人事労務の時事解説 2006年5月号

 

CSR(企業の社会的責任)への対応

◆新たな取引先獲得のチャンス

CSR(Corporate Social Responsibility)への意識が高い大企業を中心に、取引先の法令順守体制をチェックする動きが相次いでいます。中小企業にとっては、選別される一方で、新たな取引先を獲得するチャンスにもなり得るのではないでしょうか。

◆CSRとは

CSRとは、「企業の社会的責任」という意味で、「企業は法律を守り、提供する商品やサービスに責任を持ち、従業員が働きやすい環境をつくり、地域社会に貢献し、地球環境に配慮した活動をしなければならない」といった企業のありかたを表現した言葉です。「社会的」責任とは、「私的」または「自己」責任に対するものといえます。

◆欧米からの流れ

日本企業のCSRは、従来、環境対策によって取引先を選別する「グリーン調達」などが中心でしたが、近年は法令順守体制の整備に重心が移ってきました。
すでに欧米の企業の多くはCSRへの対応状況によって取引先を選別しています。日本貿易振興機構(JETRO)によると、某大手メーカーが世界各地の工場に対して労働条件や衛生、環境などの独自基準を示して順守を要請し、その達成状況をチェックし、2004年までに55工場との取引を停止したというケースがあるそうです。日本でも今後こうした動きが出てくることが予想されます。

◆今後の展望

現状では、「人手が足りない」、「コストの増加が予想される」などといった理由から、なかなか対策をとれない中小企業が多いようです。
その中で、国際標準化機構(ISO)は現在、CSRの規格化を検討中であり、策定の見通しも立っています。国際規格ができれば取引先企業にCSR導入を求める動きは強まり、対応できなければ取引上の不利は必至であるとみられます。
大企業の要求に応えることは、中小企業にとって負担となる一方、他社との差別化につながるのではないでしょうか。


米国の年金を申請するには?

◆「日米社会保障協定」が発効

昨年10月に、年金加入期間を通算する「日米社会保障協定」が発効されました。日本の事業所に勤務する人などが、米国にある支店や駐在員事務所などに派遣されていた場合に、米国から公的年金をもらえる制度がすでに始まっています。

◆受給資格は

年金加入期間を通算して米国の年金を受け取る場合には、日本の年金加入期間を米国の年金制度に加入していたものとみなして取り扱います。
米国の年金で6クレジット(1クレジット=3カ月に換算)以上取得しており、米国の年金加入期間と、重複する期間を除く日本の年金加入期間とを通算して、米国の老齢年金を受けるために必要な期間である10年を満たしていれば、米国の老齢年金を受けることができます。
以前はこの通算ができなかったため、保険料が掛捨てになるケースが大半でした。

◆申請手続きは

①日本の社会保険事務所で仮申請書「合衆国年金の請求申出書」をもらいます。(社会保険庁のホームページからも入手可能)
②氏名や生年月日、配偶者、子(18歳未満で未婚)の情報などを記入します。添付書類として、戸籍抄本またはパスポートの写し(配偶者または子がいる場合は、戸籍謄本)と、年金手帳または年金証書の写しが必要となります。
③数カ月後、米社会保障庁のフィリピン・マニラ事務所から本申請書、銀行振込依頼書などが届いたら、必要事項を記入し、原則6カ月以内に返送します。(送料は自己負担)
④後日、米社会保障庁本部から仮の通知書が届き、さらに後日、受給資格を承認する通知書が届きます。
⑤受給開始に伴い、毎月銀行口座に円建て(在米銀行指定の場合はドル建て)で振り込まれるか、ドル建ての小切手が郵送で届きます。

◆現状での注意点

現在、非常に多くの申請がなされており、手続きにはかなり時間がかかるようです。また、自分の加入記録や受給見込み額を調べたいときは、米社会保障庁に直接問い合わせるしかありません。日本の社会保険事務所では、具体的な内容までは把握していない場合が多いようです。
この協定の発効により、赴任予定が5年以内の場合は米国の年金に入る義務がなくなったため、新たに赴任する人は、通常、年金通算の恩恵を受けられないこととなる点に注意が必要です。


国民健康保険の未納問題

◆「未納問題」は年金だけではない

最近、国民年金保険料の未納問題が指摘されていますが、年金だけでなく国民健康保険も保険料未納の問題が深刻になっています。国民皆年金・皆保険体制の空洞化は、負担と受益との関係を希薄にし、未納をさらに増やす悪循環につながります。

◆「保険料」を「税」で負担

国民健康保険の運営は、原則として市区町村単位ですが、「保険料」と思っているものが実は「税」として集められている現実はあまりしられていないかもしれません。

なぜ「税」なのか

「国民皆保険」とは、個人の自助努力のみでは治すことが難しい病気・けがなどのリスクを、加入者すべての負担で引き受け、その見返りとして加入者全員が等しく給付を受ける権利を持つというものです。財源は、「税」ではなく負担と給付の関係が明確な「保険料」として集めるのが本来の姿といえます。
にもかかわらず、「税」として徴収する自治体が多数を占めるのはなぜでしょうか。「当初は保険料の支払いを呼びかけても『何それ?』という反応が多く、確実に集めるには『税』の威光に頼らざるを得なかった」というのが厚生労働省の考えです。

◆未納対策は

「税」であろうが「保険料」であろうが、未納の問題は起きるでしょう。長期の未納者には、医療費の保険給付分を償還払いにしたり、一時差し止めたりするペナルティーもありますが、事は人命にかかわる問題です。自治体にしてみれば、「払わないのなら、受けるな」と単純に割り切るわけにもいきません。
現状のシステムのままでは強制加入・強制徴収の実は上がらないでしょう。国レベルで考えると、年金保険料の徴収は、社会保険庁に任せるより、国税庁と社会保険庁を統合させた新組織が担ったほうが効率的であり、未納減らしにつながるのではないでしょうか。


生活保護と国民年金

◆生活保護の支給額削減へ

現在、厚生労働省は生活保護の支給額削減を検討しています。国民年金は少子高齢化に伴って中長期的に減額となる可能性が高く、「このままでは保険料を払わず老後を安易に生活保護に頼る人が増える」との指摘があるように、年金保険料を長年払い続けてきた人より、保険料を払わないで生活保護を受ける人の所得が多いケースがあるためです。2007年度から、段階的に国民年金(基礎年金)の支給額以下に引き下げる方針です。

生活保護とは

生活保護は、生活、教育、医療、介護など8種類の扶助があります。医療扶助および介護扶助は、医療機関等に委託して行う現物給付が原則であり、それ以外は金銭給付が原則です。
厚生労働大臣が定める基準で測定される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に保護が適用され、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。
収入としては、就労による収入、年金等社会保障の給付、親族による援助、交通事故の補償等のほか預貯金、保険の払戻金、不動産等の資産の売却収入等も認定されるため、これらを使い尽くした後に初めて保護適用となります。

◆生活保護世帯数の増加

生活保護を受けている世帯数は、2004年度は月平均で99万8,887世帯でした。1995年度は平均60万1,925世帯であったことから、ほぼ10年で約1.6倍にまで増えたこととなります。
生活保護を受ける世帯は高齢者世帯が多く、その背景には、年金保険料未納など、年金制度の空洞化問題があります。

それぞれの支給額は?

それぞれの支給額はどうなっているのでしょう。国民年金では、40年間保険料を払い続けた人で月額約6万6,000円であるのに対し、生活保護の支給額は年齢や地域によってそれぞれ異なりますが、生活扶助分のみで8万円を超え、さらに家賃を払っている場合に上限が約1万円の住宅扶助が加算されるケースもあります。


高額医療費の申告漏れ防止のための通知サービス開始

◆高額療養費制度の内容

「高額療養費制度」は、1カ月以内に同じ医療機関等に支払った医療費が自己負担の上限額を超えた場合、超えた分が高額療養費として後から払い戻される制度です。上限額は年齢や所得に応じてそれぞれ異なっており、一般的な所得の70歳未満の人の場合、「72,300円+(医療費-241,000円)×1%」が上限額となり、これを超えた額が請求により払い戻されます。還付申請の期限は2年間です。

◆還付申請の状況

社会保険庁は、高額療養費制度を利用できるケースが、2003年度で約179万件あったとみていますが、同庁が運営する政府管掌健康保険(中小企業の会社員ら約3,600万人が加入している)の加入者の中には、制度自体を知らない人も多く、実際に制度を利用し還付を受けた加入者は110万件で、約69万件は還付申請がなされませんでした。

◆還付申請が可能なことを通知する新サービス

申請漏れを防止するため、同庁は2006年4月から、高額療養費の還付申請できることを対象者に通知するサービスを始めました。高額療養費制度を解説したパンフレットとともに、該当する加入者に「申請案内」を発送するものです。これまで社会保険事務所ごとの対応が異なっていたため、社会保険庁の事業運営評議会は、対象者へ通知するか否かの対応の統一を求めていました。
健康保険組合や公務員の共済組合ではすでに、申請しなくても還付されるシステムが導入されています。

今後は還付申請自体が不要に

また、2007年4月を目処に、還付申請が不要になるとされています。医療機関の窓口で上限額まで支払えば済むようになり、これにより患者の負担は大幅に軽減されます。ただし引き続き申請が必要なケースとして、複数の医療機関で受診している場合や、介護保険を併用している場合があります。

男性の「安定雇用」と「家事・育児時間の確保」が少子化解消に?

◆厚生労働省の調査によると

少子化対策などの基礎資料を得るため、厚生労働省は、「21世紀成年者縦断調査」として平成14年10月末に20~34歳だった全国の男女とその配偶者を対象に調査を行い、さらに平成15年・16年と毎年追跡調査を実施しました。そして今回、平成16年11月に行った調査の結果が発表されました。

◆非婚・晩婚化は男性の不安定な雇用が原因か?

平成14年に独身だった男性のその後の結婚率の調査では、本採用の正規雇用者のうちの10.5%が2年以内に結婚していたのに対し、非正規雇用であるアルバイトやパートでは3.3%、無職では2.8%にとどまっており、正規雇用者は非正規雇用者や無職者に比べ3倍以上の率で結婚していることがわかります。
これに対し女性は、結婚率に雇用形態による顕著な差はみられず、正規雇用でも非正規雇用でも11%前後が結婚し、無職者も7.7%が結婚していました。

◆子ども誕生の鍵は夫の家事・育児

「子どもが欲しい」と考えていて、夫の休日の家事・育児時間が増えた夫婦のうち、30.4%がこの1年間に子供が誕生しましたが、逆に減った夫婦では20.2%でした。
また、平成14年の調査時に第1子がいて、その後1年以上第2子が誕生していない夫婦を分析したところ、夫の家事・育児時間が増えた夫婦では22.0%に第2子が誕生し、減った夫婦では12.4%にとどまっています。
今後の少子化対策は、男性の安定した就業と家事・育児時間の確保が重要な鍵になってくるでしょう。


雇用保険の福利厚生事業が廃止される?

◆雇用保険事業の抜本的見直しへ

厚生労働省は、雇用保険事業を抜本的に見直し、平成18年内にも見直しの具体案をまとめるそうです。
見直しの中心となるのは、必要性や効率性が疑問視されていた、雇用機会の拡大や福祉増進のための助成事業の改廃です。早ければ平成18年度にも、中小企業の社員を対象に健康増進など福利厚生を主な目的としている事業が、原則として廃止されます。廃止の対象となるのは、財形制度の導入促進策やボランティア参加の基盤づくりへの助成事業、時差出勤など快適な通勤を促す啓発事業などです。

助成金の見直し

また、利用率が極端に低い助成金についても見直しが行われます。景気の変動などで急激な事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に、解雇を防ぐ目的として助成される「雇用調整助成金」は、180億円の予算に対し、利用率は4%です。通常より多い賃金を支払って社員に再就職のための休暇を与えた企業へ支給される「求職活動等支援給付金」は、予算68億円に対し、わずか1%の利用率にとどまっています。

国庫負担の縮減も

国庫負担の縮減も検討されます。国は、失業給付の一部など年間約4,000億円を支出していますが、財務省から見直しを求められています。縮減される結果、失業者らへの給付の削減や保険料アップなどを行わざるを得ない状況になりますので、労使からの反発は必至で、調整は難航する見込みです。
 

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