人事労務の時事解説(2009年6月号)

人事労務の時事解説 2009年6月号

労働基準監督署への申立て件数が増加

◆雇用情勢悪化の中…

景気後退で雇用情勢が悪化し、労働基準監督署に不服を申し立てる労働者が急増しているようです。不当な解雇や賃金不払いなどを不満とするケースが多くみられ、2008年の申立て件数は39,384件となり、1955年以来、53年ぶりの高水準となりました。
 
◆申立て内容の検討

全国約320の労働基準監督署では、雇用問題に関する労働者からの相談や申告を受けつけています。これをもとに調査を実施し、労働基準法などの法律違反が判明すれば、企業に是正勧告がなされます。勧告に従わない企業は送検されることもあります。

2008年の申立て件数は前年比11%増え、厳しい不況に見舞われた直後の昭和55年(55,999件)以来の高水準となりました。2009年に入っても1月は3,647件、2月は3,811件と高水準で推移しています。

2008年の内訳をみると、最も多いのは賃金不払い(28,955件)で、経営不振の企業から賃金をもらえなくても数カ月間辛抱して働き、我慢できなくなって最後に申し立てる労働者が目立っています。一方、職場に突然来なくなるなど、賃金不払いの責任が労働者にあるケースもみられます。

解雇は7,360件で、解雇に至るまでの手続きが十分でない企業が多くみられます。企業が労働者を解雇する場合、30日以上前に予告する必要がありますが、予告しないときには30日分以上の賃金(解雇予告手当)を支払わなければいけません。こうした手続きを知らない企業の増加が不服を申し立てる件数を押し上げているとみられています。

◆労使トラブルに発展する前に

現在、やむなく労働条件の引下げや希望退職者の募集、解雇など雇用調整を行わざるを得ないとする企業が多くみられます。労働条件引下げや解雇などを行うことがやむを得ない場合であっても、実施に当たっては、法律で定められている手続き、労使間で定めた必要な手続き等を遵守するとともに、事前に労使間での話合いや労働者への説明を行うことが必要です。これらを怠ると労使のトラブルに発展します。

厚生労働省では、労働条件引下げや解雇をやむを得ず検討しなければならない場合であっても守らなければならない法令の概要や、労務管理上参考となる裁判例の主なものを取りまとめた「厳しい経済情勢下での 労務管理のポイント」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/081218-1.pdf )というリーフレットを作成しました。 このリーフレットで労務管理のポイントを自社と照らし合わせ、適正な手続きのもと労使トラブルに発展することを回避したいものです。


育児・介護休業法改正案のポイント

◆平成22年4月の施行予定

3歳未満の子どもを持つ従業員に対する「短時間勤務制度」の導入を企業に義務付けることや、父母がともに育児休業を取得する場合、1歳2カ月までの間に1年間育児休業を取得可能とする「パパ・ママ育休プラス」の創設などを盛り込んだ育児・介護休業法の改正案が閣議決定されました。国会審議が順調に進めば、来年4月施行の予定です。

◆改正案のポイント

(1)子育て期間中の働き方の見直し
・3歳までの子を養育する労働者について、短時間勤務制度(1日6時間)を設けることを事業主の義務とし、労働者からの請求があったときの所定外労働の免除を制度化する。
・子の看護休暇制度を拡充する(小学校就学前の子が1人であれば年5日、2人以上であれば年10日)。

(2)父親も子育てができる働き方の実現
・父母がともに育児休業を取得する場合、1歳2カ月(現行1歳)までの間に、1年間育児休業を取得可能とする。
・父親が出産後8週間以内に育児休業を取得した後に復帰した場合、再度育児休業を取得可能とする。
・配偶者が専業主婦(夫)であれば育児休業の取得不可とすることができる制度を廃止する。

(3)仕事と介護の両立支援
・介護のための短期の休暇制度を創設する(要介護状態の対象家族が1人であれば年5日、2人以上であれば年10日)。

(4)実効性の確保
・苦情処理・紛争解決の援助および調停の仕組みを創設する。
・勧告に従わない場合の公表制度、および報告を求めた場合に報告をせず、または虚偽の報告をした者に対する過料を創設する。

◆仕事と家庭の両立に向けて

上記内容は、いずれも企業の取組み強化を迫るものとなっています。しかし、制度は整ったとしても、現実は利用しにくい雰囲気が、育休取得が進まない原因となっており、中小企業では、仕事と家庭を両立させ、育児休業を取得するには難しい状況であると言われています。

改正法が成立しても、両立支援が実効性あるものになるかどうかは、職場の意識改革を進めて育児休業を利用しやすい職場環境を作れるか、そして何よりも経営者の取組みがカギとなるでしょう。


新型インフル流行で注目浴びるか「在宅勤務」

◆新型インフルエンザ流行による影響

新型インフルエンザの感染が拡大すると、「働き方として在宅勤務(テレワーク)が注目を浴びるのでは?」と言われています。会社員であれば、通勤中の電車やバス内で感染の可能性が高くなるからです。

テレワーク利用者(IT活用により場所と時間を自由に使った柔軟な働き方を週8時間以上利用する人)の数は、「ワーク・ライフ・バランス」などを背景に、2002年に408万人だったのが2005年には674万人と、3年で約65%増加しています。新型インフルエンザの流行によりこの動きがますます加速する可能性があります。

◆導入目的・実施しない理由

労働政策研究・研修機構が2007年に実施した調査によると、企業が考えている「テレワークの導入目的」「テレワークを実施しない理由」は次の通りです。

【導入目的】
・勤務者の移動時間の短縮…66.7%
・仕事と育児・介護など家庭生活の両立…58.3%
・創造的業務の効率・生産性の向上…50.0%

【実施しない理由】
・労働時間の管理が難しい…62.7%
・適した職種(仕事)がない…49.2%
・コミュニケーションに問題がある…45.8%

◆導入には何が必要か?

テレワークを導入するには、まずその職種が導入可能な職種なのかを判断しなければなりません。会社がどのように労働時間を管理するのか、通信費の費用負担はどうするのか、労災が発生した場合はどうするのかなどの問題もクリアしなければなりません。

また、厚生労働省が2008年7月に改訂した「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」などを参考に、「在宅勤務規程」をしっかりと整備しなければならないでしょう。


障害者雇用促進法の改正

◆改正のポイント

障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律(改正障害者雇用促進法)が成立し、平成21年4月から段階的に施行されています。

(1)「障害者雇用納付金制度」の対象事業主の拡大

障害者雇用納付金制度は、雇用障害者数が法定雇用率の1.8%に満たない事業主から、その雇用する障害者が1人不足するごとに1月当たり5万円を徴収し、法定雇用率を超えて障害者を雇用する事業主に対し、障害者雇用調整金(超過1人につき1月当たり2万7,000円)や助成金を支給する仕組みです。

これまでは常用雇用労働者を301人以上雇用する事業主のみを対象としてきましたが、障害者の身近な雇用の場である中小企業における障害者雇用の促進を図るため、平成22年7月から常用雇用労働者201人以上300人以下の事業主、平成27年4月から常用雇用労働者101人以上200人以下の事業主に、制度の対象が拡大されます。

(2)障害者の短時間労働への対応

現在、原則として、週所定労働時間が30時間以上の労働者を実雇用率や法定雇用障害者数の算定の基礎としています。短時間労働については、障害者によっては、障害の特性や程度、加齢に伴う体力の低下等により、長時間労働が難しい場合があるほか、障害者が福祉的就労から一般雇用へ移行していくための段階的な就労形態として有効であるなどの理由から、障害者に一定のニーズがあります。

こうしたニーズへの対応として、平成22年7月からは障害者雇用率制度における実雇用障害者数や実雇用率のカウントの際に、身体障害者または知的障害者である短時間労働者(週所定労働時間20時間以上30時間未満)を「0.5」としてカウントすることとなりました。

◆法改正の一方で

法改正が行われ、障害者雇用の拡大と安定が図られる一方、昨秋以降の世界同時不況の影響で障害者が解雇されるケースが急増しています。不況になると、非正規社員や障害者、育児休業者などの社会的弱者が解雇の標的となり、失業者が急増して問題視されています。

政府の対策として、失業給付の拡充などの救済策はすぐに打ち出されましたが、解雇に至らないケースへの対策も充実させ、雇用が安定することを期待したいものです。


年金に関する2つの新しい法律

◆2つの法律が成立

年金に関して、2つの新しい法律が成立しました。1つは「年金遅延加算法」、もう1つは「延滞金軽減法」で、いずれも議員立法によるものです。
ここでは、この2つの法律について、その概要を簡単にご紹介します。

◆「年金遅延加算法」の概要

年金遅延加算法(正確には「厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付の支払の遅延に係る加算金の支給に関する法律」)は、公的年金制度に対する国民の信頼を回復することを目的として、記録漏れが見つかったことにより年金が増額する人に対し、支給が遅れていた期間の物価上昇率分を上乗せするものです。

初年度においては最大約700億円が見込まれており、法律の施行は来春の予定です。

なお、今年2月の時点で、5年を超す支給の遅れが見つかっているのは約7万3,000件、総額425億円です。

◆「延滞金軽減法」の概要

延滞金軽減法(正確には「社会保険の保険料等に係る延滞金を軽減するための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」)は、社会保険料等の納付が困難な事業主の経済的負担を軽減することを目的として、保険料を滞納した事業主が支払う延滞金の金利(年14.6%)を、3カ月以内の遅れであれば「年7.3%」に引き下げるものです。

ただし、当面は日本銀行が定めている基準割引率に4%をプラスした利息が適用されるため、「年4.5%」となります。

約40億円の負担軽減になるものと見込まれており、法律の施行は2010年1月の予定です。


国民年金納付率が過去最低を更新

◆3年連続で低下

2008年度の国民年金保険料の納付率は62%前後となり、過去最低だった2002年度を下回りました。3年連続の低下で、政府が目標とする80%との乖離が広がっています。

◆納付率低下が与える影響

国民年金の納付率が低下した原因として、年金記録問題への対応に人手を割かれて保険料収納担当は人員削減となり、収納が効率よくできなかったことや、記録漏れ問題への不信感から意図的に支払われなかった人が増えたことなどが挙げられます。そして、雇用情勢の悪化も追い討ちをかけ、リストラなどで離職者が増え、厚生年金から国民年金に切り替わるケースが増加し、生活費の確保を優先して滞納する人も増えていると指摘されています。

厚生労働省がまとめた公的年金の財政検証によれば、国民年金の納付率が80%で推移すれば、現役世代の手取り収入に対する厚生年金の給付水準は「50.1%」に下げ止まると試算しています。しかし、納付率が低下すれば積立金が減るなどして前提条件が崩れ、政府が約束する「50%給付」は難しくなると言われています。

さらに、国民年金未加入者や未納者が加入期間を満たすことができず、将来年金を受け取ることができない無年金者が増えると、生活保護者を増やすことにもつながり、国の負担はますます増えることが懸念されています。

◆納付率アップへの取組み

社会保険庁は、1990年代前半に80%台を維持していた納付率を回復させようと、クレジットカードやインターネットで納付ができるように環境を整備しているほか、収納業務の民間委託対象を増やすなど強制的な徴収の枠組みづくりなどにも力を入れ、納付率の向上を目指してきました。

そして、今年11月からは「住民基本台帳ネットワーク」を活用し、国民年金のみ加入者を把握し、34歳と44歳に達した人を対象に国民年金への加入を勧奨するそうです。ねらいは、通知を送ることで未加入者を効率的に減らすことです。

納付率の低さが、将来我々の受け取ることができる年金に響いてくるという現在の年金制度にも問題があるように思いますが、何よりも、なぜ国民年金を払う必要があるのかということ、加入することのメリット、年金を受給するためには必ず加入期間が25年必要であることなど、国民に対してわかりやすい制度の説明を十分に行うことが必要でしょう。

年金への不安や不信感が高まる中、年金に対する意識を変えることが納付率向上の一番の近道になるように思います。


利用が増加する「未払賃金立替払制度」とは?

◆ここに来て利用が急増

不況の影響による企業の倒産が連日のように報道されていますが、倒産に伴う退職労働者に国が未払いの賃金を立替払いする「未払賃金立替払制度」の利用件数も増加しているようです。

2008年度における支給者数は5万4,422人、支給総額は248億円と、ともに前年比6%増となっています。また、企業数は3,639件(前年度比8.7%増加)、支給者1人あたりの平均立替払額は45万6,000円でした。

なお、 2008年度下半期に限ってみると、同年上半期と比較して37%も増加しています。

◆制度の概要

未払賃金の立替払制度は、企業の倒産に伴い、賃金が支払われないまま退職を余儀なくされた労働者に対して、国が未払賃金の一部を事業主に代わって立替払いする制度です。この業務を行っているのは「独立行政法人労働者健康福祉機構」( http://www.rofuku.go.jp/ )です。

◆利用の要件

(1)事業主に係る要件
労災保険の適用事業の事業主で、かつ1年以上事業を実施していること、法律上の倒産(破産手続開始の決定、特別清算開始の命令、再生手続開始の決定、更生手続開始の決定)をしたことが要件となります。

なお、中小企業の場合は、事実上の倒産(事業活動停止、再開見込みなし、賃金支払能力なし)でもよいとされています。

(2) 労働者に係る要件
破産手続開始等の申立て(事実上の倒産の認定申請)の6カ月前の日から2年間に退職したこと、未払賃金額等について、法律上の倒産の場合には破産管財人等が証明(事実上の倒産の場合には労働基準監督署長が確認)すること、破産手続開始の決定等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から2年以内に立替払いの請求を行うことが必要です。


日系外国人の離職・帰国を国がサポート

◆4月から事業スタート

厚生労働省は、「日系人離職者に対する帰国支援事業」を発表し、今年の4月から開始しています。4月だけで1,095人が申請を行ったそうです。

派遣・請負などの不安定な雇用形態にある日系人労働者については、日本語能力が不足していることや日本の雇用慣行に慣れていないことに加え、日本での職務経験が十分ではないことから、一旦離職した場合には再就職が難しいと言われています。

日本で離職した場合、母国で再就職することが有効な選択肢として考えられるため、帰国を希望する日系人に対する帰国支援について、与党を中心に提言がなされていました。

◆「帰国ニーズ」への対応

同省では、これらの「帰国ニーズ」にこたえるため、帰国を決めた離職者に対し、帰国支援金を支給する事業(帰国支援事業)を開始したのです。

なお、引き続き日本で再就職したいと希望する日系外国人に対しては、引き続き、再就職支援、雇用維持のための各種事業、住宅確保支援策の活用などを実施していくとしています。

◆制度の概要

(1)対象者…事業開始以前(平成21年3月31日以前)に入国して就労・離職した日系外国人が対象です。日本での再就職を断念して母国に帰国し、同様の身分に基づく在留資格による再度の入国を行わないこととした者およびその家族に「帰国支援金」が支給されます。

(2)支給額…本人1人当たり30万円、扶養家族については1人当たり20万円が支給されます。なお、雇用保険受給期間中の者については一定額(支給残日数が30日以上→10万円、同日数が60日以上→20万円)が上積みされます。

(3)実施主体…ハローワーク(産業雇用安定センターに一部事務を委託)です。

◆日系人の多い地域のハローワーク

日系外国人が多い地域(太田、松本、浜松、美濃加茂、大垣、豊田、刈谷、豊橋、四日市)のハローワークには、「日系人就職促進ナビゲーター」が設置され、細やかな個別就職支援を実施しています。


中小企業と求職者との“お見合い”バスツアー

◆「雇用確保」と「地域活性化」

中小企業庁は、仕事を探す人たちに中小企業を案内し、雇用の確保と地域の活性化につなげようと、「地域魅力発見バスツアー」(愛称“ちいバス”http://chi-bus.net/)を開始すると発表しました。2009年度中に全国で100ツアーを開催し、3,000人の参加を見込んでいます。

◆ツアーの概要

「地域魅力発見バスツアー」は、優秀な人材を求める中小企業と参加者(求職者)が直接じっくりと話をする場を持ち、関心を持ち合った同士をつないで、就職につなげるというものです。1つの都道府県を2泊3日でまわり、7社程度を訪問するツアーを中心に、日帰りや5泊6日など、5種類を用意しています。

雇用に積極的な全国1,400社が訪問先で、1回あたりの参加者は約30人を予定しています。宿泊費やバス代は同庁が負担しますが、ツアー中の食事代や集合場所への交通費は参加者が負担します。行き先が地方の場合、東京など大都市圏からの出発と現地出発の両方が用意されています。参加者の年齢や居住地域の制限はありませんが、応募多数の場合は抽選となります。

1回目は4月22〜24日に千葉県で開催され、2回目は5月26〜29日に大分県で開催される予定です。この2つのツアーを含め、今年の年末までに75のツアーが計画されています。出発地点は、仙台、東京、名古屋、静岡、愛知、大阪、広島、福岡など、不況で仕事を失った方が多い地域が中心となっています。

◆ツアーが新たな雇用の機会に

大企業がリストラを実施したり、新卒採用を絞ったりしている今こそ、優秀な人材を獲得するチャンスと捉えている中小企業は多いと言われています。仕事を探している求職者にとっては、地方に関心を持っても就職活動に行くのはなかなか難しいという声もあります。

就職フェアなど、求人側が同じ場所に集まって求職者と顔合わせをするという今までの形ではなく、バスツアーで各地を訪れ、実際に働く現場を自分の目で見ることができ、そこで働く人ともじっくりと話ができるこの新たな形態が、優秀な人材を求める中小企業と求職者とを結ぶ新たな雇用の機会として確立することに期待したいものです。