人事労務の時事解説 2007年3月号

 

会社分割に伴って行われる転籍
 
◆社員が転籍を拒否することはできるか

食品メーカーが会社分割方式で外食部門を分社化することになり、新設される外食事業への転籍を社員にもちかけましたが、この転籍に納得がいかないようです。この場合、社員に転籍拒否権はあるのでしょうか?

◆社員の個別同意は必要か

転籍の際は、それまで勤務していた会社との労働契約を打ち切り、別の会社と新たな契約を結びます。一般的にはグループ会社への転籍が多いでしょうが、社員には「会社が変われば労働時間や給与などの条件が悪くなるのではないか?」という不安もつきまといます。このため、転籍を拒んで解雇された社員が会社を訴えた過去の裁判では、「個別の同意が必要」とする判決が多いようです。

この原則が一部変更されたのが2001年の改正商法で、企業が事業部分を社員ごと切り離す「会社分割ルール」が盛り込まれ、同時に施行された労働契約承継法では、分割される部門の社員は別会社にそのまま引き継がれることになりました。

会社分割に伴って転籍する社員の労働条件は同じまま引き継がれますが、会社は社員と個別の同意なしで転籍させられるようになったのです。

「従事の度合い」で拒否可能

しかしながら労働契約承継法は、会社分割で転籍を通知された社員が、分社化される事業にどの程度かかわっているかで、転籍を拒否できるかどうかの権利に差を設けています。分社化される事業にも携わっているが「主として従事していない」社員は、転籍を通知された場合に会社に対して異議申立てを行うことができます。

反対に、分社化対象事業に「主として従事している」社員がリストアップされた場合は、異議申立てができません。また、主として従事しているにもかかわらず転籍を通知されなかった社員は、異議申立てをして転籍することができます。

会社分割に伴って転籍させる社員を選ぶ際には、会社には合理的説明が求められます。
 
派遣社員の事前面接が可能になる?
 
「事前面接」解禁を検討

厚生労働省は、派遣社員の雇用ルールである労働者派遣法を改正し、派遣会社から人材を受け入れる際に企業が候補者を選別する「事前面接」を解禁する方向で検討に入ったようです。

もし実現すれば、企業にとっては候補者の能力や人柄を見極めたうえで派遣社員の受け入れを決められるようになり、雇用の自由度が高まります。派遣会社が選んだ候補者の受け入れを企業が拒否でき、新たな人材を求めることができるようになるのです。

◆現行制度では「事前面接」禁止

現行の労働者派遣法では、派遣社員の定義は「企業から仕事や技能の希望を聞いた派遣会社が人を選び、企業に派遣する雇用形態」とされており、一時的に発生した仕事を片付けてもらう臨時雇用という発想が前提となっています。

しかし、企業が経費削減のために安易に正社員を派遣社員に代えることのないよう、事前面接など派遣労働者を選ぶ行為を禁じています。

背景には雇用形態の多様化

ここ数年で雇用形態が多様になり、派遣社員の待遇も改善し正社員との区別がつきにくくなってきたことが、事前面接解禁検討の背景にあります。企業側が「職場の調和を重視するうえでも、どんな人が派遣されるのかわからないのはおかしい」と主張していることも大きな理由の1つです。

派遣社員にもメリット

現在でも「顔合わせ会」、「職場見学会」などと称して派遣候補者に事前接触するケースもあるようですが、非公式なため、派遣会社が示した候補者を断りにくいのが実状のようです。

事前面接が認められるようになれば、派遣候補者も職場環境や雇用条件などを具体的にチェックできるといったメリットがあります。しかし、企業が人材を選別する結果、「年齢が高い」、「性格が合わない」などといった勝手な理由で仕事に就けなくなる派遣希望者が出てくる可能性があり、「企業が派遣社員の採用を増やし、正社員採用を減らす」と懸念する声もあります。
 
なぜ訪問看護師が増えないのか
 
訪問看護師の役割・需要の増加

病院・施設での長期入院・入所に代わって在宅療養が推進され、その担い手の要となる訪問看護師の役割が重要になっています。高齢化社会の進展に伴い、とりわけ医療と介護の両分野にまたがる訪問看護師への需要は多いようです。しかし、そのための事業所である訪問看護ステーションの普及はあまり進んでいないようです。

◆訪問看護師とは

訪問看護師の役割は、患者宅に出向いて健康状態をチェックしたり、リハビリ指導、床ずれ処置、入浴介助、人口呼吸管理などを行ったりすることです。訪問看護サービスを受けた利用者には好評ですが、認知度が低く、サービスそのものがまだまだ普及していないのが現実です。

訪問看護ステーションが制度化されたのは1992年で、翌年に介護保険制度の開始を控えた1999年には、医療法人だけでなく企業やNPO法人にも門戸が解放されました。介護保険の在宅サービスとして期待されましたが、2005年10月時点での訪問看護ステーションは5,300カ所と、当初の目標数値(2004年までに9,900カ所)の約半分に留まっています。

法規制、指示書などがネックに

必要度が高い訪問看護師ですが、なぜ増えないのでしょうか。同じ在宅介護サービスの通所介護や訪問介護、それにグループホームの分野では地域に密着した小さな企業やNPOの参入が急増した一方、看護ステーションでは、企業とNPOの運営は全体のうちわずかしかなく、相変わらず医療法人が半数近くを占めます。

その理由の1つは「ステーションには看護師が2.5人必要」と、1人での開業が規制されているのに加え、自宅マンションなどで開業の際にはステーションとして独立性が必要となるなど、開業へのハードルが高いことが挙げられます。

また、法律で看護師の業務は「診療の補助」と「療養上の世話」とされ、前者には医師の指示書が必要とされています。制度改革を望む声は現場に多いようです。
 
 
医療機関を悩ます消費税
 
医療費には消費税がかからない?

医療費には消費税がかかっていないのをご存知でしょうか。1989年の消費税導入の際、政府は保険証を使って医療を受ける場合の費用については非課税とすることを決めました。患者にとっては喜ばしいことですが、医療機関は歓迎していません。消費税率の引上げが話題になる昨今、医療機関関係者は頭を悩ましています。

医療機関には悩みのタネ

医療機関が困るのは、医療材料などを購入するときには消費税がかかっているのに、医療費は非課税であることです。

しかし、政府は消費税導入時などに一定の配慮をしています。医療行為はその一つひとつに公定価格(診療報酬)が決まっていますが、この診療報酬の引上げを行いました。この分だけ医療機関の収入は増えたはずですが、医療機関は「まったく足りていない」と主張しています。

医療費抑制で病院の経営は厳しく

政府の医療費抑制政策で、病院などの経営は全般的に厳しくなっているようです。最近は患者が医療費を窓口で支払わないという未収金問題も深刻化して、医療を取り巻く環境は深刻さを増しています。医療団体は医療費にも通常より低い税率をかけることや、消費税分を後で還付してもらう仕組みなどを要望しています。しかし、現時点で実現のめどは立っていません。

そもそも、日本は先進各国の中では患者の自己負担が重く、消費税分だけといっても、さらに負担が増えることについて簡単に理解は得られそうにありません。増える一方の社会保障費を賄う財源として消費税率の引上げは有力な選択肢とみられています。7月の参院選が終われば増税議論は本格的に始まる見通しです。

医療機関が経営の効率化に努めるのは当然ですが、環境が厳しすぎて次々と破たんするような状態では患者が困ってしまいます。「安心できる医療」のために、誰がどこまでその費用を負担するのか、増税議論の中で改めて考えていくべきではないでしょうか。
 
1年変形制における年休取得日 通常賃金の計算方法
 
◆年休取得日の賃金は?

1年単位の変形労働時間制を導入し、1日の所定労働時間が異なる場合は、年休取得日の賃金として、その日に予定された時間分を支払わなければならないのでしょうか。


◆年次有給休暇に対する賃金の支払方法

年次有給休暇に対する賃金の支払方法としては、次の3種類があります。
1.平均賃金
2.通常の賃金
3.健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額

このうち、どの支払方法によるかは当事者の自由とされています。しかし、あるときは上記1.の方法をとり、別のときは2.の方法をとるなど、社員が年次有給休暇を取得する都度、使用者が恣意的に選択することは認められません。

1.または2.の支払方法をとる場合は、採用した支払方法を就業規則その他これに準ずるものにあらかじめ定める必要があります。また、3.の支払方法をとる場合には、三六協定の場合と同様に過半数労働組合(ない場合には労働者の過半数代表者)と書面協定を結んで、就業規則に定めておく必要があります。

◆「通常の賃金」による支払いの場合

パートタイム労働者などの時間給制による労働者の通常の賃金の計算方法については、「時間によって定められた賃金は、その金額にその日の所定労働時間を乗じた金額」であることが定められています。

また、1年単位の変形労働時間制の場合で、時間給制による労働者の年次有給休暇の賃金を通常の賃金の方法によって支払う場合については、「各日の所定労働時間に応じて算定される」とされています。

したがって、パートタイム労働者が、年次有給休暇を取得した日に4時間の所定労働時間が設定されていれば4時間分の賃金を、6時間の所定労働時間が設定されていれば6時間分の賃金を支払わなければなりません。

一方、正社員のような完全月給制の労働者に対して1年単位の変形労働時間制が実施されているケースでは、年次有給休暇取得日に通常の賃金を支給する場合は、年次有給休暇取得日の所定労働時間が長い場合も短い場合も月給額をそのまま支払うことになります。
 
 
「毎月勤労統計調査」2006年分の結果は?
 

2006年の1人当たりの平均月間現金給与総額は、規模5人以上の事業場で前年比0.2%増の33万5,522円となりました。

現金給与総額のうち、所定内給与は0.3%減の25万2,810円、所定外給与は2.5%増の1万9,790円、特別に支払われた給与は1.1%増の6万2,922円となっています。物価変動の影響を除いた実質賃金指数は0.6%減と2年ぶりに減少しており、企業業績の好転が賃金上昇に結び付いていない実態を裏付けた格好になりました。

企業規模別にみると、従業員数30人以上の企業が0.8%増となった一方、5~29人では1.1%減となり、小規模企業ほど賃金が抑えられています。

◆労働時間について

2006年の1人当たりの平均月間総実労働時間は、規模5人以上で前年比0.5%増の151.0時間でした。

総実労働時間のうち、所定内労働時間は0.3%増の140.3時間、所定外労働時間は2.6%増の10.7時間となっています。

総実労働時間を就業形態別にみると、一般労働者は0.7%増の170.1時間となり、パートタイム労働者は0.3%減の94.8時間となりました。

雇用について

2006年の常用雇用の動きをみると、全体では事業所規模5人以上の事業場で前年比1.0%増え、3年連続の増加となりました。一般労働者は0.9%増、パートタイム労働者は1.4%増です。

パートタイム労働者は残業時間が1.8%増に留まる半面、所定外給与は6.6%伸びています。労働需給のひっぱくにより、時給が上昇傾向にあるためとみられています。

主な産業別にみると、製造業1.0%増、卸売・小売業0.4%増、サービス業1.6%増となっています。
 
企業も派遣社員も知って得する「紹介予定派遣」制度
 
紹介予定派遣制度による社員採用が増加

厚生労働省の調査によると、紹介予定派遣制度(派遣社員として一定期間働いた後に条件が合えば派遣先企業がその人を直接雇用する制度)を利用して正社員などに採用された人の数が2005年度に1万9,780人となり、前年度を85.6%上回ったそうです。紹介予定制度で企業に派遣された人の数は約3万3,000人で前年度比69.4%増となっています。

働く側にとっては職場の雰囲気などを見ることができ、企業側にとっては派遣社員の能力などを見極めてから雇用できるというメリットがあります。

◆企業の認知度はどの程度?

紹介予定制度は、従来の採用方法では見つからない優秀な人材を獲得する有効な手段として企業に定着しつつあります。しかし制度を実際に利用したことのある事業所は全体の約4.7%にすぎず、また、制度自体を知らない事業所も約55%となっています。

しかし、今後利用を検討している事業所は約18%あり、認知度が上がれば今後さらに制度の利用が広がっていくとみられています。

◆制度利用を希望する人も多い

派遣社員に対する調査では、紹介予定制度を知らない人が全体の約65%と過半数を占めています。しかし、制度を知っている人約35%のうち、制度を利用したいとする人は約半数の48%います。

制度のメリットをうまく活用

未経験の仕事に就きやすく、派遣期間中に業務の適性を判断できるなど、求職者にとっても大きな魅力がある制度ですが、全員が直接雇用されるわけではありません。企業から断られるケースも多くあります。

労使ともに制度の特徴を理解して、制度のメリットをうまく活用していきたいものです。

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