人事労務の時事解説 2006年8月号

 

雇用保険の基本手当日額が変更されました
 
◆8月1日から適用

厚生労働省の毎月勤労統計調査による平成17年度の平均給与額が、平成16年度の平均給与額より約0.4%上昇したことから、上昇率に応じて、基本手当日額の最低額および最高額が平成18年8月1日より変更されました。

基本手当日額の最高額および最低額は、離職の日における年齢に応じて以下の通りとなっています。

◆基本手当日額の最高額

① 60歳以上65歳未満
(現行)6,781円 →(変更後)6,808円

② 45歳以上60歳未満
(現行)7,780円 →(変更後)7,810円

③ 30歳以上45歳未満
(現行)7,075円 →(変更後)7,100円

④ 30歳未満
(現行)6,370円 →(変更後)6,395円

基本手当日額の最低額

(現行)1,656円 →(変更後)1,664円
<例1>
賃金日額が6,000円である60歳未満の受給資格者に係る基本手当日額
(現行)4,354円 →(変更後)4,359円
<例2>
賃金日額が9,000円である60歳未満の受給資格者に係る基本手当日額
(現行)5,485円 →(変更後)5,497円

「基本手当の日額」と「賃金日額」との関係

①基本手当(求職者給付)の1日当たりの支給額を、「基本手当の日額」といいます。
②基本手当の日額については、離職前6カ月間の平均賃金額をもとに計算され、離職前6カ月間における1日当たりの平均賃金額を、「賃金日額」といいます。
③基本手当の日額
賃金日額×給付率(80%~50%)→ 賃金水準が低いほど高い給付率となります。
 
病院で保険が使えない場合に要注意
 
「混合診療」の禁止

健康保険証を使って病院等で治療を受けると、通常は治療のすべてが保険の対象となり、患者は年齢等に応じて、かかった医療費の1~3割を負担します。保険がきかない全額患者負担の治療などを保険診療と一緒に実施する「混合診療」は一部の例外を除き禁止されています。

「混合診療」の適用範囲拡大

日本の医療制度では、全国民が費用の心配をせずに治療を受けることができるよう、保険が利用できる診療を重視し、患者の自費診療を交えることを認めてきませんでした。

とはいうものの、保険対象となっていない最先端治療などを、できるだけ少ない負担で受けたい患者にとっては、このような制度は硬直的にも映ります。

実際、保険がきかない診療を増やしたほうが保険財政の負担が少なくて済むといった思惑もあるようです。その中で、政府は例外的に混合診療を認める範囲を除々に拡大してきています。その一つに「高度先進医療」制度があります。

「高度先進医療」制度

「高度先進医療」制度は、保険未適用の高度な医療技術部分だけを患者の自費診療とし、その他の検査などには保険を適用する仕組みであり、「高度な技術を持つスタッフや設備がある」と承認された病院だけが実施できることとなっています。

平成18年6月現在で、承認された高度先進医療は101種類あり、そのいずれかを取り扱う病院は113件となっています。

違法な混合診療が判明した場合

違法な混合診療が行われた場合、その医療機関は処分の対象となります。悪質なケースであれば保険が使える医療機関としての指定を取り消されることもあり得ますし、また、医療機関が保険で請求した費用について無効となり、返金されることもあります。

ただ、患者が全額自己負担で払った費用部分は保険制度の枠外ですので、返金などについては患者と医療機関の間での話し合いとなるようです。
 
仮眠中は労働時間とならない?
 
◆時間外手当はもらえない?

泊まり勤務のある職場に勤務していて、泊まり勤務の日は職場の仮眠室で仮眠をとり、緊急時に起きて業務に対応しているという労働者の方もいると思われます。

その場合、会社側から「仮眠時間は労働時間ではない」と言われ、時間外手当などをもらっていないケースもあるでしょう。では、本当に仮眠時間は労働時間とならないのでしょうか?

◆判例による労働時間の定義

労働基準法には、どのような時間が労働時間に該当するのかを定義した規定はなく、朝礼、着替え時間、待機時間など、実作業を伴わない時間が労働時間に該当するかどうか、裁判で争われた例も多くあります。

着替え時間などの扱いをめぐる2000年3月の三菱重工業長崎造船所訴訟・最高裁判決で、「労働時間とは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かで客観的に定まるもので、労働契約、就業規則、労働協約などの定めにより決定されるべきものではない」と判示されており、この判断が現在のところ一般的であり、学説上も評価されているようです。

つまり、仮眠時間であっても仮眠室にいることが義務付けられているなど、場所的拘束力を受けていたり、何かあれば対応しなければならなかったりするような状態にある場合は、使用者の指揮命令下にあり、労働基準法上の労働時間に該当するといえます。

◆労働時間とみなされたら

仮眠時間が労働時間とみなされた場合には、労働契約に基づいて「宿直手当」などが支給されていても、法定時間外・深夜の割増賃金は労働基準法上の権利として、別途、さかのぼって請求できることがあります。

会社側は仮眠時間について、稼働時間が少ないなどの理由により通常の基礎賃金よりも少ない時間単価を設定することは可能ですが、時間外割増賃金分としては通常の基礎賃金の25%以上を、深夜であればさらに25%以上を割増した金額を支払う必要があります。
 
現場に学ぶ「就業実習」
 
◆人材育成のための新たな職業教育システム

「デュアルシステム」と呼ばれる、産業界と学校が連携して人材を育成する職業教育システムが創設されています。在学中に、企業においてインターンシップよりも長期の職業訓練を受けさせ、そこで必要とされる実践的な技術・技能の体得を目指すといったものです。

例えば、1年次にはまず職業観や社会で有用なマナーを学び、その後にインターンシップを3社行います。2年次にはこの3社から1社を選び、2カ月間「長期就業訓練」と称する企業実習を受けます。3年次にも長期就業訓練を受け、3年間で最長7カ月にも及ぶインターンシップと長期就業訓練を受けることとなり、これらすべては卒業単位に認定されます。

派遣先の企業で仕事を学ぶことが、学校での学習であると認められるシステムになっています。

◆学生時代から職業体験をするメリット

職業訓練を終えた生徒たちからは、以下のような声があがっているそうです。

・「働くことは自分の生活のためであり、また、働くことで会社のためになることがわかった」
・「将来は資格をとって頑張りたい」
・「長く仕事を続けるには、自分に合った仕事でないと続かないことがわかった」

学校生活だけでは得られない社会体験が、学校生活の質の向上にもつながっているようです。学生時代から職場の雰囲気を肌で感じることで、若い時期から職業感を磨くことにつながるといえるでしょう。

企業にとってもプラス

一方、企業からも、以下のような好意的な反応が寄せられているようです。

・「当社に就職しなくても、地元で働いてほしい」
・「工場が減る中、ボランティアとして地元に貢献していると住民にアピールできる」
・「採用して中堅幹部候補として育てたい」

企業側としても学生を迎えることをプラスに考えている面も多く見受けられます。

ものづくりの現場では、熟練技術者の大量退職時期を間近に控え、後継者育成が課題となっている企業も増えています。そんな中、就業実習によって学生の時期から職業感を磨くことで卒業後に就職した生徒が不適応を起こして離職することを減らし、また、企業としても人材確保・育成につながっていけば、今後ますます就業実習は広まっていくでしょう。
 
スタートアップ(事業化)助成金
 
「スタートアップ(事業化)助成金」の概要

この助成金は、新事業開拓に取り組むことが困難な状況にある、事業化が可能な新規性の高い技術シーズやビジネスアイディアを持つ中小・ベンチャー企業等に対して、資金面の助成を行うとともにビジネスプランの具体化・実用化・販路開拓に向けたコンサルティングを実施し、事業化・市場化を支援するものです。

日本国内に本社を置き、日本国内で事業を行う創業者、個人事業者、中小企業者、企業組合、協同組合が対象となります。

平成18年度(第2回)の募集期間は、9月15日~10月13日となっています。

◆助成対象事業

助成対象事業は、次の①~⑤のいずれかに該当するもので、本助成金による実施期間終了後、2年以内に事業化(対象事業を収益の源泉となる事業として確立すること)が達成可能なものです。

① 新製品・新技術の開発成果を事業化する事業
② 革新的な方法で商品やサービスを提供する事業
③ 上記に付帯する外国特許等出願事業
④ ①と③の事業の双方を行う事業
⑤ ②と③の事業の双方を行う事業

助成金額

助成金額は、上記対象事業に応じて、下記の金額となっています。 
① 100万円~500万円
② 100万円~500万円
③ 100万円~300万円
④ ①の助成金額に最大300万円を上乗せ
⑤ ②の助成金額に最大300万円を上乗せ

助成率

助成率は、助成対象と認められる経費の2分の1以内の額です(2分の1以内の助成であるので、助成金と同額以上の資金を自己調達する必要があります)。

●事業化助成金のお問合せ先:
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 新事業支援部 新事業支援課(電話:03-5470-1539)
 
女性起業家の新支援サービスがスタート
 
女性の再就職の現状

女性が妊娠・出産を機に退職するケースは多く、厚生労働省の調査によれば、第1子出産1年前に働いていた女性の約7割が、出産後半年以内に退職しているとのことです。

子育て中や子育て後の女性の多くは、条件が合えば再就職を希望していますが、賃金や勤務時間が希望通りでなかったり、年齢制限があったりすることで、再就職が難しい状況となっています。

そこで政府は、出産・育児などで退職した女性の再就職先や起業を支援するため、「女性の再チャレンジ支援プラン」を昨年末に策定しています。

増加する女性の「起業」

上記のように、いったん退職してしまうと、なかなか希望通りの再就職ができないことから、自ら事業を起こす女性が増えているようです。

「企業に勤めるよりも時間の都合をつけやすい」、「関心のある分野で能力発揮ができる」といった理由により、子育て期にある女性の働き方の1つとして「起業」が注目され、30~40代女性の起業が多くみられるようになりました。

◆「女性起業家向けメンター紹介サービス事業」の開始

女性が起業する場合、仕事と育児・家事とを両立しなければならない場合が多く、また、起業するにあたって経営全般に必要な知識・ノウハウの不足という問題があり、困難な状況に直面することも少なくありません。

そこで、厚生労働省は、「女性起業家向けメンター紹介サービス事業」を6月15日から全国一斉にスタートしました。この事業は、起業してから1、2年程度の経験の浅い「駆け出し」女性起業家に対し、WWBジャパン(http://www.p-alt.co.jp/wwb/)を通じて「メンター」(先輩助言者)を紹介するものです。女性起業家はメンターに、経営上のノウハウや様々な悩みなどを相談して、アドバイスを受けることができます。

支援期間は1年間で、利用料は無料となっています。
 
「医療制度改革関連法」成立でどう変わるか
 
◆医療制度改革関連法が成立

高齢者の負担増などによる医療費の抑制を目指した、医療制度改革関連法が成立しました。患者の負担増は今年10月から順次実施されます。主な改正点は以下の通りです。

①窓口負担の増減
【変更前】3歳まで2割負担 
【変更後】就学前まで2割負担(2008年4月~)
【変更前】70歳以降1~2割負担
【変更後】一定所得があれば70歳以降でも3割負担
75歳以上は1割負担のままですが、2008年4月から、75歳以降の方全員が加入する新保険制度が創設され、月6,200円程度の保険料を払わなければならなくなります。

②70歳以上の療養病床負担額の増加(一般所得者・相部屋)
【変更前】月6万4,000円
【変更後】月9万4,000円(2006年10月~)

③医療費の自己負担の上限の引上げ
【変更前】月7万2,300円 +(医療費-24万1,000円)×1%
【変更後】月8万100円   +(医療費-26万7,000円)×1%

④出産一時金の増額
【変更前】30万円
【変更後】35万円(2006年10月~)

⑤埋葬料の減額
【変更前】最低10万円
【変更後】一律5万円(2006年10月~)

改正による行政側の対応

国民への負担増の印象が強い改正ですが、行政側にも変化が求められています。

医療費抑制のため、都道府県ごとに平均入院日数の短縮などの数値目標を盛り込んだ計画を作らせ、また、長期入院患者の療養病床を削減し、減らした分は老人保健施設や有料老人ホームや在宅医療などに移行させるなどしています。

厚生労働省は、本改正により、2025年の医療給付費を、56兆円から48兆円程度に抑えることができるとしています。

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