人事労務の時事解説(2006年7月号)

人事労務の時事解説 2006年7月号


国民年金保険料の新しい免除制度がスタート

◆7月1月から始まる新たな制度

国民年金の保険料を納めやすくするために、この7月から新たな制度がスタートします。この制度は、所得に応じて保険料を軽減する仕組みですが、果たして、現在問題となっている「保険料未納問題」に対する有効な手立てとなるのでしょうか。

◆従来の免除制度

保険料の免除制度は、自営業者等の国民年金第一号被保険者に設けられた制度です。従来の免除(猶予)制度には、「全額免除」、「半額免除」、「学生の保険料の納付特例」、「30歳未満の保険料納付猶予」の4つがありました。

7月からは、「4分の3免除」と「4分の1免除」の新しい免除制度が加わります。

◆所得基準はどうなっているか

免除を受けることができるかどうかは、前年の年収から必要経費を差し引いた「所得」により決まります。「4分の3免除」に該当するには、所得が「78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」以下であること、「4分の1免除」に該当するには、所得が「158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」以下であることが必要となります。

しかし、この基準だけでは判断しづらいため、社会保険庁では、世帯累計別に次のような所得の目安をつくっています。

◆免除の世帯構成別所得基準の「目安」

○4人世帯の場合(夫婦と子供2人)
162万円(全額免除)、 230万円(1/4納付)、
282万円(1/2納付)、335万円(3/4納付)
○2人世帯の場合(夫婦)
 92万円(全額免除)、 142万円(1/4納付)、
195万円(1/2納付)、247万円(3/4納付)
○1人世帯の場合(単身)
 57万円(全額免除)、  93万円(1/4納付)、
141万円(1/2納付)、189万円(3/4納付)

複数人数の世帯は、夫か妻のどちらかのみに所得がある場合で、子供は16歳未満の場合となります。控除額は世帯によって異なるため、これはあくまでも「目安」です。


社員旅行には参加しなくてもよいか

◆社員旅行への「参加義務」

会社の社員旅行は、半ば強制参加である場合が多いかもしれませんが、予定が合わない場合やどうしても参加したくない場合もあると思います。社員には、社員旅行に参加する「義務」があるのでしょうか。

◆業務命令か否か

社員旅行に参加する義務があるかどうかは、その旅行が雇用契約上の「業務命令」に該当するかどうかによります。その社員旅行の目的が、単に親睦を深めるためだけにある場合は業務命令には該当しないこととなり、参加しなくても問題はありません。

しかし、例えばその旅行中に、業務上必要な研修や会議などが含まれる場合は、会社が業務命令として参加を強制することができるため、参加しなければならないこととなります。

◆業務命令に該当する場合とは

業務命令に該当する社員旅行の場合、参加している時間は勤務時間となり、費用もすべて会社負担となります。また、社員旅行が休日に設定された場合は、「時間外勤務」もしくは「休日勤務」となり、割増賃金が支払われることとなります。

この観点からすると、業務命令であっても通常の勤務時間に当たるため、有給休暇を取得することも可能です。ただし、有給休暇の取得が事業の妨げになる場合には、会社は時季変更権を行使して休暇の取得を拒否することもできます。

◆旅費の取扱いは

会社によって違いはありますが、労働基準法の規定では、労働組合との協定がある場合などは、月給などの賃金から天引きすることも可能です。この場合の積立金は、会社に返還義務があります。

一方、社員が自主的に親睦会費として積み立て、社内規約で返還しないことを定めている場合は返金されないこともあります。


同一県内の転勤でも通勤災害に?

◆通勤災害の対象が拡大

今年4月1日に施行された改正労災保険法により、単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居との間の移動中の災害について、業務との関連性を有するものについては通勤災害の対象となりました。
それでは、同一県内における近距離の転勤による単身赴任の場合も通勤災害の対象となるのでしょうか。

◆改正法の内容

今回の改正では、住居と就業の場所との往復に先行し、または後続する住居間の移動についても、通勤災害制度の対象となる「通勤」に該当することとされました。

転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となったため住居を移転し、同居していた配偶者、子、要介護状態にある親族とやむを得ない事情により別居している労働者であることを満たす者による移動が対象とされたものです。

◆「通勤が困難な場合」とは

では、同一県内での転勤はどう判断するのでしょうか。前述した「距離等を考慮して困難」の判断について、通達では、「その経路について、徒歩による測定距離や鉄道事業法に規定する鉄道運送事業者の調べに係る鉄道旅客運賃算出表に掲げる距離等を組み合わせた距離が60キロメートル以上の場合、または、60キロメートル未満であっても、移動方法、移動時間、交通機関の状況等から判断して60キロメートル以上の場合に相当する程度に通勤が困難である場合」とされています。

◆実態に即した判断

つまり、単身赴任者に係る「通勤が困難」の判断については、転勤直前の住居と転勤先の就業場所との距離が、原則60キロメートル以上であることが必要となります。

したがって、同一県内での転勤であっても、転勤前住居から転勤先の職場の距離が60キロメートル以上あれば通勤が困難と認められ、その移動が就業に関して行われているものであれば、住居間の移動は通勤災害の対象となります。

一方、他県への転勤であっても、通勤が困難とは認められず、住居間の移動は通勤災害の対象とならない場合もあり、実態に即した形で判断されることになります。


勤務時間中の株取引は処分の対象となるか

◆就業中の株取引

最近、株取引を始める人が増えてきているようですが、一般的な株取引の時間は会社の就業時間と重なります。会社員が就業中に持ち株の値動きが気になってしまい、職場のパソコンや携帯電話を利用して株価をチェックした場合、処分の対象とすることはできるでしょうか。

◆就業規則で禁止する

就業中の株取引は、労働契約に基づく「職務専念義務」に違反する可能性が高いといえます。企業は、就業規則に定めれば、社員が勤務時間中に株取引を行うことを禁止することができます。他にも、私用メールなど、私的行為と判断できる行為については就業規則に定めて禁止するのが一般的となっています。

会社によって私的行為の許容範囲は異なりますが、繰り返し違反する場合には労働義務を果たしていないとして、解雇の要件に触れる場合もあります。株価のチェックや売買は、この私的行為に該当するといえます。

◆休憩時間の株取引は許されるか

では、休憩時間の株取引は認められるのでしょうか。
休憩時間は、自由利用の原則から、株価のチェックや売買も認められるように思えますが、職場のパソコンなどを仕事以外に用いることは会社の許可がないとできないという見方もあります。

最近では社員1人に1台のパソコンを貸し与える会社も多くなり、個々の従業員がパソコンを私的に利用しやすい状況にありますが、会社から貸し出されたパソコンを私的に使用する場合は会社の許可を必要とするとするのが望ましいでしょう。

◆会社側のチェック

会社が従業員のパソコンの通信履歴を見る際には、人格権などに配慮する必要があり、「目的に応じて社会的に相当な理由がいる」とされています。パソコンの私的利用などを未然に防止するためには、ネットへの接続状況をチェックできるように社内規程で定めておくなどしておくことが望ましいでしょう。


契約社員が業務災害で休業中の契約期間満了について

◆契約社員が休業中の契約期間満了

契約社員(Aさん)が、仕事中に高所から転落して3カ月ほど入院することとなり、Aさんの入院中に契約期間が満了となるような場合、会社は、Aさんが休業中であっても予定通りに期間満了としてその後の更新を行わなくても問題はないでしょうか。

◆行政解釈では

労働基準法第19条第1項では、業務上災害による休業期間中とその後30日間について、労働者を解雇することを原則として禁止しています。

では、有期労働契約の期間満了日が上記期間中に到達する場合、その満了日をもって雇止めを行うことは同条違反となるのでしょうか。

この点について、行政解釈では、「一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後引き続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限りその期間満了とともに終了する。
したがって、業務上負傷し又は疾病にかかり療養するため休業する期間中の者の労働契約もその契約期間満了とともに労働契約は終了するものであって労働基準法第19条第1項の適用はない」としています。

◆有期労働契約の種類に注意

ただし一言で「有期労働契約」といっても、(ア)純粋な有期労働契約と認められる場合、(イ)期間の定めのない労働契約と同視できるような実態が認められる場合、(ウ)契約更新について労働者に合理的な期待が生じていると認められる場合の3つがあります。

(ア)の場合は期間満了とともにその契約は終了するため、解雇に問題はありません。
しかし、(イ)、(ウ)に該当する場合は、期間の定めのない労働契約と同様に、業務上災害で休業期間中とその後30日間は解雇できないこともありますので、注意が必要です。


介護保険の「生活援助」が認められない!?

◆「生活援助」が認められない

介護保険サービスでヘルパーが行う「生活援助」(掃除や買い物、調理、洗濯など日常生活を支える介護サービス)を、「要介護でない元気な同居家族がいる」という理由で認めない自治体が出てきています。
この対応に対し、利用者のケアプランを作成するケアマネジャーたちの間では、「高齢者夫婦などでは同居家族が介護をできるとは限らない」と、戸惑いが広がっています。

◆利用者増で税負担が拡大

介護保険制度は、要介護状態でも自宅暮らしを続けられるように、介護サービスを利用し、介護家族からの開放を目指した制度です。家族構成や収入と関係なく、要介護者個人の状態に応じてサービスを自由に使える仕組みのはずでしたが、利用者の増加による税負担が予想以上に拡大したため、厚生労働省はサービスの抑制を図っています。
本来、個々のサービス利用の適合性はケアマネジャーが判断すべきものであるはずが、自治体によっては「行き過ぎ」ともとれる介入を始めるところも出てきているようです。

◆自治体側の考えは

自治体側は「厚生労働省による介護費用の適正化事業に対応させている」と主張しています。厚生労働省の適正化事業は、サービス量を抑えるために運営基準を厳格に指導しようと、2003年から始まり、説明会などで生活援助サービスの利用について厳しい方針を強調してきました。これを聞いたケアマネジャーたちが、「自主規制」に走り、ケアプランの変更を始めるようになりました。

厚生労働省は、介護保険の導入時から「同居者規制」を打ち出しており、生活援助の対象者として、@単身者である、A同居家族に疾病か障害がある、Bその他やむを得ない状況にあるという3条件を挙げていました。全国的には、Bと判断してケアプランを作成するケアマネジャーが多くみられましたが、現在ではBの条件を狭める自治体が増えてきたようです。

◆サービス会社の反応は

自治体から「NO!」と説明され、生活援助を身体介護に切り替えてサービスを継続する大手の介護サービス会社もあります。利用者と一緒に買い物や掃除をすれば、「見守り的援助」として身体介護に入るからです。「身体介護」に変えると、1割負担額は約2倍になり、総費用も増えてしまいます。しかし自治体の中にはこの身体介護も規制する動きがあるようです。

介護保険制度の改定で市町村へ権限が移り行く中でも、本来の制度趣旨を見つめた運営が望まれます。


「うつ病」になりやすいタイプとは?

◆目に見えにくい「うつ病」の症状

日本人の5人に1人が、一生のうちで一度はうつ病を経験すると言われています。最近では、徐々にうつ病に関する知識が広まってきてはいますが、軽いうつ状態に悩む人は他人からは普通の状態に見られるため、「甘えているだけ」「怠けているだけ」などと誤解を受けたり、本人が病気であるとは気がつかずに適切な治療を受けていなかったりする場合もあるようです。

日常的なストレスからくる悲しみや不安・むなしさといった憂うつな気分や、無気力な状態が長期間回復せず、日常生活に支障をきたしてしまう病気がうつ病であると一般的に言われており、精神面、身体面に様々な症状が現われます。
これまで一般的には、原因別に「身体因性うつ病」、「内因性うつ病」、「心因性うつ病」と分類されてきましたが、最近では症状の程度と持続期間による分類がなされるようになってきました。

◆うつ病になりやすいのはどんな人?

環境に変化があった、仕事や私生活でストレスが溜まったなど、様々な要因が重なり合ったときにうつ病が発症する可能性があります。
現代では、誰もが複数のストレスを抱えており、うつ病とまったく無関係な人はいないとも言われていますが、特に以下のようなタイプの人がうつ病になりやすいといわれています。
・まじめで仕事熱心
・完全主義で几帳面
・仕事や家事を人任せにできない
・融通がきかない(思考が柔軟性に乏しい)
・人にどう見られているか非常に気になる

◆健康保険の傷病手当金と労災認定

うつ病で仕事を休み、「元の業務に従事できない」との医師の判断があれば、健康保険から傷病手当金の支給を受けることができます。
また、厚生労働省によれば、仕事上のストレスなどが原因の「精神障害」で2005年度に労災の認定を受けた人は127人、労災認定の請求した人は656人(過去最多)となっています。また、労災認定を受けた人のうち自殺者の数は42人(うち未遂2人)で、このうちの6割を20代〜30代の若者が占めています。


所得税減税による少子化対策

◆税制面でも少子化対策

平成19年度の税制改正において、少子化対策のための所得税減税を導入する方針を政府・与党が固めました。
次世代育成支援対策を推進し、子育てを行う家庭の経済的負担の軽減を図るため、児童手当がこの4月から拡充されていますが、税制面においても社会的な要求に応える必要があるとしています。

◆児童手当拡充の内容

改正児童手当法により、児童手当の支給対象年齢が、小学校3年修了前(9歳到達後最初の年度末)までから小学校6年修了前(12歳到達後最初の年度末)までに拡充されました。また同時に所得制限の緩和が行われ、所得制限限度額が、収入ベースで夫婦と児童2人の世帯の場合、780万円未満から860万円未満(サラリーマンの方)に引き上げられています。

支給対象年齢の引上げにより、対象児童数は約370万人増の約1,310万人となります。しかし、所得制限があるため、中高所得層には恩恵が及ばず、また、児童手当の総額が約2,650億円増の9,070億円にのぼり、「予算のバラ撒きである」との批判も出ており、これ以上の拡充策は困難であると思われます。

◆子育て減税の内容

扶養控除制度を見直し、税額控除を導入する案や、出生率が高いフランスで採用されている「N分N乗方式」を導入する案が出されています。

税額控除は、所得控除後の課税所得に税率をかけて税額を算出した後に、さらに一定額を控除する仕組みで、例えば、税額控除額が子供一人当たり10万円とすると、納税額がまるまる10万円減額されるため、減税効果が大きくなります。ただし、差し引くべき所得税がない人や所得税を納めていない人にとっては恩恵がありません。

「N分N乗方式」は、世帯総所得を家族の人数(N)で割った後に税率を掛けて一人当たりの税額を計算、家族の人数(N)を掛け直す方法ですが、子どもの数が多い世帯ほど税負担が軽くなるという特徴があります。しかし、高所得者ほど制度の恩恵を受けやすくなり、格差を広げることにもなりかねないと指摘されています。