「働く人、敵に回せぬ」世論読み誤った残業代ゼロ断念(1月17日 朝日)

●「働く人、敵に回せぬ」世論読み誤った残業代ゼロ断念(1月17日 朝日)

―労働関連の法制、どうなる?―

〔経営側が推進〕
★先送り・ホワイトカラー・エグゼンプション(労働基準法改正)
  ↓ 影響?
〔労働側が推進〕
・残業代の割増率アップ(労働基準法改正) ・最低賃金引き上げ(最賃法改正)
・パートの待遇改善(パート労働法改正)   ・パートの厚生年金拡大(年金法改正)

一定条件の会社員の残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)の法案提出を見送ることになった背景には、夏の参院選を前に「サラリーマンを敵に回したくない」との与党の判断に加え、世論の反発を読み誤って、導入を急いだ政府の拙速な姿勢がある。だが、WEは、パート労働法改正や最低賃金の引き上げなど、一連の労働法制見直しとセットで調整してきた経緯があり、経済界の反発は必至。他の法案審議にも影響を与えそうだ。

自民党の中川秀直幹事長は16日の記者会見で、「新聞に『残業代ゼロ制度』などと書かれているようでは、制度の本来の内容、目的がまったく十分に説明、理解されているとは思えない」と指摘した。自民党国対幹部も15日、「試合終了だろう。(与党側と)相談もせずに法案を提出するしないを判断できるのか」と語り、公明党幹部も「我が党の雰囲気は極めて厳しい」。外堀は、ほぼ埋まった。

しかし、官邸が当初から、WEへの反発の大きさをしっかり認識できていたわけではなかった。

首相は5日、与党の慎重論について問う記者団に、「日本人は少し働き過ぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか」と、制度が労働時間短縮につながると説明。WEは「少子化(対策)にとっても必要」と、法案提出を目指す考えを示していた。

柳沢厚労相は「(与党の反発には)誤解がある」と与党幹部らの説得に回ったが、格差問題などへの対応が迫られるなかで、「経済界寄り」の法案は野党に格好の攻撃材料を与えかねず、参院選に影響するとの懸念がさらに強まった。政府関係者は16日、与党側の「最後通告」に近い反発を前に、「根回しも足りないまま打ち上げ、説明が後手に回った。こういう状況になった以上、今国会は出せないということだ」と悔やんだ。

一方、厚労省の準備不足も際立った。昨年末にまとめた審議会の報告書では、対象者の年収条件を明記せず、労使の対立した主張を併記。与党の反発を受けて「年収900万円以上」などの条件を示したが、対象者が「20万人」という試算はどんぶり勘定。かえって労働側から「導入後に範囲を拡大する意図が見える」などと批判を招く結果になった。

ただ、今国会で改正を予定している労働関係などの法案は、労使の利害調整を経て「寄せ木細工」(厚労省幹部)のようになっている。産業界が求めるWEを実現するのとセットで、労働側が求める残業代の割増率アップや、最低賃金法の強化などを産業界に受け入れさせた経緯があり、この日もパート労働法の改正案要綱が出たばかり。パートへの厚生年金の適用拡大の議論もこれからのタイミングだ。WEを認めないとなれば、全体が崩れるおそれがある。

日本経団連幹部は「WEの見送りは、総理の決断だから仕方がない。だが、(パート労働法改正など)全部セットの話なんだから、全部なし、ということだ」と話す。

一方、連合も「見送りは選挙目当て。参院選後は提出に向け再び動き出す」とみる。他の法案への影響を懸念し、「手放しで喜べない」のが本音だ。

●残業代ゼロ法案 政府、通常国会提出を断念(1月17日 朝日)

政府・与党は16日、一定条件の社員を労働時間規制から外し、残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)を導入する法案について、25日からの通常国会への提出を見送る方針を決めた。安倍首相は16日夜、首相官邸で記者団に「現段階で国民の理解が得られていると思えない」と述べ、提出する環境にないとの認識を示した。7月の参院選を控え与党内からも「サラリーマンを敵に回す」との批判が強まり、提出断念に追い込まれた形だ。

安倍首相は16日夜の日本記者クラブでの記者会見で「働き過ぎを助長してはならない。ましてやサービス残業を奨励する結果になってはならない。なんと言っても働く人たちの理解が不可欠だ」と強調。これに先立ち、首相は同日夜、国会中に理解を得られるかどうかを記者団から問われると「働く人の理解がなければうまくいかない。今の段階では難しい」と語った。

WE導入は、財界が「多様な働き方」(御手洗冨士夫・日本経団連会長)を促すものとして求めてきた。政府もこれまで、最低賃金引き上げやパートの正社員化を促すパート労働法改正など他の法案とセットでの処理を目指してきたため、WE法案はかりに成立が困難だとしても、通常国会に提出する道をぎりぎりまで探ってきた。だがこれ以上与党との亀裂が広がることは得策ではないと判断、首相側近も16日夜、「選挙もあるのに民主党に有利な材料を出すことはない。提出は絶対にない」と断言した。

ただ、WE導入の先送りに対しては財界が反発している。日本記者クラブでの会見で、首相はパート労働法改正案の提出方針は示したものの、セット処理の前提が崩れたことで労働法制全般の処理で混乱が生じる可能性も出てきた。また昨年12月の道路特定財源の一般財源化に続き、首相が看板に掲げる「再チャレンジ」に直結する政策分野でも与党内の反発を押し返すことがなかったことで、首相の求心力低下も避けられない。

WE導入は、政府が05年3月に閣議決定した規制改革・民間開放3カ年計画をもとに厚生労働省が検討に着手。しかし議論の中で「残業代ゼロ」という部分が強調されたため、野党から「残業代ピンハネ法案」(菅直人・民主党代表代行)などと批判された。与党内でも公明党を中心に抵抗を強め、首相周辺からも「選挙にプラスになる法案ではない」という声が出ていた。

厚労省はWEの呼称を「自己管理型労働制」と統一し、柳沢厚労相が今月上旬から与党幹部に説明に回った。塩崎官房長官も「法律を出すのが筋だ」と強気の姿勢を打ち出していたが、与党内は「厚労相が動いているから、その足をひっぱらない程度に発言しているだけだ」(自民党幹部)と冷ややかだった。