●「パートも厚生年金」及び腰…社会保審部会スタート(12月27日 読売)
―小売業界「断固反対」― 選挙への影響懸念
27日にスタートする社会保障審議会の年金部会では、パート労働者への厚生年金の適用拡大や年金財政のあり方が論点となる。焦点のパートへの適用拡大については、安倍首相が「再チャレンジ支援策」の目玉と位置づけ、旗振り役を務めているが、大勢のパートを抱える小売業界などは負担増に断固反対している。政府・与党内も及び腰の姿勢が目立っている。(政治部 湯本浩司、社会保障部 石崎浩)
現在、労働時間が「週30時間以上」のパートは厚生年金の対象だ。適用対象をどこまで広げるかが論議の中心となっている。
安倍首相は、適用拡大のための関連法案を来年の通常国会に提出する意向だ。正社員とパートの待遇の格差を縮めることで、「再チャレンジ支援」の一環になるとしている。
さらに、適用拡大が、年金の一元化につながるとの判断もある。政府・与党は10年に公務員の共済年金と厚生年金を一本化する方針で、パートへの適用が実現すれば、自営業者を除く雇用者は厚生年金に「統合」される。与党幹部の中には、民主党が掲げる「国民年金も含めたすべての年金の一元化」に対抗するための「年金カード」にしたいという思惑が見え隠れする。
現在、労働時間が「週30時間以上」のパートは厚生年金の対象だ。適用対象をどこまで広げるかが論議の中心となっている。
安倍首相は、適用拡大のための関連法案を来年の通常国会に提出する意向だ。正社員とパートの待遇の格差を縮めることで、「再チャレンジ支援」の一環になるとしている。
さらに、適用拡大が、年金の一元化につながるとの判断もある。政府・与党は10年に公務員の共済年金と厚生年金を一本化する方針で、パートへの適用が実現すれば、自営業者を除く雇用者は厚生年金に「統合」される。与党幹部の中には、民主党が掲げる「国民年金も含めたすべての年金の一元化」に対抗するための「年金カード」にしたいという思惑が見え隠れする。
◇
一方、パートを雇用している企業は適用拡大で、パートが支払う保険料と同額の負担を求められる。
「国民の意見を反映しないまま、パート労働者への厚生年金の適用拡大が明記されたのは大変遺憾だ。改めて断固反対する」
スーパーマーケットや百貨店、ホテルなどの小売・サービス業の業界17団体の代表は26日、都内で記者会見し、政府が適用拡大を再チャレンジ支援総合プランに盛り込んだことに反対する声明を発表した。パートを多数抱える小売業界などは、与党議員らに反対の陳情攻勢をかけている。
パートは2005年で1266万人に達し、全雇用者の24・0%を占めた。そのうち、女性は882万人と約7割を占める。雇用情勢の変化で、男性のパートも増えており、男性の雇用者に占める割合は00年まで10%未満だったが、05年に12・3%となった。
パートの中には、正社員と変わらない働きをする人も少なくない。
年金部会は、反対する業界団体からもヒアリングを行い、来年3月中にも論点などを整理する方針だ。だが、小売業界などを中心とする反対攻勢を前に、政府・与党内は、適用対象をできるだけ絞り込む方向になりつつある。
自民党議員からは「選挙区内に全国チェーンの業者がいる。適用拡大には賛成できない」との声が漏れる。
パートへの適用拡大は04年の年金改革でも検討されたが、業界団体などの強い反対で、導入が見送られた。当時、パートへの適用対象について、現行の労働時間「週30時間以上」から「週20時間以上」に拡大する案が検討された。約300万人が新たに厚生年金に加入すると試算されていた。
―政府・与党案 対象1割のみ―
今回、政府・与党が検討している案は「週20時間以上」は踏襲するものの、新たに〈1〉月収(標準報酬月額)が9万8000円以上〈2〉勤続1年以上、または勤務が1年以上となる見通し〈3〉従業員数300人以下の中小企業は除外――との3条件を設けるものだ。
こうした3条件に適合するパートは全体の約1割の100万人強にとどまるとみられる。「対象を絞り過ぎれば、適用を拡大する意義が薄れる」との指摘が出ている。
適用拡大で、パート本人にどの程度メリットがあるのか分かりにくいことが議論を複雑にしている。
サラリーマンの妻(第3号被保険者)は現在、保険料負担はゼロだ。厚生労働省の試算によると、例えば、サラリーマンの妻が新たにパートとして厚生年金に加入し、月収10万円のパートを20年続けた場合、毎月の保険料は7100円程度となるのに対し、年金の受給額は月約1万750円増える。平均寿命まで生きれば、100万円以上「得をする」計算だ。
だが、日本チェーンストア協会は「協会独自の試算では、パートの勤続年数は4・8年程度で、実際には年金は月2600円程度しか増えない人が大半だ」(小笠原荘一常務理事)と試算を疑問視する。
社会保障審議会 有識者らで構成する厚生労働相の諮問機関。2001年の中央省庁再編に伴い、従来の人口問題審議会、医療審議会、年金審議会などを統合・再編して設置された。年金改革や人口推計など、社会保障の重要課題を議論している。
―厚労省「本格改革必要なし」―
年金部会では年金制度の本格的な改革はあまり論議されない見通しだ。
政府は04年の前回改革で「モデル世帯の給付水準は、将来も現役世代の収入の50%以上を確保する」と約束した。04年改革を「100年安心」と説明しただけに、厚労省は本格的な改革の必要はない、としているためだ。
厚労省はパートの適用拡大をまず実現した上で、09年ごろにかけて、比較的小幅な制度改正をいくつか行いたい考えだ。
しかし、政府が20日公表した日本の将来推計人口は、出生率の見通しを大幅に下方修正した。04年改革の前提は大きく揺らいでいる。
保険料未納率が3割を超える自営業者の国民年金だけでなく、厚生年金でも制度の空洞化が広がっている。総務省は、中小零細事業所の違法な加入逃れが最大で70万事業所にのぼり、適用を受けるべき事業所数の約3割に達していると推計している。年金部会の委員からは「抜本改革が必要だ」などと厚労省を批判する声が出ている。
「国民の意見を反映しないまま、パート労働者への厚生年金の適用拡大が明記されたのは大変遺憾だ。改めて断固反対する」
スーパーマーケットや百貨店、ホテルなどの小売・サービス業の業界17団体の代表は26日、都内で記者会見し、政府が適用拡大を再チャレンジ支援総合プランに盛り込んだことに反対する声明を発表した。パートを多数抱える小売業界などは、与党議員らに反対の陳情攻勢をかけている。
パートは2005年で1266万人に達し、全雇用者の24・0%を占めた。そのうち、女性は882万人と約7割を占める。雇用情勢の変化で、男性のパートも増えており、男性の雇用者に占める割合は00年まで10%未満だったが、05年に12・3%となった。
パートの中には、正社員と変わらない働きをする人も少なくない。
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年金部会は、反対する業界団体からもヒアリングを行い、来年3月中にも論点などを整理する方針だ。だが、小売業界などを中心とする反対攻勢を前に、政府・与党内は、適用対象をできるだけ絞り込む方向になりつつある。
自民党議員からは「選挙区内に全国チェーンの業者がいる。適用拡大には賛成できない」との声が漏れる。
パートへの適用拡大は04年の年金改革でも検討されたが、業界団体などの強い反対で、導入が見送られた。当時、パートへの適用対象について、現行の労働時間「週30時間以上」から「週20時間以上」に拡大する案が検討された。約300万人が新たに厚生年金に加入すると試算されていた。
―政府・与党案 対象1割のみ―
今回、政府・与党が検討している案は「週20時間以上」は踏襲するものの、新たに〈1〉月収(標準報酬月額)が9万8000円以上〈2〉勤続1年以上、または勤務が1年以上となる見通し〈3〉従業員数300人以下の中小企業は除外――との3条件を設けるものだ。
こうした3条件に適合するパートは全体の約1割の100万人強にとどまるとみられる。「対象を絞り過ぎれば、適用を拡大する意義が薄れる」との指摘が出ている。
適用拡大で、パート本人にどの程度メリットがあるのか分かりにくいことが議論を複雑にしている。
サラリーマンの妻(第3号被保険者)は現在、保険料負担はゼロだ。厚生労働省の試算によると、例えば、サラリーマンの妻が新たにパートとして厚生年金に加入し、月収10万円のパートを20年続けた場合、毎月の保険料は7100円程度となるのに対し、年金の受給額は月約1万750円増える。平均寿命まで生きれば、100万円以上「得をする」計算だ。
だが、日本チェーンストア協会は「協会独自の試算では、パートの勤続年数は4・8年程度で、実際には年金は月2600円程度しか増えない人が大半だ」(小笠原荘一常務理事)と試算を疑問視する。
社会保障審議会 有識者らで構成する厚生労働相の諮問機関。2001年の中央省庁再編に伴い、従来の人口問題審議会、医療審議会、年金審議会などを統合・再編して設置された。年金改革や人口推計など、社会保障の重要課題を議論している。
―厚労省「本格改革必要なし」―
年金部会では年金制度の本格的な改革はあまり論議されない見通しだ。
政府は04年の前回改革で「モデル世帯の給付水準は、将来も現役世代の収入の50%以上を確保する」と約束した。04年改革を「100年安心」と説明しただけに、厚労省は本格的な改革の必要はない、としているためだ。
厚労省はパートの適用拡大をまず実現した上で、09年ごろにかけて、比較的小幅な制度改正をいくつか行いたい考えだ。
しかし、政府が20日公表した日本の将来推計人口は、出生率の見通しを大幅に下方修正した。04年改革の前提は大きく揺らいでいる。
保険料未納率が3割を超える自営業者の国民年金だけでなく、厚生年金でも制度の空洞化が広がっている。総務省は、中小零細事業所の違法な加入逃れが最大で70万事業所にのぼり、適用を受けるべき事業所数の約3割に達していると推計している。年金部会の委員からは「抜本改革が必要だ」などと厚労省を批判する声が出ている。