人事労務の時事解説 2007年1月号

 

営業社員の“息抜き”は懲戒処分の対象になるか?
 
◆喫茶店での息抜きが見つかってしまった…

外回りで営業しているはずの時間に、喫茶店で休憩しているところを上司に見つかってしまいました。上司に「社員全員で業績拡大に取り組んでいるときにどういうことだ! 懲戒処分を覚悟しろ!」と言われましたが、本当に懲戒処分に該当する行為なのでしょうか。

労働基準法で定める「事業場外みなし労働時間制」

就業時間のほとんどを事業場外で働く営業社員の場合、自分の裁量で休憩時間をとる人は少なくありません。しかし、上司や同僚の目が届かないため、一定の営業成績を上げる見込みが立つとリフレッシュするための休憩も長時間になりがちで、中にはパチンコや映画に興じる人もいるようです。

労働基準法では「労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」(38条の2前段)と規定しています。この条文の趣旨は、労働時間を把握できない事業場外で働く社員にも所定労働時間分の給与を払うというものです。会社が「きちんと働いているかどうかわからない」などとして、社員の給与を一部カットすることや、不払いにすることは法律上認められていません。

◆本当にさぼっていた場合どうか?

社員が「裁量労働制」の対象であれば、自ら労働時間を配分でき、通常の就業時間に働かずに他の時間に働いても問題はありません。もっとも、「裁量労働制」を適用できるのは技術開発やデザインの考案など労働基準法の施行規則に列挙された一部の職種に限られます。営業職は適用外であり、就業時間にさぼっていれば職務専念義務違反で懲戒処分の対象となる可能性があります。

営業社員の就業時間中の息抜きは?

労働基準法は、労働時間6時間超で45分以上、8時間超で1時間以上の休憩を与えることを規定しており、会社は事業場外で働く社員にも休憩を与えなければなりません。

また、営業活動の合間に短時間、喫茶店に寄っても、社内でお茶を飲むのと同じで、通常、許容される気分転換の範囲内とされています。よって営業社員の息抜きのポイントは、
①短時間の休憩は通常、許容される気分転換の範囲内
②長時間の休憩は職務専念義務違反の可能性あり
だと考えられます。
 
“労災隠し”に歯止めがかかる!?
 
減らぬ“労災事故隠し”

現在、事業所で発生した労災事故の調査は、事故が起こった際の事業所から労働基準監督署への労災申請、また、労働者本人や家族からの通報をもとに実施されています。

しかし、法違反の発覚や保険料負担を逃れようとする事業主が、労災の事実を労働基準監督署に報告せず、労働者に口止めし、健康保険での受診を命じて労災隠しをするケースが後を絶ちません。

◆社会保険庁からの情報提供

そこで厚生労働省は、来年度から、仕事でけがをしながら労災事故を届け出ず健康保険で受診した労働者の情報を社会保険庁から提供してもらい、事業所の調査に活用する方針を固めました。

労災事故を隠そうと、労災保険ではなく健康保険での受診を労働者に強要する事業主が多いため、健康保険の受診情報が集まる社会保険庁と厚生労働省が連携して事業所の「労災隠し」を監視することを目的としています。

◆厚労省と社保庁が連携して事業所を監視

各都道府県にある社会保険事務局では、診療報酬明細書など健康保険適用者の情報を集め、労災と疑われるケースについて、業務上の傷害ではないかを受診者に確認しています。厚生労働省は、これら労災保険を使うべきところを健康保険で受診した人の情報を社会保険庁から得られれば、事業所の労災隠しを減らすことができるとみています。

また、同省は、実際は派遣労働者であるのに請負契約を装うことで労災の責任を委託側が回避しようとする違法な労働形態(いわゆる「偽装請負」)の摘発にもつなげたいとしています。
 
社内のトイレにこもる女性社員たち
 
トイレは居心地がいい場所!?

最近の新聞記事によると、オフィスのトイレにこもる女性が増えているようです。化粧直しや歯磨きをしているだけではなく、仮眠をとったり、携帯電話でメールを打ったり…。

「社内で一息つける数少ない場所である」ということもありますが、清潔さ・快適さがぐんと増しているトイレでの「目的外使用」による悩ましい問題も浮上してきているようです。

高機能でより快適に

かつては「女子更衣室」など、トイレ以外にも化粧直しや仮眠ができる場所が社内にありましたが、近年、合理化が進み、そうした場所はめっきり姿を消しています。

そうした事情を反映してか、社内のトイレが快適性を増し、「女性トイレの良し悪しが入居ビルの決め手となった」という意見や、オフィスを移転する際、テナントビルの下見に女性社員が同行し、トイレの広さや化粧ポーチを保管する棚の有無をチェックするといった例があるようです。

新築のオフィスビルでは、トイレの機能を競い合って、「歯磨き用の小さめの洗面台がついたパウダーコーナーや、ブース内でストッキングをはき替える際の足を置く台も設置した」ことをアピールするところも増えているようです。
 
数十分「開かずの扉」

一方で、悩ましい問題も浮上しています。トイレで耳を澄ましてみると、携帯電話のメールの操作音。1人の社員がそのまま20分近くもトイレを占拠――こんな事例も見受けられるようです。

マナー作りが必要に

トイレブースの「目的外使用」に関し、最近では「トイレ内での携帯電話・メールの利用はご遠慮ください」と注意書きを掲示する企業も出始めています。

「トイレの中くらい自由に気分転換させて!」という声も女性の間にはありますが、トイレの居心地がよくなった今、きれいに使うのはもちろんのこと、私用の携帯メールをしない、温水洗浄器を正しく使うといったマナー作りもそろそろ必要な段階なのかもしれません。
 
「看護師不足」により病院間の争奪戦が過熱!
 
全国的な看護師不足

全国的な看護師不足を背景に、病院間で看護師の争奪戦が過熱しています。4月の診療報酬改定で、看護師を手厚く配置すればより多くの報酬が得られるようになり、高い専門性とブランド力のある大学病院が来春の採用数を大幅に増やしているためです。

民間病院でも、国家試験の準備金を支給するなど必要数の確保に懸命で、待遇面が改善しにくい自治体病院では退職者の補充さえ厳しくなっているようです。

診療報酬改定の内容

入院患者について病院に支払われる診療報酬は、看護職員1人当たりの患者数が少ないほど段階的に高くなります。

今年4月の診療報酬改定では、従来最高水準だった「患者10人に対し看護職員1人(10対1)」より手厚い「患者7人に対し看護職員1人(7対1)」との水準が新設されました。「7対1」の病院に対する診療報酬(患者1人につき1日当たり)は「10対1」の場合よりもかなり増えましたが、診療報酬全体は大幅に引き下げられたため、各病院は看護職員の増員に動いています。

◆採用者確保に必死な各病院

ある大学の医学部付属病院では、2007年春の採用数を2006年より約3割も増やし、患者に対する看護師の割合を現在の「10対1」から、より多くの診療報酬の得られる「7対1」に引き上げる計画だそうです。看護学生向けの就職フェアでは講習会などを行い、採用者確保に力を入れていますが、それでも現在の内定者数は予定の半数以下で、必要数が確保できなければ稼動ベッド数を減らすことも検討するとのことです。他の大学付属病院でも、受験生の負担軽減を狙って採用試験を面接と履歴書だけにしたり、採用試験会場を増やしたりするなどして、採用予定者数の増加に動いているようです。

民間病院では、待遇改善などで工夫を凝らし、採用者の増加を目指しています。ある民間病院では、看護師国家試験の準備金を内定者に支給する制度を設けたり、病院近くに保育所機能を持つ看護師寮を新設したりするなど、より多くの看護師を確保しようと計画しています。

一方、公務員のため待遇面の改善が難しい自治体病院では、採用試験の受験者数が採用予定人数を割り込むケースもあるようです。ある自治体が夏に1回目の試験を実施したところ受験者数は採用予定者数の約半分にとどまるなどの事態も起きているそうです。

他の自治体でも採用試験の倍率は大幅に低下しており、医療の質の低下を懸念する声も聞かれます。
 
「教育訓練給付」の助成率を引下げ
 
◆教育訓練給付の内容変更

働く人たちの能力開発や資格取得を国が支援する「教育訓練給付金」について、厚生労働省は、原則として受講料の4割としている現行の助成率を、一律2割に引き下げる方針を固めました。

同給付は雇用保険を財源としており、これまで200万人近くが利用しています。一方で、不正受給などが問題となったため、本人負担を増やしながら、若者が利用しやすいように要件を緩和するなどして「衣替え」を図る内容となっています。

◆給付内容の変遷

教育訓練給付は、バブル崩壊後の雇用情勢が不安定な1998年に創設され、厚生労働省が指定した講座で教育訓練を受けた場合、その一部を支給する仕組みとなっています。当初は雇用保険の加入期間が5年以上の人を対象に、受講料の8割(上限20万円)まで支給され、2001年からは上限30万円となりました。
助成率が高いうえ、働きながら受講できることから、英会話やパソコン講座などを受講する利用者が急速に拡大しましたが、審査の甘さなどから、架空の講座を設けるなどして給付を受け取るなどの不正受給が問題となりました。

また、初心者向けガーデニングなど、趣味的な講座まで指定を受けために批判が相次ぎ、制度を見直して指定基準などを厳格化しました。2003年には、雇用保険加入期間が5年以上の人は助成率を4割(上限20万円)に引き下げられ、3年以上5年未満の人は2割(上限10万円)となりました。これにより、一時は2万以上あった指定講座は、今年4月現在で約7,800に減りました。これまでの受給者は約195万人で、給付総額は約2,740億円、昨年度は約16万人が利用しました。

◆今回の変更点

今回の見直しでは、加入期間による差をなくし、「加入期間3年以上、助成率2割」に統一されます。ただし、働く人の能力を高め、再就職や失業を予防する制度としての意味はあるとして、若者などで初めて給付を受ける人に限っては、当分の間、受給要件を「加入期間1年以上」に緩和する方針です。
 
知っていますか? 医療費の還元システム
 
還元システムの概要

医療費を支払い過ぎていた場合、還元されるシステムがあります。医療機関は病気の名称や処方した薬などを1カ月単位でまとめて「診療報酬明細書」(レセプト)を作成し、内容を審査、その結果、請求額が多すぎると判断され、患者が自己負担で1万円以上多く支払った場合には、病院の窓口で払い戻しが受けられます。

①病院
・診察・レセプト作成
②病院→患者
・窓口負担(原則3割)
③病院→審査支払機関(診療報酬支払基金)
・レセプトを送付し医療費請求
④審査支払機関(診療報酬支払基金)
・レセプトを審査
⑤審査支払機関(診療報酬支払基金)→保険者(社保庁・健保組合)
・査定結果とレセプトを送付
⑥保険者(社保庁・健保組合)→審査支払機関(診療報酬支払基金)
・審査結果に基づき医療費(診療報酬)を支払い
⑦保険者(社保庁・健保組合)→患者
・減額査定で自己負担額が1万円以上多い場合は通知
⑧患者→病院
・過払分の返還請求・返還

1万円未満の返還方法

社会保険庁が減額査定の記録を保管しているのは3年間ですが、レセプトは5年間保管されていますので、社会保険事務所に出向けば医療費と払い過ぎた額が記されたレセプトの写しを手に入れることができます。これをもとに返還を求めることが可能ですが、治療に支障がないという医療機関などの確認が前提になるなど手続きは煩雑になっています。また、1年度につき300円の手数料がかかります。

◆自営業者や会社員の場合

自営業者の場合は各市町村が運営している国民健康保険、企業などの場合は社員が加入する健康保険組合が、払い過ぎた保険料の通知をします。通知は法令ではなく各保険者間の申し合わせに基づき「通知をするかどうかは保険者の判断」となっています。

厚生労働省によれば、2004年度で国保を運営する市町村の4割が通知をしていない状況だそうです。
 
平成18年の初任給
 
◆学歴別でみた初任給

平成18年「賃金構造基本統計調査」によると、平成18年の初任給は、男女計、男女別ともすべての学歴で前年を上回りました。景気の回復が裏付けられている1つのデータと思われます。
初任給を高卒以上の学歴別にみると、以下の通りとなりました。

学歴別             初任給 (対前年比率)
〔男女計〕
大学院修士課程終了・・・・224,800円(2.0%増)
大卒・・・・・・・・・・・・・・・・・196,200円(1.2%増)
高専・短大卒・・・・・・・・・・168,400円(1.1%増)
高卒・・・・・・・・・・・・・・・・・154,400円(1.0%増)
〔男〕
大学院修士課程終了・・・・224,600円(1.6%増)
大卒・・・・・・・・・・・・・・・・・199,800円(1.6%増)
高専・短大卒・・・・・・・・・・171,300円(0.6%増)
高卒・・・・・・・・・・・・・・・・・157,600円(1.2%増)
〔女〕
大学院修士課程終了・・・・226,000円(4.3%増)
大卒・・・・・・・・・・・・・・・・・190,600円(0.7%増)
高専・短大卒・・・・・・・・・・166,600円(1.5%増)
高卒・・・・・・・・・・・・・・・・・149,400円(0.9%増)

◆調査の目的

この調査は主要産業に雇用される労働者について、その賃金の実態を労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数および経験年数別に明らかにすることを目的とされています。今回はそのうちの初任給の結果を取りまとめたものです。

調査は5人以上の常用労働者を雇用する民営事業所および10人以上の常用労働者を雇用する公営事業所から一定の方法で抽出された事業所が対象とされ、平成18年6月分の賃金について7月に調査が行われました。

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