男性側の敗訴が確定した。
訴訟では、下請けの大工として出稼ぎに来ていた男性が、労災保険の対象となる労働基準法上の労働者に当たるかどうかが争点となった。
同小法廷は、元請け業者からの指揮や命令、報酬支払いなどの実態について検討。(1)工法や作業手順は自分で選択できた (2)作業時間も自由 (3)報酬は出来高払いで労務に対する対価ではなかった――などの事実を指摘し、「労働基準法上の労働者には該当しない」と結論づけた。
判決によると、工事は神奈川県茅ケ崎市のマンション新築工事で、竹中工務店(東京)などの共同企業体が受注。内装工事は下請けに出され、男性らが作業にあたった。男性は1998年11月、作業中に電動のこぎりで右手の指三本を切断。労災保険法に基づいて休業補償などの支払いを同監督署に請求したが、翌年3月に不支給とした。
男性は2003年、不支給処分の取り消しを求めて提訴。一審の横浜地裁は04年3月、「労災保険法上の労働者とは認められない」と訴えを退けた。
二審の東京高裁もこれを支持したため、男性側が上告していた。
労働基準法で労働者は (1)会社の指揮監督を受ける (2)労務に対する賃金を受け取る――と規定。労災保険法上も同様に扱われ、1人で工事を請け負う大工は対象外となる。
泉徳治裁判長は「男性は作業の手順や時間を自分の判断で選択できた。報酬は従業員より相当高額で、出来高払い中心」と指摘。「実質的に元請け会社の指揮監督下で作業する立場で、従業員と同じ」とする男性の主張を退けた。
男性は他人を雇わずに特定の工務店の工事に従事する「一人親方」と呼ばれる形態で働いていた。1998年、神奈川県茅ケ崎市のマンション新築工事中に指を切断する事故に遭ったが、藤沢労基署は「労働者ではなく、個人事業主に当たる」として労災補償を支給しなかった。
第一小法廷は ▽具体的な工法や作業手順の指定は工務店から受けず、自己の判断で選択できた ▽報酬は完全な出来高払いが中心だった―と指摘した。
その上で「工務店の指揮監督下に労務を提供していたとは評価できず、報酬は仕事の完成に対して支払われたもので、労務提供の対価とみることは困難」として、男性は労災保険法上の労働者に該当しないと判断。労基署の処分を妥当とした一、二審判決を支持した。
神奈川労働局によると、最近は工事元請け業者が、一人親方の大工に労災対象となる労災保険特別加入制度の利用を指導することが多いという。
【比較裁判例】 藤島建設事件(平成8年 浦和地裁判決)
大工と住宅建築業者間の契約関係について、典型的な雇用契約関係ではないが、典型的な請負契約関係であったともいえず、請負契約の色彩の強い契約関係であり実質的な使用従属関係があったので、住宅建築業者は使用者と同様の安全配慮義務を負うとした。
⇒ http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/02/s0208-2c1.html#8
■厚生労働省:労働基準法上の「労働者」の判断基準
⇒ http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/s0423-12d.html
■厚生労働省:労災保険制度
⇒ http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken.html
■財団法人 労災保険情報センター 特別加入の概要
⇒ http://www.rousai-ric.or.jp/employer/07/index.html