人事労務の時事解説(2007年9月号)

人事労務の時事解説 2007年9月号


「確定拠出年金」の運用放棄が大幅増加

◆約8万人が確定拠出年金を「運用放棄」

新聞報道などによると、確定拠出年金(日本版401k)制度で資金を運用しながら転職などで手続きをし忘れ、「運用放棄」とみなされている人が2006年度で約8万人いるそうです。国民年金基金連合会の調べで判明したもので、前年度より7割程度増えています。

公的年金の記録漏れが問題となる中で、制度の運営がうまくいかない「もう1つの年金問題」ともいえそうです。

◆転職時の手続き忘れが主な原因

確定拠出年金は、加入者本人や企業が毎月一定額を拠出し、積み立てたお金を投資信託や債権などで運用する仕組みです。加入者が年金資金の運用先を自己責任で選べるようにするとともに、企業側の運用負担を軽減することなどが目的で、欧米などでは普及が進んでいます。

運用放棄者の資産の合計は約211億円(2006年度末)で、前年度より6割程度増えています。日本で加入している人は3月末で約230万人。この中には運用放棄者は含まれていません。

加入者に対して支払う年金額を企業が約束する「確定給付年金」は、転職すると清算する必要がありますが、確定拠出年金は一定の手続きをすれば転職先にそれまでの運用成果を持ち運ぶことができます。転職した際に手続きを忘れる人が多いのは、持ち運べる制度であることを理解していない人が多いことの表れのようです。

◆受給権はそのままでも元本割れに

転職後半年以内に手続きをしないと運用放棄とみなされ、それまで運用してきた成果である積立金は国民年金基金連合会の管下に移ります。手続きを忘れ、積立金が国民年金基金連合会に移っても、受給権は失われません。ただ、保管中は積立金を寝かせた状態となるため、運用益は得られません。さらに手数料が月50円引かれるため、その分は元本が目減りし続けることとなります。

雇用の流動化が進み、異なる年金制度間を行き来する人も増えています。確定拠出年金はそれを見越して2001年に導入された制度ですが、細かい制度の中身が根付いておらず、手続き漏れが生じやすい状態になっています。


確定拠出年金の置き忘れを減らすため、厚生労働省は、転職者が自動的に年金を移せるような専用ファンドをつくるなど、新たな制度の検討を始めました。ただ、自己責任で「運用する確定拠出年金の原則に反する」という指摘もあり、具体的なスケジュールは見えていません。


社会保険審査請求が10年で約3倍に

◆不服申立て件数が急増

年金など社会保険をめぐり都道府県社会保険事務局の社会保険審査官に寄せられた不服申立件数は、過去10年で約3倍に急増しているそうです。厚生労働省は詳細な内訳を公表していませんが、多くは障害年金をめぐる不服とみられています。

5000万件に上る年金記録漏れ問題の発覚前から、年金制度全体への不信が強かったことの裏付けともいえるでしょうか。

◆増加の原因は「よくわからない」?

年金や健康保険など社会保険に対する不服申立ては、社会保険審査官と社会保険審査会の二審制がとられています。不服申立て件数の急増について、厚生労働省や社会保険庁は「原因はよくわからない」としています。

厚生労働省によると、全国の社会保険審査官に対する申立件数は、1997年度の受付け分と前年度からの繰越し分を合わせた合計は1637件でしたが、2006年度は5076件と約3.1倍に急増し、過去10年間増加し続けています。

◆多くは障害年金関連

これまで厚生労働省は、申立て理由ごとの詳細な内訳は公表していませんでしたが、2004〜2006年度の処理済み案件について、その内訳を明らかにしました。2006年度の処理状況をみると、申立て5076件のうち、同年度内に3542件の処理が行われ、年金関連は約75%にあたる2639件でした。そのうち障害年金をめぐる処理は2349件で、処理済み件数全体の約66%に上っており、不服申立ての多くは障害年金です。障害年金については各年度2000件前後が処理されており、主に障害認定などについて不服が寄せられているとみられています。

対象者がわからない年金支払記録が約5000万件に上っている問題に密接に絡むと思われる老齢年金についても、各年度160件前後の処理がなされているそうです。


仕事で手に入れた名刺は誰のもの?

◆転職時に返却を求められた

営業職の会社員。転職しようと思い会社に申し出たら、「業務上手に入れた名刺はすべて置いていけ」と言われました。自分が汗水流して手に入れた顧客の名刺は自分のものではないのでしょうか。

◆秘密指定外なら個人のもの

退職者に対し、秘密漏洩の防止策などを講じている会社は少なくありません。不正競争防止法では、企業の内部情報が「営業秘密」として保護されるための要件として、1.施錠できる場所で保管するなど秘密として管理されている、2.事業活動に有用な技術上・営業上の情報である、3.公然と知られていない事柄であることを挙げています。

問題は、「名刺といえども職務上入手した情報は営業の秘密といえるのか」、「漏洩防止策など会社の意向を書面などで周知させる必要があるのか」どうかということです。

◆裁判所の判断は?

労働者が職務上手に入れた名刺が営業秘密でない場合、退職後も自由に使えることができ、ライバル社への転職禁止契約が労使間にない場合は労働者には転職の自由があり、前職で培われた能力や情報を使用できるとされています。

前職で入手した名刺などを転職後も利用した元社員に会社側が損害賠償などを求めた裁判例があります。2001年、東京地裁は「保管、利用などを制約する労使間の取り決めがない」として名刺を営業秘密とは認めませんでした(一審で確定)。実際、名刺は労働者が各自で管理することが多く、名刺を営業秘密として会社が管理するのは難しいだろうとしています。

◆秘密扱いにするには契約や規定での周知が必要

職務上知り得た情報を、個人情報保護などを理由に労使間で秘密保持契約を結んでいたり、社内の秘密管理規定などで社員に周知したりしている場合、会社が名刺などの返却を強制しても問題はないとされるようです。

書面で取り決めがない場合はどうでしょうか。2007年、大阪地裁は「内部情報のすべてを『営業秘密』とする労働者の職業選択の自由を過度に制限する」として、職務上、入手した情報などを営業秘密だと会社が規定するには、その情報が営業秘密であることを認識できるようにし、アクセスできる者が制限されていることが必要と判断しました(現在、原告企業側が控訴中)。


失敗しない介護事業者選びのポイントは?

◆相次ぐ介護事業者の不祥事

このところ、介護事業者をめぐる法令違反が相次いで報道されています。事業者が自治体から指定取消しなどの処分を受けた場合に不利益を被るのは、施設の移動やヘルパーの変更などを余儀なくされる利用者自身です。優良な事業者をきちんと選ぶためのポイントをおさえておきましょう。

◆施設選びでチェックすべきこと

華美で明るい施設はどうしても良く見えますが、「見掛け倒しにだまされない」ことが肝心で、優良事業者を見抜く目を養うにはできるだけ多くの施設を見て回ることが大事です。

施設選びのチェックポイントとして、いす・テーブルの高さやベッドの幅があります。食堂をよく見ると様子がわかります。小柄な高齢者が、高すぎるテーブルで食事をしていれば、家具が体に合っていない証拠です。ベッドの幅が狭ければ、寝返りを打つスペースが確保できず、起き上がるのが困難になります。いずれも自力での生活を阻害する要因となり、事業者の真心と優しさが具体化されているかいないかがわかります。

電話の対応の仕方だけをとってもかなりの判断材料になります。

◆積極的な情報収集を

利用する前に必要なケアについて話し合うなど、自から積極的に情報を集めていくしかありません。そうして初めてわかることは少なくありません。また、問題のある事業者を避けるためには、ヘルパー交代の際に引継ぎがうまくいっているかどうかを見る必要があります。引継ぎがうまくいかないのは、事業所で監督的な立場にある人の能力がなかったり、不在だったりして、ヘルパーへの指導が行き届いていない可能性があるからです。その他、ケアマネージャーが作ったプランにのみ頼る事業者も注意が必要です。

入所後に、法令違反を感じたり、サービスに納得できなかったりする場合は、遠慮せずに解除や変更を申し出ることも大切です。


雇用保険制度の変更点

◆雇用保険法が改正されました

改正雇用保険法が成立しました(一部を除き10月1日施行)。概要は以下の通りですので、ご参考ください。

◆雇用保険の受給資格要件の変更等

従来、雇用保険の一般被保険者および高年齢継続被保険者を、週の所定労働時間が30時間以上の「短時間労働者以外の一般被保険者」と週所定労働時間20時間以上30時間未満の「短時間労働被保険者」に分けていましたが、その区分をなくし、被保険者資格と受給資格要件を「一般被保険者」として一本化されます。

基本手当の受給資格は、被保険者が失業した場合、「離職の日以前1年間に6カ月(短時間被保険者は2年間に12カ月)以上」あることとされていましたが、今回の改正で、「離職の日以前2年間に被保険者期間が通算し12カ月以上」あることに改められます。

離職が解雇・倒産等に伴うものである者として厚生労働省令で定める理由により離職した者(特定受給資格者)ついては、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して「6カ月以上」であれば受給資格を取得できるものとされます。

一般被保険者期間について1カ月間に賃金の支払いの基礎となる日が「14日以上」あることとしていましたが、今回の改正で「11日以上」である期間を1カ月として計算することになります。

◆育児休業給付の給付率が50%に引上げ

育児休業給付の給付率が、休業前賃金の40%(休業期間中30%・職場復帰6カ月後に10%)から50%(休業期間中30%・職場復帰6カ月後に20%)に引き上げられます。2007年3月31日以降に職場復帰した人から2010年3月31日までに育児休業を開始した人が対象です。育児休業給付の支給を受けた期間は、基本手当の算定基礎期間から除外されます(2007年10月1日以降に育児休業を開始した人に適用)。

◆教育訓練給付の要件・内容の変更

教育訓練給付の受給要件について、本来は「3年以上」の被保険者期間が必要だったものを、当分の間、初回に限り「1年以上」に緩和されます。

また、これまで被保険者期間によって異なっていた給付率および上限額を「被保険者期間3年以上(初回に限り1年以上で受給可能)20%(上限10万円)」に一本化されます。

いずれの措置も、2007年10月1日以降の指定講座の受講開始者が対象です。


「中小企業労働時間適正化促進助成金」について

◆労働時間適正化の取組みに対して支給

厚生労働省は「特別条項付き時間外労働協定」を締結している中小事業主が、労働時間の適正化に取り組んだ場合に支給する助成金(中小企業労働時間適正化促進助成金)を創設しました。

◆助成金創設の背景

近年、労働時間が週35時間未満の労働者と週60時間以上の労働者がともに増加する「労働時間分布の二極化」の傾向がみられ、また、年次有給休暇の取得率は9年連続で低下しています。こうした中、過重労働による脳・心臓疾患の労災認定件数が高水準で推移し、精神障害等の労災認定件数も増加するなど、長時間労働による健康障害が社会問題化しています。

労働者1人ひとりの心身の健康が保持されるとともに、家庭生活、地域活動、自己啓発等に必要とされる時間と労働時間を柔軟に組み合わせ、心身ともに充実した状態で意欲と能力を発揮できるような環境を整備していくことが重要となっています。

◆対象となる事業主は?

「特別条項付きの時間外労働協定」を締結し、決められた目標を盛り込んだ「働き方改革プラン」(実施期間1年間)を作成し、都道府県労働局長の認定を受け、そのプランの措置を完了した事業主が対象です。

◆「特別条項付きの時間外労働協定」とは?

36協定(時間外労働および休日労働に関する協定)で定める延長時間は「限度時間を超えないもの」としなければなりませんが、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない「特別の事情」が生じたときは、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を協定すれば一定期間についての延長時間は限度時間を超える時間とすることができます。この協定を「特別条項付き協定」といいます。

◆支給額は?

都道府県労働局長の認定を受けた「働き方改革プラン」に従い、1.特別条項付き時間外労働協定や就業規則等の整備を行った段階で50万円、2.時間外労働削減等の措置および省力化投資等の措置または雇入措置を完了した段階で50万円の合計100万円が支給されます。

ただし、2.を完了しなかった場合、1.は全額返還しなければなりませんのでご注意ください。


企業の「生産性向上」には何が必要?

◆企業の生産性向上に向けての課題

先ごろ政府が了承した2007年度の「経済財政白書」(年次経済財政報告─生産性上昇に向けた挑戦─)では、「生産性の上昇」に焦点をあて、企業に積極的な対応を求めている点が大きな特徴となっています。白書では、企業がITを導入しても有効に活用できていないため生産性向上につながらず、組織改革が遅れていると分析しています。

◆M&Aは生産性向上の有効な手段?

白書では、M&A(企業の合併・買収)が生産性向上の有効な手段の1つであると位置付けています。日本ではコスト削減を目的としたM&Aが主流で、高収益企業ほどM&Aに積極的に関与していると言われていますが、白書では生産性を意識したM&Aの展開を促しています。

◆賃金伸び悩みの理由はどこに?

白書では、景気拡大が続く中にあって従業員の賃金が伸び悩んでいる理由について、複数の要因が複合的に作用しているとしています。「景気回復が進めば所得格差が縮まる」という、従来の考えが信頼できなくなっている現状も報告されています。

内閣府は、専門家の間で通説となっている「賃金の低い非正社員の増加」、「高額所得者である団塊世代の一斉退職」、「高所得産業から低所得産業への転職」、「地方公務員の賃金の低下」の4つを検証しましたが、「いずれの要因も単独では賃金動向を説明しきれないが、押し下げる方向に作用している点は確認できた」と結論付けています。

◆政府の目標は「労働生産性の伸び率を5割アップ」

政府は、1人あたりの労働生産性の伸び率を5割アップさせることを目標に掲げています。目標の達成には格差是正への対策も求められ、政府の役割が一層大きくなっているといえるでしょう。


「年金時効撤廃特例法」とは?

◆時効撤廃で未支給分も全額支給に

これまで、年金記録が訂正されて年金が増額した場合であっても、時効消滅により直近5年間分の年金しか受け取ることができませんでしたが、年金時効撤廃特例法(厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律)の成立(7月6日公布・施行)により、5年より前の期間分の年金についても遡って受け取ることができるようになりました。

施行日以降の手続受付状況は、7月6日〜31日までで7896件となっています(社会保険庁8月1日発表)。

◆対象となる人は?

すでに年金記録の訂正により年金額が増えた人や、年金の受給資格が確認されて新たに年金を受け取ることができるようになった人は、年金(老齢、障害、遺族)の時効消滅分について、全期間遡って受け取ることができます。

また、遡って受け取れる人が亡くなっている場合は、その遺族(亡くなられた当時、生計を同じくされていた人に限り、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順となります)に、未支給年金の時効消滅分が支払われます。

◆これまでに適用が認められた人は?

社会保険庁は、7月19日に145人(平均支給額約51万円)について同法の適用を初めて認め、さらに7月24日に108人(平均支給額約84万円)に適用を認めました。これらの人には8月15日に未支給分が銀行口座などに振り込まれる予定で、同庁では、今後も額が確定した人から順次支給していくとしています。