●ムダ残業 こう減らす(上)
 意識改革、上司の管理能力がカギ(10月16日 日経産業新聞オンライン)
 
企業が残業時間の削減に知恵を絞っている。上司と部下のコミュニケーションを密にして仕事の効率化を進めたり、IT(情報技術)を活用して勤務状況を素早く把握できるようにしたりする動きが相次ぐ。ワークライフバランス(仕事と生活の調和)や優秀な人材の確保に向け、長時間労働の抑制に取り組む企業の職場を訪ねた。
 
東京都大田区のキヤノン本社の人事部。夕方になると各課長の周りに人だかりができる。午後5時以降の仕事について、課員が課長と打ち合わせをするためだ。
 
課長「資料を今日中に仕上げてほしい。どのくらい時間がかかるか」
課員「2時間くらいです」
課長「分かった。取りかかってくれ」
 
同社では毎日、このように上司と部下が話し合って残業の予定時間を決めている。部下は予定時間を「時間外管理表」に記入し、仕事を終えた後に実際にかかった時間も記録する。
 
「残業は上司が命じるもの。基本に戻り、どのくらいの時間が必要かを明確にする」。原一郎・人事部長は導入目的を語る。2007年に始めたところ、深夜残業(午後10時以降)の全社の合計時間は06年までの約7分の1に減ったという。
 
時間外管理表は「ノー残業デー」「一斉消灯」のような直接的な抑制策ではない。それでも成果があがっているのは、上司と部下のコミュニケーションが「仕事の効率化を考えるきっかけになる」(原部長)からだ。
 
ノー残業デーでも商談が長引いたり、トラブルが起きたりしたら仕事は続けなければいけない。強制力のある制度だけに頼るのではなく、社員の意識を変えて無駄な残業をなくそうとする企業が増えている。
 
ヤマハは「労使ガイドライン」により、代休の取得時間を差し引いた残業時間の上限を1カ月につき40時間にしている。04年には、上限を超えるのは年6回までとする制限を加えた。
 
社員は翌月の残業時間の見込みをタイムカードに記入する。これが40時間に収まらない場合、上司は管理部門に超過の申請書を提出しなければならない。人事評価を低くするといった罰則はないものの、年7回以上の超過者は07年度に190人と、改定前の03年度より6割も減った。
 
ガイドラインの目的は上司に部下の仕事をしっかりと把握させることにある。星宮宏光労政・企画室長は「超過者が増えるのは、残業を命令する上司の仕事の配分方法が悪いから」と話す。
 
厚生労働省によると、1カ月の平均所定外労働時間(残業時間)は07年(11時間)まで6年連続で増加した。仕事量の割には人員が増えていないためとみられる。残業が長いと人材確保が進まず、さらに残業増を招きかねない。運輸業の次に残業が長かった情報通信業(17.1時間)では、悪循環から抜け出そうとする試みが目立つ。
 
野村総合研究所は社員が入退出時にIDカードを読み取り機にかざさなければならないことに着目した。夜10時以降に会社を出た社員のリストを自動的に作成し、翌朝の11時にはすべての部長に配布している。部長は自分の部下がリストに載っていれば、深夜残業の理由を問いただす。
 
残業状況をITを使ってあぶり出し、社員に残業抑制のプレッシャーをかける手法だ。導入前の06年7月には、夜10時以降もオフィスで働いている社員の比率は23%だったが、08年7月には14%に低下した。
 
新日鉄ソリューションズは05年末に午後10時以降の残業と休日労働を原則禁止にした。会社が長時間労働抑制の強い意志を示したことにより、社員に仕事を効率よく進めようとする意識が芽生えたという。
 
労働問題に詳しい、日本能率協会総合研究所の広田薫・主幹研究員は「残業を減らすには上司の管理能力が重要になる」と語る。仕事がはかどらない部下がいれば「解決へのヒントを出したり、別の部下に手伝わせたりしなければならない」。それには上司にマネジメントを考えさせるだけの余裕を与える必要がある。
 
◇◆◇◆◇
 
日経産業新聞とNTTレゾナントのgooリサーチの共同ネット調査によると、「勤務先に残業時間を減らす取り組みがある」と答えたビジネスパーソンは全体の40.0%で、「取り組みがない」の48.6%を下回った。現時点では残業を減らす努力は個人に求められているといえる。
 
調査は9日から13日にかけて行い、20代から60代のビジネスパーソン合計500人から回答を得た。残業を減らす取り組み(複数回答)では「ノー残業デーの設定」が50.0%で最も多く、「残業の事前申告」(35.5%)と「残業時間の上限設定」(31.0%)が続いた。
 
残業の理由(複数回答)の1位が「突発的に仕事が発生するから」(51.5%)だった。2位は「人員が足りないから」の42.0%。「残業がほとんどない」と答えた人の割合は60代では46.0%だったが、30代は20.0%、40代は27.0%だった。中堅社員がしわ寄せを受けている公算が大きい。
 
●ムダ残業 こう減らす(下)
 指示は具体的に 自分が手本(10月17日 日経産業新聞オンライン)
 
長時間労働が働く人や企業にどのような弊害を及ぼすのか、ムダな残業を減らすための具体的な手法は何か。人事・労務問題に詳しい2人の専門家に解決の糸口を聞いた。
 
◇「とにかく帰れ」はダメ

リクルート HCソリューショングループGM 大田芳徳(おおた・よしのり)氏 93年名古屋大工卒 リクルート入社 06年より現職 39歳

――長時間労働を抑制しなければならない理由は。
 
「社員がうつ病など心の病にかかったり、過労死したりするリスクがあるからだ。職場の雰囲気も悪くなるし、会社のイメージも低下する。劣悪な職場環境を放置すれば、思うように人を集められなくなる」"
 
「労働時間の長さが競争力に直結しなくなったことも見逃せない。大量生産・大量販売のビジネスモデルが成り立たなくなり、社員が生み出す知恵や技術が収益の源泉になっている。長く働けば知恵や技術が出てくるわけではない」
――長時間労働を抑制するにはどうすれば良いか。
 
「管理職が部下に言ってはならないのが『とにかく早く帰れ』だ。なぜ働き方を変えなければならないのか、ムダな残業を減らした分を何に充てるべきかなどを説明しなければならない。管理職は管理とコミュニケーション能力を磨かなければならない」
 
「部下を称賛する基準も再設定すべきだ。上司が帰る時に部下がまだ仕事をしていると『遅くまでよく頑張っているね』と言いがちだが、これではダメ。『大変だね。でももう少し早く仕事する方法はないか』が正解だ。こうしたコミュニケーションを続けていると、長くだらだらと仕事を続けているのは格好悪いという文化が定着する」
 
――働き方を変えようとしても急にはできない人も多いようだ。
 
「夜8時に強制的にオフィスの照明を消すとか、残業をする前に上司の許可を得るのを徹底させるとか、理屈ではなく体で覚えさせるのも有効だ。その日の仕事の優先順位を付けることもよく言われているが、付け方が間違っている人が多いようだ」
 
「自分が所属する部署では何を重視し、どのような方向を目指しているかを理解していなければ、正しい順位を付けるのは難しい。その意味でも管理職は日ごろから重視すべき点や方向性を部下に示さなければならない」
 
◇良い意味での妥協を

ヘイコンサルティンググループ シニアコンサルタント 本寺大志(もとでら・だいし)氏 86年東京大教育卒 06年ヘイコンサルティンググループ入社 現職に 47歳

――労働時間短縮が進まないのはなぜか。
 
「バブル崩壊後の不況が深刻になった1990年代後半に国内産業界で行われたのが、人員削減などリストラクチャリング(事業の再構築)だ。若手社員の採用も抑制した結果、従来は2人でやっていた仕事を1人でこなさなければならなくなった。最近まで景気が持ち直していたことで採用も増えたが、当時の後遺症が今も続いている」
 
――長時間労働を削減するにはどうすべきか。
 
「まず上司が部下に模範を示すべきだ。日々の業務に追われて労働時間が仕方なく伸びるのではなく、『今日はこの時間までにこれをやらなければならない』といったように目的意識を持って仕事をすべきだ。自分のやっている仕事の意味が分からないまま労働時間が長くなると疲弊する」
 
「会社や自分の部署が掲げる目的とは合致しない仕事はあえてしないという姿勢を部課長などの管理職が示す。またそうした仕事を指示した役員に反論することがあっても良い」
 
――部下自身はどのような努力をすべきか。
 
「職場が目指すべき目的に沿って仕事をするのが重要だ。企画書の作成などであまりに緻密(ちみつ)、正確すぎると時間がかかりすぎる場合があるので、『8割主義』など良い意味で妥協するのも必要だろう」
 
――時間外労働は部下の判断で行われている場合も多いようだ。
 
「仕事は就業時間の範囲内で終わらせ、時間外労働が必要な場合は上司の判断を仰ぐというのが、労働基準法の基本的な考え方だ。上司の指示に基づいて行われた方が良い。部下に仕事を頼んだときに、残業してでもやって欲しいと考えていない場合もある」
 
「『明日は別の仕事があるので、この仕事を今日までに終わらせたい。だから残業が必要になる』など目的が明確な場合もある。臨機応変に運用すべきで、部下の判断に任せるなど単なる放任主義は良くない」
 
――長い時間働いたから頑張ったと考える社員はまだ少なくない。
 
「目的もなくただやみくもに働くのは社員、企業双方に不幸だ。長時間労働を抑制できる会社は良い意味で規律があるし、経営の質も高い」
 
◇企業の69%「残業は本人の判断」
 
労働基準法は、残業をするには使用者の指示が必要としているが、実態はどうか。財団法人の労務行政研究所(東京・港)が2007年11〜12月に主要企業を対象に行った調査(263社が回答)によると、時間外労働について、69.5%の企業が「ほぼ本人の判断で行われている」と答えた。同研究所は「時間管理を社員の自主性に任せている企業が多い」と説明している。残業問題解決には会社全体の取り組みが不可欠だ。(菊池弘康、黒井将人)

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