人事労務の時事解説(2007年12月号)

人事労務の時事解説 2007年12月号


社員が自宅に仕事を持ち帰った場合の残業代は?

◆仕事が終わらない!

会社は残業時間の減少を目標に掲げ、職場では午後10時に強制消灯しています。しかし、仕事量が多く消灯までにはとてもこなしきれず、毎日のように自宅に仕事を持ち帰る社員がいます。このような場合、自宅での仕事に残業代の支払いは必要なのでしょうか?

◆上司の命令であれば支払いが必要

労働基準法は、従業員を週に40時間を超えて働かせる場合は、割増賃金を支払わなければならないと定めています。割増賃金は、使用者(上司など)の指揮命令下で行った残業時間を基に計算されるのが一般的です。

職場以外の仕事であっても、「消灯までに終わらない仕事は自宅に持ち帰れ」と上司が命じていたり、上司の許可を得ていたりする場合には、残業代の支払いが必要です。逆に、会社が職場以外での仕事を禁じているのに従業員が勝手に自宅で仕事をした場合、残業代を支払う必要はありません。

残業禁止命令を会社から出された従業員が、時間外労働の割増賃金を支払うよう求めた訴訟においても、東京高裁は2005年、「命令に反して仕事をしても労働時間には含まれない」との判断を示しました。このケースでは、従業員は時間内に仕事がこなせない場合は役職者に引き継ぐように命じられており、「残業なしで仕事を終えるのは不可能」と訴えた従業員側の主張は通りませんでした。

◆暗黙に残業を命じている場合は?

会社側が明確に自宅での残業を命じていなくても、残業代の支払いが必要となるケースはあります。例えば、「明日締め切り」という仕事を夕方になって従業員に大量に割り振るような場合です。

上司が暗黙に残業を命じたとみなされれば、自宅での仕事も残業代の対象となる可能性があります。この場合、普通の人が普通のペースで時間内にこなせるかどうかが1つの判断基準となります。

◆適切な労働時間管理を

「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)が提唱され、残業削減に取り組む企業は増えています。しかし、就業時間を厳格に縛る一方で仕事量が減らないなら、残業代の扱いをめぐる争いがかえって増えかねません。企業には適切な業務量管理が求められています。


「メンター制度」を上手に活用するには?

◆語源はギリシャ神話

入社した新入社員が早々と職場に見切りをつけて離職するのを防ぐため、「メンター制度」を導入する企業が増えているようです。

「メンター」はギリシャ神話の老賢人「メントル」を語源とし、仕事面だけでなく、人生の師となる人の意味も持ちます。しかし、制度を導入して効果的に活用しようとしても、現実的には教育係と何ら区別のない会社が多いようです。

◆メンターに魅力なし!?

メンターがやるべき役割を果たそうとしても、若手がメンターを必要としないこともあります。あたかもOJT(職場内訓練)の一部のように、キャリア的機能のみを重視している企業も少なくありません。

メンターには、仕事面をサポートする「キャリア的機能」と、人生の相談相手となるような「心理・社会的機能」が求められます。OJTの教育係なら、仕事に限った付き合いとして、多少そりが合わなくとも我慢できます。しかし本来、それ以上の役割が求められるメンターを会社が指定する場合は、相性や指導体制の整備不足が問題になりやすいのです。

メンター制度を有効なものとするためには、メンター(指導する側)とメンティー(指導を受ける側)の信頼関係の構築が第一です。信頼関係の構築なしには、転職など人生コースの変更も含めたアドバイスは難しく、そこにメンター制導入の難しさがあります。

◆社外で自ら探す若手社員も

本来の趣旨からすれば、メンターは何も社内だけで探す必要はありません。若手社員の中には、社内外を問わず「これぞ」と思う人にメンターを頼む人もいるようです。

メンターには、若手が自分のキャリアをどう構築するか、個人の視点に立った相談相手としての役割が求められます。労働市場の流動化だけではなく、組織環境自体も変わりやすい今日では、従来のように職場の教育係が組織の価値観や文化を教えれば済む時代ではなくなっています。

制度に頼るだけではなく、メンターには「若手の師となろうとする自覚」、メンティーには「自らメンターを探すような能動的な姿勢」が必要なことを忘れてはいけないでしょう。


給与のもらい方で変わる年金の受給額

◆同じ年収でも受給額に違い!?

「同じ年収であっても、給与のもらい方次第で将来の年金受給額が変わる」と聞けば老後の一大事で、聞き逃せる話ではありません。問題となるのが、最近増えている年俸制です。

年俸制といえば、プロスポーツ選手など収入が多い人にしか関係ないと思われがちですが、最近では能力主義・成果主義導入の影響で、管理職などに年俸制を導入する企業も増えてきています。年俸制の中でも、単純に年俸を12カ月で割って毎月支払われているような場合は要注意です。

◆AさんとBさんの例

「年俸制でないAさん」と「年俸制のBさん」とで比べてみましょう。
2人とも年収は960万円、賞与は2回分で234万円です。Bさんには単純に12ヶ月で割って月80万円支払われたとします。
仮に、2人が今の年収で40歳から60歳まで働いたとすると、20年間分の厚生年金の額はAさんが年約107万円、Bさんが年約81万円と、Bさんのほうが少なくなります。

◆なぜこのようなことが起きるのか

この差の謎を解く鍵が、年金計算の基礎となる「標準報酬月額」です。月給60万5000円以上は年金の計算上、標準報酬月額が62万円とみなされます。保険料はこの62万円に保険料率をかけて計算され、賞与も保険料の対象となります。

つまり、Aさんは給料と賞与の全額が年金額の算定に反映されます。しかし、給与80万円のBさんは月給62万円とみなされ、給与全額が年金計算に反映されることはなく、賞与もありません。この結果、年金額に差が生じるのです。ただ、保険料は賞与がない分、Bさんのほうが少ないのです。

◆年金収入とのギャップ

毎月の給与が多い人はどうしてもその範囲で生活を広げがちになり、リタイア後の年金収入とのギャップに驚くことになります。年収が多いと年金額も多いと錯覚しがちですが、給与が支払われるときに12等分されるような年俸制の場合は、年金額が思ったほどではないかもしれません。

2007年4月から、健康保険の保険料を計算する際の月給の上限が98万円から121万円に改定されました。月給が多い人は健康保険料が増えているはずです。ただ、健康保険料の場合はたくさん払ったからといって年金のように見返りがあるわけではありません。

年収が多い人、特に年俸制で年収が多い人は現役の時から支出管理をきちんとし、計画的に生活設計をする必要があるでしょう。


パワハラ(上司によるいじめ)を初の労災認定

◆上司の暴言を苦に自殺

製薬会社に在籍していた当時35歳の男性社員が自殺した原因は、上司の暴言にあるとして、社員の奥さんが国に対して労災認定を求めていた訴訟で、東京地裁は10月15日、原告側の請求を認め、労災であると認定しました。

◆「パワハラ」とは何か?

「パワハラ」とは、パワー・ハラスメントという和製英語の略称であり、一般的に、職場での地位を利用した上司によるいじめや嫌がらせのことをいいます。今回の訴訟は、パワハラを原因とする社員の自殺を労災認定した初の司法判断とのことです。

上司のパワハラによる被害は、退職やうつに追い込まれるケースも多くありますが、これまでは労災の対象になるとは考えにくかったのです。

◆パワハラと「指導」の違いはどこに?

上司や企業の側は、「指導」という言葉でパワハラを正当化しがちな傾向にありますが、実際にはいじめや暴言、しごきという実態が存在することもあるようです。

今回の訴訟で問題となった上司の発言にも、「存在が目障りだ」「お願いだから消えてくれ」「お前は会社を食い物にしている、給料泥棒!」といった暴言があったようです。男性社員は、上司のこのような発言によって自分を責め続け、ついには自殺願望から抜けられなくなってしまったとのことです。

言葉による暴力は、時に実際の暴力よりも人を傷つけることがあります。自分のストレスのはけ口として部下にあたっていることはないか、今一度自己の言動を見直すことも必要かもしれません。


次世代育成支援法の認定企業が増加中

◆届出の状況は?

次世代育成支援対策推進法に基づいて「一般事業主行動計画」(行動計画)を策定・届出し、当該計画の目標を達成したことなど一定の基準を満たした企業の認定が開始されてから6カ月が経過しました。

平成19年9月末現在の認定企業は366社で、行動計画の届出企業2万772社うち301人以上の企業が1万2961社、300下以下の企業が7811社となっています。301人以上の企業の届出率は97.6%となっています。

◆次世代育成支援対策推進法とは?

次世代育成支援対策推進法は、次代を担う子供を社会全体で支援していくため、企業や自治体に子供を育てやすい環境づくりの行動計画の策定を求めた法律です。2015年3月31日までの時限立法で、2005年4月に施行されました。

これまで、少子化の主たる原因は「晩婚化」や「非婚化」とされてきましが、最近では結婚した夫婦が子供を持つことが少ないことも指摘されています。そのため、育児と子育ての両立支援が中心であった対策に、国は男性を含めた働き方の見直しをすすめています。

◆行動計画の内容

行動計画の期間は2年以上5年未満とする企業が多くみられます。国では、女性の育児休業取得率を7割以上、男性の育児休業取得率を0.5%や1人以上といった目標を設定しています。

その他では、勤務時間に柔軟性を持たせることや、育児サービスの費用の助成等、社内に行動計画を周知することによって、従業員に自然に受け入れられ、働きやすい職場環境に理解がされやすくなってきている傾向もみられます。

◆300人以下の企業の届出も増加

行動計画の届出が「努力義務」とされている300人以下規模の企業でも、年々届出数が増加しています。本来ならば、企業規模を問わず次世代育成支援対策の取組みが行わなければならないもので、今後より多くの中小企業での取組みが期待されます。


民間企業のボーナスは4年ぶりに減少か

◆4年ぶりに減少へ

野村証券金融経済研究所など民間4社による2007年冬の民間企業ボーナス予測によると、1人当たりの支給額は4社平均で前年同期比1.0%減の42万9566円(前年冬は43万3825円)です。大企業の業績好調が続く一方、中小企業の厳しい収益環境やパートタイマーの比率上昇などによる影響で、4年ぶりにマイナスに転じると見込まれています。公務員を含めた総支給額も前年比0.6%減の19兆5900億円と、4年ぶりの減少が予想されています。

◆景気の回復が波及せず?

この予測は、パートを含む従業員5人以上の企業が対象です。厚生労働省の統計によると、夏の支給実績も前年同期比1.1%減と3年ぶりにマイナスとなっており、景気回復の恩恵が社員の家計に十分波及していない現状が改めて浮き彫りになりました。

企業の増益ペースが鈍く、パート労働者の採用を増やしていることも、ボーナス支給額の抑制に影響しているようです。

◆業種別にみると

業種別では、運輸業(前年比8%減)や医療・福祉(同5.4%減)、サービス業(同2.9%減)などにおける減少が大きいとみられます。日本企業の経営が株主重視に変わり、利益を底上げするためボーナスを抑える姿勢が強まっているようです。

◆大手企業では3年連続最高額

日本経団連がまとめた大手企業の今冬のボーナス妥結状況(第1回集計)によると、妥結した127社の平均は90万1031円(前年比0.69%増)でした。第1回集計としては3年連続で最高額を更新しましたが、伸び率は2005年の5.08%、2006年の同2.75%に比べ鈍化しています。
製造業(116社)の平均は91万1295円(同0.73%増)、非製造業(11社)は84万2687円(同0.27%増)でした。


「短時間勤務正社員制度」のメリット・活用例

◆「短時間勤務正社員」とは?

「短時間勤務正社員」とは、フルタイムで働く正社員より1週間の所定労働時間が短い正社員のことをいいます。フルタイム正社員が短時間・短日勤務を一定期間行う場合や、正社員の所定労時間を恒常的に短くする場合があります。

フルタイム正社員より所定労働時間が短いことから、労働者が育児・介護、自己啓発などの必要性に応じて、正社員のまま仕事を継続できる、または正社員としての雇用機会を得ることができるため、「多様就業型ワークシェアリング」の代表的な制度として、短時間勤務正社員制度の普及や定着が期待されています。

◆制度導入のメリット

短時間勤務正社員制度は、就業意識の多様化が見られる中、フルタイム勤務一辺倒の働き方ではなく、自らのライフスタイルやライフステージに応じた多様な働き方を実現させるとともに、育児・介護をはじめ様々な制約によって就業の継続ができなかった人や就業の機会を得られなかった人たちの継続的な就業を可能とし、就業の機会を与えることができる働き方です。

労働力人口が減少する中、社員が定着しない、人材不足などで困っているという企業にとって、この制度は、優秀な人材の確保や人材の有効活用を図る上で大きな効果が期待できます。

◆採用企業の事例

ある情報産業大手企業では、育児・介護に限らず、理由を限定しない短時間勤務正社員制度を導入し、自己啓発を理由とした利用も可能としています。同社では社員にとって仕事と生活のバランスをとることができ、会社にとっても優秀な人材を継続的に確保することができ、両者にメリットがあると評価しています。

また、あるデータ入力・加工会社ではワークシェアリングを利用した定時操業により所定外労働を一切廃止し、この結果、従業員の疲労が軽減され、入力ミスが減少するなど生産性が向上しているそうです。


特定年齢層の募集・採用は「在籍者数2分の1以下」が条件

◆改正雇用対策法の告示・通達

10月1日に施行された改正雇用対策法では、労働者の募集・採用における年齢制限禁止を義務化し、年齢制限が認められる例外規定を必要最小限に限定しました。

これに対し、厚生労働省は運用に関する告示と通達を明らかにしました。

◆改正の背景

これまで、労働者の募集・採用に係る年齢制限を行う求人が相当数あり、年長フリーターや中高年齢者など、一部の労働者の応募機会が閉ざされているのが現状でした。

こうした状況を踏まえ、これまで募集・採用に関しては年齢制限を受けていた労働者に対し応募の機会を広げることを目的として雇用対策法が改正され、労働者の募集・採用について年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならないこととなりました。

◆「例外規定」の条件

例外規定のうち、「技能・ノウハウ継承の観点から、特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定し、かつ、期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合」が最も多いケースと予想されています。

この規定において、その「年齢層」を「30〜49歳」に限るとともに、「相当程度少ない」を「同じ年齢幅の上下の年齢層と比較して労働者数が1/2以下である場合」と具体的に定めました。例えば、「○○社の電気通信技術者として30〜39歳の方を募集」する場合、「○○社の電気通信技術者は、20〜29歳が10人、30〜39歳が2人、40〜49歳が8人」であることが条件となります。

◆提示拒否には求人受理保留も

年齢制限の理由を示さない事業主の求人に対しては、受理を保留するとしています。

また、求人の内容などについては、公共職業安定所から資料の提出や説明を求められることがあり、雇用対策法10条に違反する場合などには、助言、指導、勧告等の措置を受ける場合があるとともに、職業安定法5条の5但書に基づき、公共職業安定所や職業紹介事業者において求人の受理を拒否される場合があります。