支給する仕組みなので、使っていないならば返還しなくてはならないとの見方が大勢です。
本来払わなくてもよい通勤手当を払うことになれば、「会社に経済的損害を与えてはならない」という労働契約上の信義則に違反します。また、自転車通勤なのにあたかも電車などを利用しているように装えば、通勤経路の虚偽申告になります。

◆返還の範囲と処分

今回のように会社が社員の不正な行為により過払いとなった賃金の返還請求をする場合は、民法上の不当利得返還請求権に基づいて行うことになります。したがって、労基法上では賃金の支払い請求権は2年(退職金5年)で消滅しますが、民法上の時効に従うこととなり、過去10年以内の不正受給分までさかのぼって返還請求することができることになります。
加えて懲戒処分として、賃金の減給処分をすることが考えられますし、また、降格、出勤停止などの処分をすることも考えられます。

◆通勤災害でも

通勤手当の不正受給は会社の処分の対象になるだけではありません。万が一、届出と違う経路での通勤途上に交通事故に遭遇した場合、労災保険上の通勤災害として認められない可能性もあります。それは、通勤災害による給付の対象が合理的経路の途上での事故などに限定されており、届出と違う経路での通勤が、合理的経路であったとはみなされない可能性があるからです。


改正介護保険法の施行

2005年3月に介護保険法が改正され、その大部分が2006年4月より施行されます。介護保険制度の基本理念である、高齢者の「自立支援」、「尊厳の保持」を基本としつつ、『介護予防』をキーワードに、給付費のかさむ利用者を増やさないようにして、高齢化で膨らむ傾向にある給付費の増加を抑えることが狙いです。

◆予防重視型システムへ

従来の介護認定は、要支援・要介護1~5の6段階(新制度では要支援が1、2に分かれ、7段階)に分かれていますが、その内訳をみると要支援と要介護1の「軽度の要介護者」で全体の約半数を占め、さらに、この「軽度の要介護者」の約半数が認定後に重度化していると言われています。
ところが、介護保険の創設時は、状態を改善に向かわせることに重点を置いた、いわゆる予防的なサービスはほとんど考えられていませんでした。
そこで、この「軽度の要介護者」に対する介護予防に重点が置かれたわけです。

◆予防通所介護と予防訪問介護

介護予防サービスは筋力トレーニングなど利用者が施設に通って受ける「予防通所介護」と、従来の介護サービスを予防中心に変えた「予防訪問介護」の二つが柱です。予防通所介護は、体力向上のための栄養指導や、体操や器具を使った筋トレなどを、従来のような集団ではなく、一人ひとりの状態に応じて目標や期間を定めて実施します。予防訪問介護は、今までのような全面的な家事代行はせず、例えば自宅を訪れたヘルパーさんと一緒に料理を盛りつけたり、洗濯物を畳んだりするなど、利用者の自立度を高める内容となっています。

◆費用は

予防通所介護と予防訪問介護のいずれも事業者による無駄なサービス提供を抑えるため、回数に応じた出来高払いではなく、月あたりの定額制としました。長時間サービスを受けても同一の内容なら、利用者は追加負担は不要であり、負担費用の予測がしやすくなります。


内定の取消しは解雇?

新規学卒採用の場合、一般的には採用の内定を決定した後、本採用まで相当の期間が空くことがあります。
この期間に、つまり採用の内定後に例えば会社の業績が段々と悪化したため、採用内定を取り消したいような場合、内定の取消しは法律上「解雇」に該当するのでしょうか?

◆該当するのかしないのか

このような場合、採用内定通知を法的性格からみると、

①採用内定通知によって労働契約が成立しているとみなされる場合と、
②採用内定通知が単なる労働契約締結の予約とみなされる場合との2つに分けられます。

①に該当する場合、労働契約は採用内定通知によって有効に成立しているといえるので解雇に該当することとなります。また②に該当する場合、又は採用手続における単なる事実行為とみられる場合は、労働契約は未成立であるから解雇の問題は生じないことになります。

◆行政解釈では

採用内定には、会社の採用手続に関する定めや従来の慣例など、具体的な個々の事情に即して種々の態様のものがありますので、その法的性格を一律に論ずることはできませんが、行政解釈では、判断要素として
(1)採用通知に赴任日が指定されている場合は、一般的には採用通知が発せられた日に労働契約は成立したとみなされる要素が強いと思われる、
(2)採用通知が条件を付さないで行われた(赴任または出社について特段の意思表示がないなど)あるいは採用通知に赴任・出社日が特定されていない場合は一般的には労働契約締結の予約と認められる要素が強いと思われる、
などを示しています。

◆取消しが認められるケース

今回のように採用内定後の経営状況の悪化を理由に採用内定を取り消すのではなく、内定者本人の事情により採用内定の取消しが認められることもあります。具体的には、新規学卒(予定)者が学校を卒業できなかった場合や、病気やけがのため採用日から長期にわたって勤務ができない場合です。その他経歴詐称など、採否の決定に関する重大な事項に関し、虚偽があった場合などが考えられます。


年金の加入期間がネットで確認可能に

社会保険庁は、年金の加入期間などの記録をインターネットのホームページ上で確認できるサービスを近々開始します。加入記録の照会に関する申請手続・記録の受取りはこれまで、社会保険事務所に直接足を運んで行うか、申請のみインターネットで行い、郵送で記録を受け取る方法などが一般的でした。

◆今後は

ここ数年、社保庁へ、年金の権利が手続き上のミスなどで失効していないか、将来受け取れる年金見込額はどのくらいかなどの問合せをする人が多いですが、その手続きは非常に手間がかかるという不満もありました。このサービスが始動すれば一度登録するだけで、インターネットを通じて、いつでも自分の年金記録を確認できるようになります。

◆利用法は

社保庁では3月下旬からホームページ上で利用希望者を受け付けています。申込み後に郵送で、インターネット上での閲覧に必要となるID番号とパスワードが郵送で送られてくるので、それを入力すると年金記録を確認できるという仕組みです。

◆具体的には

閲覧が可能となるのは、国民年金と厚生年金の加入・未加入期間。種々の保険料免除制度などを利用していた期間。また厚生年金の場合は、保険料を納めていた期間に所属していた企業名や、標準報酬月額(保険料算出の基準となるもの)も確認ができます。


転職先に部下を引き抜いたら?

昨今よく耳にしますが、引抜き、いわゆるヘッドハンティングによる転職の際、引き抜かれた転職者が、転職先で前の会社の部下を勧誘することは法律上何か問題となるのでしょうか。

◆原則として

労働者には転職の自由があり、企業間には自由競争の建前があります。退職後に行う従前の会社従業員の勧誘・引抜行為は、通常の勧誘行為にとどまる限り、原則として違法性は無いとされています。特に最近は職業選択の自由が優先される傾向にあり、裁判でも引き抜く側に有利になる傾向があるようです。

◆不法行為となる場合

とはいえ、損害賠償請求が認められた判例もあります。それは、引抜き行為が社会的相当性を著しく欠くような方法で行われた場合とされています。社会的相当性の判断基準となる要件は、引き抜かれた人数や、当事者の地位、引き抜かれた企業が被った損害の程度、勧誘行為の計画性などです。いずれの要件も具体的な数字・文言で線引きされているものではなく、個々の裁判で総合的に判断されるものです。

◆企業の対応策は

企業としては、このような引抜きの防止策として、社内規定で退職後2年以内の競合他社への転職を禁ずる旨を定めたり、個別に契約を交わしたりすることが考えられます。
また、転職者が機密情報を漏洩した場合には不正競争防止法違反で別途責任を問うこともできます。
 

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