人事労務の時事解説 2006年9月号

 

成果主義賃金訴訟で社員逆転敗訴の判決
 
◆「成果主義賃金訴訟」の概要

年功序列賃金から成果主義賃金への変更は無効だとして、変更により減少した賃金の支払いなどを求めて社員3人が会社を訴えていた訴訟で、東京高裁は、賃金制度の変更は高度の必要性に基づく合理的なものであると認めてその効力を肯定し、制度の変更を無効と認定して約300万円の支払いを命じた第1審の判決を取り消しました。

◆不利益変更となる制度の変更

社員3人は、制度変更に伴って基本給が7万5,000円~3万8,000円減少し、役職も降格されました。会社は、年齢給と職能給とで構成する基本給のうち、年功序列で運用していた職能給を廃止し、業績目標の達成度などにより格付けする、職務等級に基づく職務給を支給する制度に変更するとともに、評価次第で昇格も降格もあり得る制度に変更しました。

年齢給も30歳以降は定年まで同額とし、ある等級以上の者には支給しないとする変更を行いました。また、制度変更に伴い、2年間に限り従前賃金との差額を支給する経過措置を講じていました。

「高度の必要性に基づく」合理的な内容

判決では、制度の変更は賃金減少の可能性がある点で不利益変更に当たるとした上で、経過措置が2年間に限り賃金減額分の一部を補てんするにとどまるものであって、いささか性急で柔軟性に欠ける嫌いがないとは言えない点を考慮しても、なお、上記の不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであると言わざるを得ないと述べ、制度変更は経営上の必要性に見合うとして相当であると認めました。

制度変更が合理的であると認めた判断理由

今回の判決の判断理由として、以下のことが挙げられています。

①主力商品の競争が激化する中で労働生産性を高め、競争力を強化する必要性があった
②賃金原資総額を減少させるものではなく、賃金原資の配分の仕方をより合理的なものに改めようとするものである
③どの社員にも自己研鑽による職務遂行能力等の向上により昇格・昇給することができる平等な機会を保障している
④人事評価制度も最低限度必要とされる程度の合理性を肯定しうるものである
⑤あらかじめ社員に変更内容の概要を通知し周知に努め、労働組合との団体交渉を通じて労使間の合意により円滑に賃金制度の変更を行おうと努めた
⑥それなりの緩和措置としての意義を有する経過措置が採られた

なお、社員側は上告する方針だそうです。
 
外国人の従業員を雇う場合の注意点
 
◆外国人の従業員を雇うには

ある中小企業で外国人の従業員を雇うことになりました。その外国人の方は別の会社で技術系のエンジニアをしており、こちらの会社では通訳や翻訳の仕事をしてもらうことになりました。事前に書類で在留期間の確認をしていれば、法的に問題はないのでしょうか?

◆在留資格の種類

日本に在留する外国人は、観光客のような短期滞在者や永住者など、27種類の在留資格に分類され、資格によって日本に在留できる期間が違います。

その中で就労の可否に着目すると、次の3種類に分けられます。

(1)在留資格に定められた範囲で就労が認められる在留資格
「技術」、「人文知識・国際業務」、「技能」、「教授」、「芸術」、等
※一般の事業所で雇入れの多い在留資格
「技術」…システムエンジニア、自動車設計技師等
「人文知識・国際業務」…通訳、企業の語学教師、デザイナー等
「技能」…外国料理のコック等

(2)原則として就労が認められない在留資格
「文化活動」、「短期滞在」、「留学」等
※「留学」、「就学」の在留資格をもって在留する外国人の方がアルバイトなどを行う場合は資格外活動の許可を受けることが必要

(3)就労活動に制限がない在留資格
「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」

◆在留資格の変更

エンジニアなど「技術」の在留資格で働いていた方が、別の会社で通訳などの仕事をするためには、在留資格を「人文知識・国際業務」に変更する必要があります。

在留資格を変更せず、定められた以外の仕事を本業にすると不法就労に該当し、本国に強制送還される可能性もあります。

◆雇うときの注意点

外国人の方を雇うときの注意点としては、在留期間が有効か、その仕事に合った在留資格を持っているかの2点について、証明書を提示してもらって確認するとよいでしょう。
 
雇用保険 65歳以上でも新規加入が可能に
 
雇用保険制度の見直し

厚生労働省は、現在は認めていない65歳以上の人の雇用保険への新規加入について、これを認めるよう制度の見直しに着手するようです。少子化の影響による若年層の労働力人口の減少が懸念される中、65歳以上の就業者の増加につなげるのが狙いです。

現在の雇用保険の仕組みでは

雇用保険とは、会社に勤める労働者が給与の一定額を保険料として納めておくと、失業した際に就労時の給与の一定割合をいわゆる「失業手当」として一定期間受け取ることができる制度で、現在の雇用保険制度は、65歳になる前から雇用保険に加入している人に限り、65歳を超えた場合に継続加入を認めており、保険料も免除しています。65歳以上の人の新規加入については、現制度では認められていないのです。

65歳になる前から雇用保険に加入していて継続加入が可能な人と、65歳以上で新規加入できない人とでは待遇の差が大きいため、保険に加入できない65歳以上の高齢者の再就労意欲をそいでいるとの批判が出ていました。

今回の見直しで65歳以上の人も新規加入が認められると、失業時に失業手当が受け取れるようになるほか、雇用保険制度の職業訓練などを利用できるようになります。

◆今後の議論の焦点

新規加入の条件は今後詰められていくようですが、週20時間以上働くなど、今の雇用保険の加入条件を満たす65歳以上の人に門戸を開くのが基本方針のようです。

約500万人いる65歳以上の就業者のうち、200万人程度が新規加入の要件を満たすとみられています。また、65歳以上の新規加入者から保険料を徴収するかどうかも、議論の焦点となりそうです。

現在、保険料を免除されている65歳以前からの加入者と同様に65歳以上の新規加入者にも保険料免除を認めれば、雇用保険財政を圧迫することにつながります。しかし、新規加入者と65歳になる前からの加入者との間で待遇に大きな差が生じることは、不公平との批判がでるおそれもあり、慎重な議論が必要といえるでしょう。

少子高齢化で全体の就業者数が減少する中、65歳以上の就業者は今後も増加すると思われます。しかし、現在65歳以上の就業者のうち雇用保険に加入している人は全体のうちわずかとみられ、この制度の見直しをきっかけに、高齢の就業者がより安心して働けるようになれば、全体の労働力の増加にもつながるのではないかと期待されます。
 
賞与をめぐる状況
 
◆賞与が、本当の「bonus」(予期せぬ贈り物)になってしまう!?

厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、賞与の支給額は昨年から上昇に転じていますが、家計収入に占める賞与の割合は1998年以降減り続けています。

人件費の固定化を防ぐため、業績を賞与額に反映させようとする企業が増えており、今後、景気の回復で全体的には賞与額が増えるだろうとの予測もありますが、賞与はこのまましぼんでしまうのでしょうか。

賞与は、従来よりも安定性がなくなり、本当の「bonus」(予期せぬ贈り物)になってしまうのでしょうか。

◆夏季の賞与平均額は77万2,533円

大阪府労働事務所では、夏季の賞与について、府内の労働組合と企業の妥結状況を発表しました。景気回復を反映して、平均妥結額は前年比6.1%増の77万2,533円となっています。4年連続で前年を上回り、現在の方法で統計を取り始めた1992年以降では最高額です。

産業別にみると、製造業が78万4,173円、前年比8.3%増と伸びたのに対し、非製造業は74万6,808円、前年比0.9%増にとどまりました。

企業の規模別にみた妥結額の格差は、大手組合(1,000人以上)を100とすると、中堅(300~999人)で94.6、中小(299人以下)で70.2となっており、企業規模間による格差は縮小する傾向にあります。ただ、組合に未加入の派遣社員やパート労働者の賞与水準は、正社員に比べかなり低くなっているようです。


◆労働者側と使用者側の見解の違い

改定の目安を審議していく中で、労働者側と使用者側に見解の違いがあったようです。

労働者側は、全体として企業業績の改善が進む一方で、所得の「二元化」が加速するとともに消費者物価も上昇に転じているため、低所得者の生活苦がさらに深刻化するのを防ぐためには、昨年を大幅に上回る改定が必要であると主張しました。

これに対し、使用者側は、日本経済全体が回復基調にあるにしても、地域間や産業間、企業規模間等で回復の度合いにばらつきがみられるとともに、企業の倒産件数も増加傾向にあることなどを主張し、地域別の最低賃金の改定には否定的な考え方を示しました。
 
「労働審判制度」の利用状況
 
◆「労働審判制度」の概要

解雇や労働条件の切り下げ、配置転換、出向などの労使間トラブルが「労働審判制度」の対象となります。労働審判官1名と、労働審判員2名(労働者側・使用者側から各1人ずつ)からなる「労働審判委員会」が事件を担当し、原則として3回の審理の後、調停による解決を試みます。

調停が不成立の場合は、労働審判によって解決が図られます。しかし、2週間以内に労働者か使用者のどちらか一方が異議を申し立てると労働審判は失効してしまい、裁判に移行することになります。その場合、裁判に必要となる申立て費用は半額で済むようになっています。

他の紛争解決制度と比較すると

まず、裁判と比較すると、短期解決が可能であるところが労働審判制度の大きな特徴だといえます。通常の裁判では、書面のやり取りで意見を主張していくのに対し、労働審判制度では審理になるとほとんど口頭で意見を述べることになります。そのため、短期間で紛争を解決することができ、労働者もスムーズに職場復帰できるケースがあります。

次に、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働紛争解決促進法)に基づく「個別労働紛争解決制度」と比較すると、この制度の場合、企業への強制力がないため、企業側が労働者側からの申立てに応じない場合も多く見られます。その点、労働審判制度は企業に対する強制力があります。

◆制度スタート後3カ月間の利用状況

2006年4月に労働審判制度がスタートしましたが、最高裁判所の発表によると、4月から6月までの申立て件数は全国で278件だったそうです。東京地裁では6月末までに85件の申立てを受け付け、そのうち15件が解決しているとのことです。

申立てから解決までの平均日数は約49日で、一番早く解決したものは28日間、長くかかったものは75日間でした。解決した15件のうち、12件は調停による解決となっています。

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