社員の副業・アルバイトを認める場合の留意点
 
◆不況による影響
 
金融危機に端を発する昨年来の不況により、各企業における「派遣社員の解雇」、「有期契約労働者の雇止め」、「一時帰休」、「希望退職・早期退職」、「退職勧奨」「整理解雇」の実施などが数多く報じられています。 また、「給与カット」「賞与カット」などを実施するところもあり、これらは社員の生活に関わるため、大きな問題となっています。
 
給与カット・賞与カットによる社員の収入減に対応する施策の1つとして、従来は認めていなかった「副業」や「アルバイト」を容認する企業が徐々に増えているようです。 社員に副業・アルバイトを認めることにより、減った分の給与を補填してもらうのが狙いです。
 
◆会社にとっての選択肢
 
これまで社員に副業・アルバイトを認めていなかった(いわゆる「兼業禁止規定」を置いていた)会社がこれらを認める場合の選択肢としては、以下の3つが考えられます。
 
(1)「会社による許可制」として認める。
(2)「会社への届出制」として認める。
(3)「完全解禁」として認める。
 
上記のいずれを選択するにしても、会社の就業規則や社内規定を整備し、社員の副業・アルバイトを認める場合の基準をはっきりと社員に示しておかなければなりません。
 
また、副業・アルバイトを認める場合でも、期限を決めて認めるのか、今後はずっと認めるのかを決めておくべきです。
 
◆認める場合の留意点
 
副業・アルバイトを認めるとしても、注意しなければならない点がいくつかあります。
 
1つは、「自社の業務と競合するような会社での副業・アルバイトは禁止する」ということが考えられます。 自社の社員を競合会社で働かせることにより、自社の営業秘密やノウハウなどが他社に漏れる可能性があるからです。
 
もう1つは、「疲労やストレスなどを溜めさせない」ということです。 副業・アルバイトを認めてトータルの労働時間が長くなることによって、社員に疲労・ストレスが溜まり、それにより自社での仕事がおろそかになってしまっては、本末転倒です。
 
これらのリスク等も十分に検討したうえで、会社の方針を決定しましょう。
 
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副業禁止条項のあり方(就業規則のポイント解説)
 
最近の労働者側からの就業規則副業禁止条項の撤廃要求は、やはり深刻な経済環境の悪化の中で、使用者側からの総人件費大幅抑制・削減に絡んでなされる雇用調整策への対抗手段として、生活防衛のためにするやむを得ない行動と捉えることができます。
 
従業員の副業については、就業規則の中で無条件に禁止しているケースと、許可ないし届出によって部分的に容認しているケースとがあります。
 
しかし、ワークシェアリングなどの影響で仕事が少なくなり、賃金が削減され、残業もほとんどなくなってきている昨今、就業規則に禁止条項があっても、生活のために副業をする人は多くなってきています。
 
◆副業禁止の規定例
 
副業禁止の規定は、おおむね「服務規律」において定められ、違反の際の懲戒条項に連結しています。即ち
 
(服務規律)
第○条 従業員は次の事項を守らなければならない。
〜 略〜
(**)当社以外の法人その他の団体の役員に就任し、または他に雇用され、若しくはみずから営業をなさないこと。
 
この規定では、その事実があった場合には、即以下の規定が適用されます。
 
(懲戒事由)
第○条 従業員が次の各号の一に該当するときは、第○条(懲戒の種類)に定める各号により懲戒処分を行う。
〜 略〜
(**)法人その他の団体の役員に就任し、または他に雇用され、若しくはみずから営業をなしたとき。
 
適用される懲戒の重さは、情状により、その都度判断されることになります。
 
この問題を考えるとき、そもそも副業を禁止することは適法なのかという根源的な問いが想起されますが、まずは就業規則の規定が根拠になりましょう。
 
◆副業禁止の理由と取扱いの根拠
企業が従業員の副業・兼業を禁止するのは、何といっても健全な労働力の確保という点にあります。 終業後の深夜のアルバイトのために、翌日の勤務がおろそかになるようでは困ります。
 
また、近年は企業の秘密漏洩防止や情報管理の観点からも、副業規制を強めていますが、その根拠は就業規則の定めが第一です。 就業規則以外の社内通達・内規とか場合によっては「慣行」などといったものもありますが、これは知らなかった、わからなかった、という原因になりやすく、やはり就業規則において明確にしておくべき事項でしょう。
 
違反者に対してどのような罰則を適用するのか、また今後どのように違反防止をしてゆくのか、これらもやはり就業規則に明記し、その周知をはかることが基本です。
 
◆副業を認める場合の留意点と今後の課題
 
労働契約の法制化が検討された厚生労働省による「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の報告書でも、副業禁止規定はやむを得ない事由がある場合を除き、原則無効とすることが適当であると述べられましたが、企業としては副業によって過剰労働になり、自社の業務に支障が生じたり、それが原因で事故を起こしたり、また労働災害の被災者になる、あるいは同業への二重就職で秘密漏洩につながったり、競業により営業への損害を被るようではいけません。
 
現在の経済環境では、直近の決算で過去最高益を更新したというような、業績トップクラスの大手企業やその関連企業ですら、急激な業績悪化に見舞われて、減産、一時帰休などに踏み切らざるを得ず、したがって、賃金減額といった従業員の経済生活へのマイナスをみずから補填する施策は採らず、一部大手企業でも「副業容認やむなし」という流れですから、無条件で副業を禁止するという規定は、職業選択の自由や、労働時間外の時間の自由利用といった、個人の権利を侵害するものとして、槍玉にあがってくるでしょう。
 
しかし、副業禁止事項は「撤廃」ではなく「条件付き許可」という方向で考えるべきでしょう。 労働契約では使用者にも「健全な労働力を調達する権利」があります。 時間外の深夜のアルバイトで疲弊した労働力を、「無条件で受領する義務」はありません。
 
したがって、副業を認める場合には、これらの点に十分配慮した上で許可制にする、という方針を採るのがこの際は最も適切だと思われます。
 
具体的な対策としてはごく簡単なことですが、上記規定例の各(**)号の文頭に、 「会社の許可なく」 の文言をつけ加えましょう。 これだけで十分に意図は達成されます。 届出、申請など自社にあった様式を考案して運用すれば、トラブル防止になります。
 
なお、副業先への移動の際に生じた通勤災害については、労働者災害補償保険法上の保護が図られることになっていますが、今後の課題として、36協定による時間外勤務・休日出勤命令との調和、現行法ではまだ規制のかかる労働時間通算の問題、社会保険・労働保険上の休業給付等の算定の問題など、留意しなければならない事項も多々あります。
 
紛争予防の観点からは、法整備に先駆けてこうした問題について企業の考え方を明確にし、従業員に十分説明して合意・納得を図ることが大事なポイントだと言えましょう。
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