◆改正労働基準法(平成22年4月施行)への実務対応と注意点◆
〔法改正のポイント〕〔改正法への実務対応〕〔改正法の問題点〕
〔改正後の賃金計算の注意点(事例)〕
長時間労働の残業代引き上げを柱とする、「労働基準法の一部を改正する法律」が第170回国会で成立し、平成20年12月12日に公布されました(平成20年法律第89号)。
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■改正労働基準法 最新パンフレットのご案内(平成21年10月28日 厚生労働省)
リーフレット・参考資料、関係通達・Q&A、関係条文等
・「改正労働基準法のあらまし」最新パンフレット(平成21年10月28日)
・改正労働基準法に係る質疑応答(平成21年10月5日)
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施行は平成22年(2010年)4月1日
からになります。
法改正のポイントは以下の3点です。
1.月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
2.月60時間を超える時間外労働を対象とした代償休日
3.年次有給休暇の時間単位付与
【法改正のポイント】
1.月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
月の時間外労働に応じて以下の割増率によって計算された割増賃金を支払う必要があります。
(1) 月45時間まで ⇒ 現行通り25%以上
(2) 月45時間を超え〜60時間以下
⇒ 25%+α(労使協定で定める率)
(注)25%以上の+αの割増率は事業主への「努力」義務となっています。
「時間外労働の限度基準」(平成10年労働省告示第154号:限度基準告示)により、1か月に45時間を超えて時間外労働を行う場合には、あらかじめ労使で特別条項付きの時間外労働協定を締結する必要がありますが、新たに、
①特別条項付きの時間外労働協定では、
月45時間を超える時間外労働に対する割増賃金率も定めること
② ①の率は法定割増賃金率(25%)を超える率とするように「努める」こと
③ 月45時間を超える時間外労働をできる限り短くするように「努める」ことが必要となります。
(注)時間外労働協定の内容は「限度基準告示」に適合したものとなるようにしなければなりません(労働基準法第36条第3項)。なお、改正法の施行までに、現在の「限度基準告示」は改正される予定です。
(3)月60時間を超える ⇒ 50%以上
(注)50%以上の割増賃金の支払いに代えて有給休日の付与も可能です。
〔中小企業に対する猶予措置〕
以下の①または②のいずれかに該当する
中小事業主には当面、上記(3)は適用が猶予されます。
施行日から3年間の経過を見て、
義務付けの是非や割増率の水準などを改めて検討します。
①資本金額および出資総額が3億円以下
(小売業・サービス業は5,000万円、卸売業は1億円以下)
②常時使用する労働者の数が300人以下
(小売業は50人、卸売業・サービス業は100人以下)
2.月60時間を超える時間外労働を対象とした代償休日
労使協定を締結することで、月60時間を超える時間外労働に関しては、
有給の休暇を付与することによって、改正法による引上げ分(25%から50%に引き上げた差の25%分)の割増賃金の支払いに
代える(清算する)ことができます。
★労働者がこの有給の休暇を取得した場合でも、
現行の25%の割増賃金の支払は必要です。
(注)労働者が実際に有給の休暇を取得しなかった場合には、
50%の割増賃金の支払が必要です。
【具体例】時間外労働を月76時間行った場合
→ 月60時間を超える16時間分の割増賃金の引上げ分25%(50%−25%)の
支払に代えて、有給の休暇付与も可能
→16時間×0.25=4時間分の有給の休暇を付与
(76時間×1.25の賃金の支払は必要)
3.年次有給休暇の時間単位付与
労使協定を締結することで、1年に5日を限度として
時間単位での年次有給休暇の付与ができます。
(注1) 労使協定を締結することで、所定労働日数が少ない
パートタイム労働者にも、時間単位で付与できるようになります。
(注2) 1日分の年次有給休暇が何時間分の年次有給休暇に当たるかは、所定労働時間をもと
に決めますが、詳細は改正法の施行までに、厚生労働省令で定められる予定です。
(注3) 年次有給休暇を日単位で取得するか、時間単位で取得するかは、労働者が自由に選択
することができます。労働者が日単位で取得することを希望した場合に、使用者が時間単位
に変更することはできません。
労使協定にて協定する内容は以下の通りです。
①時間を単位として有給休暇を与えることができる労働者の範囲
②時間を単位として与えることができる有給休暇の日数(5日以内に限る)
③その他厚生労働省令で定める事項
【改正労働基準法への実務対応】
事業主には、賃金計算システムの変更準備以外に、法的にも対応すべき事項
があります。 特に2の「60時間超えの代償休日」と 3の「年休の時間単位付与」
に関しては、
就業規則・社内規定の改正や労使協定の締結の準備を、今からすすめておく必要があります。
改正労働基準法の施行までには、1年3か月以上の準備期間が設けられているので何ら慌てることはありません。
この機会に「月60時間を超える時間外労働の防止」に、じっくりと取り組むことが求められています。
【法改正による賃金計算の注意点】
法定通りに割増賃金を支払うためには、以下のような割増率で支払わなければなりません。
①と②と⑤の計算は従来通り
③と④(実質は④だけ)の計算が今回の改正で新たに必要になります。
① 法内時間外賃金…×1(100%)
② 法定を超え45時間までの時間外割増
…×1.25(100%+25%)
③ 45時間を超え60時間までの時間外割増…×〔1.25+α〕
(労使協定で定める率:例えば×1.25:例えば×1.30)
④ 60時間を超える時間外割増…×1.50
⑤ 休日労働割増…×1.35
①〜⑤のうち深夜労働の部分…①〜⑤各々+0.25
自社オリジナルで賃金計算のシステムを組まれている企業は、
時間外労働が月60時間以下か超えたかを判別したうえで、
月60時間以下の部分は×1.25、月60時間を越える部分は×1.50、などと適切な割増賃金率で計算されるように、賃金計算システムの変更が必要になります。
《割増賃金計算の考え方》
事例:所定労働7時間の企業
(注)45時間を超え60時間までの時間外割増率を労使協定で
25%(+αは0%)と定めた場合の事例
※計算方式は、深夜労働分を最後にプラスオンする方式です。
〔労働日〕 月の時間外労働時間が累計60時間以下の場合
AM9 休憩1時間 PM5 PM6 PM10
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
←所定労働時間―→←法定内残業→←時間外労働→←時間外労働(+深夜労働)→
←――――100%―――――――→
←法定労働時間――――――――→←125%(100%+25%)以上―――――→
←+25%以上―――――→
←時間外労働時間―――――――――――→
①法定労働分・・・・・×1(100%)
②時間外労働分・・・×1.25(100%+25%)
③深夜労働分・・・・・×0.25(+25%) 合計=①+②+③
〔労働日〕 月の時間外労働時間が累計60時間を超えている場合
AM9 休憩1時間 PM5 PM6 PM10
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
←所定労働時間―→←法定内残業→←時間外労働→←時間外労働(+深夜労働)→
←――――100%―――――――→
←法定労働時間――――――――→←150%(100%+50%)以上―――――→
←+25%以上―――――→
←時間外労働時間―――――――――――→
①法定労働分・・・・・×1(100%)
②時間外労働分・・・×1.50(100%+50%)
③深夜労働分・・・・・×0.25(+25%) 合計=①+②+③
〔休日〕
AM9 PM10
▼ ▼
←休日労働―――――――――――――――――→←休日労働+深夜労働―→
←――――――――――――――――100%+35%以上―――――――――→
←+25%以上―――――→
(注)休日労働に時間外労働という概念はありません。
休日に8時間を越えて労働したからといっても、それは時間外労働ではなく、あくまで休日労働なので+35%のままです。ただし、労働が深夜に及んだ時には、さらに+25%となります。
①休日労働分・・・×1.35(100%+35%)
②深夜労働分・・・×0.25(+25%) 合計=①+②
【改正労働基準法の問題点】
1.休日労働の賃金割増率との逆転現象
月の時間外労働時間が60時間を超えた場合、時間外労働の賃金割増率が50%となるのに対し、休日労働の賃金割増率は35%のままです。(
労働基準法では、休日労働に時間外労働という概念はありません
。休日に8時間を越えて労働したからといっても、それは時間外労働ではなく、あくまで休日労働なので35%割増のままなのです。)
そのため、月の時間外労働時間が60時間を超えた場合、休日労働の賃金割増率と時間外労働の賃金割増率との逆転現象がおきています。
2.労働時間の限度に2重基準
労働基準法36条2項に基づく「限度基準」では、45時間超えはあくまでも特別の場合であるとして例外的
に取り扱っています。
全国の労働基準監督署では、「特別条項付き協定」という特例を認めることで、「時間外労働は1カ月45時間を超えてはならない」という原則を守るように指導しています。
これに対し、今回の法改正により労働基準法37条には「月間時間外労働時間が60時間を超えた場合は5割増の割増賃金を支払わなければならない」と明記されます。
法条文で「60時間を超えたら5割増」と定めたことで、「時間外は45時間を超えてはならないのではなくて、『60時間になってもかまわない、60時間を超えても5割増を払えばよい』のだ」と判断されるおそれがあります。
改正法の施行(平成22年4月1日)までには、36条2項に基づく「限度基準」と37条の規定との整合性に関して、なんらかの施行規則等が通達されるものと思われます。
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労働基準法施行規則等の改正省令(平成21年5月29日)の要点
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■改正労働基準法についての情報案内(厚生労働省)
厚生労働省ではホームページ〔トピックス(労働基準局)のページ〕で、
改正労働基準法についての情報を順次掲載していきます。
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■労働基準法の一部を改正する法律(平成20年 法律第89号)
平成22年4月1日施行 労働基準法 改正条文抜粋
(第36条・第37条・第39条・第138条・他)
■改正労働基準法(平成22年4月施行)に関する省令および告示
「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令」
(平成21年5月29日 厚生労働省令第113号)
「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準を
改正する件」(平成21年5月29日 厚生労働省告示第316号)
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