人事労務の時事解説(2007年5月号)

人事労務の時事解説 2007年5月号


月80時間を超える残業に「50%以上」の割増率

◆労働基準法の改正案

厚生労働省は、長時間労働の削減を図るため、残業代割増率の引き上げについて、労働基準法改正案に「月80時間を超える残業に50%以上の割増率」という具体的な数値を盛り込みました。

改正案には残業代割増率引上げのほか、現在は原則として1日単位でしか取得することができない有給休暇を、年間5日分は1時間単位で取得できる新制度なども盛り込まれています。改正案が成立すれば、生活環境に合わせ、「両親の介護のために5時間のみの有給休暇を取得する」ことなども可能になります。

◆明文化で拘束力

改正案では、残業台割増率の枠組みとして、以下のように3段階方式となっています。
1.1カ月の残業時間が45時間以下だった社員に対しては最低25%
2.45時間超80時間以下の場合はそれより高い率を設定する(努力義務)
3.80時間を超える場合は労使協議に関係なく50%以上

80時間以上の残業は、過労死などの危険性が高まるとされていますが、現行制度では残業時間に関係なく最低25%以上の割増賃金を企業に求めています。

厚生労働省は当初、3段階方式という枠組みだけ改正法に明記し、具体的な割増率は労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)で議論して政省令で定める予定でしたが、法に明記することで拘束力を強め、制度が簡単に変わることを避けたいと考えているようです。

◆当面 中小企業は適用除外

厚生労働省の調べによると、1カ月の残業時間が80時間を超えるのは、働く人全体のうち0.2%程度だそうです。割増率の引上げにより企業のコスト意識を高め、残業を減らす効果を期待しています。しかし、企業側からは、「社員が残業代を増やすために、社員自ら残業を増やすケースが出てくる」との声もあがっており、かえって残業が増えるのではないかとの指摘もあります。

改正案は、雇用ルール改革の柱の1つです。一定の条件を満たす会社員を1日8時間の労働時間規制から除外する制度(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)は労働組合などの反発が強く見送られました。

残業代割増率引上げは、原則として当面は社員数301人以上、資本金3億円超の大企業が対象です。施行から3年後には中小企業も対象とするかどうかを改めて検討するそうです。


企業の育児支援策に対する助成金の拡充・新設

◆中小企業の子育て支援をバックアップ

厚生労働省は、社員の子育て支援に積極的に取り組む企業への公的な支援を拡充します。事業所内に託児所を設けた中小企業への助成金を増額するほか、仕事と育児を両立しやすくするため職場の雰囲気を変えようとする企業への助成金も設けます。

上記の支援策は、労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)に雇用保険法に関連する省令改正案として提示され、了承されました。制度の新設・拡充により2007年度に約27億円が助成すされる予定です。

◆託児所設置で増額

拡充するのは雇用保険の育児・介護雇用安定等助成金制度で、育児をしながら働く社員のために託児施設を設置、運営、増築、建替えまたは事業所内託児施設の保育遊具等を購入した事業主、事業主団体に支給されるものです。

建設や運営にかかる費用に対する助成率を、2009年度末までの3年間は現行の2分の1から3分の2へ引き上げるとしています。

◆子育ての柔軟な働き方への支援でも拡充

同じく育児・介護雇用安定等助成金制度で、小学校就学までの子を養育する労働者が利用できる、短時間勤務制度やフレックスタイム制等の「仕事と育児の両立を支援する内容の制度」を新たに就業規則等により規定し、3歳以上小学校就学までの子を養育する労働者に利用させた事業主に支給する制度も拡充するとしています。

現在は1事業主につき1回のみの支給となっていますが、今後は前述の新たな規定を利用した2人目から10人目についても助成の対象にするとしています。

◆新たな制度も新設

新設される予定の助成金制度は、経営者が、1.仕事と子育ての両立支援を積極的に打ち出す、2.社員に育児休業など両立支援制度を周知するなどの条件を満たした企業に対し、最大150万円を助成するというもので、常勤社員300人以下で20〜30歳代が50人以上いる企業が対象とされる予定です。


「山ごもり研修」への参加は拒否できる?
 
◆どんな研修も参加しなければダメ?

入社間もない営業担当の社員に向けて、社長が「集中力を高めるために1週間の山ごもり研修を実施する」と号令をかけました。研修内容は業務と関連が薄いようなのですが、従わなければならないのでしょうか?

◆「業務との関連性」で判断

会社と社員との間で労働契約が結ばれると、会社は就業規則などに基づいて、社員に業務命令を出すことも可能となります。問題は、会社が命じることのできる範囲がどの程度まで許されるか、ということにあります。

会社の業務命令が適法と判断されるためには、「命令と業務との間に合理的な関連性があり、正当な目的や理由があること」が必要です。よって、「山ごもり研修」が適法か否かはその内容次第となります。終日、座禅を組んだり山を歩いたりと、業務とは直接関係のないメニューばかりの場合、集中力を高める研修と銘打っていても業務命令としての適法性を欠くとみられることもあるでしょう。
 
◆研修内容により、参加拒否は懲戒処分も

「体力強化や集中力を高めることは仕事にプラスになるから」といって、業務とは直接関係のない運動や精神修養などのメニューを社員研修の中に組み入れる企業はあるでしょう。心身に過度の苦痛を与えるのは論外となりますが、研修内容について企業側の一定の裁量権は認められます。業務とは直接関係のないメニューも、1日の研修のうち1〜2時間程度であれば、違法性が問題になることはないだろうと考えられます。

研修への不参加が懲戒処分の対象となるか否かについては、研修内容が適法なものであれば、「業務命令に従わなかった」として可能な場合もあり得るとされています。命令に従わないことが度重なれば、解雇に至るケースもあるでしょう。

ポイントは以下の2点です。
@研修には、業務との間に合理的な関連性や正当な目的・理由が必要
A研修内容が適法であれば、参加を拒否した社員の懲戒処分も可能

◆入社前の内定者研修は?

入社前の内定者が事前研修を課された場合、断ることは可能なのでしょうか。

会社と内定者はまだ労働契約を結んでおらず、会社が業務命令を出す権利はないとされ、研修に参加させるには同意が必要とされます。また、学業に支障が出る場合などは、内定者は事前研修を断ることができ、その場合に、会社が内定取り消しなどの不利益な取扱いをするのは違法とされています。


社会保険のパートへの適用拡大 大半は対象外?

◆現在の適用基準

現在、パート労働者への健康保険・厚生年金保険の適用基準は次の通りです。
1.正社員の1日または1週間の所定労働時間の概ね4分の3以上(週30時間以上相当)
2.正社員の1カ月の所定労働日数の概ね4分の3以上

◆新しい適用基準の対象範囲

当初、厚生労働省は、新適用基準に関する案を、
1.労働時間が週20時間以上
2.月収が9万8000円以上
3.勤務期間が1年以上で
4.当面は従業員300人以下の中小企業は適用が猶予される
としていましたが、反対派の意見が大きかったこともあり、「学生は対象外」という新基準を加えました。

さらに、月収条件(9万8000円以上)に賞与や通勤手当、残業手当を含めないこととする基準も法案に明記する方針を明らかにしています。

◆新基準適用は5万人程度?

政府は、適用拡大について2011年9月の実施を目指していますが、現在、適用外のパート労働者は約900万人いると言われており、そのうち、新適用基準に該当するのは看護師、管理栄養士など、約5万人程度の比較的高賃金パートに限られるとみられ、「大半のパート労働者には無関係で、意味がない」との批判も出てきています。


社内での飲み会も業務の一環?

◆東京地裁が「社内での飲み会も業務」として労災認定

勤務先の会社内において開催された飲み会に出席した後、帰宅途中に地下鉄の駅の階段で転落して死亡した建設会社社員の男性について、妻が「通勤災害で労災にあたる」として、遺族補償などを不支給とした中央労働基準監督署の処分の取り消しを求めていた訴訟の判決で、東京地裁は労災と認定しました。

男性は、1999年12月に勤務先で開かれた会議の後、午後5時頃から開かれた会合で缶ビール3本、紙コップ半分程度のウイスキーを3杯飲んでおり、同労働基準監督署は、「会合は業務ではない。飲酒量も相当あった」と主張していましたが、東京地裁は、「酒類を伴う会合でも、男性にとっては懇親会と異なり、部下から意見や要望を聞く場で出席は職務。飲酒は多量ではなく、酔いが事故原因とも言えない。降雨の影響で足元も滑りやすかった」として、労災と判断したのです。

◆通勤災害の定義の変化

労災保険法7条2項は、「通勤とは、労働者が、就業に関し、移動(住居と就業の場所との間の往復)を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」と定めています。

また、同条3項は「労働者が、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の移動は、通勤としないと定めています。

そのため、食事等で長時間にわたって腰を落ち着けたような場合は、逸脱・中断とみなされ、その間およびその後の行為は通勤とは認められていませんでした(昭48.11.22基発第644号)。今回の判決が今後の実務にどのように影響してくるのか、大変興味深いところです。