人事労務の時事解説(2007年2月号)

人事労務の時事解説 2007年2月号


定期健康診断の受診は個人の自由!?

◆定期健康診断は受けないとダメ?

会社員が忙しさにかまけて、勤務先の会社で年1回実施している定期健康診断を受けなかったところ、「受診を拒否すると減給などの処分もあり得る」と会社側から言われました。定期健康診断を受けるかどうかは個人の自由ではないのでしょうか。

◆事業者には「実施義務」、労働者には「受診義務」

労働安全衛生法66条は、企業の健康診断について事業者には実施を、労働者には受診を義務付けています。
(労働安全衛生法で定められている定期健康診断の主な項目)
1.既往歴および業務歴の調査
2.身長、体重、視力、聴力の検査
3.胸部エックス線検査および肝機能検査
4.尿検査
5.貧血検査、血中脂質検査、血糖検査
※本人の承諾なしに法定検査項目以外の検査をすると、プライバシー侵害が問われることもあります。

◆拒否なら懲戒処分も可能

労働安全衛生法は労働者に対する罰則規定は設けていませんが、事業者や産業医が再三受診を促しても強硬に拒否した場合、事業者はその労働者を懲戒処分にすることも可能です。具体的には、出勤停止未満の処分が一般的で、けん責や戒告、重ければ減給になる可能性もあります。

懲戒処分にするかどうかの裁量は事業者側にありますが、衛生や健康問題に特別配慮すべき職場以外では、健康な労働者が定期健康診断を受診しなかったという理由だけで、雇い主が処分した事例はほとんどありません。しかし、業務に支障をきたすような症状が出ているのに、会社からの受診命令を拒んだ場合は、健康回復努力義務違反とみなされる場合もあります。

労働安全衛生法66条5項は、事業者が指定した医師の健康診断を受けることを望まない場合は、他の医師の診断を受け、結果を証明する書面を会社に提出してもよいとしています。しかし、労働者が選択した医療機関の受診結果について事業者が疑問を持つ合理的理由がある場合は例外とされています。

定期健康診断のポイントは、1.事業者には健康診断の実施義務、労働者には受診義務があること、2.受診拒否は健康回復努力義務違反になる場合もあることだといえます。


会社員の出張が増加している!? 

◆ITの発展は出張を増やす?

先日、「会社員の出張が増加傾向にある」との記事が新聞に掲載されていました。出張増加の背景には、景気回復で企業活動が活発になったためだけではなく、IT(情報技術)の進歩が出張を増やしているといった面もあるようです。

◆鉄道やホテルのビジネスの利用客が増加

昨年4〜10月の新幹線や特急などの輸送客数は前々年同時期に比べ増加しており、旅客数のうち半数以上を出張などのビジネス需要が占めており、輸送客数の増加はビジネス客の貢献が大きいといえます。

新幹線の4〜10月の総輸送客数は前々年同時期に比べわずかな伸びなのに対し、ビジネス需要が多い回数券の伸び率は倍以上で、また大半がビジネス需要であるグリーン車の平均乗車率も上昇しています。

出張客をターゲットにしたビジネスホテルの開業も相次いでおり、あるビジネスホテルは今年4月からの2年間で東京都心部に4カ所を新規にオープンする予定だそうです。

◆ITの進展で商機が広がる

かつては、「IT化が進めば、テレビ会議などで要件を済ませることができるため、わざわざ出張しなくてもよくなる」といわれたこともありましたが、現実にはむしろ出張の増加につながっているようです。IT化で情報が得やすくなり、これまで知らなかった企業や見本市に出かける機会が増えていることなどが背景にあるようです。

ITの進歩によって情報の獲得や発信が容易になり、企業の接点が増えた結果、新しいビジネスチャンスも増加したといえるでしょう。

◆コスト管理は厳しく

出張が増えているとはいえ、バブル期とは異なり企業のコスト管理は厳しいようです。」旅行会社に出張のチケット手配を一任するなど、コストを減らしながらも出張の回数は維持しようとするところも多いようです。

ITの進歩は、意外にも忙しいビジネスマンを一段と多忙にしているようです。


「働く意欲」が強い50代

◆50代の7割が「60歳以降も仕事を続けたい」

50代の約7割が60歳以降も仕事を続けたいと考えていることが、厚生労働省が行った「中高年者縦断調査」でわかりました。定年を間近にした団塊の世代をはじめ、中高年齢層の働くことへの意欲は強く、64歳ぐらいまでは働いて得た収入で生計を立てていこうと考える傾向が強いようです。

厚生労働省は「年金への不安があるのか背景を分析する必要がある」としています。

◆中高年者縦断調査とは?

「中高年者縦断調査」は、今後の高齢者施策を計画するうえでの資料を得ることを目的に、毎年同じ人を追跡調査し、変化の過程を継続的に観察することで結果を施策に反映させるというものです。

調査では、昨年11月現在の50〜59歳を対象に健康、就業、社会活動についての状況や考え方についてアンケートを行いました。40,877人を無作為に抽出して33,815人(内訳は男性16,415人、女性17,400人)から回答を得ました。

◆「可能な限り仕事をしたい」が6割以上

「60歳以降の仕事の希望」項目では、仕事を「60歳以降も続けたい」と考えているのは全体の70.9%で、男性が82.1%、女性が60.4%でした。

また、「いつまで仕事をしたいか」という点については「可能な限り仕事をしたい」と考えているのは男性が61.6%、女性は68.1%と言う結果になりました。具体的な年数を示した者の中では「65歳まで」が最も多く20.8%となっています。

「60歳以降の生活のまかない方」では、64歳までは「仕事の収入で生計を立てたい」と答えたのが66.9%だったのに対し、「公的年金でまかなう」としたのは32.1%にとどまりました。

◆健康状態は「良い」が8割

「現在の健康状態」項目では「どちらかといえば良い」が41.7%と最も多く、次いで「良い」が31.1%で、約8割近くの人が健康であるという認識をもっていることがわかりました。

年齢別にみると、男女ともに「悪い」の割合は「50〜54歳」に比べ「55歳〜59歳」のほうが高くなっており、年齢とともに健康状態への不安が高まる人が多いようです。


日本・ベルギー間の社会保障協定締結

◆日本とベルギーの年金加入期間の通算が可能に

2007年1月1日から、「社会保障に関する日本国とベルギー王国との間の協定」が発効され、日本とベルギーの年金加入期間が通算できるようになりました。

主な内容は以下の通りです。
1.日本の年金加入期間が25年未満の人については、ベルギーの年金加入期間を通算して25年以上の場合、日本の老齢年金を受けることができる。
2.ベルギー国外に住んでいる人でも、日本に住んでいる場合または日本国民の場合、ベルギー年金を受け取ることができる(ベルギー障害給付は除く)。
3.協定発効前にすでにベルギーの年金を受給していた人でも、申請により日本の年金加入期間を通算することで、ベルギーの年金額が高くなる場合がある。
4.ベルギー年金の申請が日本の社会保険事務所または共済組合の窓口で行うことができるようになった。

◆ベルギー年金の受給について

ベルギー年金は、原則として男性は65歳、女性は64歳から受給することができます。ただし、ベルギーと日本の年金加入期間が35年以上ある人は60歳からの受給が可能です。

ベルギー年金は、通常申請月の翌月から年金が支給されるため、申請が遅れた場合でも支給開始日が遡及することはありません。ただし、協定発効日にベルギー年金の受給権を満たす人は、2008年12月までに申請された場合に限り、2007年1月分から年金が支給されます。

◆社会保障制度二重加入の解消

日本の事業所に勤務する人などが、ベルギーにある支店や駐在員事務所などに派遣される場合、これまでは両国の社会保障制度に二重に加入しなければならないことがありましたが、協定により、いずれか一方の社会保障制度のみに加入することになりました。

派遣される期間によって免除される社会保障制度が異なります。
<派遣期間が5年を超える場合>
日本からベルギーへ派遣される人:日本の年金・医療保険免除
ベルギーから日本へ派遣される人:ベルギーの年金・医療保険・労災保険・雇用保険免除
<派遣期間が5年未満と見込まれる場合>
日本からベルギーへ派遣される人:ベルギーの年金・医療保険・労災保険・雇用保険免除
ベルギーから日本へ派遣される人:日本の年金・医療保険免除

◆「社会保障協定」締結国倍増に向け目標設定

政府の経済財政諮問会議は、海外勤務者らの公的年金保険料の二重負担などを防ぐ「社会保障協定」の締結国を、2年程度で倍増する目標を設定する方針を示しました。現在の締結国は7カ国(ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ)ですが、海外に長期滞在する日本人の9割をカバーするなどの目標も掲げるとしています。


厚生年金保険料の上限引上げを検討

◆安定した給付を目指す

社会保障審議会年金部会は、公的年金制度の改正に向けた議論を開始しました。

少子・高齢化が年金財政に与える影響を検証し、年金給付の安定を図るため、保険料体系や加入対象者などについて幅広く見直しがなされることとなります。

◆検討される課題

課題の1つとして、厚生年金保険料の上限引上げが挙げられています。

現在、厚生年金保険料は月収に応じて最高30等級(標準報酬額62万円)となっています。これ以上月収があったとしても、それ以上の保険料は徴収されません。この等級の上限を引き上げることによって、高所得者からの保険料徴収を増やし年金財源の増収を見込んでいます。

また、現在、働いていて一定以上の収入のある高齢者を対象として、年金給付を減らす制度がありますが、その対象者を増やしたり、働いている間は給付を止めたりすることによって給付を抑制する案も検討課題として挙げられています。

その他、国民年金加入年齢の見直しも検討課題となっています。現在は20歳から59歳までとなっている加入年齢を25歳から64歳に引き上げる案なども検討されています。

◆財政の確保

これらの制度変更により財政の安定化を図る理由は、2004年度の年金改革で5年ごとに保険料と給付額を改正する仕組みがなくなったことにあります。少子高齢化の進展具合に合わせて自動的に給付を抑制する代わりに、保険料の引上げスケジュールは原則として変更しないことになっています。

しかし、2004年度の年金改革で給付等の試算をした数字のベースは、50年後の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生むとされる子供の数)を「1.39」としていましたが、最近の新しい推計人口では、「1.26」にまで落ち込んでいますので、出生率や賃金上昇など最近の傾向を反映した年金財政の試算を発表し、年金財政の健全化を進め、国民の不安を和らげる方向をとっていくようです。


診療報酬の「定額制」を導入へ

◆75歳以上の外来患者も対象に

厚生労働省は、75歳以上のお年寄りの外来診療について、医師の治療を1カ月に何回受けても医療機関に支払われる診療報酬を一定にする「定額制」を導引する方針を固めました。寝たきりの在宅患者への往診など高齢者向け医療の一部ではすでに定額制が導入されていますが、これを外来医療へと拡大して医療費の抑制を図る考えです。

2004年度の75歳以上の医療費は9兆214億円で、医療費全体の28%を占めますが、高齢者に対し必要度の高くない医療が過剰に行われているとの指摘もあります。

こういった現状を改善する狙いの「定額制」ですが、患者の受診機会の制限につながる可能性や、医療機関がコストを下げようと必要な医療まで行わなくなる危険性もあり、今後、適用する疾病の範囲や条件を慎重に検討する方針です。

◆「定額制」を診療報酬体系の基本方針の柱に

2006年の医療改革で、75歳以上を対象にした保険制度を2008年度に創設することが決まっており、外来診療の定額制導入はその柱となります。厚生労働省は2007年3月までに診療報酬体系の基本方針を出す予定で、社会保障審議会の特別部会で1月から本格的に検討を始める予定です。

患者は高血圧や心臓病、関節障害など特定の慢性疾患の医療機関をあらかじめ選びます。そこで一定回数以上受診すると、それ以上は何度受診して投薬や検査を受けても医療機関が健保組合から受け取る報酬は定額とされる方法などが検討される見込みです。

◆現在の診療報酬の問題点

現在の診療報酬は個別の診察や検査、投薬について細かく料金が設定され、それを積み上げて治療費が決まる「出来高払い」が基本です。患者に多くの治療を行うほど医療機関の収入が上がる仕組みで、高齢者の外来医療では「過剰な診療で医療費の増加や病院・診療所のサロン化を招いている」との指摘もあります。


雇用対策法・パートタイム労働法の改正法案

◆通常国会に提出予定の改正法案

厚生労働省は、次期通常国会に雇用対策法、パートタイム労働法の各改正法案を提出する予定です。それぞれの内容は以下の通りです。

◆雇用対策法

目的に「働く希望を持つすべての人の就業促進」が追加され、同法4条1項において、若者、女性、高齢者、障害者等の就業促進や地域雇用対策について、様々な施策の充実を図ることを国の重要な施策として位置付ける方針です。

また、外国人労働者については、事業主の努力義務に外国人労働者の雇用管理の改善および再就職の促進を加えるとともに、公共職業安定所への外国人雇用状況報告制度の義務化を規定します。

◆パートタイム労働法

今回の改正では、従来の労働条件の明示、均衡処遇の確保、通常の労働者への転換等の対策をさらに進めるものです。具体的な方向として、労働条件の明示については、労働基準法において義務付けられている事項に加え、昇給、賞与、退職金の有無を明示した文書の交付を義務付けます。また、助言・指導・勧告をしても履行しない事業主には、過料を新設する考えです。

通常労働者との均衡ある待遇の確保については、通常の労働者と職務、職業生活を通じた人材活用の仕組み、運用等および就業の実態が同じであるパートタイム労働者に対しては、パートタイム労働者であることを理由として差別的取り扱いをすることを禁止します。

また、賃金は、職務、意欲、能力、経験、成果等を勘案して決めることを努力義務化し、賃金決定方法についても、通常労働者と共通にすることを努力義務とします。その他、教育訓練の実施と福利厚生の利用機会も与えなければいけないこととし、通常労働者への転換の推進に向けた措置も講じなければならないこととします。


不安な「年金生活」が浮き彫りに

◆50代の85%以上が「公的年金で生活」に不安

厚生労働省は、50歳代の85.5%が「公的年金の支給額が老後の生活に十分かどうか不安を感じている」とする調査結果を公表しました。「消費税率を引き上げて財源を確保すべきだ」とする回答も20%と20歳代(10.2%)の2倍にのぼり、年金生活を前にした世代の不安が高まっている現状が明らかになりました。

将来への不安要因について聞いたところ、「公的年金が老後の生活に十分であるかどうか」が76.3%と最も多く、次に多かった「医療や介護の負担増」(46.6%)を大幅に上回りました。年金への不安は50歳代で85.5%と最も高く、20歳台の63.5%を20ポイント以上、上回りました。