人事労務の時事解説(2006年6月号)

人事労務の時事解説 2006年6月号


支給日前に退職する者への賞与不支給は可能か

◆賞与の支給に関する問題点

賞与の支給について、1〜6月を算定対象期間として7月末に支給するようなケースで、賞与の支給算定対象期間のすべてに勤務していた社員が支給日より前に退職する場合に賞与を不支給としても、問題はないのでしょうか。

◆賞与不支給が可能な場合

次の@、Aのいずれかに該当する場合には賞与を支給しないことが可能といえます。
@賞与支給日に在籍していることを賞与の支給条件としており、就業規則、労働協約、労働契約に定めている、あるいはそのような労使慣行がある場合
A退職日までに賞与の支給額や算定方法が決定していない場合

◆支給日在籍要件とは

上記は@は、「支給日在籍要件」と呼ばれるもので、賞与の受給権の取得につき当該支給日に在籍することを要件とする慣行は、その内容において不合理なものということはできず、従業員がその存在を認識してこれに従う意思を有していたかどうかにかかわらず、事実たる慣習として社員に対しても効力を有するものというべきものである、といった裁判例があります。

したがって、@のような場合には算定対象期間の全部または一部勤務した社員であっても、賞与の支給日より前に退職する者には賞与を支給しないことが認められると考えられます。ただし、例年より支給日が遅れたために、例年の支給日には在籍していたが実際の支給日前に退職した者には、「支給日在籍要件」は適用されません。

◆支給日在籍要件がない場合

では、「支給日在要件」がない場合はどうなるのでしょうか。この場合には、上記Aに該当するか否かが問題となります。賞与の請求権について、査定などを経て、使用者が具体的な支給額またはその計算方法が決定した時点、あるいはこの点について労使の合意が成立した時点以降から生ずる、とする考え方が有力だからです。

この解釈によると、支給額またはその計算方法が決定される日までの間は、社員には賞与の請求権がないことになりますので、たとえ、賞与の算定対象期間の全部に勤務していても、決定日前に退職する者には賞与を支給しないという取扱いが可能となります。


早朝や深夜の出張のための移動は時間外労働か

◆出張の移動時間は労働時間になるのか

地方への出張のために、早朝に出発したり、帰りが深夜になってしまったりすることがあると思いますが、通常の通勤とは異なるこれらの移動時間は給料に反映されるのでしょうか。

◆待機時間は労働時間

労働基準法には、労働時間の内容を細かく定義した条文はありません。行政解釈上は「使用者の指揮監督下にある時間」とされており、実際に仕事をした時間のほか、次の仕事に備えて待機した時間も労働時間に含まれます。

例えば長距離トラックの運転手が、2人で交代しながら運転するような場合、1人が運転しているときにもう1人が助手席で仮眠していても、それは待機時間であり、労働時間として計算されます。これは移動そのものが仕事と解されるからです。

◆移動時間は通勤時間

原則として、出張先に向かう移動時間は通勤時間と同様で、労働時間とはいえないこととなります。つまり、出張先で法定労働時間を超えて働けば、時間外労働として割増賃金が発生します。しかしながら、早朝や深夜であっても移動時間であれば時間外労働には当たらず、割増賃金も発生しないということになります。

同様に、休日明け朝一番に地方で仕事があるため、前日の夜に現地入りしたとしても、休日の移動時間は労働時間にはなりません。

◆企業としての対応は

とはいうものの、取引先に向かうだけの移動も、目的は当然仕事です。本来ならば好きな場所で好きなことができる通常の休日と違って、出張のために休日移動する時間は、それ自体は労働でなくとも行動の制約を受けます。その実態に鑑みて、多くの企業は出張の距離や所要時間などに応じて「手当」や「日当」を支給しています。

支給額などをめぐる争いが起きないよう、会社側は手当や日当の性質、支給基準を明示する必要がありますし、社員も内容を確認しておくことが重要といえます。


社員のブログでの書込みはどこまで許される?

◆ブログの普及

最近はブログを利用して職場での出来事、仕事の愚痴を書き込む人が多くなっているようです。
社内の出来事や愚痴をブログに書き込んだ場合、会社が当該社員を処分することは可能なのでしょうか。

◆「出版物」と同じ扱いになることも

自分自身の楽しみや仲間との交流の場として私的に利用しているブログでも、原則として、誰でもアクセス可能なウェブ上に公開した内容は、出版物などによる公表と同等の扱いを受けることがありますので、掲載には注意が必要となります。

◆公益通報者保護法との関係

公益通報者保護法は、公益のために通報を行った労働者に対する解雇等の不利益な取扱いを禁止する法律で、今年4月1日に施行されました。

ブログは公益通報者保護法の保護対象ではないとされていますが、ブログに会社の不正行為を書き込んだために会社から処罰された場合などは、この書込みを内部告発とみれば、内容が真実と信じるに足る内容ならば社員の立場が守られ、懲戒等の処分が取り消される場合があるといえるでしょう。

◆内部告発といえるか?

一般に、内部告発か否かの判断のポイントは、@書いた内容の真実性、A目的の妥当性、B方法の適当性だとされています。

目的は、個人的な恨みを晴らすことなどのように私的なものではなく、会社の不正を正すことなどの公益性の高いものであることが望ましいといえます。

公表の方法も、ネットで突然公開するのではなく、まずは勤務先や監督官庁などに是正を働きかけたほうが保護される可能性が高いでしょう。

◆言論の自由との関係は?

内部告発とみなされなくても、公表した内容が真実であると信じられる根拠があれば、原則として、「言論の自由」に基づき守られるでしょうが、その内容が会社が定める企業秘密であったり、社内規程で公開を禁止している事柄であれば、懲戒等の処分は有効になる可能性は高いといえます。


パートタイム労働者の活用が重要に

◆企業におけるパートタイム労働者の現状

パートタイム労働者は、企業の現場において質的にも量的にも基幹化が進み、今や欠かせない存在となっています。今後、人口減少社会が到来し、労働力が不足する時代を迎えると、戦力となるような優秀なパートタイム労働者を確保するとともに、その能力とやる気を引き出して企業の活性化につなげていくための取組みがより一層重要になってくるでしょう。

しかし、パートタイム労働者が増加する一方、企業経営の現場においては、パートタイム労働者の能力とやる気を引き出すためのノウハウが積み重ねられておらず、企業によってその取組みの程度には大きなばらつきがあるのが現状です。

◆「パート活躍度診断サイト」がオープン

財団法人21世紀職業財団では、パートタイム労働者を雇用する事業主が、自社の雇用管理の状況をチェックできるとともに、それに基づくアドバイスを受けられ、さらには他社の事例を閲覧できる「パート活躍度診断サイト」(http://parttimers-21.jp)を、4月1日にインターネット上に開設しました(利用は無料)。

パートタイム労働者がいきいきと働ける職場環境を整備するために、企業において積極的に活用することが望まれています。

◆「パート活躍度診断サイト」の概要

@ 企業の取組み状況を入力する
賃金、人事評価、手当、正社員への転換制度といったパートタイム労働者の雇用管理について、パートタイム労働者の能力・就業意欲を引き出す取組みがどの程度できているかをチェックするための質問に、事業主が回答します。
A 診断結果をもとにアドバイスを受ける
質問への回答結果をもとに、項目ごとに「A・B・C」の3段階で取組状況についての評価が提示され、それをもとに総合評価が提示されます。
B 他社事例の紹介も
その他、取組みに成功している企業の「事例」を豊富に紹介しています。


年金が支給されない場合の救済手続

◆「社会保険審査制度」とは?

受け取れると思っていた公的年金や医療保険が支給されない…。そんな事態に直面したとき、行政に審査のやり直しを求める手続きが「社会保険審査制度」です。

同制度は、原則的として、社会保険審査官を経て社会保険審査会へ請求する「二審制」で運用されますが、国民年金・厚生年金の脱退一時金、厚生年金・健康保険料の不服については、社会保険審査会に請求をする「一審制」となっています。

なお、国民健康保険と共済に関する不服については対象外です。

請求手続は無料ですが、法律的に価値のある証拠を準備したり、公開審理の場で正論を述べたりすることが必要な場合には、専門家の手を借りることを検討したほうがよいでしょう。

◆件数はどのぐらいある?

請求(審査請求、再審査請求)の件数は、1999年度から2004年度までの5年でほぼ倍増しています。その要因としては、国民年金保険料の免除基準の変更等が挙げられていますが、年金問題への関心の高まりも請求件数の増加に拍車をかけているようです。

持ち込まれる請求で一番多い案件は、障害年金関連です。2004年度の結果をみると請求全体の約4割であり、その大半が等級認定の不服となっています。

審査会の裁定結果は1年分ずつまとめて公表されることになっているため、類似のケースの有無や勝算を考察するには参考となります。


「最低賃金」って何?

◆「最低賃金制度」の概要

「最低賃金制度」とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定めたものであり、使用者はその最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとされています。使用者が最低賃金より低い賃金条件を定めたとしても、それは無効となり、最低賃金額と支払った額との差額を労働者に支払わなければなりません。

◆最低賃金には3種類ある

現在、最低賃金の種類には「地域別最低賃金」、「産業別最低賃金」、「労働協約の拡張適用による地域的最低賃金」の3種類があります。

「地域別最低賃金」とは、産業や業種に関係なく、すべての労働者とその使用者に対して適用され、47都道府県に1つずつ定められています。平成17年のデータでは、最高が東京の704円(1時間当たり。以下同)、最低が青森、岩手、秋田、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄の608円となっています。

「産業別最低賃金」とは、特定の産業について、関係労使が基幹的労働者を対象として、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認められるものについて設定されており、現在、249の最低賃金が設定されています。

「労働協約の拡張適用による地域的最低賃金」とは、一定の地域の同種の労働者および使用者の大部分に賃金の最低額を定めた労働協約が適用されている場合、労使のどちらか一方の申請に基づいてその賃金の最低額がその地域のすべての労働者に拡張して適用される制度で、現在2つの最低賃金が設定されています。

◆最低賃金の対象となる賃金

最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金に限られます。具体的には、基本給と諸手当(精皆勤手当、通勤手当、家族手当などを除く)が対象です。最低賃金から除外される賃金には、臨時に支払われる賃金、賞与、時間外割増賃金などがあります。

労働者には地域別最低賃金か産業別最低賃金が適用されますが、労働能力等が異なるため、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭める可能性がある労働者(精神または身体の障害により著しく労働能力の低い方、試用期間中の方、認定職業訓練を受けている方、所定労働時間が特に短い方など)については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に適用除外が認められています。