人事労務の時事解説(2009年9月号)

人事労務の時事解説 2009年9月号


「多重派遣」をめぐる労働局による命令事例

◆「二重派遣」で業務停止命令

7月16日、福島労働局は、人材派遣会社から派遣された労働者を別の会社に派遣していたなどとして、福島県の製造業「アルファ電子」に対し、同社の派遣業について1カ月間業務を停止するよう命令を出しました。また、二重派遣となることを知っていながら同社に労働者を派遣していた同県の人材派遣会社(4社)に対しても、事業改善命令を出しました。

◆なんと「三重派遣」の事例も!

また、7月23日、東京労働局などは、東京都の派遣会社「辰星技研」が無届けの派遣会社などから派遣されてきた労働者を二重・三重の派遣状態で日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県)に派遣していたとして、事業停止命令を出しました。

厚生労働省の発表によれば、三重派遣による事業停止命令は初めてのことだそうです。

◆禁止されている「多重派遣」

法律上、労働者供給事業のうち、労働者派遣に該当するものだけが例外的に許されていますが、それ以外のものは職業安定法44条により禁止されています。

「二重派遣」は、A社がその雇用する労働者をB社に派遣し、B社が当該労働者をさらにC社に派遣するケースをいいます。この場合において、B社は、自社が雇用していない労働者を他社(C社)のために労働に従事させていることから、労働者派遣の定義には当てはまらず、こうした行為は職業安定法44条により禁止されます。

二重派遣と判断された場合には、指導や検査等の行政処分がなされるほか、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を受ける可能性もあります。


介護労働者の就業実態と雇用環境改善への取組み

◆平均勤続年数は4.4年

厚生労働省所管の財団法人介護労働安定センターが、昨年10月に実施した「介護労働者の就業実態と就業意識調査」の結果を発表しました。

訪問介護員、介護職員の1年間(平成19年10月1日〜平成20年9月30日)の採用率は22.6%、離職率は18.7%でした。採用に関しての募集ルートは「ハローワーク・人材銀行」が78.0%で最も多く、次いで「職員や知人を通じて」が64.0%、「折込みチラシ、新聞・雑誌の広告」が46.7%の順でした。また、全体では「中途採用」が84.6%と圧倒的に多く、「新卒採用」はわずか9.6%でした。

職種別の離職率は、訪問介護員は13.9%、介護職員は21.9%で、就業形態別では正社員が18.5%、非正社員は18.9%でした。離職者のうち、勤務した年数が「1年未満の者」は39.0%、「1年以上3年未満の者」は36.5%で、離職者の75.5%が3年未満で離職しています。

勤続年数をみると、全体の平均で4.4年、職種別では訪問介護員が4.3年、介護職員が3.8年という結果になっています。

◆雇用環境改善への取組み

早期離職防止や定着促進のための方策というテーマのアンケートでは、「職場内の仕事上のコミュニケーションの円滑化を図っている」が63.4%で最も多く、次いで「労働時間の希望を聞く」が60.3%、「賃金・労働時間等の労働時間を改善する」が52.6%でした。

また、訪問介護員、介護職員に対する人材育成のための取組みのテーマでは、「教育・研修計画を立てている」が51.7%で最も多く、次いで「自治体や業界団体が主催する教育・研修には積極的に参加させている」が50.0%、「採用時の教育・研修を充実させている」が39.0%となっています。

一方、人材育成の取組みにあたっての問題点については、「人材育成のための時間がない」が47.7%で最も多く、次いで「採用時期が別々で効率的な育成ができない」が28.3%、「人材育成のための費用に余裕がない」が25.8%の順でした。

◆業界・個別事業所での対策が必要

今後、介護サービスを運営するうえでの問題点として、「今の介護報酬では十分な賃金を支払えない」や「良質な人材の確保が難しい」といった声も多いようです。

介護報酬アップや現状の雇用情勢は、介護業界にとって「追い風」とも言われていますが、業界全体や個別の事業所ごとに取り組むべき課題への対策が急がれます。


09年度最低賃金、45都道府県で引き上げ

◆全国平均713円、最高を更新

厚生労働省は1日、2009年度の地域別最低賃金額の改正状況をまとめました。全国平均で時給10円が引き上げられ、最低賃金は平均713円となり過去最高を更新しました。

最低賃金は07年度に平均14円、08年度は16円引き上げられており、3年連続で大幅な引き上げとなりました。 新しい賃金は9月末〜10月に都道府県ごとに適用される予定です。

◆中小零細企業の経営に影響は?

国は35県で現状維持とする目安を示していましたが、低所得者への対策など地域事情から、ほとんどの都道府県が引き上げ方針を示しています。 ただ景気低迷のなかでの最低賃金の引き上げは中小零細企業の経営に影響を与えることになります。 民主党は「全国平均で時給1000円の最低賃金を目指す」とマニフェスト(政権公約)に掲げていますが、低所得者への配慮と中小零細企業の経営との折り合いをどう付けていくのかが今後の課題となりそうです。

◆45都道府県で引き上げ

新潟、岐阜を除く45都道府県で最低賃金が上がる見通しで、上げ幅は1〜25円。改正後、最も高くなるのは東京都の791円。最も低いのは沖縄、佐賀、長崎、宮崎の4県で629円となります。

〔大阪は14円引き上げ〕

なお、「大阪府最低賃金」は時間額762円に改正され、 平成21年9月30日から適用されることになりました。
(大阪労働局HP)http://osaka-rodo.go.jp/topic/0831saitin-kaisei.html


「実習型雇用支援事業」がスタート

◆人材確保を考えている企業を支援

昨今の厳しい雇用情勢において、休業を実施することにより雇用を維持しようとする事業主を支援する助成金(雇用調整助成金・中小企業緊急雇用安定助成金)が広く利用されていることから、助成金への関心が高まっていますが、7月から、人材確保を考えている中小企業等を支援する新たな制度である「実習型雇用支援事業」がスタートしました。

企業が、十分な技能や経験を有しない求職者を「実習型雇用」により受け入れることにより、求職者の円滑な再就職と中小企業等の人材確保を促進するものです。

具体的には、ハローワークから職業紹介を受けた求職者と企業が、原則6カ月間の有期雇用契約を結び、「実習計画書」に基づいて、技能および経験を有する指導者の下で指導を受けながら実習や座学などを通じて必要な技能や知識を身に付けることで、企業のニーズにあった人材を育成し、その後の正規雇用へとつなげることを目的とします

◆助成額と要件

実習型雇用により求職者を受け入れた事業主に対しては、「緊急人材育成・就職支援基金」より、以下の通り助成金が支給されます。

(1)実習型雇用期間(6カ月)……1人あたり月額10万円
(2)実習型雇用終了後の正規雇入れ……1人あたり100万円
(ただし、正規雇用6カ月後に50万円、その後6カ月後に50万円と2回に分けて支給)
(3)正規雇入れ後の教育訓練……1人あたり上限50万円

対象となる事業主は、ハローワークにおいて実習型雇用として受け入れるための求人登録をしていること、実習型雇用終了後に正規雇用として雇い入れることを前提としていることであり、企業規模や業種などの要件は定められていません。

◆求職者・企業双方にメリット

技能や経験が不足していることが理由でうまく採用に結び付かないケースは数多くあると思われますが、当初の6カ月間で必要な技能や知識を身につけることができ、正規雇用への道が開かれるのであれば、求職者・企業双方にとってメリットがある制度ではないでしょうか。


年金・医療制度とも赤字続き

◆過去最大の赤字幅

厚生労働省は、自営業者などが加入する国民年金とサラリーマンが加入する厚生年金、また、主に中小企業のサラリーマンが加入する「協会けんぽ」の2008年度の決算を発表しました。

国民年金・厚生年金とも運用損が響き過去最大の赤字幅となっており、赤字額は、国民年金が1兆1,216億円、厚生年金が10兆1,795億円となっています。国民年金が3年連続の赤字、厚生年金が2年連続の赤字です。

この主な原因は、リーマンショック等により内外の株式市場が大幅に下落したことに加え、為替市場で急速に円高に進んだ影響により、積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用損失が膨らんだためです。

厚生年金においては、前年度に比べ被保険者数の増加や保険料率の引上げ等により歳入が増加し、歳出について受給者数の増加はあったものの、全体では3,136億円歳入が歳出を上回りました。一方、国民年金では歳入が被保険者数の減少により減ったことにより、歳出が歳入を4,199億円上回っています。

◆年金給付と制度の見直し

これらの結果が、すぐに年金給付に影響を与えることはないと思われますが、このまま低迷が続くようであれば、現行制度の見直しも迫られそうです。

また、協会けんぽ(旧政管健保)では収支が2,538億円の赤字となり、単年度赤字は2年連続で、赤字幅も拡大しました。失業が増えたことによる加入者の減少だけでなく、保険料計算のベースとなる給与や所得の水準も下がりました。支出については、高齢化に伴う医療費増が影響しています。

◆協会けんぽでは9月から個別の保険料率

協会けんぽでは、今年9月から、保険料率が全国一律のものから都道府県ごとに個別に決められることになり、収支の結果がますます影響を及ぼすことになりそうです。


「高額介護・高額介護合算療養費制度」の申請受付開始

◆申請受付がスタート

平成20年4月から、「後期高齢者医療制度」(長寿医療制度)とともに、「高額医療・高額介護合算療養費制度」(以下、「合算制度」という)が施行されました。

このうち、「合算制度」については、この8月(加入している医療保険や介護保険により受付開始日が異なる)から順次申請受付が始まりました。

◆「合算制度」の内容

「合算制度」は、公的医療保険・介護保険の両方を利用している世帯の自己負担額が重くなり過ぎないように、自己負担額の合計が一定の上限額(年額56万円をベースとして、世帯員の年齢構成や所得区分に応じて設定されている)を超えた場合に、超過分が還付される制度です。

費用の負担については、医療保険者・介護保険者の双方が、自己負担額の比率に応じて負担し合うことになっています。

◆具体的なケース

想定されるのは、高齢の妻の介護により出費が大きくなっていたところ、夫が病気で倒れてしまいさらに高額な医療費がかかってしまうというようなケースです。このようなケースにおいて、できるだけ世帯の負担を少なくしてあげようというのが、本制度創設の趣旨です。

例えば夫婦2人の世帯(ともに75歳で市町村民税非課税)が、1年間(8月1日〜7月31日の間)で、夫が医療保険で30万円、妻が介護保険で30万円を支払った場合、世帯としての年間の負担は合計60万円となりますが、支給申請を行うことにより、この場合の上限額(31万円)を超えた金額である29万円が還付されます。


なお、この「合算制度」の詳細については、厚生労働省のホームページ
http://www.mhlw.go.jp/za/0724/a10/a10.html )にも掲載されていますので、ご参照ください。


活用が広がる「動産担保融資制度」とは?

◆融資件数が1年で2.7倍に増加

金融庁の発表によれば、2008年度における「動産担保融資制度」による融資件数が1,387件(前年度比2.7倍)に増加したそうです。金額ベースでは585億円(同63%増)となっています。

絶対額としては、まだまだ少ない融資制度の1つだとはいえますが、どのような仕組みで、企業にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

◆「動産担保融資」とは

動産担保融資制度は、企業が抱えている在庫商品、工場設備・機械、農家が飼っている家畜などの流動性の高い資産を担保として、金融機関が成長の見込める企業などに資金を貸し付ける仕組みであり、アメリカなどでは一般的なものとなっています。

これまでに担保として認められたものの例としては、昆布、りんご、牛、豚、冷蔵設備、建材、鋼材、工作機械、プレス装置などがあります。

融資の金額は、在庫商品の市場価値や取引先の支払能力などが総合的に判断されたうえで、決定されます。

◆動産担保融資制度のメリット

通常の融資制度においては、企業は、金融機関に担保として不動産を求められる場合が多く、土地・建物等の不動産を持っていない中小企業は、融資を受けづらいというのが現状です。しかし、この動産担保融資制度を活用することによって、資金繰りが楽になる中小企業は少なくないでしょう。

◆いくつかの課題も

動産担保融資制度の課題としては、「動産担保の価値を正確に評価することができるのか」ということが挙げられます。これに関しては、金融機関が、担保に設定する動産に関する専門家(いわゆる“目利き”)などと連携するケースが増えているようです。

また、企業にとっては、「在庫を担保にしないと融資を受けられない企業」とみられてしまう点がデメリットとなっているようです。

これらの点がクリアできれば、さらに活用が広がるものと思われます。


利用が増える「遺言信託」のメリット

◆伸びる利用件数

社団法人信託協会( http://www.shintaku-kyokai.or.jp/ )のまとめによれば、今年3月末時点における「遺言信託」の利用件数が、6万5,612件(前年同月末比6.4%増)となったそうです。

この遺言信託については、大手の信託銀行だけでなく地方銀行なども取扱いを行っており、サービスを拡充していることから、利用件数はこの5年間で約1.5倍となっているそうです。

◆「遺言信託」とはどんなものか?

「遺言信託」は、信託銀行などが、遺言書作成の助言・保管・執行などを一括して顧客から請け負うものです。顧客に対して、法的に有効な遺言書の作成方法を助言し、作成した遺言書を保管し、死亡後に執行(遺言書に従った遺産の処理、口座の名義書換など)を行うサービスを提供します。

この遺言信託には、一般的に、遺言書の保管だけを行う契約形態と、執行までをまとめて行う契約形態があるそうです。

◆「遺言信託」利用増加の背景

遺言書は、公証役場の公証人に作成を依頼したり、弁護士に執行を依頼したりすることもできますが、(1)作成のアドバイスをもらえること、(2)遺言内容の定期的な見直しなどのアフターフォローがあること、(3)執行の際の手際が良いことなどから、主に富裕層や企業オーナーなどが信託銀行に依頼するケースが増えているようです。

また、相続に関しての権利意識が高まっていることなども、この「遺言信託」の利用件数拡大に繋がっているようです。