人事労務の時事解説(2008年8月号)

人事労務の時事解説 2008年8月号


企業を悩ますインターネットトラブル

◆企業を誹謗中傷する内容も

インターネット対策に頭を悩ます企業が増えています。ネットに書き込まれた情報は瞬時に多くの人の目に触れることになりますが、それが企業を中傷するような内容であれば、企業にとってはイメージ低下につながるおそれもあります。とはいえ、サービスの利便性やプライバシーとの兼合いもあり、情報の規制には困難が伴うのが実情のようです。

◆対応の難しい検索サービスによるトラブル

ある会社が、自社名を入力すると関連検索の欄に「悪徳商法」という単語が自動表示されることに困惑し、大手検索サービス会社に対して表示の差止めを求める仮処分を裁判所に申し立てた事例があります。

昨今問題とされているのが、こうした検索サービスによるトラブルです。検索サービスの画面で、入力したキーワードと一緒に打ちこまれる可能性の高い単語を自動的に並べて表示する「関連検索」という項目があります。利用者がサイトを絞り込んで検索できる便利な機能ですが、会社名や商品名を入力すると、「被害」「悪徳」など、イメージ低下につながる単語が自動表示されることがあります。企業にとっては、たまったものではありません。

先の事例では、企業側が「イメージが低下して売上にも悪影響が出た」と主張したのに対し、検索サービス側は「利用者の検索パターンを事実として表示しているだけ」と反論し、最終的に、裁判所は企業側の請求を退けました。「利用者は悪徳商法という単語を、同社名と併せて検索する頻度の高い単語と認識するだけである」と判断し、名誉毀損には当たらないとしたのです。

◆行政側の対応は?

もっとも、行政もネット上の名誉棄損問題に手をこまねいてきたわけではありません。2002年には「プロバイダー責任制限法」が施行され、一定の要件を満たした場合、プロバイダーは被害者の請求に応じて、違法な書込みをした発信者の情報を開示できるようになりました。

法務省の統計によれば、ネット上のプライバシー侵害などの報告件数は年々増加傾向にあるようです。これは、法律の施行により、一定の要件を満たせば内容を削除できるようになったほか、相手に損害賠償請求もしやすくなって、これまで泣き寝入りしていた被害が表面化したためだと思われます。しかし、同法は掲示板やホームページなどが対象であり、メールのような通信は含まれません。そのため、一斉メールでの中傷などに関しては、「通信の秘密を守る」という観点からも法的に対抗するのは難しいのが現状です。

今後、日常生活に不可欠となったネットサービスの利便性を損なわずに、どうやって個人や企業の権利を守って行くのか、ルールのあり方が問われています。


就職・会社・仕事に関する若手社員の意識は?

◆就職活動に欠かせない「インターネット」

社会経済生産性本部と日本経済青年協議会は、今春入社した新入社員を対象に「働くことの意識」に関して行った調査結果を発表しました。

就職活動で利用した情報源(複数回答)については、「インターネットの企業ホームページ」(86%)が「会社説明会」(83%)を初めて上回る結果が出ました。今や、ほとんどの企業が自社のホームページを持っていると思われますが、そこに掲載されている内容を参考にする学生が大変多くなっているようです。

また、新入社員が就職先を選んだ基準としては、上位から、「自分の能力や個性が活かせるから」(28%)、「仕事が面白いから」(24%)、「技術が覚えられるから」(14%)となっています。これに対して、「会社の将来性」(9%)や「一流会社だから」(5%)といった理由は、以前に比べると大きく落ち込んでいるようです。

◆「働き方は人並みで十分」!?

また、同じ調査によれば、「働き方は人並みで十分」と考えている人は51.9%(前年比4ポイント増)、「人並み以上に働きたい」と考える人は38.5%(前年比4.3ポイント減)という結果が出たそうです。「人並みで十分」と考える人の割合は1992年以来の高水準となったそうですが、仕事に対する意欲や熱意の少ない若者が増えているのでしょうか?

◆「取締役にはなりたくない」!? 

また、日本経済新聞とNTTレゾナントが、22歳から29歳の若手社員を対象に行ったアンケート調査では、「会社の取締役になりたいですか?」という質問に対し、「なりたくない」と回答した人(65.7%)が「なりたい」と回答した人(34.3)を大きく上回る結果が出たそうです。

「なりたくない」と答えた人の理由(複数回答)としては、「責任を負うのが面倒」(60.8%)、「取締役になる年次まで今の会社にいるつもりはない」(41.0%)、「他人を蹴落としてまで出世したくない」(26.2%)、「株主代表訴訟で負ければ多額の賠償金を払わなければならない」(7.2%)、「社会的なステータスが下がった」(5.4%)などといったことが挙げられていました。

会社内での出世願望、上昇志向を持つ若手社員も、以前に比べると少なくなくなってきている傾向にあるようです。


継続審議となっている労働関係の法案

◆2つの重要法案が継続審議に

通常国会が6月21日に閉会となりましたが、そこで提出されていた「改正労働基準法案」、「改正障害者雇用促進法案」は成立せずに、継続審議となっています。

この2つの重要法案は、秋の臨時国会に提出され審議されると思われますので、改めてその内容を確認しておきたいと思います。

◆改正労働基準法案の内容(1)

この改正案における大きな柱は、何といっても「月の時間外労働が一定の時間を超えた場合の割増率のアップ」です。

月の時間外労働時間が45時間を超え80時間までの場合の割増賃金率については2割5分以上の率で労使協定で定める率とし(努力義務)、80時間を超えた場合の割増賃金については5割増とする、というのがその内容です。
なお、上記の「80時間」の部分については、「60時間」に修正されるような動きもありますので、注目しておくべきでしょう。

◆改正労働基準法案の内容(2)

改正労働基準法案のもう1つの柱は、「年次有給休暇の時間単位での取得」です。

現在、有給休暇については、最低取得単位が原則として「1日」とされていますが、時間単位で細かく取得できるようにして、近年落ち込んでいる有給休暇の取得率アップにつなげるのがねらいです。また、細かい単位で取得できることが子育て支援につながるという考えもあります。

なお、この改正内容については、労働者の過半数で組織する労働組合(ないときは労働者の過半数を代表する者)との書面による協定により、時間単位で有給休暇を与える労働者の範囲、時間を単位として与えることができる有給休暇の日数(5日以内)などを定めることとされています。

◆改正障害者雇用促進法案の内容

現在は障害者の雇用者数が法定雇用率(1.8%)に満たない従業員「301人以上」の企業に課されている納付金の支払義務について、順次「201人以上」、「101人以上」の企業へ拡大するということがこの改正案の大きな内容です。

また、障害者雇用義務の対象労働者に、「短時間労働者」(週の労働時間が20時間以上30時間未満)も追加されることも盛り込まれています。

なお、この改正案は2009年4月1日施行予定ですが、納付金支払義務が課される企業の拡大については、「201人以上」へは2010年7月、「101人以上」へは2015年7月とされています。


注目される「労働者派遣法」改正への動き

◆派遣法改正に関する与党案の内容

先日、自民・公明両党でつくる「新雇用対策に関するプロジェクトチーム」が、労働者派遣制度の見直しに関する基本方針を決定、発表しました。同チームでは、この基本方針を踏まえ、今秋に開かれる予定の臨時国会において労働者派遣法の改正を求めており、厚生労働省でも、改正案を提出する準備を進めているようです。

ここでは、同チームで決定された基本方針をご紹介します。主な内容は、以下の通りです。

◆「日雇い派遣」の原則禁止

低賃金や不安定な身分などが社会問題化している「日雇い派遣」については、通訳などの専門性の高い一部の業務を除いて(ポジティブリスト化して)、原則として禁止する方針です。しかし、派遣会社をはじめとする産業界からは、反対の声が上がっているようです。

◆グループ企業内での「専ら派遣」の規制強化

大手企業グループの派遣会社で働く派遣労働者のうち、約8割の人が同じグループ企業内への派遣となっており、また、3割を超える派遣会社がグループ内の企業のみに労働者を派遣していることが、厚生労働省の調査で明らかになっています。

これらは、労働者派遣法で禁止されている「専ら派遣」となっているのではないかとの指摘があり、何らかの規制が必要との意見が以前から上がっていました。このグループ内での「専ら派遣」について、規制を強化していく方針です。

◆偽装請負の派遣先に直接雇用の行政勧告

請負契約であるのに派遣労働者のように働かせたり(いわゆる偽装請負)、建設・港湾などといった禁止業務で派遣労働者を受け入れたりするなど、派遣労働者を違法に受け入れた企業を対象に、派遣労働者の直接雇用を行政官庁が勧告できるようにする(勧告に従わない場合は企業名を公表する)制度も検討されています。

これまで違法派遣については、派遣元に対する罰則しかなかったため、派遣先にもその対象を広げることにより、違法派遣を抑制したい考えです。

◆その他の内容

上記の内容以外にも、派遣先の労災責任の明確化、派遣元の手数料(マージン率)の公開義務付け等も方針として挙げられており、今後の法改正への動きが注目されるところです。


年金をめぐる最近のトピックス

◆年金運用赤字が過去最大の5兆円に

公的年金の積立金の2007年度における運用実績の赤字が5兆円を超え、過去最悪となったことが明らかになりました。米国のサブプライムローン問題による世界的株安や円高の進行が大きく影響して運用利回りがマイナス約6%にまで落ち込み、単年度での赤字は2002年度以来5年ぶりとなりました。

社会保険庁では、国民年金保険料の2007年度の納付率が64%前後(同庁の目標は「80%」)となり、2年連続低下する見通しを明らかにしていますが、上記の運用赤字の報道等により、ますます年金制度に対する不信感が高まり、納付率が今後さらに低下することも懸念されます。

◆年金第三者委員会への申立ては1年で約6万件

総務省の「年金記録確認第三者委員会」では、同委員会発足後の1年間の申立てが6万490件あったと発表しました。このうち審査が終了したものは1万5,594件(全体の25.8%)で、そのうち記録訂正が認められたものは6,847件となっています。

また、同委員会では、企業が従業員の厚生年金保険料を着服していたと思われるケースが、2007年度中に202件あったと認定したそうです。従業員の給与から保険料を天引きしておきながら納付していなかったようであり、このような事例はまだまだ他にもあるとみられています。

◆「ねんきん特別便」で記載ミス1,857件発覚

社会保険庁は、6月23・25両日に発送を行った「ねんきん特別便」で、1,857件の記載ミスがあったことを明らかにしました。これらは、企業を通じて厚生年金加入者に送付されたものであり、国民年金の記録の「納付済月数」などの合計欄と「加入月数」の合計欄の数字が逆に印刷されていたようです。このミスを受け、同庁では訂正版を送付するそうです。

◆ネット上での記録照会が受給者でも可能に

社会保険庁は、現在は約6,200万人の年金加入者に限定されているインターネット上での年金記録照会について、約3,300万人の年金受給者にもサービスを拡大する方針を明らかにしました。

2008年度中にも、「ねんきん特別便」に関する情報、過去の標準報酬月額や保険料納付履歴などを確認できるようにするそうです。


2010年発足予定「日本年金機構」の組織改革

◆社会保険庁の組織改革

抜本的な組織改革を行っている社会保険庁。2008年10月には政府管掌健康保険の運営を「全国健康保険協会」という新しい公法人に分離し、2010年1月には社会保険庁を廃止して「日本年金機構」という新しい公法人が設立されます。とりわけ日本年金機構は、社会保険庁の相次ぐ不祥事と年金問題に対応するために、徹底した改革を迫られています。

◆人員削減と懲戒処分者の排除

政府の「年金業務・組織再生会議」がまとめる、社会保険庁組織改革の最終報告書案をみてみましょう。

同会議は、業務の外部委託や情報技術(IT)の活用で、大幅な人員削減が可能と判断。日本年金機構の発足時の正規職員数を約10,900人とし、現行比17%減とすることが決定しています。一方で、民間からの採用を拡大し、機構発足時に外部から1,000人を採用するため、社会保険庁から正規職員として移行するのは約9,900人にとどまります。

個人情報の覗き見などで懲戒処分を受けた職員の排除も重視し、懲戒を受けたことのある職員は正規職員として採用されません。懲戒処分者については有期雇用とし、退職金にも差をつけることとしています。こうした方向性が明らかになるにつれ、退職の意向を示す、過去に処分を受けた職員が続出しているそうです。

これまで、社会保険庁では、「厚生労働省採用のキャリア組」「社会保険庁採用のノンキャリア組」「地方採用のノンキャリア組」という3層構造を維持してきました。各層間で問題を共有しない一体感を欠いた運営が、今日の年金記録問題につながったとも言われています。この反省から、人事権を本部に集約すると同時に、年金機構の幹部に厚生労働省出身のキャリアを充てる場合には本省には戻さない「ノーリターンルール」を適用し、現場への監督責任を明確化するそうです。

◆今後の課題は?

今回の改革では、「数減らし」にこだわり過ぎた感があることも否めません。全国の社会保険事務所の窓口には年金記録関連の相談者が殺到しており、慢性的に人手が足りない状況が続いています。今後も増大する業務量に改革後の人員数でどのように対応するかなど、実務面での課題は多く残っているといえます。結局、非正規雇用などで穴埋めすることになれば、相談などの業務でサービスの質が保てるか不透明です。

数は減らしながらもいかにサービスの質の向上を目指すか、一見矛盾したようにも見えるこのテーマにどう取り組むかが、今後の課題です。


医療崩壊の歯止めに厚生労働省が対策検討

◆医師数の抑制は政策の誤りだった?

厚生労働省は、医師不足による医療崩壊に歯止めをかけるため、大学医学部の定員削減を定めた閣議決定を撤回し、医師の養成数を増やす方針を決定しました。「医師は全体としては余っている」として医師数の抑制を続けてきた政策の誤りを認めた格好です。

◆「数は増えても医師不足」の現状

現在の医師数は約27万人で、毎年3,500人程度の純増が続き、全医師数でみると増加が続いています。しかし、医師は設備の整った都市部の大病院や皮膚科など特定の診療科に集中しているのが現状です。へき地などの地方は医師数が足りず、地域間の格差が非常に大きくなっています。

また、産科・小児科・救急病院などは激務のため敬遠され、なり手が見つかりません。地域・診療科によっては、医療崩壊が深刻化しているのが現状なのです。加えて、近年、高齢化による患者増や医療の高度化・専門化が進み、医師総数が不足しているとの声が強まっていました。

◆検討されている様々な対策

大学医学部の定員数を増やして養成数を増やすことに加え、厚生労働省では様々な対策を検討しています。

診療科の偏在については、まず、産科・小児科の医師不足解消のために、女性医師の積極活用が進められます。女性医師は産科・小児科で主力を担いますが、結婚や出産を機に辞めるケースが多いのが現状でした。そこで、短時間だけ働く正職員制度の導入や病院内の保育所の充実などを進めるほか、助産師を増やして体制を整える方針です。また、救急医療の体制整備に向けて、診療所の医師が夜間や休日も外来患者を受け入れられるように支援することも検討項目です。

地域の偏在については、都市部や特定の病院に集中しないような対策が必要です。現在の、研修医が研修先の病院を選ぶことのできる仕組みの変更が必要になるかもしれません。医師不足の診療科や病院に積極的に医師を派遣した医療機関に手厚く補助金を配分する仕組みを導入することや、狭い専門分野だけでなく1人で幅広い診察ができる「総合医」の育成も重要となっています。

大学の医学部定員を増やしても、現場の医師数が増えるのには10年程度の期間がかかるといわれています。社会保障費を抑制する努力を怠ったまま医師不足対策ばかりを優先していては、財政的に次世代にツケを回すことにもなりかねません。医師不足の解消とともに、医療のムダを減らす効率化を一段と進める必要もありそうです。


深刻な少子化問題とこれからの対策

◆「合計特殊出生率」は上昇

高齢化と同時に少子化が進む現代の日本。今後、年金給付水準切下げなどの形で国民生活に影響が出ることが懸念されており、深刻な問題です。

少子化の指標として一般的に用いられている「合計特殊出生率」は、2007年度は1.34%に上昇しました。しかし、これで少子化に歯止めがかけられたというわけではありません。この指標を通して、これからの少子化対策について考えてみます。

◆増える未婚者、進む晩婚化

合計特殊出生率の意味するものは、一夫婦当たりの平均出生児数ではなく、未婚者や離別者を含む女子全体についての平均出生児数です。そのため、独身で暮らす人の増加、晩婚化の進行など、結婚の動向によって変化します。

近年、出生率の低下が問題となっていますが、実は一夫婦当たりの出生率はほぼ横ばいです。真に問題なのは、未婚率・晩婚率の上昇により、第1子がいない家庭が増えていることだといわれています。

厚生労働省の発表によれば、2007年度の出生数のうち第1子は約52万人、第2子は約40万人と、それぞれ前年比1%余り減少し、全体数も2年ぶりに減少しました。婚姻数は約72万件と2年ぶりに減少、未婚者が増えています。平均初婚年齢は、夫・妻ともに0.1歳上昇し、晩婚化に伴う晩産の影響で、第1子を産む母親の平均年齢は29.4歳と過去最高を更新しています。

一方、第3子以上は約47万人で前年比4%の増加となりました。2007年は景気が底堅く推移し、家計に余裕が出たことで、30歳代後半の層を中心に「もう1人産みたい」という夫婦が増えたためと思われます。

◆少子化には国をあげての対策が必要

少子化の背景には、働き方の変化も関連しています。生活不安を抱える男女が結婚・出産に踏み切れないケースも多く、第2次ベビーブーム(1971年〜74年)に続く第3次ベビーブームが起きる兆しはありません。30歳代半ばの団塊ジュニア世代の結婚・出産による押上げ効果がなくなれば、出生率の減少幅が拡大する可能性もあります。

少子化に歯止めをかけるためには、国をあげての対策が必要です。日本は出生率が2.0を超えるフランスなどの先進国に比べて、少子化対策関連の予算が少ないのが現状です。家族関係支出の国内総生産に対する割合は、イギリスの3.02%に対して0.75%に過ぎません。後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の見直しで追加負担が生じるなど財源が限られる中、少子化対策予算をどう増やしていくのか、課題となっています。