仕事で手に入れた名刺は誰のもの?(07年9月号)

仕事で手に入れた名刺は誰のもの?

◆転職時に返却を求められた

営業職の会社員。転職しようと思い会社に申し出たら、「業務上手に入れた名刺はすべて置いていけ」と言われました。自分が汗水流して手に入れた顧客の名刺は自分のものではないのでしょうか。

◆秘密指定外なら個人のもの

退職者に対し、秘密漏洩の防止策などを講じている会社は少なくありません。不正競争防止法では、企業の内部情報が「営業秘密」として保護されるための要件として、1.施錠できる場所で保管するなど秘密として管理されている、2.事業活動に有用な技術上・営業上の情報である、3.公然と知られていない事柄であることを挙げています。

問題は、「名刺といえども職務上入手した情報は営業の秘密といえるのか」、「漏洩防止策など会社の意向を書面などで周知させる必要があるのか」どうかということです。

◆裁判所の判断は?

労働者が職務上手に入れた名刺が営業秘密でない場合、退職後も自由に使えることができ、ライバル社への転職禁止契約が労使間にない場合は労働者には転職の自由があり、前職で培われた能力や情報を使用できるとされています。

前職で入手した名刺などを転職後も利用した元社員に会社側が損害賠償などを求めた裁判例があります。2001年、東京地裁は「保管、利用などを制約する労使間の取り決めがない」として名刺を営業秘密とは認めませんでした(一審で確定)。実際、名刺は労働者が各自で管理することが多く、名刺を営業秘密として会社が管理するのは難しいだろうとしています。

◆秘密扱いにするには契約や規定での周知が必要

職務上知り得た情報を、個人情報保護などを理由に労使間で秘密保持契約を結んでいたり、社内の秘密管理規定などで社員に周知したりしている場合、会社が名刺などの返却を強制しても問題はないとされるようです。

書面で取り決めがない場合はどうでしょうか。2007年、大阪地裁は「内部情報のすべてを『営業秘密』とする労働者の職業選択の自由を過度に制限する」として、職務上、入手した情報などを営業秘密だと会社が規定するには、その情報が営業秘密であることを認識できるようにし、アクセスできる者が制限されていることが必要と判断しました(現在、原告企業側が控訴中)。