人事労務の時事解説 2006年11月号

 

民間給与が8年連続でダウン
 
平均給与は437万円

民間企業に勤める人が2005年の1年間に得た平均給与は、前年より2万円減少し、8年連続ダウンとなったことが、国税庁の民間給与実態統計調査でわかりました。

1年間を通じて勤務した給与所得者数は4,494万人(対前年比0.9%、41万人増)で、その平均給与は437万円(対前年比0.5%、2万円減)となっています。

男女別にみると、給与所得者数は男性2,774万人(対前年比0.8%、22万人増)、女性1,720万人(対前年比1.1%、19万人増)で、その平均給与は男性538万円(対前年比0.5%、3万円減)、女性273万円(対前年比0.3%、1万円減)となっています。

◆給与階級別にみると

給与所得者の給与階級別分布をみると、男性では年間給与額300万円超400万円以下の者が494万人(構成比17.8%)、女性では100万円超200円以下の者が449万人(構成比26.1%)と、最も多くなっています。

雇用が増えるが賃金は減少傾向

給与所得者数は4年ぶりの増加、給与総額は8年ぶりの増加となりましたが、給与所得者数に比べて給与総額の伸び率が低くなっています。これは、正社員での採用よりも、パートなどの非正社員での採用が増えているためだと分析されており、雇用が増えた一方、賃金は抑えられたままという傾向が浮き彫りになっています。
 
転職で失敗しないために必要なこと
 
転職は想定外の出来事だらけ

景気の回復に伴って企業の積極的な人材採用が増えているため、キャリアアップや増収を期待して転職を希望する人が多くなってきているようです。

しかし、転職先の情報収集が十分にできていなかったために、転職後、予想していなかった社風や社内環境に「こんなはずでは…」と戸惑う転職者が多いということが、日経新聞の調査データで判明しています。

◆「想定外の出来事」とは?

転職者は、転職後の会社について、次のような点を指摘しています。
1.社内研修が不十分
2.サービス残業が当たり前の職場だった
3.ワンマン社長や親会社などの支配が強く、現場に決定権がない
4.事前説明にあった仕事に加え、別な業務も任される
5.周囲に退職者が多く、将来的な不安がある
6.転職者は即戦力として現場からの期待が大きすぎる
7.事前説明にあった業務内容と実際の仕事内容が異なる
8.福利厚生の制度が前の会社に比べて整っていない
9.仕事量が多く、休日出勤を強いられる 
10.入社直後から業績悪化に陥った

転職者にとって最も関心の高い転職先の待遇・条件等については詳しく調べていても、それ以外の、前の職場では当たり前に思っていた職場環境などについては、よく調べずに転職してしまっている人が多いようです。

転職する場合の心得

一般的に、新卒で入社した企業での仕事のやり方が当たり前だと思い込む傾向があるため、転職しても「こんなつもりで転職したのでは…」となるケースが多くなり、さらに転職を繰り返すことになりかねません。

転職前には、転職先の上司や先輩、同僚などと話をする機会を持つなど、多数の情報を収集することが必要です。また、転職後は、早くその会社に慣れるように、業務の内容を覚えるだけでなく、職場でのルールを身につけることも重要です。
 
雇用保険料率が引き下げられます
 
0.45ポイント引下げ

失業手当などの原資となる雇用保険の保険料率が、2007年度に0.45ポイント引き下げられることになりそうです。
厚生労働省が9月14日まとめた雇用保険の2005年度決算で、雇用情勢の改善を背景に保険収支が大幅に好転したことが要因です。雇用保険の料率が引き下げられるのは1993年度以来14年ぶりのことです。

雇用保険制度の概要

雇用保険制度は、労働者が職を失った場合に失業手当を支給するなど、雇用や生活の安定を目的として国が保険料を徴収して運営する制度です。

失業手当のほか、職業訓練などを提供する「雇用保険三事業」の2つの制度があります。
(1)失業等給付
(2)雇用保険3事業 (①雇用安定事業、②能力開発事業、③雇用福祉事業)

全体で0.45ポイントの引下げ

失業手当の保険料は、現在、給料の1.6%を労使で半分ずつ負担しており、来年度の改定で0.4ポイント下がり、1.2%になるようです。当初は1.4%への引き下げを検討してきましたが、失業者数が減って雇用保険財政に余裕が出てきたため、引き下げ幅を広げることになりそうです。労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の雇用保険部会で検討を進め、年内をメドに雇用保険法の改正案をまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出する方針です。

また、同省は、失業手当以外の保険料率も0.05ポイント下げることも決めました。能力開発など雇用保険関連の三事業向け保険料について、現在は企業側だけ給与の0.35%分を負担しているものが、来年度から0.3%になるようです。

0.45ポイント引き下げ時の保険料率(一般の事業)

・     負担義務者      被保険者         事業主
・     雇用保険率       失業等給付に係る率      3事業に係る率
現在   19.5/1000   8/1000    8/1000    3.5/1000
改正後  15/1000     6/1000    6/1000    3/1000

雇用保険料は、バブル崩壊以降、雇用情勢の悪化で失業手当の受給者が急増したのに伴い引上げが続いていました。2002、2003年度には、保険料率が合計0.4ポイント上がり、現在の1.95%は1975年に制度が始まって以来、最高水準にあります
 
子会社で障害者を雇用した場合、親会社の雇用数に算入できるか
 
子会社で障害者を雇用する場合

社員数500名のある会社では、障害者を雇っていないために1月当たり45万円の「障害者雇用納付金」を支払っています。今回、新規事業のため子会社設立を検討しており、そちらの会社で障害者を雇用することになりました。この場合、親会社の障害者雇用数にカウントすることは可能なのでしょうか?

「特例子会社制度」とは

障害者雇用促進法で定められている障害者雇用率については、親会社と子会社の関係にある企業であっても、法人が異なれば別々に取り扱われます。しかし、子会社が一定要件を満たす「特例子会社」であると認定を受けた場合には、その子会社は障害者雇用率の制度上は、親会社と同一の事業主体として取り扱われることになります。これが「特例子会社制度」です。

そこで、設立した子会社が「特例子会社」と認定されれば、その子会社の雇用する労働者は親会社が雇用する労働者とみなされるため、その子会社の雇用した障害者は親会社の障害者雇用率に算入できることになります。

「特例子会社」の認定要件

特例子会社の認定要件は、大きく分けて親会社に関するものと子会社に関するものの2つに分けられます。以下のすべての要件を満たす場合は、「特例子会社」と認定され、その子会社の障害者を障害者雇用率に算入できることになります。

(1)親会社に関する要件
親会社が子会社の財務および営業または事業の方針を決定する意思決定機関を支配していること。

(2)子会社に関する要件
①親会社からの役員派遣、従業員出向など、親会社の事業との人的関係が密であること。
②子会社に雇用される障害者が5人以上であって、かつ、雇用される障害者の全従業員に占める割合が20%以上であること。さらに、重度身体障害者および知的障害者、精神障害者の合計が雇用されている障害者の30%以上であること。
③障害者の雇用を適正に行うに足りる能力を有していること
④その他、障害者の雇用の促進および雇用の安定が確実に達成されると認められること
 
企業の子育て支援策と導入効果
 
育児支援策の現状

内閣府は、企業の子育て支援策と導入効果に関する調査結果を発表しました。調査は今年2月から3月にかけ従業員数301人以上の5,000社を対象に行われました。
育児休業制度を導入(就業規則に明記)している企業は約8割ありましたが、事業場内に託児所を設置・運営している企業は7.5%にとどまるなど、具体的な育児支援制度の導入には遅れが目立っています。また、正社員と非正社員の待遇格差もあるようです。

◆手薄な具体的保育サービス

育児休業制度を就業規則に明記している企業は81.4%、非正社員に育児休業を認めている企業は54.4%で、法律で規定されている「出産後1年間」を超える長期の休業を整備するなどの手厚い制度を導入している企業は24.4%となっています。

具体的な保育サービスの整備が手薄な状況もみられ、女性の育児休業後の職場復帰でキャリアを継続させる支援策を導入している企業は11.3%にとどまるなど、会社側の体制に改善が望まれる結果となりました。

正社員と非正社員の間に格差も

子育て支援における正社員とパート、アルバイトなどの非正社員との格差も浮き彫りになっています。
短時間勤務制度は、正社員については53.9%の企業が導入しているのに対して、非正社員については35.5%の企業しか導入していませんでした。また、フレックスタイム制についても、正社員で取り入れている企業が24%なのに対し、非正社員は10.2%と言う結果になっています。

◆労使双方にメリットも

仕事と子育ての両立支援策導入の効果を実感している企業は多く、「長期的にみて女性従業員の定着率が向上した」と回答した企業は41.2%に上りました。

反対に、「あまり効果がなかった」と回答した企業は8.6%にとどまり、仕事と子育ての両立支援を会社側が積極的に行えば、労使双方において良い結果につながる傾向にあることが調査結果からわかりました。
 
会社が指定した通勤経路の変更は認められるか
 
通勤経路は勝手に変更してもよい?

自宅から会社までの通勤経路は、電車やバスの乗り継ぎ方などにより、費用や所要時間が変わる場合があります。そこで、会社が指定した経路よりも費用は高くなるが、所要時間は短くなる経路に変更したいような場合、その変更は認められるのでしょうか。

通勤手当は会社が負担すべきか

多くの会社は通勤手当を支給していますが、労働基準法上、通勤交通費について何らの定めはありません。

雇用契約を締結すれば、労働者には会社に労働力を提供する義務が生じ、提供前後にかかる費用は労働者の負担となり、原則、会社に通勤手当を支払う義務はありません。

通勤手当を支給する会社が多いのは、待遇を良くして優秀な人材を確保する狙いがあるからであり、通勤手当については就業規則に定めておくのが一般的です。就業規則に明記されれば、会社側に支払義務が生じることとなります。

通勤経路はどう決めるか

一般的には、社員の申請を会社が承認するケースが多く、社員の希望に沿った通勤経路となる場合が多いようです。しかし、最近では、経費削減を理由に会社側があらかじめ通勤交通費が安い経路を指定し、社員にはその金額分しか支給しないケースも増えているようです。

会社には通勤経路の決定について一定の裁量権があります。したがって、最短ルートより時間がかかったとしても、会社にとっての無駄を省くことができ、社員がある程度恩恵を受けられる範囲であれば、社員の変更申請を拒んでもよいと考えられます。

派遣社員の場合

就業規則で通勤手当の支給について定められていても、派遣社員には支給されないケースもあります。派遣社員は派遣先企業と雇用関係にはないため、通勤手当については派遣元(派遣会社)との取り決めが優先されるからです。現状では、派遣社員には通勤手当はほとんど支給されていないようです。
 
「医療安全管理者」指針を作成へ
 
医療事故防止を目的とする指針の作成

厚生労働省は、医療事故の防止対策として、医療機関で安全対策の責任を担う「医療安全管理者」(リスクマネージャー)の業務指針や研修プログラムを作成する方針を示しています。

「医療安全管理者」とは

医療安全管理者は、2003年から、大学病院などの特定病院や新人医師に臨床研修を行う臨床研修指定病院に配置が義務付けられているものです。

医師や看護師、薬剤師の資格と「医療安全に関する必要な知識」を持つことが条件とされており、医療事故が発生した場合に情報を収集して分析し、再発防止策を立案することが求められます。

「ヒヤリ・ハット」の事例

厚生労働省は、日本医療機能評価機構を通じて、医療事故情報やヒヤリ・ハット事例を収集・分析して公表しており、医療機関や国民に対してこれらの情報を提供することで、医療安全対策の一層の推進を図っています。

ヒヤリ・ハット事例として報告される情報は、具体的には次のようなものです。
①誤った医療行為等が、患者に実施される前に発見された事例
②誤った医療行為等が実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかった事例
③誤った医療行為等が実施され、その結果、軽微な処置・治療を要した事例

これからの課題

現在、各職種団体や医療機関グループがそれぞれ独自の研修プログラムで医療安全管理者の認定を行い、独自の業務指針を定めているため、医療機関ごとに仕事の内容や質がバラバラになっています。このため、今回、厚生労働省は医療事故の防止策を充実させるため、管理者の質の向上が必要であると判断したわけです。

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