●外国人実習生、低賃金で酷使 雇用側の不正増加(8月17日 朝日)
日本の技術を学ぶ目的の外国人研修生や技能実習生に対する雇用主側の不正行為が、各地で増えている。法務省によると、不正行為の認定数は05年が180件だが、今年は7月末現在で125件と昨年を上回る勢いだ。実習生を最低賃金以下で残業させるケースや申請外の企業で研修させる例が多い。低賃金に抗議して実習生が労働基準監督署に立てこもる騒動まで起きている。政府で検討が進む外国人労働者制度見直しの動きに影響を与えそうだ。
同省では、02年ごろから、研修・実習生に対して申請外の企業・職場で働かせる「名義貸し」や、実習生に残業代時給300円程度の最低賃金以下で働かせる「違法雇用」など雇用主側の不正行為が顕在化してきたとみている。同省の不正認定件数は、03年が92件、04年が210件、05年が180件、06年(7月末現在)は125件。入管関係者は「高止まりし、減少に転じる状況にない」とみる。
同省では、02年ごろから、研修・実習生に対して申請外の企業・職場で働かせる「名義貸し」や、実習生に残業代時給300円程度の最低賃金以下で働かせる「違法雇用」など雇用主側の不正行為が顕在化してきたとみている。同省の不正認定件数は、03年が92件、04年が210件、05年が180件、06年(7月末現在)は125件。入管関係者は「高止まりし、減少に転じる状況にない」とみる。
<実習生が労基署に駆け込むケースも相次いでいる。>
茨城県は、05年度に農業分野での実習生移行を申請した全国約2800人のうち、約1200人と最多だ。労基署には、昨年末から今月16日までに、実習生計9件28人が「違法雇用」を訴えてきた。1月には、最低賃金との差額分を支払うよう求める実習生9人と農家が労基署で対立。「払ってくれるまで帰らない」と主張する実習生が労基署に約6時間居座る騒ぎになった。労基署の調べでは、残業代が時給350円で、同県の最低賃金の651円を大きく割り込んでいた。
研修制度は当初、海外に進出した企業などが対象だった。90年には海外に接点のない中小企業が研修生を1年間受け入れられるように改正。93年には、研修後に研修先と雇用契約を結び、残業もできる技能実習制度を新設し、現在では最長2年の技能実習ができるようになった。
その結果、研修生の新規入国者数は90年の3万7566人から、05年は8万3319人と急増。実習生への移行者も93年の160人から、05年は3万2394人に激増した。特に00年代に入り、中国人を中心に急激な伸びを示している。
雇用主側の不正行為が増加する背景には、デフレ経済や、海外との競争で人件費の圧縮が急務だった繊維や農業などでの受け入れ数が増えていることがある。
同省の「今後の外国人の受け入れに関するプロジェクトチーム」は5月、中間まとめに研修・技能実習制度を改編し、一定要件を満たせば労働者として受け入れる案を盛り込んだ。日本経団連も、実習期間の延長や対象職種拡大など、政府に規制緩和を求めている。
茨城県は、05年度に農業分野での実習生移行を申請した全国約2800人のうち、約1200人と最多だ。労基署には、昨年末から今月16日までに、実習生計9件28人が「違法雇用」を訴えてきた。1月には、最低賃金との差額分を支払うよう求める実習生9人と農家が労基署で対立。「払ってくれるまで帰らない」と主張する実習生が労基署に約6時間居座る騒ぎになった。労基署の調べでは、残業代が時給350円で、同県の最低賃金の651円を大きく割り込んでいた。
研修制度は当初、海外に進出した企業などが対象だった。90年には海外に接点のない中小企業が研修生を1年間受け入れられるように改正。93年には、研修後に研修先と雇用契約を結び、残業もできる技能実習制度を新設し、現在では最長2年の技能実習ができるようになった。
その結果、研修生の新規入国者数は90年の3万7566人から、05年は8万3319人と急増。実習生への移行者も93年の160人から、05年は3万2394人に激増した。特に00年代に入り、中国人を中心に急激な伸びを示している。
雇用主側の不正行為が増加する背景には、デフレ経済や、海外との競争で人件費の圧縮が急務だった繊維や農業などでの受け入れ数が増えていることがある。
同省の「今後の外国人の受け入れに関するプロジェクトチーム」は5月、中間まとめに研修・技能実習制度を改編し、一定要件を満たせば労働者として受け入れる案を盛り込んだ。日本経団連も、実習期間の延長や対象職種拡大など、政府に規制緩和を求めている。
●時給300円、使い捨て 外国人実習生(8月17日 朝日 特集)
時給300円の期限付き働き手―。外国人研修・実習生を受け入れる雇用主側のなかには、研修生らを安価で使い捨ての「労働者」とみる傾向がある。激化する国際競争、少子高齢化による労働力の減少。研修・実習生が、日本を「下支え」する実態が色濃くなるなかで多発しているトラブル。途上国への「技能移転」という制度の趣旨は形骸(けいがい)化しつつある。
<「経費」9万円天引き>
「日本の研修制度はタテマエと本音が違うことが多すぎる」
研修受け入れ先の事業組合理事長から性暴力を受けたとして、7月に東京入国管理局に逃げ込んだ中国人女性の実習生は、うつむきながら話した。
04年に来日。ホウレンソウとイチゴの栽培を学ぶはずが、受け入れ先は製材会社。研修の合間に理事長一家の家の掃除や靴磨きもさせられた。
研修生のときの手当は月5万円。禁止されている残業の時給は300円。実習生になると、基本給6万5000円、残業時給350円。賃金台帳では、基本賃金11万2000円に残業代がつくとされていたが、寮の家賃5万5000円とふとんのリース料6000円、洗濯機、テレビ、流し台のリース料など「生活経費」として毎月計9万円近くも天引きされた。
来日4カ月後、理事長から性暴力を受けた。「逆らえば帰国させる」。その後も住まいに合いカギで入ってきた。この問題が表面化した後、理事長は辞任した。
8月になっても中国人実習生の労基署駆け込みが続く茨城県南部では、「正規の割増賃金は800円を超え、高くて払えない」として、実習生の残業を取りやめる農家が相次いでいる。
そうしたなか、関係者によると、今度は逆に実習生自身が、「350円でもいいので、以前のように残業させてほしい」と訴え始めたという。実態として出稼ぎ目的で来日している実習生らにとって、残業カットによる収入減が耐えられないためだ。
しかしある農家は「いくら望んでも、350円で残業はさせない。労基署に行けば、残業代の不足分をもらえることを、知ってしまった。希望をきいて350円で残業させたら、労基署に駆け込まれかねない」と慎重だ。
別の農家男性は「残業カットで、シビれているのは実習生。貨幣価値に差があるので低賃金でも彼ら自身が残業をしたがるし、農家も実習生らも、互いにそれでいいはず。ルール通りにやっていたら、制度のメリットなんてない」。
<形骸化する「技能移転」>
法務省の統計によると、研修生の7割近くは中国人。関係者によると「管理しやすい」とされる女性が増えているという。中国の約20倍とされる日本の賃金水準を期待して来日するが、劣悪な労働環境に耐えられなかったり、より高賃金を得るため逃げたりする例も後を絶たない。
研修の資格で入国した後、不法残留している外国人は06年1月時点で約3400人。実習生の失跡数は01年度の677人から05年度は1456人に増えた。
こうした失跡を防ぐため、研修生は来日前に高額な「保証金」を中国側の送り出し機関に預けているという。しかし、この「保証金」のために借金をし、無理に日本で稼ごうとしたり、保証金の没収を恐れて劣悪な労働環境や雇用主側の不正に従わざるを得なかったりするケースも少なくない。
こうした中、制度の目的である「技能移転」は形骸化している。外国人労働者を支援する、全統一労働組合の鳥井一平書記長は、「規制緩和の中で建前が無視され、安い労働力、という本音がむき出しになった。制度が壊れてしまった感じだ」と話す。
<相次ぐ制度見直し案>
政府や日本経団連からは5月以降、外国人研修・実習制度の見直しについての提案が相次いだ。
法務省の「今後の外国人の受け入れに関するプロジェクトチーム」の中間まとめでは、「現行の研修・技能実習制度の改編」を打ち出した。一定の日本語力があることなどを要件に、最初から雇用契約を結んだ「労働者」として受け入れることを提案している。
一方、厚労省など各省副大臣によるプロジェクトチームは、「外国人労働者の受け入れを巡る考え方のとりまとめ」を作成した。「研修・実習制度の廃止ではなく見直しの検討」を主張。国内企業のニーズに応えることなども視野に入れた検討にふれつつも、定住につながらないこと、日本人雇用に悪影響を与えない配慮を強調する。
議論が駆け足に進む背景には、政府が3月、閣議決定した「規制改革・民間開放推進3カ年計画」で、研修生の法的保護のあり方について今年度中に結論を出すよう求めていることがある。
いずれも、少子高齢化による日本人の労働力の減少やグローバリゼーションを受け、研修生や実習生が事実上、労働力になっている「実態」と制度の隔たりを埋めようとする方向は共通する。
しかし、移住連などの外国人労働者支援団体は「人権の視点が不透明。国際的な使い捨て労働力を看板をかけ替えて残したいということでは」と警戒を強めている。
研修受け入れ先の事業組合理事長から性暴力を受けたとして、7月に東京入国管理局に逃げ込んだ中国人女性の実習生は、うつむきながら話した。
04年に来日。ホウレンソウとイチゴの栽培を学ぶはずが、受け入れ先は製材会社。研修の合間に理事長一家の家の掃除や靴磨きもさせられた。
研修生のときの手当は月5万円。禁止されている残業の時給は300円。実習生になると、基本給6万5000円、残業時給350円。賃金台帳では、基本賃金11万2000円に残業代がつくとされていたが、寮の家賃5万5000円とふとんのリース料6000円、洗濯機、テレビ、流し台のリース料など「生活経費」として毎月計9万円近くも天引きされた。
来日4カ月後、理事長から性暴力を受けた。「逆らえば帰国させる」。その後も住まいに合いカギで入ってきた。この問題が表面化した後、理事長は辞任した。
8月になっても中国人実習生の労基署駆け込みが続く茨城県南部では、「正規の割増賃金は800円を超え、高くて払えない」として、実習生の残業を取りやめる農家が相次いでいる。
そうしたなか、関係者によると、今度は逆に実習生自身が、「350円でもいいので、以前のように残業させてほしい」と訴え始めたという。実態として出稼ぎ目的で来日している実習生らにとって、残業カットによる収入減が耐えられないためだ。
しかしある農家は「いくら望んでも、350円で残業はさせない。労基署に行けば、残業代の不足分をもらえることを、知ってしまった。希望をきいて350円で残業させたら、労基署に駆け込まれかねない」と慎重だ。
別の農家男性は「残業カットで、シビれているのは実習生。貨幣価値に差があるので低賃金でも彼ら自身が残業をしたがるし、農家も実習生らも、互いにそれでいいはず。ルール通りにやっていたら、制度のメリットなんてない」。
<形骸化する「技能移転」>
法務省の統計によると、研修生の7割近くは中国人。関係者によると「管理しやすい」とされる女性が増えているという。中国の約20倍とされる日本の賃金水準を期待して来日するが、劣悪な労働環境に耐えられなかったり、より高賃金を得るため逃げたりする例も後を絶たない。
研修の資格で入国した後、不法残留している外国人は06年1月時点で約3400人。実習生の失跡数は01年度の677人から05年度は1456人に増えた。
こうした失跡を防ぐため、研修生は来日前に高額な「保証金」を中国側の送り出し機関に預けているという。しかし、この「保証金」のために借金をし、無理に日本で稼ごうとしたり、保証金の没収を恐れて劣悪な労働環境や雇用主側の不正に従わざるを得なかったりするケースも少なくない。
こうした中、制度の目的である「技能移転」は形骸化している。外国人労働者を支援する、全統一労働組合の鳥井一平書記長は、「規制緩和の中で建前が無視され、安い労働力、という本音がむき出しになった。制度が壊れてしまった感じだ」と話す。
<相次ぐ制度見直し案>
政府や日本経団連からは5月以降、外国人研修・実習制度の見直しについての提案が相次いだ。
法務省の「今後の外国人の受け入れに関するプロジェクトチーム」の中間まとめでは、「現行の研修・技能実習制度の改編」を打ち出した。一定の日本語力があることなどを要件に、最初から雇用契約を結んだ「労働者」として受け入れることを提案している。
一方、厚労省など各省副大臣によるプロジェクトチームは、「外国人労働者の受け入れを巡る考え方のとりまとめ」を作成した。「研修・実習制度の廃止ではなく見直しの検討」を主張。国内企業のニーズに応えることなども視野に入れた検討にふれつつも、定住につながらないこと、日本人雇用に悪影響を与えない配慮を強調する。
議論が駆け足に進む背景には、政府が3月、閣議決定した「規制改革・民間開放推進3カ年計画」で、研修生の法的保護のあり方について今年度中に結論を出すよう求めていることがある。
いずれも、少子高齢化による日本人の労働力の減少やグローバリゼーションを受け、研修生や実習生が事実上、労働力になっている「実態」と制度の隔たりを埋めようとする方向は共通する。
しかし、移住連などの外国人労働者支援団体は「人権の視点が不透明。国際的な使い捨て労働力を看板をかけ替えて残したいということでは」と警戒を強めている。