人事労務の時事解説(2007年7月号)

人事労務の時事解説 2007年7月号


揺れる「年金加入記録問題」

◆年金記録が存在しないケース

新聞報道などによりますと、社会保険庁に年金の加入記録を照会した人のうち、本人が保険料を支払ったと主張しているにもかかわらず記録が存在しないケースが、今年3月末時点で2万635人に達していることがわかりました。

社会保険庁が公表した3月初め時点の人数は1万7204人でしたので、1カ月で約20%増えたことになります。本人の勘違いというケースもあるようですが、社会保険庁や自治体による記録の消失が指摘されています。

◆預金通帳なども加入記録の証拠に

加入記録が一部でも存在しないと、年金の受給額が減ったり、受給権を失ったりする可能性があります。

領収書など、保険料を支払ったことを確実に証明する書類があれば加入記録は修正されますが、社会保険庁は、領収書だけではなく、保険料の支払時に発行された印紙や保険料が口座振替されたことを示す預金通帳なども「証拠書類」として認めていく方針です。

◆年金記録漏れを1年間で調査

政府は、納付記録の不備により生じた5000万件以上ともいわれる該当者不明の年金記録に関する調査を1年間で終える方針を示しました。

従来どおり社会保険事務所で加入記録に関する相談に応じるほか、納付記録の問い合わせに応じる電話窓口も設け、週末を含め24時間の対応も開始しました。また、不備をもたらした社会保険庁などの責任を追及するため、有識者委員会を新設することも政府は明言しています。


重大労働災害件数が過去最多

◆建設・製造業で重大労働災害が増加

1度に3人以上が死傷した重大労働災害の2006年の発生件数が318件となり、1974年以降最悪の水準になったことが厚生労働省のまとめでわかりました。特に、建設業や製造業で増加しています。
また、労働災害による死亡者数は1472人と過去最低となりましたが、建設業、製造業では増加しています。

◆安全管理対策の不備が影響?

重大労働災害の増加について、厚生労働省は「景気回復で建設業や製造業の現場が活性化する一方、安全管理がおろそかになっている可能性がある」と分析しています。同省では、事業主に対し、安全管理についての法令順守や労働災害が多発している分野での対策の徹底を促しています。

◆労働災害死亡者数減少の中、建設・製造では増加

労働災害による死亡者は減少傾向にあり、昨年は初めて1500人を下回り過去最低となりました。厚生労働省は、「職場での安全対策が進み、以前に比べて死亡に至る労働災害事故は起きにくくなった」とみています。

死亡者数が過去最低になったのは、交通事故によるものが前年比81人減となったのが大きな要因です。しかし、建設業や製造業での死亡者数はそれぞれ前年比11人増、同12人増となっており、同省は、「業種や職場によっては、必ずしも安全とはいえない」として、労災が多発する職場での安全管理の徹底を促しています。


離婚件数の増加と母子家庭への就業支援

◆児童扶養手当の受給者数が過去最多に

厚生労働省がまとめた「母子家庭白書」によれば、母子家庭の生活を支援するための児童扶養手当の受給者数が今年2月末時点の概数で98万7000人となり、2006年度は過去最高になる見通しであることが明らかになりました。

年間の離婚件数が1999年から2006年にかけて約25万件以上と高水準となり、母子家庭が増えたためとみられます。

◆児童扶養手当は削減へ

現在、児童扶養手当は母子家庭の母親や養育者に対して月額4万円強支給されていますが、政府は、母親の就労と自立を促すため、2008年4月から、5年を超える受給者の手当を最高で半分減額する方針を決定しています。

政府は、減額に備えて母子家庭の就労支援を強化しています。今回の白書では、2006年度の母子家庭の母親へのハローワークの照会件数が29万5000件となり、前年度の1.1倍、2003年度の1.5倍に増加したとされています。また、就職も7万3000件と前年度の1.1倍、2003年度の1.4倍になったと強調しています。

◆母子家庭に対する就業支援策

政府による主な就業支援策(いずれも平成15年度に創設)は、以下の通りです。

1.母子家庭等就業・自立支援センター事業[実施主体:都道府県、政令指定都市、中核市]
母子家庭の母親等に対して、就業相談や就業支援講習会の実施、就業情報の提供など一貫した就業支援サービスや養育費の相談など生活支援サービスを提供

2.自立支援教育訓練給付金事業[実施主体:都道府県、市、福祉事務所設置町村]
地方公共団体が指定する教育訓練講座を受講した母子家庭の母に対して、講座終了後に受講料の一部を支給→受講料の4割相当額(上限20万円、下限8,000円)

3.常用雇用転換奨励金事業[実施主体:都道府県、市、福祉事務所設置町村]
パートタイムで雇用している母子家庭の母を、OJT実施後、常用雇用労働者に雇用転換した事業主に対して奨励金を支給→1人当たり30万円


深刻な医師不足解消に向けた対応策

◆小児科・産科での医師不足

厚生労働省は、小児科・産科における医師不足に対応するため、両科に関連する診療報酬を2008年度の改定で引き上げる方向で検討を始めたそうです。加えて、再就職を希望する女性医師を登録した「人材バンク」を各地につくり、小児科・産科医が不足する病院への就労を促していくそうです。また、地方の医師不足解消のため、都市部などで院長になる要件に「へき地での診療経験」を含めることも検討しています。

◆小児科・産科の診療報酬アップを検討

厚生労働省は、医師不足を深刻な問題であると受け止め、医師不足問題に関する協議会で対策を詰めていきたいということです。合意ができた施策については、6月中にまとめる経済財政運営と構造改革に関する基本方針に盛り込むとしています。

与党は、小児科でカルテ整理を担当する医療事務補助員などの人件費を診療報酬の対象に加えて医師の負担を軽くする検討に入っています。厚生労働省はさらに踏み込み、診療報酬全体を厚くする優遇策により、夜間の急患対応などで他科に比べて負担の重い小児科・産科に報いる考えを示しています。ただ、医療費全体の膨張につながりかねないため、高齢者向け医療費の抑制策などとセットで考えているようです。

◆女性医師人材バンクで再就労を促進

小児科医における女性医師の比率は31.2%、産科医は21.7%で、全医師の平均(16.5%)を上回っています。女性医師は結婚や出産で離職するケースが多く、これが小児科や産科の医師不足につながっています。

再就労を希望する女性医師も多いのですが、求人・求職情報の不足で進んでいないのが実態です。そこで厚生労働省は、全国に2カ所しかない女性医師専用の人材バンクを各地に開設することで、再就労を促すとしています。

◆地方の医師不足解消にはへき地経験が有効?

地方の医師不足の解消策について、与党は、全国規模で地方の病院や診療所に医師を派遣する仕組みを検討しています。これを実現するためには、派遣に応じる医師を数多く確保する必要があります。

厚生労働省は、院長など病院の管理者になるための要件として「へき地での診療経験」を加えれば、効果が大きいとみています。1度検討して見送った経緯があり、実現に向けて再検討を始めました。


小売業者による「納入業者いじめ」に警鐘!
 
◆大手家電量販店に立入り検査

公正取引委員会が、家電量販店最大手の会社に独占禁止法違反容疑で立入り検査に入ったと報道されていました。規模を拡大している家電量販店において、納入業者に対する不当な強要が改まっていないとの判断から行われたようです。

公正取引委員会は、2005年に大手小売業に対する禁止行為を一部追加しており、不当と思われる行為の改善を暗に促していました。

◆メーカー従業員に業務範囲外の仕事を強要

公正取引委員会が家電量販店に対して優越地位の濫用の疑いで立入り検査をしたのは今回が初めてで、家電量販店全体に警鐘を鳴らす意味もあるようです。

メーカーが、小売業者との契約に基づき自社商品を販売するため従業員を派遣することは認められています。しかし、家電量販店最大手の会社は、優越的な地位を濫用し、納入業者(メーカー)に「ヘルパー」という従業員の派遣を強要し、店舗開発時に商品の陳列の手伝いを強いるなどした疑いが持たれています。

◆メーカーと小売業者の力関係逆転が背景に

今回、独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会の立入り検査を受けた背景には、家電メーカーと大手小売業者の力関係が逆転したことがあります。

かつては、家電メーカーが、自社製品を安売りした小売業者に対して製品の出荷を停止したように、メーカー側が圧倒的に強く価格決定権も握っていました。しかし、その後大手の家電メーカーの系列販売会社が家電製品の店頭表示価格を不当に拘束したとして排除勧告を受けました。これを契機に小売業者が自由に店頭価格を決める「オープン価格」が定着し、力関係が変わってきたのです。

◆従業員の派遣要請に対してメーカーの拒否難しい

公正取引委員会は、2005年11月に大規模小売業者の不公正な取引方法の具体例を告示、「納入業者いじめ」につながる行為の取り締まりを強化しました。しかし、「不当な従業員の派遣要請を受けた」という納入業者はいまだ後を絶たないのが実態です。

家電量販店は激しい安売り競争を行っており、コスト削減が至上命題で、納入業者への強要は同業他社でも行われている可能性があります。この会社への立入りは、業界全体に警鐘を鳴らすねらいがあるとみられています。

立場の弱い納入業者に不当に負担を押し付ける大手小売業者の手法について、公正取引委員会は、最終的に小売の競争を排除する結果につながり、消費者の選択の範囲を狭めることになると問題視しています。


派遣契約期間満了前でも直接雇用は可能?

◆派遣先が「すぐに直接雇用したい」

大学卒業後、派遣社員として就職。今の派遣先は仕事も楽しく、派遣社員として長く働きたいと思っていた矢先、派遣先から「正社員にならない?」と言われました。まだ、派遣契約期間が満了していませんが、応じてよいものなのでしょうか。

◆契約期間満了前では契約違反に

派遣社員は、派遣元の人材派遣会社と一定期間の雇用契約を結び、派遣先企業で派遣社員として働きます。人材派遣会社は派遣先企業と派遣契約を結んでおり、派遣労働は二重の契約関係が成立していることになります。

派遣契約期間の途中に、派遣先が派遣社員を正社員として直接雇用することについては、原則やむを得ない理由がない限り認められないとされており、冒頭のような例は「やむを得ない理由」となる可能性は低く、派遣社員と派遣先は契約違反として派遣元から損害賠償を請求される可能性があります。

◆契約を途中で解除するケースも

2005年度の厚生労働省の調査によれば、事業報告書を提出している全国約31,000の派遣元事業所において、派遣労働者は約320万人と増加傾向にあります。

ただ、団塊世代の大量退職などもあり、企業において正社員雇用が一部で拡大する中では、派遣社員も、不安定な派遣社員より正社員になることを望む人が多く、派遣先企業から「すぐ直接雇用したい」との要望があった場合、派遣会社(有料職業紹介事業の許可を受けているものに限る)は直接雇用後の年収の一定割合を「紹介手数料」として派遣先から受け取り、契約を解除するケースもあります。

◆紹介予定派遣の活用も

契約期間が残り少ない場合は、派遣先企業に契約満了まで待ってもらうことが多くあります。当初から派遣先での就職を目指す場合には、2004年に法整備がなされた「紹介予定派遣」制度があります。同制度は一定期間(最長6カ月)派遣社員として働いた後、派遣先企業・派遣社員双方が直接雇用を望めば認められます。

ただ、厚生労働省の調査によれば、紹介予定派遣で直接雇用に結びついたのは約6割にとどまっています。一定期間経過後の直接雇用は派遣先企業の義務ではなく、必ずしも直接雇用に結びつくとは限らないので、派遣労働者は注意が必要です。


求人時の年齢制限が原則禁止

◆改正雇用対策法が成立

若者や女性、高齢者らの就業機会拡大などを目指した「改正雇用対策法」が成立しました。今年の9月までに施行される予定です。

同法には、平成13年10月に「労働者の募集・採用に際しては、労働者にその年齢にかかわりなく均等な機会を与えるよう努めなければならない」という努力義務規定が追加されましたが、今回の改正により、求人の際の年齢制限が原則として禁止されました。

また、外国人労働者の雇用管理の強化を図るため、採用・離職時に、氏名・在留資格などを厚生労働省に届け出ることが事業主に義務付けられました。

◆雇用対策法の目的

雇用対策法は、「国が雇用に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、国民経済の均衡ある発展と完全雇用の達成とに資することを目的」として、昭和41年に制定された法律です。

具体的には、事業主に対して、離職を余儀なくされた労働者の求職活動が円滑にすすむよう、再就職を援助することに努めるよう促したりしています。

◆今回の改正のねらい

求人時における年齢制限の原則禁止には、就職氷河期に卒業した「年長フリーター」といわれる人たちやや高齢者の再就職を促進するというねらいがあります。

また、外国人労働者に対する事業主の届出義務は、不法滞在の防止や摘発の促進が目的とされています。


改正パートタイム労働法が成立

◆来年4月1日から施行

政府の再チャレンジ支援策の一環である「改正パートタイム労働法」が成立しました。一部を除き、来年4月1日より施行されます。

パートタイム労働法は、パートタイム労働者の適正な労働条件の確保および教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善に関する措置、職業能力の開発・向上に関する措置などを講じることによってパートタイム労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、また、その福祉を増進することを目的として、平成5年から施行されています。

◆対象となる「パートタイム労働者」は?

「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされており、例えば、「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、「短時間労働者」としてパートタイム労働法の対象となります。

◆今回の主な改正点

業務内容が正社員と同程度のパートタイム労働者については、給与などの面での差別的待遇を禁止し、正社員と平等な扱いを事業主に義務付けています。

具体的には、1.職務内容や責任、勤務時間の長さが正社員とほぼ同じ、2.契約更新の繰り返しがあり雇用期間が限定されていない、などの条件を満たすパートタイム労働者については、賃金や教育訓練、福利厚生などの待遇面で正社員との差別を禁止しました。

上記の対象となる「正社員並みパートタイム労働者」は、約1200万人であり、パートタイム労働全体の数%が対象にすぎないとみられています。

また、パートタイム労働者を雇用する企業に対しては、パートタイム労働者が正社員になるための応募の機会を設けるなど、正社員への転換の機会を義務付け、また、対象外となるパートタイム労働者にも正社員と均衡の取れた待遇を確保するよう努力義務を課しています。


景気が回復しても賃金は上がらない?

◆「いざなぎ景気」を超える景気回復?

このところニュース等で「“いざなぎ景気”を上回る勢いで景気が回復している」などと報道されていますが、一般労働者の賃金は上昇せず、景気回復の実感がない人が多いようです。景気回復と労働者の実感の違いは、企業の経営者と労働者の考え方が根本的に異なるからだといわれています。

◆景気回復の理由は?

総務省が発表した今年4月の完全失業率は前月より0.2%低い3.8%と、9年1カ月ぶりに3%台に低下しました。

このデータからすると、「失業率の低下=景気回復」となり、平均賃金が上昇し購買力が上がると考えられますが、この考え方は今回のケースには当てはまらないようです。景気が回復したから賃金が上昇したのではなく、賃金の上昇を抑えているから企業の純利益が増加し、景気回復につながったといわれています。

その根拠として、相対的に賃金が低いパート社員や契約社員が増加し、賃金水準の高かった団塊世代が定年退職を迎えたことが挙げられています。また、今年1〜3月期の雇用者1人当たりの平均賃金は前年に比べ減少しています。

◆今後の見通しは?

人件費の削減をはじめとするコスト削減による企業の利益はあくまでも一時的な利益にすぎず、企業が持続的に成長していくためには、商品・サービスの販売等によって利益を上げていかなければなりません。
そのためには優れた人材を確保していくことが重要です。だとすると、企業は自ずと賃金の引上げを行い、福利厚生などの充実を図るようになるのではないでしょうか。


核家族・単身者の増加で平均世帯人数が過去最少

◆一世帯当たりの平均所得額は563万8000円

厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」によると、一世帯当たりの平均所得額(平成17年1月から12月の所得)は563万8,000円と前年を2.9%下回りました。

生活が「大変苦しい」「やや苦しい」と意識している人は56.3%で、前年から0.1ポイント増加しています。

◆核家族・単身者の増加で世帯数増える

世帯総数は前年より約49万多い4753万で、20年前と比べ1.3倍に増加しています。このうち4分の1以上の1204万世帯が単身で、20年間で1.8倍になっています。母子世帯は前年より約10万増えて初めて70万を超え、平成13年からの5年間でみると11.3倍に増えています。

反対に、3世代同居は全体の10分の1以下となり、過去最少の432万世帯となっています。65歳以上の高齢者だけか、高齢者と18歳未満しかいない家庭は、前年から11万増えて846万世帯となり、高齢者社会が浮き彫りとなりました。

また、平均世帯人数は過去最少の2.65人となっており、核家族化・単身者の増大が影響した結果となっています。

◆世帯所得減少は一世帯当たりの就労人数減少が影響

仕事を持つ人の1人当たり平均所得は320万6,000円と景気回復の兆しが反映され増えているため、世帯所得の減少は、一世帯当たりの仕事を持っている人が減ったのが要因ではないかとみられています。
その要因としては、60歳到達による定年退職で収入が減る世帯や、フリーター等で正社員にならない親族の扶養が考えられます。

◆所得の不平等格差は改善

所得分配の不平等の度合を示す「ジニ係数」(0に近いほど所得分布の不平等が均等であることを意味する)は、今回の調査では前年より低い0.3948となり、2年ぶりに低下しました。今回の結果は不平等差が少なくなったということを数字上の結果は示していますが、実際はまだまだ所得格差は埋まっていないように感じられているようです。


“ストレス時代”のリスクマネジメント

◆労災認定された過労自殺者が過去最多

平成18年度の脳・心臓疾患の「過労死」事案の労災認定請求件数は938件(前年度比69件増)、支給件数は355件(前年度比25件増)となりました。また、過労や仕事のストレスが原因で自殺(未遂も含む)したとして、2006年度に労災認定された人は前年度より24人多い66人で、過去最多となりました。過労自殺を含む精神障害の認定者数も大幅に増加し、年代別では働き盛りの30代が40%を占めています。

◆精神疾患の労災認定基準も過渡的段階に

平成11年9月以降、精神疾患・自殺の労災認定請求件数は増加の一途をたどっています。認定基準自体が変更されていない中での認定数の急上昇は、現場における精神疾患の増加・深刻化を示しています。

今年5月7日には福岡高裁で、当時48歳の化学工業子会社に出向した男性が単身赴任で転勤後、未経験業務でうつ病を発症し自殺した事件について、裁判長は一審福岡地裁判決を支持し、「業務外」と主張する労基署側の控訴を棄却しました。高裁段階で過労自殺が労災認定されたのは、トヨタ事件(平成15年名古屋高裁)に次いで2件目です。

いずれも労災の判断基準が争点となり、労基署側は自殺の原因は本人の「ぜいじゃく性にあった」と主張するものの、裁判長は平均的労働者と比べて「性格等に過剰な要因があったと認めることはできない」と指摘しました。このような判例が増えると、精神疾患に対する労災認定基準が変わることが予想され、精神疾患についても、管理者責任が問われるケースが増えてくると思われます。

◆労災補償制度と民事訴訟との関係

労災補償制度による補償には、精神的損害(慰謝料)や逸失利益などは含まれません。そのため、遺族が会社に過失があったと考える場合、行政訴訟(労災認定)とは別に、民事訴訟を提起するケースが急増しています。

会社の過失とは「安全配慮義務違反」、つまり、社員に職場を起因とする発病や死亡の危険があるにもかかわらず、その危険性を回避するための措置を会社側が怠ったとする論拠です。

メンタルヘルスが緊急課題とされて久しく、厚生労働省は、事業者に「健康管理に係る体制を整備するとともに、健康診断結果、産業医による職場巡視、時間外労働時間の状況等様々な情報から労働者の心身の健康状況及び職場の状況を把握するよう努め、労働者の健康状況に配慮して、職場環境の改善、積極的な健康づくり、労働時間管理を含む適切な作業管理等様々な措置を実施すること」を求めていますが、長時間労働の抑制のみならず、時短の中での成果の追求や各種ハラスメントなど、達成課題や構成員が複雑化した職場において、諸々の精神的負荷に転じそうな問題に対して、管理職にとどまらず全職員に教育と実践を徹底しなければならない時代となってきているようです。